社会新報

ウクライナを戦場にするな~米ロ両国は冷静な対話で緊張緩和を~

(社会新報2022年2月23日号1面より)

 

 米国のバイデン政権や主流メディアはイラク戦争時のように怪しげな情報を拡散しながら、「ロシアのウクライナ侵攻」を宣伝している。だが真に論議されるべき課題は、ロシアが求めている安全の保障なのだ。

 

 

 ロシアのタス通信は2月15日、南部軍管区の所属部隊がクリミア半島における演習を終了し、カスピ海に面したダゲスタンなどの原隊に帰還したと報じた。またロシア国防省も同日、ベラルーシ国内の西部軍管区所属部隊も予定通りウクライナ国境近くの演習を終えて、撤収中と発表した。

 昨年11月以降、米国のメディアが「ロシア軍のウクライナ国境付近の集結」を報じ、ロシア軍がウクライナに侵攻するかのような雰囲気がつくられた。バイデン大統領もこれを追認して「侵攻したら決定的に対応し、ロシアに手厳しいコストを負わせる」(2月12日)といった発言を繰り返した。

「16日侵攻」説飛び交う

 特に米国の政治専門インターネットサイトPOLITICOは2月11日、米諜報機関の情報として「2月16日にロシア地上軍の侵攻開始」と伝え、英国の複数の日刊紙も15日に「明日午前1時に侵攻」(『ザ・サン』紙)といった記事を掲載し、緊張が高まった。

 15日の「ロシア軍演習終了」はこうした「2月16日」説の怪しさを明らかにしたが、それ以前から「侵攻」に関して「早ければ1月初め」(『ワシントン・ポスト』紙21年12月3日付)といった諸説が飛び交い、すべて外れた。しかもその大半が、800㌔以上あるウクライナのロシア国境線のどこにロシア軍が「集結」しているのか特定すらしていない。

 バイデン大統領は15日、「ロシア軍撤収」の情報を「確認していない」としながら、「15万人のロシア軍がウクライナを包囲している」と述べ、情勢が依然緊張していると強調した。だがウクライナは西部で米国主導の北大西洋条約機構(NATO)の加盟国のポーランドやルーマニアなどと接しており、「包囲」など不可能だ。

 米国の政権が発する情報の不確実さを象徴しているが、「ロシアの侵攻」自体がそうだ。ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は2月13日、出演したCNNの番組で「軍事攻撃はすぐにでも始まる」と述べる一方で、「そのうち始まる」と意味が異なる用語を使い分けている。

 だが、フランスの大統領府は1月21日、「(ロシアの)攻撃が差し迫っているとは結論付けられない」と声明。ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクスィ・ダニロフ長官も1月23日、英BBCのニュース番組に出演して「(国境付近で)一般に言われているように、ロシア軍が増強などしていない」と断言している。つまり「侵攻説」を主に拡散しているのはバイデン政権と米国主要メディアなのだ。

 ロシア政府が何度も「侵攻」を否定しているのに無視されているのみならず、ロシア側が米国に提出している安全保障に関する協定も、「侵攻」や「制裁」という用語が飛び交う中でバイデン政権によって棚上げ状態だ。だがこの協定が米ロ間の交渉で論議されない限り、ウクライナでの軍事的緊張は今後も続く。

「NATO拡大」で緊張

 現在の緊張の根源は、1990年2月9日に米国のベーカー国務長官(当時)が、旧ソ連のゴルバチョフ大統領(同)に述べたNATOをロシアの方向に「拡大しない」という確約の破棄だ。冷戦崩壊後、不要になったNATOを旧ソ連領と東欧に拡大した米国の狙いは、米国の欧州支配の手段で武器市場をもたらす軍事同盟を維持するためにロシアを欧州と共存させず、対立を永続化させることにある。

 昨年12月以降、ロシア側が「現状打開の唯一の選択肢」として求めている協定は「ロシアに近接した領域で脅威を与える東方へのNATOの拡大も、そこでの兵器配備も排除する長期的合意」(ロシア外務省のマリア・ザハロワ広報官)という内容だ。特に、ウクライナとジョージア(グルジア)のNATO加盟中止が協定の核となる。

 米軍とNATOはブッシュ(子)政権以降、ロシア周辺の黒海やバルト海、ロシア国境付近のノルウェー北部やポーランドで挑発的な軍事演習を頻繁に行ない、規模も年々拡大している。米国は仮にロシアがカナダやメキシコで同じように軍事演習を行なったら、戦争行為と見なして大騒ぎするだろうが、ロシアの抗議を無視している。昨年は、ウクライナとの軍事演習も4回実施した。

米国の武器供与に問題

 加えて米国は、ネオナチがロシア協調派の大統領を暴力で追放した14年2月のクーデター以降、30億㌦以上の武器をウクライナに供与している。こうした米国やNATOの動きをロシアが懸念するのも当然だろう。だが米国のアントニー・ブリンケン国務長官は1月26日、ロシア側の要求には一切応じないという回答を文書で示した。

 本来であれば、国際社会はロシアの懸念を正当なものとして認め、米国に交渉を促すべきだが、ロシアを悪玉に仕立てた「侵攻」説が飛び交うことで、そうした気運は乏しい。米国発の一方的な宣伝に惑わされず、何が本質的な課題なのかを見極める姿勢が必要だ。

社民党は戦争回避を訴え談話

 社民党は7日、服部良一幹事長名で「ウクライナを戦場としないために対話交渉を求める」と題する談話を発表し、緊迫化するウクライナ情勢について「米国とロシアの対立が激化している。このまま緊張が続けば欧州での核の応酬も含めた大戦争に発展しかねない。社会民主党は米ロ両国をはじめとする関係各国・機関に対し、最後まで対話による交渉によって対立を解消するよう強く求める」と主張している。

 

 

 

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