食の医学館「コイ」の解説
コイ
《栄養と働き》
コイの別名「六々魚(りくりくぎょ)」とも呼びます。これは、体側のウロコが36枚あるとされることから、九九の6×6=36が由来です。
大きさは800g~1kgのものを市場で見かけますが、出回っている約90%が養殖ものです。本来は川の下流や湖沼に生息します。長野県の佐久ゴイは身がしまっておいしいのですが、出荷量は多くありません。
○栄養成分としての働き
コイは昔から妊娠中のむくみを改善し、産後の母乳の出をよくするといわれてきました。実際そのとおりで、鉄やマグネシウム、カリウム、亜鉛(あえん)、レチノールなどを含み、病後の体力回復や母乳分泌(ぶんぴつ)を促進するほか、利尿効果も期待できます。
また、糖質のエネルギー代謝に欠かせないビタミンB1も多く含まれていることから、倦怠感(けんたいかん)がある場合や、食欲がない、イライラするといった症状に効果を発揮します。B1は脳や神経の機能を正常に保たせ、精神を安定させ、筋肉の疲労をいやす働きがあるためです。
〈肝は眼精疲労に、ウロコは痔に有効〉
○漢方的な働き
漢方では、身以外の部分もさまざまに活用されます。
たとえば、肝(きも)は眼精疲労(がんせいひろう)や目の働きをよくするために用いられますし、ウロコは痔(じ)の出血や鼻血を治す薬として使われます。
また、血は子どものできものに外用として用います。
○注意すべきこと
コイの身には、肝臓ジストマの幼虫が寄生していることがあるので、健康な人でも、できれば生食は避けたほうが無難です。「こいこく」など、十分に加熱したものを食べれば安心です。
《調理のポイント》
コイの身は、赤身魚と白身魚の中間的な存在で、鮮度が低下すると臭みが生じます。ですから生きたコイを使うのが原則。
12月~3月ごろのコイは脂(あぶら)がのり、身がしまっておいしい時期。鮮度の見分け方は、体色が鮮やかで、えらのきれいなものを選びましょう。魚の表面を見て、暗く灰色をしていれば天然もの、銀白色なら養殖ものといえます。
コイは、調理の際に即死させるのが鉄則。なぜなら暴れさせると味が落ちるからです。また、胸びれの下あたりにある苦玉(にがたま)(胆のう)をつぶすと、にがみが全体にまわり食べられなくなるので、注意して取り除く必要があります。
代表的な料理は、3枚におろして薄くそいでから、熱湯をかけ、氷水でさっと洗った、「あらい」が有名。酢味噌で食べると一層おいしさが引き立ちます。
ほかには、ぶつ切りを味噌で煮込んだ「こいこく」や、甘露煮、味噌汁などがあります。
中国では、2~3度から揚げにして甘酢をかけた糖醋鯉魚(タンツーリーユイ)という料理が有名です。
妊娠中の女性は、エラや内臓をとったコイ1尾に対し、アズキ500gとひたひたの水を加え、弱火でやわらかく煮たものを食べると、アズキ(サポニン)との相乗効果で、むくみやつわりの症状を軽減できます。