磁石(読み)じしゃく

精選版 日本国語大辞典「磁石」の解説

じ‐しゃく【磁石】

(「しゃく」は「石」の呉音)
[1] 〘名〙
① 磁力をもつ天然の鉱石。主に磁鉄鉱および赤磁鉱。じせき。
※霊異記(810‐824)上「利養を翹(のぞ)み、財物に貪ること、磁石の鉄山を挙して鉄を嘘(す)ふよりも過ぎ」
※仮名草子・智恵鑑(1660)「観音の御手をば磁石(ジシャク)にてつくり」 〔曹植‐矯志詩〕
磁気コンパス・磁気羅針盤の俗称。磁石の指北性(指南性)を利用した方位測定器で、航海用としては少なくとも中世後期に使われ始め、近世では広く普及して、日本独自の考案の逆針(うらばり)が重用された。磁石盤磁針。磁石針。指南針。
※和蘭天説(1795)「磁石(ジシャク)の北と南をさすも、天の剛(きびし)く旋る気に生たる故に」
③ 磁気を帯びていて、そのため鉄をひきつける性質をもつ物体。外部磁場の助けなしに磁気を帯びている永久磁石と、外部磁場によってはじめて磁気をもつ一時磁石に分類できる。両者とも強磁性体に属し、前者を磁気的に硬い(ハード)といい、後者を磁気的に軟かい(ソフト)という。これらの特性は残留磁化保磁力とで表記される。マグネット。磁器。
※歌舞伎・毛抜(1742)「鉄のせんくづを蝋に交ぜ油となし、是を用ひ、磁石(ジシャク)をもって鉄気(かなけ)を吸ひ上げさする」
④ 磁場を生ずる装置。永久磁石、電磁石超伝導磁石など。
[2] 狂言。各流。上京の途中人買いに売られそうになった男が太刀を持って追いかけてくる人買いに、自分は磁石のだと名乗り太刀をのみこもうといっておどかし、太刀を奪う。「天正狂言本」では「ぎしゃく」という。

じ‐せき【磁石】

※開化問答(1874‐75)〈小川為治〉初「磁石(ジセキ)が鉄を吸ふは」

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「磁石」の解説

磁石
じしゃく
magnet

磁場を生じさせるもの。磁針のこともいう。強さの等しいN極S極の2つの磁極をもつ。MK鋼アルニコフェライトなど保磁力が大きい強磁性体残留磁化を利用した永久磁石と,軟鉄芯をもつソレノイド電流を通じて磁場をつくる電磁石とがある。強い一様な磁場を得るには2つの磁極の面を互いに平行にして,わずかのすきまを保てばよい。これらの磁性体を用いる磁石の磁場は2~3T (テスラ ) 程度が限度で,それ以上の磁場をつくるには空芯のソレノイドに大電流を流す。高水圧でコイルを冷却しながら電流を流す電磁石と,液体ヘリウム温度に冷却した超伝導コイルに大電流を流して 10T以上の強磁場をつくる超伝導磁石がある。

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百科事典マイペディア「磁石」の解説

磁石【じしゃく】

鉄粉を引きつける程度に磁気を帯びた物体。一般に強磁性体はほかの磁石または電流の磁場内に置くと磁化して磁石の性質を示すが,残留磁化と保磁力(磁気ヒステリシス)の大きい物体(鋼,特に磁石鋼)は外からの磁場をとり去っても磁石の性質が残り,永久磁石と呼ばれる。永久磁石はふつう棒形,馬蹄(ばてい)形,小針状(磁針),U字形,円形,管状などにつくられ,電気計器その他に利用される。→電磁石

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化学辞典 第2版「磁石」の解説

磁石
ジシャク
magnet

磁石は常識的には鉄粉を引きつけるぐらいの強さの磁気をもつ物質である.強磁性体やフェリ磁性体では,残留磁化があるので磁石になるが,保磁力の小さいものは,容易に磁化が失われるので一時磁石といわれる.残留磁化と保磁力の大きい磁石は永久磁石として役立つ.一時磁石にコイルを巻いたものは電磁石である.最近は電磁石に超伝導体を用いた超伝導磁石も用いられる.[別用語参照]希土類磁石

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デジタル大辞泉「磁石」の解説

じ‐しゃく【磁石】

鉄を引きつける磁力をもつ物体または装置。永久磁石・電磁石など。
地磁気を感じて南北を指す性質を利用した方位測定具。磁気コンパス。磁気羅針盤。
天然に産する磁力をもつ鉱石。主に磁鉄鉱。じせき。
[類語]マグネット電磁石永久磁石

じしゃく【磁石】

狂言。遠江とおとうみの某が、大津松本の市で人買いにだまされそうになって逃げるが、人買いが太刀を抜いて追いかけてくるので、自分は磁石の精だと名のって太刀を取り上げる。

じ‐せき【磁石】

じしゃく(磁石)

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世界大百科事典 第2版「磁石」の解説

じしゃく【磁石 magnet】

磁極をもつ物体のこと。広くはこれと同様な磁場を作り出す装置も含める。前者には,天然のもの(磁鉄鉱など),人工的にフェライトなどに磁化を与えてつくったものがある。磁石のもつ性質としては,おおまかには,鉄に対する牽引性,磁石どうしの間の相互的牽引性と反発性(極性),北を指す性質(指極性)などをあげることができる。古代社会でも磁石の存在は広く人々の注意をひいていたことは確かで(中国に関しては後述),ギリシアでも,さまざまな呼名があったらしい。

じしゃく【磁石】

狂言の曲名雑狂言,すっぱ物。大蔵,和泉両流にある。遠江(とおとうみ)国の見付(みつけ)から上京するいなか者が,大津松本の市を見物していると,人売りを稼業とするすっぱがことば巧みに近づき,いなか者を定宿へつれ込む。宿の亭主は実は人買いで,すっぱからいなか者を買う契約を交わす。この相談を盗み聞きしたいなか者は,先回りして金を受け取り逃げ去る。あとを追ったすっぱが,太刀を抜いて振り上げると,いなか者はとっさの機転で,自分は磁石の精だと名のり,太刀をひと口に呑んでしまうとおどかす。

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普及版 字通「磁石」の解説

【磁石】じしやく・じせき

じしゃく。南朝宋・鮑照城の〕(門に)石を製(つく)りて以て衝(しよう)(武器)を禦(ふせ)ぎ、壤(ていじやう)を(ぬ)りて以てを飛ばす(飾りとする)。

字通「磁」の項目を見る

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世界大百科事典内の磁石の言及

【水運】より

…このような海運の発展の蔭には,輸送技術の発達が存在した。鎌倉時代までは,船の大きさも前代とあまり変りなかったが,室町時代になると船も大型化して,千石船もかなり一般化し,準構造船より構造船へと移行しつつあり,磁石の使用も知られるようになった。これらを背景に船の賃貸その他海上運行を取りきめる海法が自然発生的に生まれたが,室町末成立のいわゆる《廻船式目》は当時のヨーロッパの海法をしのぐ高度の内容をもつものとされる。…

【磁石】より

…前者には,天然のもの(磁鉄鉱など),人工的にフェライトなどに磁化を与えてつくったものがある。磁石のもつ性質としては,おおまかには,鉄に対する牽引性,磁石どうしの間の相互的牽引性と反発性(極性),北を指す性質(指極性)などをあげることができる。古代社会でも磁石の存在は広く人々の注意をひいていたことは確かで(中国に関しては後述),ギリシアでも,さまざまな呼名があったらしい。…

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