吼戒のディラーガ

葉月蕾雅

序章 シアタールーム

プロローグ

 開演ブザーが鳴る。幕が持ち上がって、スクリーンが現れる。映写機がひとりでに回り始めた。


『これは、ある夫婦の罪の物語』


『愛し合った人と妖の夫婦の物語』


『夫婦の罪の物語』


『罪が生んだ子供の一生』


 観客は一人。


『お互いに悲惨な過去を送っていた彼と彼女』


『出会いは裏路地。行き場がなく逃げた、まだ中学生の二人』


『人と妖の共存の時代にございます』


『それでも偏見は消えないね。彼と彼女は最初、互いに畏れたんだ』


 少年はフィルムの映像を眺める。


『次第に誤解を解いていきました』


『小さなぼろぼろの廃屋で暮らしました』


『愛し合っておりました。必然の流れにございます』


『二人は幸せだったんだ。やっと、やっとお互いを必要とする存在を見つけたんだから』


 真っ黒な髪。青い目。アゲハ蝶のような少年は、ただただ映画を見る。


『子供が産まれました』


『廃屋で、ひっそりと』


『愛の結晶にございます』


『だけどその子は罪の子供。罪の結晶なんだ』


 拳を握る。


『そして』


『ある日の夜』


『恐ろしい、とてもとても恐ろしいことが起こったのでございます』


『ヒトでも妖怪でもない、曖昧な子供はね』


 五歳くらいの子供。黒い子供。手にした包丁で、両親を殺す。


『ヒトの肉を』


『両親の肉を』


『まるで、復讐であるかのように』


『食べたんだ』


 廃屋を出ていく子供。血まみれの彼は狡猾にも血を落とし、洗い、着替え、逃げおおせた。


 フィルムが回る。


 夫婦は幸せだった。痛みもなく死ねた。身勝手に罪を犯して、遺して、苦しまずに。


 ぷつん、と映画が終わる。


『これからは君の』


『君たちの』


『そう、そこにいる君の』


『決して幸せにはなれない惨めな物語』


 スクリーンに、こう浮かぶ。


『これは、あなたの人生の物語』──と。

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