騒がしい音の中で時折覚えのある音が聞こえる。よくこちらに向けられていた2つの音を拾うたび、オルフェーヴルの耳がぴんと立ち、その方向へと動く。
ほんの少しの間静かになったかと思ったらすぐに音が増え、それからまた静まって少ししたころ。
「　　　　　　　」
よく見知った顔が近付いてきて撫で回される。鬱陶しい、触るなと首を振っても繰り返し伸びてくる手にオルフェーヴルは抵抗するのをやめた。
「　　」
知ってる2つの音。こいつがいつも投げてくる音。
喜びと安堵を混ぜた表情で再び伸ばされた手を、今度は目を閉じて受け入れた。

次に目を開けたとき、視界に広がったのは暗闇だった。寝惚けた頭ではなぜ暗いのかが処理できず、心臓が脈打つ音が煩くなる。
浅い呼吸を繰り返し、もう一度瞬いて身動ぐ。丸めた体を隠すように布団に潜り込んでいる。後生大事そうに抱えているのは――この硬さ、形からして目覚まし時計だ。
なぜこんなものを。そう思い目覚まし時計とともに布団から顔を出し、時計の針が指す数字を眺めて絶句する。どうりで隣のベッドが空なわけだ。
確実に間に合わないと理解すると、逆に開き直ってしまうのはどうしてだろう。
そんなことを考えながら起き上がり、目覚まし時計を置く。ぐっと伸びをしてからベッドを降りて、赤いジャージを引っ張り出した。

「いや～、ほんまアルしゃんはすごいなあ！」
開き直ってのんびりプレハブ小屋に向かうと、聞き慣れた声が耳に届いた。
「えへへ、それほどでもあります」
「手遅れたときは、あかん！　って思ったけど立て直したんは流石やわあ」
「もっと褒めていいですよぉ」
わしゃわしゃと頭を撫でるだけでは飽き足らず、アルナシームが拒まないのをいいことに頬をもちもちとし始めた。マジkmi……。
「これでスタートも上手になったらもっと良くなると思うんやけどなー？」
「えへへ～。しかしそれはどうでしょうか」
先程までにこにことしていたアルナシームの表情と声のトーンがスッと落ち着く。
「スタートというのはぼくにどうにかできるものではありません」
「あれ？」
「そのしゅんかんまでなにがおこるかわからないのです」
「嘘やろアルしゃん、急に僕のこと置いてかんといて」

悟りの境地に至ったような表情で青空へと視線を外すアルナシームに、癖馬の扱いには比較的に慣れているトレーナーも戸惑いを隠せていない。
「あっ」
「ん？」
突然耳をピンと伸ばし、声を上げる教え子に首を傾げる。
「⚠🌈🚪🛸💨」
「なんて？」
「🛸⤵💫⤴☁🏆?」
「アルしゃんなんて？」
瞳を輝かせながら走り出したアルナシームの腕をヒトミミのトレーナーが掴めるわけもなく、プレハブ小屋の誰よりも不思議な彼女はターフの方へと駆けていく。
「あれ、アルしゃんどこ行くの？」
「あー！　カレン、ソング！　アルしゃんのこと見といてくれるか！」
「ええ～！？　もー、休憩しようと思ってたのに～！」
「わ、わかりました！」
先程までマンツーマンで練習していたらしいカレンチャンとソングラインがこちらに戻ってくるのを止め、ターフの真ん中を突っ切っていく自由な子を追い掛け踵を返していく。

