【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
今回はウマ娘回。
サンジェニュインがウマ娘になるならカネヒキリくんもウマ娘にならないわけがない(確信)
凱旋門賞馬なのに実装がめちゃくちゃ遅くて2ch にスレが立つウマ娘がいるらしい……
低いバイブに促されるようにして、少女がスマートフォンを開く。
時刻は午前11時。
「優駿たちの頂点、URAファイナルズの開催が決定、か……」
そよ風に揺れるカーテンの隙間から、燦々とした日の光が差し込む。
暗がりの部屋に伸びる小さな影にまたひとつ、影が重なった。
「……出るのか?」
「どうかな、トレーナーくん次第だろうけど── どうせなら出たいな」
ひときわ強い風が吹き抜け、カーテンごと少女の髪を揺らした。
光に縁どられた輪郭は淡く輝いていて、暗がりの中でさえ少女を神秘的に見せる。
やわらかくウェーブした髪も、青い瞳を縁取る睫毛も、桜色に薄く染まる肌さえもが白い、その少女。
暴言さえ知らぬような口も、スマートフォンを持つ手も小さく細くみえる。
卓上に並ぶショートケーキ、マカロン、あらゆる愛らしいお菓子ですら、少女の可憐さの前では引き立て役にはなれない。
開かれた窓から飛び込む声に耳を澄ませ、楽し気に微笑むその表情のまま ──
「あらゆるレースで、あらゆる場所で、頂点に立つのはこのオレ── サンジェニュインだ」
振り落とされたフォークがケーキを崩す。
さながら、豪奢な凱旋門を粉砕する一本の槍のように。
美しく整っていたケーキの、その裂かれた隙間から流れる赤色が、少女をさらに美しく見せた。
「あ、クリームとんじゃった……」
「……これで拭え」
「カネヒキリくんサンクス~!」
……少女をさらに美しく見せた、はず。
神は言った。
── まあ馬生をまっとうできれば次は人間になれるぞ……一発の未練が解消できないとフフッ、次はどうなるかわからんがの!
つまり未練が解消できなければ、次の生は人間にはなれない、ということである。
馬としての晩年、薄れゆく意識の中でこの事を思い出して、思った。
『でもまあ、この馬生すごい楽しかったし、次人間じゃなくてもいいかな』
悔いばかりの人生とは異なり、馬生では未練なく生きようと思ったが、競走馬とは厳しい競走世界。
勝敗により、もちろん残る思いはある。
もっと勝ちたかったとか、仲間のレースを見守りたかったとか、最期にあいつをぶちのめしておけばよかったとか。
ん?なんか最後のやつは人間の時の未練と変わらな── ごほん、とにかく結局未練はあった。
だけど、人間だった時よりも馬生は何倍も濃く、充実した日々だったことに間違いない。
俺は精一杯生きた。
未練はあっても悔いはなかった。
ただもし、次また競走馬になれたら、次こそは……。
死に際にそう思ったのがダメだったんだろうなあ。
「わ、あのウマ娘さんかわいい!」
「ほんとだー!色白ですっごいスタイルいい!レースでは見たことないけど、まだデビュー前なのかな?」
制服姿の娘さんたちがヒソヒソと言い合う。ヒト的には小声だろうと、このウマ耳にはしっかりはっきり聞こえるのである。
目が合ったのでニッコリ微笑んでおく。
かわいい?サンクスサンクス!
「おばあちゃんみてー!!ウマむすめのおねえちゃん!」
「あら、ほんとねえ。かわいいわねえ」
お嬢ちゃんもかわいいよ。
「あっ、おててふってくれた!」
「よかったねえ」
女子高生と幼女、そして様子をうかがっていた男子中学生にもサービスサービスゥ!してその場を立ち去る。
このままここでニコニコしているとさらに人が増えて近隣住民に迷惑をかけてしまう。
圧倒的美少女ウマ娘は引き際もスマートに済ませるものだ。
今の激ウマギャグでドッカンドッカンの場面やな!
