このままでは日本料理が消滅する…?銀座の「世界的料理人」が危機感を覚えるワケ あらゆる伝統文化も一緒に衰退していく
東京・銀座の割烹「小十」をはじめ、パリ、ニューヨークにも出店するなど、日本料理の旗手として世界的に活躍している奥田透さん。著書『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』は、プロフェッショナルならではの美学と仕事論がたっぷり詰まった一冊だ。そんな奥田さんは今、日本料理の将来に危機感を覚えているという。このままでは、遠くない時期に日本料理がなくなってしまうかもしれない……。その深刻な現実について語ってもらった。
人気が低迷している日本料理
私が今、一番危機感を覚えているのは、そう遠くない時期に日本料理がなくなってしまうのではないかということです。もちろん、ゼロになることはないと思いますが、かなり少なくなるのではないかと、そして、クオリティも下がっていくのではないかと思います。
お寿司は海外でも人気があるので、もしかしたら発展する可能性があるかもしれませんが、天ぷら、蕎麦、うどん、和菓子などは後継者も少なく、和食も含めて人気のないものになっています。
写真はイメージです/Photo by iStock
近年、日本の料理業界では日本料理とフランス料理、イタリア料理、中華料理が全部並列にされています。
さらに言うと、フランス料理とイタリア料理、洋菓子のパティシエに人気があり、料理の専門誌や女性誌なども日本料理や寿司、天ぷら、蕎麦、和菓子が表紙を飾ることはなく、テレビのドラマではフランス料理で三つ星を狙うストーリーが高視聴率を得ています。なぜこれが日本料理や寿司、天ぷらではなかったのかが残念に思えてなりません。
日本の調理師学校では、フランス料理、イタリア料理の西洋料理を専攻する生徒が8割、9割を占め、日本料理と中華料理が残りの1割、2割というのが現状です。
それとは別に、西洋菓子のパティシエを志望する生徒は数えきれないほどたくさんいます。
2013年、和食がユネスコ無形文化遺産になったことと、あとは海外からの日本料理を学びたいという留学生が増えたことで、比率は少し増えてきたそうですが、まだまだ日本料理に人気があるとは言えません。
日本の調理師学校の仕組みを変えなければ今後の日本料理、寿司、天ぷら、蕎麦、うどん、和菓子をやりたいという、若い料理人はいなくなり、未来は危機的状況にあると思います。
そんな最中、5年前に寿司と和食だけに特化した調理師学校が開校されるということで、顧問をやりませんか? とのお声がけをいただき、現在は調理師学校にも足を運んでいます。
開校当時、寿司と和食だけの調理師学校ができたということで、たくさんのメディアから、なぜ寿司と和食だけなのかとインタビューを受けました。
日本の調理師学校で寿司と和食だけを教えることが、なぜこんなに話題になるのか? 逆に日本の調理師学校はなぜ西洋料理ばかりを伝えなければならないのか、私は理解に苦しみます。
学校給食にもっと和食を!
同じく、5年ほど前から和食給食応援団という学校給食の和食化を目指す団体にも参加して活動を行っています。
学校給食の現状はいろいろ複雑な問題はありますが、1週間のうち、5日間の給食でご飯が出るのが2~3日、あとはパン食でご飯の日のおかずは全てが和食ではなく、中華の日も多く、パン食の日はもちろん洋食の献立になっています。
和食のおかずを作ると生徒の多くは見たことのないものが多く、残食が一番多いのが和食の現状だそうです。
献立を考える栄養士さんも、今日が和食であれば次の日は中華か洋食と、そこに何も悪気はありません。トータルで見れば、1カ月間、とてもバラエティに富んだ献立にはなっています。
家庭でも子どもたちは和食を食べる機会が少なく、朝はパンでスタートして、昼は給食で洋食を食べ、夜はパスタで締める。一日を通して当たり前のように和食と触れ合うことがなく終わる。
もしかしたら我が家でもそんな日常が当たり前のように起こっているのかもしれませんが、夫婦が共働きになり仕事に追われる時間が増え、どうしても食事を作る時間、食べる時間にしわ寄せがきています。
最近では、大手食品メーカーからたくさんの便利な洋食や中華の冷凍食品やレトルト食品が発売されていて、かなりレベルも高くなっています。
時間短縮になりバリエーションも豊富でクオリティも高く、文句の付け所がありません。
和食はというと、特に家庭では大変で時間がかかり、面倒くさいものになってしまっています。確かに、そういった要素もありますが、気軽にできて、おいしい和食もまだまだたくさんあるのです。
日本人が和食を必要としない日常があるのであれば、こんな悲しい現状は私には耐えられません。もっともっと身近に和食の素晴らしさを伝えていかなければいけないと思っております。
あらゆる伝統文化が衰退していく?
日本料理がなくなっていくということは、それに付随した日本の伝統文化、産業も一緒に衰退していくことになります。
調理師学校で日本料理を専攻する学生が少ないということは、寿司や天ぷら、蕎麦、うどんも含めて、日本料理店の数も少なくなっていくということです。
そうすると、和食器の需要も少なくなり、輪島塗のようなお椀や塗り物、和包丁、着物、のれんの染付、和室の畳、日本建築に至るまでも発展性のないものになっていきます。せっかく親の後を継いで陶芸家や蒔絵師などになっても将来の明るい希望が見えないのが現実ではないでしょうか。
その代わりに海外から日本に入ってくるものは新しい産業となりビジネスチャンスもたくさんあります。これまでを振り返ってみると、ワインやチーズなどの輸入食材、洋食器やガラス製品、もちろん洋服に至るまで、日本人は海外のものばかりに憧れる傾向があったような気がします。
そんな状況の中、私がいつも考えているのは日本の料理業界が日本料理(ここには寿司、天ぷら、蕎麦、うどん、焼き鳥、和菓子など全て含みます)ばかりをしていたらどうなるだろうか? ということです。
今よりもたくさんの日本料理店がオープンし競い合い、レベルも上がり、お客様も取り合うことになるでしょう。
日本の素晴らしさにもっと気づこう
そうすると次は自然に海外に目が向けられ、世界中のお客様を求めてたくさんのレベルの高い和食、寿司、天ぷら、蕎麦、うどん、焼き鳥、和菓子店などが世界に飛び立つことでしょう。
たくさんの和食器も必要になり、お椀の塗や、和包丁、着物、のれんの染付、日本建築などなど、日本の伝統文化、産業が多くの需要を受けて、発展していくのだと思っています。
私自身は決して海外の料理、文化が嫌いなわけではなく、この素晴らしい日本料理と日本の伝統文化、産業が衰退していく姿を見ていて心が痛むだけなのです。
土だけで焼き締めされた備前焼や信楽焼、綺麗なデザインの織部焼、繊細な絵付けの京焼や九谷焼、四季折々の絵柄の美しい蒔絵、世界一の切れ味の和包丁、日本の総合芸術の日本建築……。
この国には世界に誇るべき素晴らしい文化、芸術が身近にあるのに、我々日本人の多くは、その存在にすら気づいていないようです。
もっと日本の伝統文化、産業を世界に出して発展的に考えることができないのかと日々考えています。
もう少し学校教育の中にも、日本の伝統文化を含む日本のことを学ぶ時間があってもいいのではないでしょうか? 日本の素晴らしさを大人が子どもに伝える機会があまりにも少なすぎます。
日本の子どもたちは、日本に生まれたのに、日本のよさを知るような教育を受けていないということが、そもそも教育としておかしいことだと思いますし、とても嘆かわしいことです。