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2012年2月 1日 (水)

夜の寝覚巻二 11

 関白家では、他の事は置いておいて、石山の姫君の世話に明け暮れていた。
 五十日の祝いの日を数えて、世間の人が祝いの準備に大騒ぎしているのを、大君は聞いて、
「このような子供ができるような女がいたことを、知らなかったわ」
 非常に十六夜の大納言との夫婦の仲を恨めしく、厭わしく思うようになった。
 大君の様子を見て、十六夜の大納言は、
「独り身でいた頃、時々忍んで通っていた女の所に、子供ができたことも知らなかったのですが、父上が子供の事を聞いて引き取られたので、私もその子に会ったのです。憎からぬ様子なので、どうして私一人、みすてることができましょうか。適当な折に、あなたにもお目にかけたいです。私と同じ気持ちで可愛がってやってください」
 と言ったが、大君は顔を真っ赤にして、結婚してから数年、心を抑え何気ないふりをしていたのは上辺だけで、夫婦仲は、何となく嘆かわしそうで、落ち着かない様子とは見ていたが、特にこれと思い当たることもないので、自然と深く追求しなかったのだが、姫君が関白家に迎えられた後は、我が身の宿世が辛く思い知られて、心穏やかではない。
 だから、十六夜の大納言は、
「困ったな。子供が生まれた時期を考えてみてください。私とあなたが結婚した後にできた子かどうか。たとえ結婚後であったとしても、男はそういうものです。しかし、私はおかしなほど真面目で、世間から隠れた埋もれ木などのような身ですから、人の心を踏みにじって非難されるような振る舞いは、よもやしないつもりです」
 と聞かせるのだが、寝覚の中の君の部屋のほうに自然と目が行き、まず物悲しくなる。
 こうして大君はいつも気持ちの休まることなく十六夜の大納言を恨んでいる様子だ。
 十六夜の大納言は、
「何故こんな風に思うのだろう。男が大勢の女と関係し、通うことは、世の中の男なら、普通のこと。身分低い女ならば、このようなことで嫉妬するものだが、大君のような身分の人には、相応しくない」
 などと思うし、石山の姫君のことは、一日会わないでいると、昼間離れている間も恋しく、気がかりなので、関白邸にばかりいるようになって、大君には、間隔を空けてごく稀にしか通わない。
 大君の方では、子供の母親の事を調べたが、本当に、
「大納言は何処の誰を思っている」
 という話は聞かないので、ひどく嘆かわしく、弁の乳母が、心のいらいらを静められず、あれこれ言うのを、寝覚の中の君の方で聞くにつけても、とても困ったことになるから、十六夜の大納言の文への返事なども、まったく絶えてしまった。
 不安で、気持ちも晴れないまま過ぎていく日々の慰めに、十六夜の大納言は、石山の姫君を、ただ明け暮れ抱いて見ていた。
 宰相の君という人が、乳を与える乳母として、新しく召された。

 五十日・百日の祝いなどが過ぎて、石山の姫君は、眩しいほどに、日と共に光るような美しさが加わる様子が、あまりに恐ろしいほどなので、十六夜の大納言はとても可愛いと思って見つめ、鼠の鳴き真似をしてあやせば、何か甲高い声を出し、声を上げて何度も笑う可愛らしさに、
「あの石山で、今にも絶え入りそうだった火影の下の中の君の面影に、本当によく似ている」
 と、じっと見守ると、とても悲しくなり、見ているだけではいられなくなって、手が染まるほど赤い紙に、撫子を折って包み、

 「よそへつつあはれとも見よ見るままに匂ひに増さる撫子の花
(この撫子に装えて、愛しいと思ってください。娘は見るたびに、美しさを増していきます)

 ただ今すぐにでも、この子をお目にかけたい」

 などとだけ、いつものように言葉数を多くは書かないで、すばらしい筆跡で書いたのを、寝覚の中の君の方でも、御前の庭に童を下ろして、草の手入れをさせて眺めていた時だったので、いつになくその文に目をとどめた。
 対の君なども、
「姫君のことが、誠に深く恋しいと思われてならない折ですから、この度はお返事を」
 と勧めるのだが、
「そんなこと……」
 寝覚の中の君は憚って、返事を書かなかった。

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