【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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感想、誤字脱字報告、サンクスサンクス!!
楽しいのでもっと送ってください!!

日課の日刊あさってたんですけど(ここ激ウマギャグ)
拙作と同じタイトルの小説が載ってて
「アイエエ!?タイトル被りなんでえ!?」
と思ったら拙作でした。
……日刊乗るなら連絡くれよ運営ちゃん!!

カネヒキリくんの視点も入れようと思ったけど雰囲気180度違うからやめた。


5.俺の晴れ舞台

新馬戦である。

もうサックサク時が進んだ。

調教やってると1日が早すぎるんだよなあ!

 

「着いたぞサンジェニュイン」

 

はいはい降りますよー!

よっこらせ、と馬運車から降りる。

ここは阪神競馬場、俺の晴れの舞台だ。

 

「やあ、目黒さん」

「水野さん、ご無沙汰しています」

 

目黒さんがピシッと背筋を伸ばして挨拶を返すと、水野と呼ばれたおっちゃんがにこにこと笑った。

このシルクハットを被ってスーツを着たおっちゃんが俺の馬主である。

いや、正しくは俺の「馬主たちの代表者」みたいな人だ。

 

「ジェニュインも好走する馬だったからね、サンジェニュインにも期待していますよ」

 

あいよ、任せときな水野さん!

一口馬主の兄ちゃん姉ちゃんたちのためにサクッと1着キメてくるからな!

 

そう、俺の馬主はクラブ法人「サイレンスレーシング」が募集した一口馬主さんたちである。

一口おいくら万円という値段を複数人が出し合って、テキへの俺の預託料など諸々の経費を工面してくれているのだ。

俺がレースに勝てば出走手当にプラス報奨金の何割かが一口さんたちに戻るらしいので、たくさん勝ってお金を還していきたい。

水野さんはそのクラブ法人のお偉いさんなのだが、6月からの新馬戦シーズンで続々と同クラブの所有馬が華々しくデビューしていったことで、もうずっとニッコニコでご機嫌のようだ。

ちなみに俺の母の全姉・クルーピアレディーの輩出したジェニュインも一口馬主さんたちに支えられた馬だ。

こっちは「社来レースホース」っていうクラブが所有していて、俺が生まれる3年くらい前から種牡馬── 種付けを仕事とする馬として、主に地方で活躍する産駒を輩出していると聞いた。

全妹を母に持ち、父親も同じサンデーサイレンス産駒の俺は、血統で言えばこのジェニュインと全く一緒。

ジェニュインは脚があまり強くない馬だったらしいのだが、馬体が大きいにもかかわらず目立った虚弱さやケガもなかった俺は、一口さんたちの間でもそこそこ人気があるらしかった。

 

この情報はどこからかって?

俺の頼れる厩務員・目黒さんから!

……目黒さん、割と最初から俺に話しかけてくれる人ではあったんだが、ちょっと大きい独り言程度だったんだよな。

それがカネヒキリくんと初めて会った日から明らかに俺に向かってしゃべりかけてて……いやまさか、な。

 

あ、そうそう、そのカネヒキリくんなんだが、7月末に新馬戦を終えた。

結果は── 4着。

カネヒキリくんの厩務員が言うには、どこか走りづらそうにしていたらしい。

中盤になっても馬群の中でもがいていたようで、このまま掲示板入りさえも逃すか、と思ったら終盤で伸びてなんとか4着に食い込んだようだった。

続く8月に小倉で2歳未勝利戦── まだ勝ち上がりのない馬たちのみで競われるレース ── に参戦。鞍上を変えたのが響いたのかここでは掲示板を逃して11着だ。

どちらも芝でのレースだったので、陣営は次はダートに出そうか検討中だそう。

ちなみにここまでカネヒキリくんとは一切会っていない。

精神的ショックがでかいとかどうとか……あっちの厩務員の言うことはよくわからなかったけど、併せ馬は当分先のことになりそうだ。

 

「行ったか……サンジェニュイン」

 

うん?

