【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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社畜ひょいしてたら投稿時間逃した

タイトルみたいなこと言うヤツ、学生時代テスト前にだけ現れてはノート写したら消える思い出しかないんだよね。

涙でちゃ↑う↓


3.俺たち親友だもんな

神は言った。

 

── 牡馬にしこたま好かれる魅了を追加した!

 

俺は思った。

牡馬にしこたま好かれる魅了、別にウフフな魅了じゃない可能性も十分にあるんじゃない?

魅了ってさあ、恋愛とかそういうのじゃなくてもほら、男から見ても格好いい男!的なそういう、そういうのあるじゃん。

ほかの牡馬からみても俺がめちゃくちゃ強そうに見える、そういうタイプの魅了。

……勝ったな!ちょっと他馬に会ってくるわ。

 

 

目黒さんに手綱をひかれてパッパカパカパカ歩くこと数分、調教スタッドである。

いま俺がいる本原厩舎は栗東トレーニングセンター内にあるわけだが、その厩舎の他に平地調教コースをはじめとした様々な施設があるのだ。

今日は近所の厩舎所属──つまり同じ栗東で他の調教師預かりの馬と、調教師や馬主、競馬関係者が立ち入りできる『調教スタッド』にて会うことになっている。

今日会う馬との相性がよければそのまま併走する予定もあるらしい。

大人しくて落ち着いた、静かな馬だってテキは言っていた。

けどまあ最悪の場合、俺が脱走の生き恥をさらすかもしれないけどそれは相手のオッス馬次第だから怒るなよ、テキ!

 

「そう言えば今日の相手、サンジェニュインの父馬・サンデーサイレンスの初年度産駒の仔らしいですね」

「ああ。三冠を取ったかも知れないと言われた、あのフジキセキの仔だよ」

 

ふん、その馬がどこのどいつか知らないが── エッ、フジキセキ!?

フジキセキって言ったいまフジキセキっていったじゃんテキ、フジキセキの子!?

マジ!?俺の寮長が!?いや俺の寮長ではないが!

 

……ごほん。

 

ふ、フン、タカハルが言っていたサンデーサイレンス伝説みたいに、その馬が厩務員のシャツ噛みちぎっていようが半殺しにしていようが構うか!

とっととフジキセキに似た可憐なツラ見せんかい!あ、いや俺が見せ行くんだったわ。

とっととこのツラ見んかい!!

 

「どうしたサンジェニュイン、ほら入るぞ」

「ちょっと震えてるな、ボロか?」

 

うんちじゃねえわ。

武者震いだからこれ!

 

「あ、本原さーん!」

「居住くん!いや、すまないね突然お願いして」

「いえいえ、僕の管理馬もなかなかでかくて併せ馬が年上ばっかりになってしまって困ってたんです。本原さんに声をかけていただけてよかったです」

「そういってもらえると助かるよ。……その子が例の?」

「はい!この子がフジキセキ産駒── カネヒキリ号です」

 

現れた馬はデカかった。

馬体の大きさで言えばほぼ変わらなかったが、早生まれと夏生まれの差が筋肉の厚みでよくわかった。

 

── 負けたわ。

 

こんなヤツにうまぴょい挑まれたら負ける自信がある。なんですかその仕上がりは。

ツヤッツヤの栗毛しやがって、イケメンホース気取ってるんですか。

俺の方が神がかったイケメンホースだからな!神が作っただけに。ドッカンドッカンの場面だぞこれ。

 

「落ち着いてますね」

「結構のんびりした馬なんですよ。でも調教は真面目にこなしてくれるので」

 

感心したように目黒さんがうなずく。

ケッ、俺だって調教は真面目にこなしてるっての!