遠くからは「よろしくお願いしまああああす！！！」と元気な挨拶が聞こえ、また別の方から「ンだコラァ！！！」と元気な挨拶が聞こえてくる。ああいつも通り、今日も賑やかだ。
「仲良くなれたと思ったんやけどな～、難しいわ……アルしゃん語もなんとかマスターせんと……」
腕を組んで唸りながらふと振り返ったトレーナーが少し離れた場所から一部始終を見ていたオルフェーヴルを見つけて笑みを浮かべた。
「おはようさん。オルにしては珍しく遅かったなあ」
いつもと同じ呼び方なのに、なぜか今日は"近くに誰もいないんだな"とぼんやり思う。
「……なんか変な夢見たんスよ」
「へえ、どんな？」
どちらからともなく歩み寄り、ターフを駆ける名古屋娘を横に並んで見守る。
「あんまりちゃんと覚えてないんスけど、いつもと感覚が違ったけど夢の中でも走ってて……でも、なんか」
いつの間にか忘れてしまった夢の欠片を探して黙り込む彼女の言葉を、トレーナーは急かすでもなく静かに待っている。

「……良い夢、だったような気がする」
「一着だったん？」
「それもあるっスけど、それだけじゃなくて」
うん、とほとんど吐息で返事をする。普段は賑やかな男がこんな風に穏やかに、静かにしていられるのを知っているのはチームメイトくらいなものだろう。自分だけ、と言いきれないのが悔しいところではあるのだが。
隣に顔を向けると柔らかな表情がオルフェーヴルを見つめ返す。そのまま何も言わずにいると、怪訝そうに首を傾げて「オル？」と小さく名を呼ばれた。
聞き覚えのある音2つ。あのときもこんな風に呼ばれたのだろうか。そうだとしたら、やっぱりあれは。
「びっくりするくらい喜んでもらったんスよ。……嬉しかった」
「そっかあ、それは良い夢やわ。起きれんのもわかる」
そう言って自分のことのように嬉しそうに笑い、オルフェーヴルの髪をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「やめろっス」
「いったあ！」
口と一緒に足が出て、トレーナーが声を上げる。ついふくらはぎを蹴ってしまったが、一応手加減はしたので無駄に丈夫な彼からしたらちょっとジンジンするくらいだろう。

「実はな、僕もええ夢見てさ」
「ふーん」
オルフェーヴルの興味なさげな声を気にも留めずにトレーナーが続ける。彼女の素っ気なさには慣れたものなのだ。
「めっちゃ嬉しい気持ちでスッキリ目ぇ覚めて。そんでちょっと早いけどオルもう来とるやろなーと思って来たらおらんかったから」
プレハブが寒かったとでも言うのだろうか。
「寂しかったなあ」
「は？」
は？
「部屋ん中あったまるまでまだ冷たいこたつに入って寒い寒いって震えてると鬱陶しいって言いながらみかん剥いてくれるやん？　特別なこと喋るわけやないけどあの時間好きやからさあ、今日はないんやって思ったら、い゛っ！？」
今度は口ではなく足が出てしまった。思いっきり蹴り上げた臀部を両手で抑えながら情けない呻き声を漏らしているトレーナーの顔を見ることが出来ない。それはなぜか。照れとか喜びとかではなく、そう、怒りで顔が熱いからだ。
この男はなにを言っているんだろうか。どうせプレハブの全員に似たようなことを言っているに決まっている。
いやでも、もしかしたら――。

ぐるぐると考え始めた彼女を知り目に、先程まで痛みに悶えていたトレーナーが眉尻を下げて笑った。
「思いっきり蹴られたの久し振りやなあ。……最近は皆ソングとかエールとかアルしゃんのこと気にしてくれてて僕のことはあんまりやったから、なんやちょっと嬉しいわ。ありがとうな、オル」
ぽす、と頭に手が乗って反射的に目を閉じる。大きな手がウマ耳の間を優しく撫で、ぽんぽんと軽く叩いて離れた。
「よっしゃ、今日もがんばろ。エールー、どんな感じやー」
「トレーナーさあああああん！！！！！　いい感じですよおおお！！！！！！！！」
ぐっと伸びをして、また一つ成長した教え子に声を掛けると、大きな声と身振りで返される。「めっちゃ走ってたのに元気やな～」と間延びした声で呟きながら彼女のもとに向かっていく背中をオルフェーヴルは見送ることしか出来なかった。

