【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
なんでかわからんけど投稿するたびに文字数が増える。
でも今のとこ毎日更新はできてる!えらい!(自賛)
さて、今回もまた時が進んでるゾ!
どんどん進ませましょうね~!
死んで、人から馬になって。
未練を解消できないと死ぬぞと言われて。
── 正直、べつにいいか、と思ったりもした。
なにせ一度死んでいる。
馬の寿命も人間に比べれば瞬く間で、そう長くないのもわかっていたから。
でも最近は、もうちょっと生きてみたいなと思う。
手のひらクルックルで笑っちまうけど。
「サンジェニュイン、気持ちいいか」
例えば、馬房でブラッシングをしてもらっているとき。
「明日には生産牧場の人が来るからな」
例えば、遠く北海道からタカハルとタクミが遊びに来ると知ったとき。
「この前の併せ馬でのタイム、テキもすごい喜んでたな。俺も鼻が高いよ」
例えば、俺の調教の成果をテキや目黒さんが喜んでくれたとき。
とても嬉しくなった。
それと同じくらい悔しくなった。
気持ちいいよ、ありがとう、来てくれて嬉しい、無理しないで、俺頑張ってるよ、もっと頑張るからね。
自分の口から言葉にして伝えられないのがこんなにもどかしいとは思わなかった。
こんなに辛いとは思わなかったんだ。
だだっ広い牧草地を好きに走り回って、疲れたら寝転んで、草や水や風の匂いをかいで。
そうして見上げた空が美しいことを、馬になって初めて知った。
人間だったころは働き詰めだったから。
食費と学費を稼ぐために何件も掛け持ちして、疲れから丸まった背に倣うように俯いて歩いていた。
『不運だっただけで、不幸ではなかった』
『ほどほど満足できる人生だった』
『一度死んだし、まあいいか』
なんて、ハリボテだった。
俺を生かすために1年以上時間を使ってくれたタカハルやタクミ、生産牧場のスタッフたち。
俺が立派な競走馬になれるように調教をつけてくれるテキ、健康でいられるように世話をしてくれる目黒さん。
俺は独りなんかじゃなくて、思った以上にたくさんの人に支えられて生きているのだと、最近になってわかった。
そしてそれが、自分で思う以上にうれしくてたまらなかったんだ。
言葉が通じないなら。
この気持ちを、喜びを返すにはどうしたらいいんだろうと悩んだりもした。
けどきっと、答えはシンプルなんだ。
「よし、きれいになった。── お前が走る日が、本当に楽しみだよ」
ああ、楽しみにしててくれよ、目黒さん。
どんなレースでも一番にゴールに飛び込んで、あんたたちが育てた馬は、俺は、サンジェニュインは最高の競走馬だって言わせてみせる。
育ててきてよかった、俺に出会えてよかったって、きっと言わせるからな!
「じゃあ早速3歳馬たちとの併せ馬に行こうか」
それはもうちょっと精神を整える時間をくれないか?
え?だめ?
ア──ッ!!
「ヒィン……」
「元気出せよ、サンジェニュイン」
また牡馬どもに囲まれたぞクソッ!
あのカネヒキリくんとの併せ馬を皮切りに、俺は栗東トレセン内の馬たちと併せ馬をするようになった。
2度目の併せ馬は同年代の牡馬たちだったが、こちらはカネヒキリくん同様、俺をガン見するだけで息子をこんにちは!させたりはしなかった。
馬房に戻るときに俺から離れたがらないこと以外は、終始平和に終わったのである。
俺は感動した。同時に恥じた。
あらゆる牡馬に好かれるなどありえん、やはり身体を狙われているだの夜のレジェンドレースだのは被害妄想だ。
俺が美しいあまりにガン見される以外の害はないし、これは勝ったな!
どんな馬でもかかってこんかい!!