 

件の馬、カネヒキリは俺をジッと見つめたまま動かない。

マジでジッと見つめられている。

穴があきそうだし、それ以上にカネヒキリの目ん玉が乾きそうである。

視線が合わないようにそらしつつ、カネヒキリの馬体を盗み見る。

パッと見の馬体ができすぎてて意識が飛びそうになったけど、当初俺が思っていた展開とは大分違う。

俺は神のクッソいらない詫びの産物によって、あらゆる牡馬という牡馬に襲われるイメージを持っていた。

俺が一瞬でも隙を見せれば夜のレジェンドレースが始まってしまうと思っていたのだ。

だけどもしや、それはただの自意識過剰だったのではないだろうか。

まったく売れていない自称芸能人が、ファンに囲まれるのを危惧してグラサンマスク装備するレベルの自意識過剰では?

 

ヒヒィン、恥ずかしすぎる……!

 

「どうどう、サンジェ、どうした?」

「……こっちは落ち着きがなくてすみません」

「ははは、いやいや、元気でいいじゃないですか」

 

カネヒキリ、いやカネヒキリくんに顔合わせる資格ねえわ、これ!

ごめんなカネヒキリくん、俺のこと襲っていやんばかんされるのかと思っちまって!そうだよな、そんなことあるわけないわ。

いくら神が言ってたからって、変に捉えすぎたんだわコレ。

今まで他の馬にもあったことがなかったら妙に警戒しすぎてしまった。

はあ恥ずかしい、マジ顔赤くない?いや俺は白いが。

 

「それにしても、本当に真っ白なんですね。突然変異なんでしたっけ?」

「うん、そうみたいだね。サンデーサイレンスは青鹿毛で、母馬が黒鹿毛だから」

「シラユキヒメと同じですね」

 

そう俺ってば白毛!

同じ父を持つ馬にも突然変異で白毛の馬がいたらしいが、その馬以上に真っ白らしい。

白い身体が太陽の光を反射してキラキラするので、生産牧場でも夏はタクミがグラサンするレベルだ。

 

緑の牧草地!空を見上げる白馬!絵になるだろ?他の牧場スタッフもいつもキレイキレイって言ってくれたもんだぜ。

そんな自慢の白毛が真っ赤になりそうなくらい恥ずかしい。

変態の冤罪だわコレ……マジですまんかったな、カネヒキリくん。

 

ちょっとテキ、今日はおいとましようぜ!

心身整えてからまたカネヒキリくんとは併せ馬したいわ。

ほらテキと目黒さんいくぞ!

 

「ちょお、本当にどうしたんだサンジェ!」

「いたたたた、痛い待って引っ張らないでくれサンジェニュイン」

 

今回はお忙しいところ時間とってもらったのにすんませんっした!

牡馬という牡馬に好かれる魅了など存在しない!

現にカネヒキリくんは俺を見つめたまま何もしてこないしな!

神の虚言だったわけよ。

はあ、マジで恥ずかしかった。

心身鍛え直して、今度は邪念を捨てたスペシャルな俺として併せ馬お願いしたいですね。

 

そして俺たちの戦いはまだまだ続く!

 

~完~

 

ん?

 

「うおっ、カネヒキリちょっと、ちょっと進むなって」

 

調教師の握ってた手綱からもがくカネヒキリくん。だが視線は俺に固定されたままである。

 

俺、一歩後ずさる。

カネヒキリくん、一歩前に出る。

俺、二歩後ずさる。

カネヒキリくん、二歩前に出る。

俺、一歩前に出る。

カネヒキリくん、二歩前に出る。

カネヒキリくん、三歩前に出る。

カネヒキリくん、五歩前に出る。

……出る、出る出る、めっちゃ出てくる!

 

「……何が起きてるんだ、これ」

「……わかんないです」

 

ぴとん、と鼻先同士がくっつく。

カネヒキリくんの視線は俺に固定されたままで、ただその圧が倍々に膨れ上がっているような気がする。

マジでなに?ガンつけられてる?

 

「カネヒキリ、サンジェニュイン号が気に入ったのか」

 

エッそうなのこれ?