「お、カネヒキリくん!待たせたみたいだな」
「……待ってない。今ちょうどきた」
嘘つけ1時間前からオレの後をつけてただろ。
視線の強さが競走馬時代から一切変わってないんだわ。
── 改めて、自己紹介でもしておこう。
俺の、オレの名前はサンジェニュイン。
神が作り給うた圧倒的美少女ウマ娘。
そしてこっちは竹馬、いや竹バのズッ友・カネヒキリくん。
日に焼けた健康的な肌とスラッと高身長、ふわふわ栗毛が最高にクールなウマ娘。
共にトレセン学園高等部栗東寮所属のウマ娘である。
……どうしてこうなったんだ。
「サンジェニュイン、聞いているのかサンジェニュイン!」
「ヒィン、ハイ、ハイ聞いてます!」
目の前に御座すのは女帝・エアグルーヴ副会長。
奥で微笑んでいるのは皇帝・シンボリルドルフ会長。
横で腕を組み目を閉じているのは我がズッ友。
オレは今、エアグルーヴ副会長から叱責されていた。
「まったく何度言えば学習するのだ貴様は!」
「それはほんとそう」
「は?」
「弁解のしようもございません」
叱責の理由はただひとつ。
登校するたびにウマ娘大名行列を作ってしまうことについてだ。
オレを取り囲む大勢のウマ娘が邪魔で登校に支障をきたしていると、また生徒会宛にクレームが入ったのだろう。
「よりによって生徒会の一員たる貴様が風紀を乱してどうするんだ」
めちゃくちゃ深いため息をつきながら、エアグルーヴ先輩が眉間をぐりぐりと押していた。
ストレスかけてすんませんほんと……。
とはいえこれはオレが作りたくて作っているわけではない。
前世の業と言うべきか、神の詫びの残りカスというべきか。
『あらゆる牡馬に好かれる魅了』の効果が、ウマ娘になっても解消されなかったのである。
「まあまあエアグルーヴ、彼女も反省しているじゃないか」
「会長は黙っていてください!あなたはこのウマ娘に甘すぎるんです!!」
「す、すまない……」
ルドルフ会長は謝りつつもオレに飴ちゃんを差し出す。
エアグルーヴ先輩の怒りのボルテージがあがった。
ウマ娘はみんな女子じゃん、牡馬すなわちオッスを魅了する効果なんて効かなくなァい?
転生してしばらくはそう思っていた時期もありました、はい。
確かにウマ娘は「娘」とあるだけあって全員女の子なわけだが、元となった魂── 別世界の名馬の魂には、その名馬の性別がのっかっているのである。
前々世でプレイしていたときは明言されていなかったが、元の魂が牡馬ならば右耳に、牝馬ならば左耳にリボンをはじめとしたアクセサリーがついている。
前世オッス馬だったオレはもちろん右耳にリボンをつけていた。
これを思い出して、ちょっと、いやまさかそんなことは、と自分を誤魔化していたが、あるウマ娘との出会いで確信してしまったのである。
そのウマ娘というのが……。
「彼女は囲まれたくてそうしているわけではありません。そもそも非があるのは、彼女を囲って困らせている相手のウマ娘どもでは?」
「か、カネヒキリくん……!」
相変わらずオレ以外が相手だと淀みなく話すね!
カネヒキリくんとの再会は2歳、ウマ娘用の託児所。
ひときわツヤッツヤの栗毛をなびかせる美幼女ウマ娘になっていたので初見ではわからなかったが、オレの顔を見た瞬間のあのガン見、どうみてもカネヒキリくんです久しぶりだねえ!
カネヒキリくんとは馬時代に死に別れて以来だったのでオレのテンションは最高値に達していたが、彼、いや彼女には他のウマ娘同様前世の記憶はなかった。
それに関してちょっと残念だなとは思うものの、視線の圧が全然変わっていなかったのでさみしさは感じていない。
暇さえあればオレをガン見し、どこに行くにも一緒、というのは競走馬時代からだったので違和感もないのだ。
そんなカネヒキリくんだが、幼少期から一緒に過ごした効果なのか、オレの魅了の影響はそこまでないようだ。
前世でも最期まで俺のこと襲わなかったもんな。
今世でも何かと右耳リボンウマ娘たちに囲まれるオレを助けてくれるし……やっぱり信頼できるのはお前だけだよマイ併せ馬フレンズ!
「……サンジェニュイン、貴様その表情だぞ」
「えっ?」
「一見儚げに見える少女にキラキラとした顔で見つめられると……矜持が高い者ほど侍る真似に興じたがる、ということなのかもしれないな」
「……今のギャグ、ドッカンドッカンいきそうですね!」
キョウジが高い者ほど侍る真似にキョウジたがる。
激ウマギャグじゃん、さすがルドルフ会長だギャグのセンスも高いッ!
「ん?……おお、確かに!今のはよかった!」
「ハイ!」
「ああ……会長、これさえなければ……!」
エアグルーヴ先輩のやる気が落ちたような音がするけど、気のせいだな!
生温い視線になったのがバレたのか、その後めちゃくちゃ叱られた。
「はんせいぶん、10まい……」
提出期限は明日までなので、これは徹夜確定である。
競走馬時代から「あらゆる牡馬に好かれる魅了」をどうにかしようと色々手を尽くしたりした。
クラシックシーズンに入ってからの他馬への影響を考慮すると、もう俺のケツだけの問題ではなかったからだ。
しかし相手は「神が与えた魅了」である。
最期まで克服はかなわず、結局効果を薄めるにとどまった。
とはいえ、効果を薄めることができるならウマ娘でもそれをやればいい、という話である。
ところがどっこい、その馬時代には効いた「薄める」方法は、ウマ娘にはまったく効果がなかったのである。
無念……だがどうしようもない。他の方法を見つけねばならない。
「オレもなんとかしたいけど、どうしよう」
このままでは最悪、出走停止である。
せっかくトレーナーまで捕まえ、もとい見つけたというのに、レースに出れないなんて嫌だ。
何か、何か方法を考えなければ……!