── そう、俺は慢心していた。
認めよう。安心しきっていたのだ。
その結果が、年上の3歳以上の牡馬たちとの併せ馬での悲劇である。
相手は俺よりも小さな馬だったが、3歳牡馬ということもあって風格はしっかりと備わっていた。
カネヒキリくんと出会う前だったらバリバリに警戒していただろうが、2歳牡馬たちとの併せ馬で油断しきっていた俺は、相手の目がギンギンになっているのに気づいてなかった。
そして瞬く合間に── 相手の馬の息子がオッキッキ状態で真横にいたのである。
これが1頭だけならこんな馬もいるのかで済んだかもしれないが、なんと、会う3歳以上の牡馬全頭がその状態になった。
口からなっさけねえ嘶きが漏れたし、馬なのに脱兎のごとく逃げだした。
狭いところがストレスになるという馬でありながら、四方を壁で囲まれた小屋に隠れるレベルの恐怖である。
この件を経て、俺は気づいた。
俺に興味津々でガン見してくるだけで無害なオッスたちはみな2歳牡馬、つまるところまだ繁殖期を迎えていないオッスどもである。
逆に俺を相手に戦闘状態になっているオッスどもは3歳以上。バリバリの繁殖可能牡馬だ。
今はまだいいがあと1年したら同年代牡馬たちみんな── いやこの考えはもうやめよう、精神が汚染されるわ。
「目黒さん、お疲れ様です」
「あ、高山さん。お疲れ様です。カネヒキリ号は追い切りですか?」
「ええ。あとちょっとですし」
ところで季節は夏だ。
2004年の7月である。
本当に時が進むの早すぎてキレそう。
調教調教、休んで併せ馬、調教調教と繰り返しているうちに新馬戦シーズンに突入して1ヶ月が経っていた。
馬体は早生まれ勢や通常生まれの馬たちと比べてもかなり仕上がっているほうだと思うが、カネヒキリくんにガン見されながらの併せ馬を繰り返しているうちに、さらにガッシリとしてきたと思う。
とはいえ筋肉の重みでスピードが落ちるなど言語道断。
目黒さんに小まめに体重測定をしてもらい、一番スピードが出せて、かつパワーを落とさない馬体作りが今の目標だ。
襲い掛かってくる牡馬どもから逃げ切り、かつ蹴り落とせるだけのパワーを絶対に手に入れて見せるぞ!!
マイ併せ馬フレンズ、カネヒキリくんとの付き合いも半年近く経ち、いまや俺たちはズッ友である。
きっと3歳になってもズッ友だって信じてるからなカネヒキリくん……!
2頭そろって2歳馬にしてはデカいので、他馬への影響を考慮していつもは2頭のみの時に併せ馬をしていたが、新馬戦シーズンで調教スタッドは満杯状態のときに会うのは初めてだ。
なんだか新鮮だな、カネヒキリくん!
「……カネヒキリ号、相変わらず近いですね」
「なんかすみません……サンジェニュイン号のことすごい好きみたいで、無理に引き離すと暴れちゃって」
相変わらずのゼロ距離だけど、3歳牡馬たちと違って立ち上がらないのでまだオッケーです!
なにが立ち上がらないって、ナニだよ言わせんな!
「新馬戦は確か7月末でしたっけ」
「新潟5Rですね、ヤネは柴上さんです。カネヒキリとの相性もいいので、期待できそうですよ」
高山さん── カネヒキリくんの厩務員は自信満々である。
カネヒキリくん強いしな。俺のことガン見しながらでも先着してくし。ほんと何アレ?
まあ最近は俺もカネヒキリくんに勝てるようになったのでね、強くなってはいるから。
震えてない、これは武者震い!
「あれ、なんか騒がしいですね」
「ほんとだ。あっちは3歳牡馬の……」
ん?
「うわああイブキッ、とまれイブキィ!」
「アッすみませんすみません、ラタフィ頼む戻ってきてくれ!」
厩務員、調教師、そして騎手たちの怒号、悲鳴が響き渡る。
あちらは今月末にレースを控えた3歳牡馬がいるスペース。
……逃げるぞ目黒ォ!!
「ちょ、目黒さんあれあの馬たちガード越えようとしてませんか!?」
「してますね……」
してるっていうかもう越えてんだよ!障害物レースに出場予定なのか!?
ガードを飛び越えたその脚力はレースで見せろや!
ヒィン勘弁して、厩務員さんたち手綱を離さないでえ!!
「どうどうサンジェニュイン、ほらもう捕まってるから、こっちまでこないぞ」
目黒さん!あんたあの馬たちの目が見えないんか!?
ヤってやるぜ、俺はヤってやるぜって目してるんだが!?
こんなところに居られるか!俺は馬房に戻らせて貰う!!
「これが、噂の……」
エッ噂!?なってんの!?
