実行

某月某日
 私は監視を受ける前から騒音を上げることが多かった。具体的にはいらついて壁ドンをすることがあった
 また、ベッドがきしむ音がある程度むこう側に伝わっていたと思う
 従来の隣人からしたら私の存在自体が迷惑だったとは思う
 上の階から物音が聞こえるようになってから(この時点で隣人が入れ替わっていた可能性はある、念のため)は、逆に向こう側から壁ドンを受けるようにもなった
 ベッドがきしむ音を出したら上の部屋と横の部屋からほぼ同時にドンという重量音がしたことがあった
 また、ある日私が結構大きな声で殺してやると叫んだら、ドアの音や足音から102から201に人が移動するように感じた
 (一人でいることに不安になったのだろうか。彼女からしたら、壁を隔てても聞こえるような音量で殺してやると叫ぶような私は全く恐ろしい隣人だろうと思われる)
 なので102に住んでいる人物と監視者との間には何らかのつながりがあるのだろうと思った
 
 隣の部屋が誰の名義で契約されているか気になったので、集合ポストの中を覗き見た。名義は女性のようだった
 数日後(翌日だったかもしれない)、ドンドン隣の部屋から壁を叩く音が聞こえる
 そのさらに数日後(同じく翌日だったかもしれない)、建物に救急車が着て誰かが運ばれていったようだった
 救急隊員が体温の話をしていた。急患はコロナだったのかもしれない
 
 監視者のうちの一人が頭のおかしな人物が引っ越していった旨の仄めかしをする
 私はぼんやりと次のようなことを考えた
 隣人が自室を離れたのは病気による一時的なものではなく、長期間に及ぶものであり、
 その人物が自分に常軌を逸した行動をとるような異常者である、と見せかける意図がある、と
 
 自分はそれから風邪気味のような症状が続く
 具合が悪くなりながらも、集合ポストを確認する作業は続けていた。一度にすべての部屋のポストを覗き見ることもあった
 また、ごみから個人を特定する試みも行った。具体的には資源ごみとして出された段ボール箱に張られた、宅配便のシールから部屋番号と氏名の確認を行った(その際にどこからともなく「キチガイ」という声が聞こえた)
 
 しばらくすると嗅覚が鈍くなっていることに気づく
 コロナにかかるはずがないと考えていた
 散歩、買い物、自慰程度の外出しかしていない、3密は避けているつもりだ
 私はツイッターの仄めかしを思い出した
 102の人物が私にコロナを移したか、もしくは監視者が私にコロナを移しその罪を102の人物に擦り付けようとしたのでは、と考えた
 前者の可能性については、私に名前を憶えられたことで半永久的なリスクに晒されることになり、当面の間は引っ越さざるを得なくなった102の人物が、私に仕返しをしたと考えると合点がいく
 後者の可能性については、Zらが私の徘徊を抑えるために、私の体調を崩そうとしたと考えると合点がいった
 
 私は報復を考えた
 最初、キッチン用ポリ袋に自分の唾液を入れ、冷蔵庫で保管することを考えた。都合のいいタイミングでX社の関係者にウイルスをばらまけるように
 台所から袋を出そうとすると上の階から物音が聞こえる
 どうにかして私の意図を察しているのだろうか
 私は外にキッチン用ポリ袋を持ち出す行為の不自然さをごまかそうとした
 具体的には、台所にある他の道具を意味ありげに触って動かしてみたり、確かめてみたりするような行動をとった
 果たして、外出したのちに袋の中に唾液を吐きだした。しかし、人目と監視カメラの目を避けることの難しさを感じる
 どこからか見られているような気がするのだ。結局この方針は諦めることにした
 証拠隠滅のため唾液がついた袋は公衆トイレのシンクで洗い、袋自体は普通のゴミとして出す
 
 しかしながら、彼らに一矢報いてやるという気持ちは変わることはなかった
 201と202のポストのダイヤルに直接私の唾液をつけることにした
 ただし、郵便受けの辺りを監視できるカメラがどこかに仕掛けられている可能性はあった。私の犯罪行為の証拠をつかまれると困るので対策を講じる
 まずは監視カメラが仕掛けられている範囲を目視で絞り込む
 (もっとも、このじろじろ周辺を見渡す行為自体がかなり不審ではある)
 (また、このときは色々なものを透視できるカメラの存在を知らなかった。)
 結果、集合ポストを腹にしたときに左側となる方向にのみ、監視カメラが仕掛けられている可能性があると判断した
 私は集合ポストの左端に立ち、集合ポストに斜めに向き合って、なるべく手元を体で隠すようにしながらダイヤルに手で唾液を塗りたくることにした
 手元さえ見られなければ、仮に監視を受けていたとしても、私がいつものように郵便受けを物色しているのだなあとしか思われないだろう
 仮に手元がばれたとしても、ダイヤル錠の解読を試みているように解釈されれば大丈夫だと思っていた
 私が触った後のダイヤルが濡れていたり、私の手が濡れている様子が撮影されていたりしても、雨が降っている日に行えばさほど不自然ではないはずである
 確か最初の日は雨が降っていた
 散歩や買い物から部屋に戻る道中、掌に唾液をたらし、指先まで伸ばしてダイヤルを触る
 罪悪感はあまり感じなかった。彼らが新型コロナに感染する確度を上げるため、日を跨ぎながらそのような行為を2,3回行った
 
 行為の翌日に上の部屋からくしゃみが聞こえたときはうれしかった
 当時私は彼らがX社の従業員だと思っていた。彼らがX社に出社することでX社の従業員が次々と伝染病で苦しめばいいと考えていた
 このような日々を送っている中、迂闊にも布団の中でX社はコロナで云々、のような発言を行ってしまう

 後にyoutubeを利用しているとタイトルに「バイオテロ」の文字列が入る動画がサジェストされた

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