「── お困りのようだね、サンジェニュインくん」
「た、タキオンさん!!」
「おや、タキオン姉さん、でいいと言ったのに」
白衣に萌え袖、手に持った怪しげな試験管。
光速の粒子ことトレセンのマッドサイエンティスト、アグネスタキオンさんである。
ちなみにウマ娘としては親戚のお姉さんだ。
オレもタキオンさんも魂の元がどっちもサンデーサイレンス産駒で、その繋がりだと思われる。
母馬が同じ馬だけを「兄弟姉妹」と称するので兄弟ではないが、血はつながっている。
ちなみにカネヒキリくんとは競走馬時代は叔父と甥という関係。
俺と母馬違いのフジキセキの産駒がカネヒキリくんなのだ。
「悩み事はさしずめ……モテモテすぎること、かな?」
「……まあ、そうですね」
身もふたもない話だが、端的に言えばそう。
「そんな君に!この新薬を上げよう!モルモッ、トレーナーくん、例のモノを」
スッと現れるタキオンさんのトレーナー……居たの!?
「これを飲んだものは普段の魅力が半減する。含まれている物質はすべて身体に無害なものだから安心してくれたまえ」
「いや全然安心できない色合いなんですけど」
「ふふ……面白いだろう?」
「面白いとかそういう次元じゃないんですけど!?」
手渡された試験管は虹色で、薬は薬でも頭がパッパラパーになりそうな色合いである。
飲んだら魅力がどうたら以前に、ウマ娘生命も危うい代物にしか見えない。
「ふむ……これを飲めばたちまち魅力が半減し、追い掛け回されることも減るだろうが……」
なん、だと……?
「お、追い掛け回されることが、減る……!?」
「そうとも。誰の視線をも気にすることがない快適な学園生活。……過ごしてみたくないか?」
ゴクリ、と喉が鳴る。
過ごしてみたい。
視線には慣れ切っているが、それはそれとして過ごしてみたいのだ。
誰の視線も感じず、誰にも囲まれず、のびのびと。
「飲むかい?」
耐えろサンジェニュイン。
これは孔明の罠、いやアグネスタキオンの罠。
成分にレース禁止成分が含まれている可能性もあるんだ!
正解は「飲みません!」だ。
タキオンさんもこの返答を待っているはず。
微笑みながらオレを見るタキオンさんに頷く。
わかっていますよ、オレの答えはもちろん──
「飲みますッ!」
オレは普通のウマ娘になるぞ、ジ〇ジ〇──ッッ!!
「ッよせサンジェニュイン、飲むな!」
「ふぁっ?かにぇひきりくん?」
「ああ、遅かったか……ッ!」
カネヒキリくんはその場に崩れ落ちた。
オレの身体は虹色に光り輝いた。
……反省文は20枚に増えた。
── アグネスタキオンのやる気が上がった!
── カネヒキリのやる気が下がった!
── エアグルーヴのやる気が下がった!
── サンジェニュインのやる気が下がった!
── サンジェニュインの魅力が50下がった!
サンジェニュイン(ウマ娘)
固定スキル:CHARMING・CHARM
(レース序盤から中盤にかけて自分より後ろのウマ娘を掛かりやすくする)
自他共に認める圧倒的美少女ウマ娘
競走馬時代の記憶を丸々持って転生
今世でも右耳リボンウマ娘に追われている
日常ではカネヒキリくん(ウマ娘)にガン見されながら、
ハルウララちゃんと仲良くキャッキャしている
見た目の儚げ天使美少女とは逆にオレ口調娘なので、
ウマ娘プレイヤーからはそのギャップで愛されている
カネヒキリくん(ウマ娘)
日に焼けた健康的な肌、高身長、スタイル抜群、ふわふわ栗毛は短髪
イケウマ娘としてめちゃくちゃモテるが、
視線がサンジェニュインで固定されている
実装はサンジェニュインより先
サポカすらない未実装のウマ娘の話を延々とすることで有名だった
エアグルーヴ先輩
魂の元が牝馬なのでサンジェニュインはちょっと手の掛かる後輩レベル
会長とサンジェニュインが似たようなギャグセンスをしているため、
頻繁にやる気が下がっている
シンボリルドルフ会長
魂の元が牡馬なのでサンジェニュインにゲロ甘い
ただ孫に対する祖父のようなゲロ甘さなのでサンジェニュインも懐いている
アグネスタキオン
サンジェニュインとは親戚同士
お姉さんと呼ばせたかがっているがなかなか呼んでくれない
体質改善には真面目に協力しているつもり
アグネスタキオンのトレーナー
よく虹色に発光している姿が目撃されている
次回は競走馬回に戻るゾ!
※投稿頻度のアンケートご協力ありがとうございました!
6/15 追記
文章の加筆と修正を行いました。
完全素人ニキの愛馬名アンケート
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サニードリームデイ
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サンシカカタン
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タイヨウノムスコ
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タイヨウハノボル
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ラブディアホワイト