「あ、オルフェちゃん来てるプイ。今日は遅かったプイね～……オルフェちゃん？」
トレーナーが立ち去ってから少しして、のんびりとした足取りで近付いてくるプイっとした声の友人にもオルフェーヴルは立ち尽くしたまま反応しなかった。それを不審に思ったディープインパクトが彼女の正面に回り、その顔を見て目を丸くしてから心配そうに顔を覗き込む。
「顔真っ赤プイ。どうしたの、熱ある？　具合悪い？」
マスクで隠れていない部分はもちろん、マスクの下も赤らんでいるのが見えて緩い口調を引っ込めた彼女をようやくオルフェーヴルの瞳が捉えた。かと思えばわなわなと震え始める。
「……s……」
「オルフェちゃん？」
「ぜったい、ぜったい、……krs……！！！」

先日のアルしゃんのレースを見て舎弟のレースが見たくなって見直したらなんか書きたくなったので書きました
トレーナーが見た夢はご想像にお任せ
まさか自分が舎弟を書く側になると思わなかったのでいつも酒飲んで舎弟してる「」に多大なる影響を受けた気がしている
いつもありがとうございます

いいね…

そうそうそうそうこういうのでいいんスよこういうので

アルしゃんどこと交信してるの…

>わしゃわしゃと頭を撫でるだけでは飽き足らず、アルナシームが拒まないのをいいことに頬をもちもちとし始めた。マジkmi……。
トレーナーが舎弟をもちもちしたらどうなるんです？

いい…

>いいッスね…

>トレーナーが舎弟をもちもちしたらどうなるんです？
ターフに1人の男が転がる

はーほんと距離が無駄に近いんスよねkmi kmi…

原作でやってること考えたら撫でるくらいはカワイイもんよ

アンテナだったのかそれ…

いつもは物理的に勝ってるのにたまにクリティカル食らって負ける三冠ウマ娘いいですよね…

ik…トレオルは我々に尊さを与える

顔真っ赤プイ
ジャージと見分けがつかないプイ

別？の「」ではオルフェ距離感近すぎ…で連作書いてたな
似たもの同士では…？

距離感近いのにトレーナー相手にだけはどうしても他の人と同じように接することができない舎弟！？

>別？の「」ではオルフェ距離感近すぎ…で連作書いてたな
>似たもの同士では…？
コミュ強故のスキンシップとコミュ症故のスキンシップだから…

>ik…トレオルは我々に尊さを与える
史実ネタいくらでも引っ張ってこれるのズルくない？

「ウチだから許してるっスけど他の女の子にやっちゃだめっスよ」くらい言えねえのか愚妹

>コミュ強故のスキンシップとコミュ症故のスキンシップだから…
なるほどなぁ…

>「ウチだから許してるっスけど他の女の子にやっちゃだめっスよ」くらい言えねえのか愚妹
それで止められるなら聖剣先輩が止めてるはずっス

>1645195137132.png
ウワーッ！いつも見てる手描き「」だ！ありがとうありがとう…嬉しい…

>別？の「」ではオルフェ距離感近すぎ…で連作書いてたな
>似たもの同士では…？
舎弟書いたの初めてなので別の人っスねえ…やっぱこいつら距離感バグってんだ！

>「ウチだから許してるっスけど他の女の子にやっちゃだめっスよ」くらい言えねえのか愚妹
怒らないで欲しいッス
ウチがそんなん言えるわけないじゃないスか

アルしゃんレーダー…

トレーナーは誰にでもこんな感じだからな…

>トレーナーは誰にでもこんな感じだからな…
誰にでもこんな感じの男が夢で見るのが他でもない舎弟の夢ってのがいいんだろうがッ！！！！

舎弟も可愛いけどもちもちアルしゃんもかわいい

おみかん剥いてるオルフェとトレーナーが雑談するだけの怪文書待ってます

最高だよお前～！と抱きつかれる夢でも見たのか？

ikeオルいいよね