 

目黒さんが俺と視線を合わせ、口を開いた。

 

「期待だなんだ、考えなくていいぞ。思うがまま走ってこい。お前が走る道を、鞍上の騎手が整えてくれるから」

 

そう言って目黒さんが俺の首をなでる。

その後ろに、手を振る騎手の姿が見えた。

 

「大丈夫。お前が強いことを、誰よりも俺が信じているよ」

 

その言葉は、魔法の言葉のように聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「芝2000メートルです。メンバー10頭の新馬戦。断然人気はもうこの馬、ディープインパクト。単勝の人気1.1倍になっていますよコレ」

「いやあ、こんなに被っていいものでしょうか」

「馬体重は452キロということで、まあそれほど大きいサンデーサイレンス産駒ではないんですけどね」

「そうですねえ……同レースに出走しているサンデーサイレンス産駒、こちらは白の馬体、サンジェニュインは492キロと比べると明らかですね」

「そうなんですよねえ。ただね、うーん、春と比べたら多少なんというか結構大きくはなっている、ということでね。例えばお兄さんのブラックタイド、お姉さんレディーブロンドが見せてくれたあの、あの瞬発力を期待したいです」

 

人々の目には鹿毛だけが映っていた。

流星を放つほどの強さは、人の目に他馬が映ることを許さない。

だが馬たちの目には白が、ただ曇りなき白が映り込んでいた。

少し煤けた芝を歩く、まぶしいほど純白の馬体。その馬からにじみ出る気迫に押されてか、周囲の馬たちがにわかに騒がしくなった。

各自の鞍上は宥めるように綱を手に持つ。それでも馬たちはなかなか落ち着けず、首を伸ばしては白馬を見ようとする。

だがその白馬はただ、ただ前だけを向いていた。

 

「4番のディープインパクトが1番、1番、1番人気となっています!」

 

張り上げられた期待の声に声援が重なる。

このレースの主役は鹿毛── ディープインパクトだろうか?

それとも……。

 

「さあ阪神競馬5レース、いよいよ2歳の新馬戦が行われようとしています。芝、距離は2000メートル、2歳馬10頭のデビュー戦ゲート前は、まずランドフラックが1番ゲートに誘導を受けてます」

 

順番に誘導を受ける馬たちを、背後からジッと見つめる力強い視線に、断然1番人気に推された馬の鞍上がハッと後ろを振り向いた。

 

── 白い馬が、自分たち、ディープインパクトを睨み付けている。

射貫く瞳は大きく、それを縁取るまつげの白さまでもが、鞍上の男にもよく見えた。

大柄の馬体を雄大に見せ、頭を下げることなく前を、ただ前だけを見る姿には得体の知れないオーラが揺蕩う。

誘導を受けるまでの瞬く合間、彼はその白い馬から目が離せなかった。

 

「最後は大外10番サンジェニュインがゲートに収まりまして……スタートしました」

 

開け放たれたゲートから飛び出して、馬たちが1番を目指して走り出す。

 

「10頭目指す先は1コーナーカーブ、ここでアキノセイハがすーっと先頭に、ッいや交わしてハナを奪ったのは10番、白い馬体の10番サンジェニュインです!」

「先頭から3馬身離されて2番手アキノセイハ。ぐんぐん差をつけていくサンジェニュインに後方の馬たちは間に合うでしょうか」

「まだチャンスはあると思いますが、さらに差を広げるサンジェニュイン、少し掛かり気味か、一息つけるといいですが」

 

ターフを駆け抜ける白い弾丸にスタンドからどよめく声が広がる。

 

「続く3番手はタイペルラ、テイエムカイブツが並びます。その内はコンゴウリキシオーで前4頭広がっている状態」

「6番手も広がってディープインパクト、内にランドフラックさらにコンバットマニアが続きまして、その後ろからパルテアンショット、最後方にヒカルゼットが追いかける形となって、先頭サンジェニュイン除く9頭で揉み合うように走っています」

「サンジェニュイン独走!大逃げを続けてその差は4馬身5馬身と伸びていくぞ、後方の馬たちはいつ切り込むか」

「これは本当に新馬戦なのかわからなくなるくらい、非常に速いペースです。さあまだサンジェニュインが先頭だぞ、逃がしていいのか?先段にじわりじわりコンゴウリキシオー、外からディープインパクトが先頭を狙っている、サンジェニュインの背はまだ遠いか?」

 

力強く大地を蹴り続ける、白い馬体は止まらない。

逃げ切れるか?逃げ切れるんじゃないかこのまま、スタンドで馬券を握る男たちの手に汗がにじむ。

ゴールまで残りわずか、背後から迫る衝撃音に鞍上が振り返り、すかさず鞭を振り上げる。

 

走れ、伸びろ、残せ、逃げろ逃げろ、逃げ切れ!