「サンジェニュイン号はやたら牡馬に懐かれるって聞いてましたけど、想像以上になんか、すごいですね」
言葉濁してるけど完全にドン引きしてるじゃん。
これは懐くとかそういうレベルじゃないんだよ。
もうね、狙われてる。
この神が作り給うた美しい馬体を狙われてるんだわ。
ナルシスト?俺が息子オッキッキした牡馬どもに囲まれてる姿見てもまだ言えるんか?
「あ、ジョッキーが見えたので私たちはこれで……」
逃げるな高山ぁああ!!
「エッうお、カネ、カネヒキリちょっとなんだ、そっちじゃないって」
立ち去ろうとした高山をカネヒキリくんが逆に引っ張って歩き出す。
……ん?エッ、カネヒキリくんまさか、そんなまさか。
「カネヒキリお前……サンジェニュイン号を守ろうとしてるのか?」
かっ、カネヒキリくぅん……!!
俺の前に堂々と立つカネヒキリくんの馬体が3割増しででかく見える。
わずか半年の付き合い、それも月1、2回の併せ馬の時しか会わないのに……俺を年上の牡馬から守ろうとするなんてそんなのときめ── ……かない!!
あっぶねえ、思わずトゥンクってなりそうだった。
っふー、カネヒキリくんの友愛に胸打たれたわ、マジでありがとうなカネヒキリくん!
3歳馬になってもこの友愛は続けていこうな!
「ほらこっちだからカネヒキリ。……それじゃあこれで!」
「ハイ、また併せ馬よろしくお願いしますね」
「こちらこそ!……うおっ、ちょ、カネヒキリ今日は一緒に走れないから、ほらこっち、暴れんなっていま怪我したらシャレになんないから頼む頼む」
我が友・カネヒキリくんの新馬戦は7月31日の新潟に決まっているらしく、最終調整中の今は騎手による追い切りが本格化している。
カネヒキリくんクッソ早いしぶっちぎりの1位を取って元気に帰ってきてくれ。
そいじゃ、いつまでも俺が見えてるといつまでも動かないだろうからここでな!
「カネヒキリ~~!頼むから言うこと聞いてくれえ!」
高山の頑張りに期待!
「カネヒキリ号も新馬戦か……サンジェもそろそろ決めないとな」
水うめえ!
……お、テキ。なんだ俺もそろそろデビューか。
場所はどこだ?カネヒキリくんと同じ新潟か?
「夏生まれだし、ギリギリまで調整したいからな。それに、距離ももう少し欲しい。
「12月だと……移動も考えると阪神ですか?」
なんと、俺は阪神か。
新潟だったらカネヒキリくんに馬場状態聞いて参考にできたのに。
「そうだな、阪神がいいだろう。確か、12月19日の阪神5Rが芝の2000メートルだったはずだ。クラブのほうにはこっちから伝えるよ、たぶん了解は得られると思うし、そのつもりでスケジュール組んでくれるかい」
「わかりました。……いよいよお前もデビューだぞ、サンジェニュイン」
テキや目黒さんたちが俺を撫でる。
それに目を細めながら、ウンウンと内心で頷いた。
2歳馬ならまだ俺には立ち上がってこない……レース場で他馬を気にせずの済むのは大きいわ。
よし、テキ、目黒さん!1着でゴールすっからしっかり見てろよな!
俺がそう嘶いて見せると、2人は楽しげに笑った。
サンジェニュイン 牡 2
真っ白な馬体にクリックリのおめめ
某検索窓で「白い馬 かわいい」で検索したときに出てくるかわいい馬のいいとこ取りみたいな馬(ガバガバ)
今回フラグをたてられるだけ立てた
カネヒキリ 牡 2
名前を検索すればイケメンな姿がたくさん見られる実在馬
今のところは主人公を襲わない理性あるオッス
主人公に新馬戦1着で帰ってこられるやろ、と思われている
テキ(本原)
オリジナルヒト族 男 50代
主人公をかわいがっているが、熱がこもると調教がエグくなる
目黒さん
オリジナルヒト族 男 40代
主人公の担当厩務員
割と冷静に見えて、牡馬に囲まれる主人公に何かあれば心中する覚悟がある
5話ごとに1話ウマ娘回をやるので次回、ウマ娘ワールド!
6/15 追記
文章の加筆と修正を行いました。
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