【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
しっかしこの主人公、馬になったことでちょっと頭がガバガバ……ま、大丈夫やろ!
食欲の秋だ!2003年も秋が深まってきた頃、1歳と数ヶ月の俺、名前はマイサン。
今日から調教師の下へお引っ越しである。
時の進みが早くてキレそう。
「マイサン、元気でやるんだぞ!」
「寂しくっても嘶きながら飛び跳ねるなよ」
タカハル、タクミ……ここまで育ててくれてサンクス!
でもあれは別に寂しくてやったわけじゃねえから!
あの自称神があんなこと言って消えたから怒りでやったんだわ!
「それじゃあ目黒さん、マイサンを、いやサンジェニュインをよろしくお願いします!」
マイサン改めサンジェニュイン、ちょっと言いづらいけどヨロシク!
……マジで言いづらいな。これ似たような血統だってタクミが言ってた「ジェニュイン」に寄せた感じ?
もっとオリジナリティある馬名なかったんすか。
「ちょっとうるさ……ヤンチャな馬ですが、慣れれば言うこと聞くいい子なので!よろしくお願いします!」
タクミいまうるさいって言おうとしなかった?
目黒さんも苦笑いだよ!
「責任もって預からせていただきます」
手綱を引かれて馬運車乗り込む。
時の流れはクソほど早かったが、短いわけではなかった。
主担当のタカハルとはそれこそ朝から晩まで長い時間を過ごした。
寝るギリギリまで馬房の外にはタカハルがいるし、いつ起きてもそこにいるのだ。……あいついつ寝てたんだ?
放牧中はタクミが柵の外からこっちを見ていたし、俺が腹を空かせて近づけば哺乳瓶からミルクをくれた。
離乳時期になっても人間の記憶があるために飼い葉が食べれず、細くなっていく俺のためにタクミが飼い葉を食い始めたときは狂ったかと思ったが、そこまでされて食べないわけにはいかず食べるようになった。
味覚はちゃんと馬仕様になっていたみたいで、飼い葉は意外と美味かった。ウマだけに!ドッカンドッカンの場面だわこれ。
「ばいざんん~~!!げんぎでな~~!!」
その声に振り返れば、タクミがだばだば涙を流していた。
いやタカハルじゃなくてお前が泣くんかい!
タカハルお前はフリでもいいからちょっとは泣いとけ!
「愛されてるな、サンジェニュイン」
べ、別にもらい泣きなんてしてないんだからな!
ヒィン……
さて俺は北海道出身なのだが、関西は栗東所属の調教師預かりとなることが決まった。
いくらグループ内でも下の方の牧場出身とはいえ、あの社来グループ傘下である。……社来グループが競馬界でどれくらいの力を持っているのか、実はよくわかっていないのだがタカハル曰く「やばい」らしい。あいつ時々語彙力なくなるな。
そんなやばい社来グループの本社預かりの馬とは比べものにならないだろうけど、結構いいところに入れてくれたらしく、着いた先は立派な建物だった。
「目黒くんおつかれ。サンジェニュインの調子はどうかな?」
「テキ!お疲れ様です。馬運車での長旅なので疲れているかな、と思ったのですが、降ろしてみたら結構元気でして」
テキ?敵!?
50代半ばくらいのイケオジだが、こいつ敵なの?後ろ蹴りしとく?
「ほー、馬体も思ったよりガッシリしてるし、頭も落ちてないし……長旅も苦にならん体力があれば2歳戦線からいい感じに飛びそうだな」
「あのジェニュインの母の全妹が肌馬ですからね、期待できますよ」
「ようやっと俺にもいい馬が回ってきたのかな。……サンジェニュイン、きっちり調教していくから頑張ってくれよ」
うん?調教ってことは、この人が調教師なのか。
ちょっとのんびりめのおじさんって感じだが。
テキってこっちでの調教師の呼び方なんかな?
俺はウマ娘はやってたし小さい頃競馬場にいったこともあったけど、実はそこまで競馬に詳しくない。
馬には脚質があって得意な距離があって、というのはゲームを通じてなんとなく理解していたが、こういった専門用語となるとサッパリなのだ。
とはいえ人間の言葉は理解できるので、ほかの馬よりは調教も上手くいくと思うんだよな!ウマだけに!ドッ!
~完~
いや完じゃねえわな。
調教舐めてたわ。
「ん?……飼い葉ぜんぜん減ってないな」
食べる気力もないんよ。
やばくない?