 

「ディープインパクトがコンゴウリキシオーを交わして伸びる、サンジェニュインの背はもうすぐそこだ、抜けるか?抜けるか?」

 

白い馬体から伸びる影を踏む、たった1頭の鹿毛馬。

 

「ディープインパクトかサンジェニュインかディープインパクトか!?わずかにサンジェニュイン再び交わすも残り100メートル!」

「コンゴウリキシオーが2頭を追うも届かない!」

「2頭揃ってゴールだ!白と黒の馬体がほぼ同時にゴール板を踏み抜いたようです」

「体勢はディープインパクトの方がやや有利か?写真判定が待たれますが」

 

競馬場全体が風に揺られるようにざわめいていた。

1.1倍のオッズなど、すでに妄信できないだろう。

それくらいゴール前の競り合いは白熱していて、握りしめた馬券の価値を大きくブレさせた。

 

「── 結果が出ました。1着はディープインパクト!2着馬サンジェニュインとはハナ差……8センチ!?ハナ差8センチの決着です。わずかに8センチ、されど8センチ。結果が出ればそれがすべてです」

 

空に馬券が舞う。

さんざめく声は怒りか喜びか。

どちらにせよ、ゴールしたあとも先頭を走り続けるその馬には届かない。

馬はただ前へ前へと走っていた。

まるで走り足りないかのように脚を動かし続け、そして訴えるように嘶いた。

 

 

 

 

 

 

 

『エエエエ!?ディープ!?ディープインパクトなんで!?親父の惚れた馬なんでええ!?……アッおいちょっと近寄んな、近寄るなってば!!』

 

「何故かサンジェニュインが走り続けていますね、他の馬たちもそれをずっと追いかけているようです」

「一体どうしたのでしょ、あ……ディープインパクトの鞍上から竹騎手が落ちました」

 

『来んなよおおおおお!!!!誰かたすけでええええ!!!!』

 

めちゃくちゃ訴えるように嘶いた。




なおこの新馬戦、主人公除く9頭中7頭が牡馬!(爆笑)

サンジェニュイン 牡2
2歳にしてはデカイ
でも足腰強いしケガもしたことない
今回深い衝撃さんと新馬戦が被り、惜しくも1着を逃す
そしてレース後に牡馬どもに追いかけ回される

カネヒキリくん 牡2
残念ながらまだ未勝利
芝じゃ上手く走れなかったよ……
じゃあなんでサンジェニュインに先着できてたのかってお前、
先着しないとサンジェニュインの顔がちゃんと見えないからだよ

ディープインパクトさん 牡2
主人公のクソ親父が惚れた牡馬、つまりこいつが……いやこれ以上はよそう
主人公より小せえが主人公より強い(確信)
レース後、鞍上の竹さんを振り落として主人公のケツを追いかけた

竹さん ヒト族 男
レジェンドジョッキー
やべえオーラビンビンの白い馬に何かを感じた模様
ディープインパクトさんに振り落とされてケツが痛いがそれ以外はケガしてない

目黒さん ヒト族 男
誰よりも主人公の強さを信じている厩務員
どうやら主人公が言葉を理解しているのを理解しているらしい
今回主人公は負けたけど次は勝てるって信じてる

騎手くん ヒト族 男
今回一瞬も出番がなかったが詳細は次回でたぶん明かされる。たぶん。


次回、掲示板回!
小ネタとは別の掲示板回です。

6/15 追記
阪神5Rの2歳新馬戦レース実況は史実の実況をベースとしています。
実況参照元:https://www.youtube.com/watch?v=Eqj0VXGUDD4

主にレースが始まる前の冒頭、
「芝2000メートルです。メンバー10頭の新馬戦。断然人気はもうこの馬、ディープインパクト。──」
からの前説部分は、一語一句すべて書き起こしというわけではありませんが、口調やニュアンスを変えたりしている程度で、ほぼ史実を写す形となっています。
この部分は「ディープインパクト」という馬が、新馬戦の時点でどれほど人気があって期待されていたのかを、当時の人々に強く強く印象付けた部分だったと思うので、どうしても史実の部分を使いたい思いがあり載せました。

レース直前のアナウンサーの
「4番のディープインパクトが1番、1番、1番人気となっています!」
は、史実でアナウンサーが発言した
「4番のディープインパクトが断然、断然、断然の1番人気となっています」
の「断然」を「1番」にすり替えただけなのですが、断然を3回繰り返すほど圧倒的な人気だったことを表現するのに、これ以上シンプルな方法もないと思い、改変した形で使用させていただいています。

最後の
「わずかに8センチ、されど8センチ。結果が出ればそれがすべてです」
は、史実の「○○騎手!もう勝てばそれがすべて記録です」をどんな形でもねじ込ませたかった悪あがきです。この史実の部分恰好よくない?恰好いい(確信)

レース実況も丸々の書き起こしにならないよう注意していますが、史実のレースをベースにしているため、途中の順位等は沿うようにしています。なるべく自分の言葉に言い換えてはいるのですが、何分実況素人のためおぼつかない点もあるかと思いますが、ちょっとゆるしてほしいです。ゆるしてください。

完全素人ニキの愛馬名アンケート

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  • タイヨウハノボル
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