 

「じっと見つめ合ってますね、気が合うんでしょうか」

「それにしてはなんか温度差がすごそうだけどね……まあとりあえず、走らせてみようか」

 

お互いの手綱を厩務員が引き、それぞれの鞍上に栗東の見習い騎手が乗る。

馬装も人を乗せる調教もスイスイ終わってしまったので、実はだいぶ前から見習いのあんちゃんたちとは知り合いだ。

カネヒキリくんは乗せた経験はあんまりないようで、ちょっと暴れていたが俺が視界に入った瞬間落ち着いたようだ。

2頭横並びなのに顔が完全にこっちを向いている。鞍上のあんちゃんがカネヒキリくんを前に向かせようとした途端、指図するなと言わんばかりに暴れ出したので、そのまま走ることになった。

カネヒキリくん、首疲れないんか……?

 

軽く合図をもらってパッパカ走り出す。

隣のカネヒキリくんも同じタイミングで走りだし2頭で並んだ。

コーナーを曲がる一瞬以外は俺の方を向いたままのカネヒキリくん。

最終コーナーまでは俺もカネヒキリくんを気にしていたが、直線に入ってからは「抜いてやるぞ!」と思って足に力を入れた。

結果、先着はカネヒキリくん。

最後まで俺の方を向いたままだったのに、速いペースで走ったはずだったのに、カネヒキリくんは強かった。

 

最後はちょっとガチめに走った俺よりも、カネヒキリくんの方が速かったのだ。

それがとても、とてもとても、悔しかった。

 

「カネヒキリ号はちょっと速かったな、サンジェ」

 

前を向かずに横の馬をガン見。

そんな舐めプ戦法に負けた馬がいるらしい。

俺のことだね!

 

「サンジェニュインも最終直線で力を出していたような気がするのですが、ここで生まれ月の差がでてしまったのでしょうか」

「そうかもしれない。何はともかく、これは併せ馬をしなければ判断できなかったところだ。これからも他の馬たちと走らせて様子をみたいな」

 

俺も力が……力が、ホシイ……!

もう何も怖くないからどんどん併せ馬しようぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

前言撤回は男らしくないが前言撤回するわ。

めちゃくちゃ怖いことあった。

 

「サンジェニュイン、ほらもう他の馬たちいないからでてきてくれ」

 

それほんとだろうな目黒!!お前嘘だったら今後も目黒って呼び捨てしてやるからな!!

 

「……頼むよ、そこから出ないと馬房に戻れないぞ」

 

そんなこと俺にもわかってんだよ目黒。

だけどな、お前も同じ目にあったらここに、四方八方を壁に囲まれたここに逃げ込むからな。

 

「そんなに牡馬たちに囲まれたのがきいているのか」

 

当たり前やろがい!

威圧感のある牡馬どもに鼻息荒く囲まれ、ケツに鼻先を、おっきい息子さんを押しつけられたんぞこっちはよお!

それも1頭2頭の話じゃないんだよ。

その場にいた3歳以上の牡馬全頭にな、やられたんだよ。

この場で意味深うまだっちが始まっちまうかと思ったわ。

シルエットは俺の方がデカくても、1歳以上の差はもうどうにもならんのやぞテキにもそう伝えておけや!

 

ヒィン……!




カネヒキリくんは実在したフジキセキ産駒のウッマです。
このお話ではサンジェニュインくんの次によく出る馬です(巨大ネタバレ)

牡馬という牡馬に好かれる魅了なんてない!
……そうだね。

※競走馬はそのままの名前でいきますが、ヒト族たちの名前は微妙に変えてます。

感想クソうれしくてリロードする手がとまんねえな。
養分もっとください(お願いします)

6/15 追記
文章の加筆と修正を行いました。

完全素人ニキの愛馬名アンケート

  • サニードリームデイ
  • サンシカカタン
  • タイヨウノムスコ
  • タイヨウハノボル
  • ブライトサニーデイ
  • ラブディアホワイト

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