水飲むのでいっぱいっぱいだぞ。
馬房でしばらく横になって休みたいレベルだわ。
「調教も2歳馬にしてはかなりペース早いからな……ちょっとスローにするようにテキに言うか」
ぜひそうしてくれ。
ていうかペース早かったのかよ。
ほかの同年代の馬も同じくらいやべえのかと思ってたじゃん。
まあ他の同年代みたことないんだが。
ここ俺以外に馬いないんか?
「目黒くん、どうした?」
「あ、テキ。ちょうどいいところに」
テキ── これ、調教師って意味であってたわ。
ここのテキの名前は本原佳己っていうんだが、本原佳己厩舎に来てからざっくり3ヶ月半が経った。
今は2005年の1月である。俺も括りとしては2歳馬となっていた。
もう息をつく間もないくらい調教、調教調教、そして調教!の日々を過ごしていたらあっという間である。
最初はなんでもかんでも目新しくて、そんで褒められるのがうれしくて、体力が切れるまで調教を受け続けていた。
馬になった影響なのかマジで褒められるとうれしくて足が止まらん。
すごいぞ、もう脚がすいすい動くのなんのでな……。
調教を受けては褒められ、うれしくなって1日に何セットもメニューを繰り返していたら途中からクッソハードになっていた。
「サンジェニュインが完全にバテてるみたいで、少しペースを落とした方がいいかもしれません」
「あー……2歳馬とは思えんペースになってたからね。サンジェが教える端から吸収していくのが面白くてついつい伸ばしてたけど、そらそうだよなあ」
教える端から吸収する優秀な馬でごめんな!でもペース落として!
「こんなに飼い葉残して……ごめんなあサンジェ、明日からはペース落とそう」
ちゃんとごめんなさいできる人間が一番えらい!許す!
その証拠にほら、飼い葉ちょっと食んでやるぞ。
ほれ、全然食欲はないけど食ってはいるから元気だせ!そこまで落ち込むなテキ。
なんか娘に「お父さんのと一緒に洗わないで!」って言われた親父みたいな顔だぞテキ。
「ペースは落とすとして、新馬戦の予定はどうしますか?クラブからは夏に、というお話だったかと思いますが」
「サンジェは夏生まれだし、もうちょい後でもいいと思ってるよ。……馬体は夏生まれとは思えないくらい仕上がってるがな」
そんなに俺の身体をじろじろ見るな!えっちだぞ。
「ですね。早生まれの2歳馬と比べても遜色ないどころか、サンジェニュインの方が勝ってるとさえ思えます」
「お、結構言うねえ」
それは身内贔屓ならぬ担当厩務員贔屓では?
1月生まれより7月生まれの方が馬体しっかりしてるとか、そうはならんやろ。
「言いたくもなりますよ。それくらいほかの馬と違う。もう風格から違いますよ。サンジェニュインの方が体重もありますし」
なっとるやろがい!な状態だったわ。
そういや神がなんか見た目をいじくったみたいなこと言ってたし、それだろうか。
丈夫な身体にしてくれたのは素直に感謝なのだが、魅了はやっぱりいらんて……。
「生まれが遅い分、母馬の中でたんまり栄養をもらってきたのかもな」
「生産牧場の担当厩務員が「出たときからデカかった」と言うくらいなので、テキの言う通りかもしれませんね」
俺、デカかったのか。
育成牧場のときから「スタミナある」とか「健康体」とかは言われてきたから、ああ俺って丈夫なんだって自覚はあったけど、大きさまではわからなかった。
だって俺、自分以外の馬は母馬以外あったことないんで!
何故か生産牧場のほうでもここ本原厩舎でもほかの馬たちとあったことがないのだ。
なに?秘蔵っ子の俺をそんじょそこらの馬と会わせられないって?
よせやい、照れちまうだろ!
「デカすぎて他馬たちに混ぜられなかったくらいだしな」
……秘蔵っ子の俺をそんじょそこらの馬と会わせられないって?
よせやい、照れちまうだろ!!
「とはいえ新馬戦もあるし、近いうちに会わせるよ」
「うちの厩舎にいる馬は全頭サンジェニュインより小さいですけど、大丈夫ですかね」
全頭俺より小さい?
それなら最悪蹴れば……勝ったな!飼い葉食うか。
「……うーん、うちにはいないけど、近くの厩舎に結構デカめの牡馬がいるから、まずはその子と併せるか」
負けたから寝るわ。
2000~3000文字くらいで毎日投稿してえなって気持ちはあるんですよ
6/15 追記
文章の追加と、不要な箇所を削除しました。
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