【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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勢いで書いてます。
ピュアレディも架空馬です。

5/30 ちょい修正しました


1.あの牡馬と一発

自分が馬になったと分かったとき、真っ先にやったこと。

それは『息子』の確認だった。

 

『よかった、ついてる!ついてるわ!』

 

飛び跳ねては首を勢いよく振り下ろす。

馬になってもついてきてくれてありがとうな、息子よ。小さくてもしっかり揺れ動いているマイサンに思わず安心して笑う。

いや笑ってる場合じゃねえわ。

なんで俺は馬になってんだよ。

 

「お、今日も元気に飛び跳ねてんな!」

 

明るい声に金髪ピアス……俺の担当厩務員の兄ちゃん、タカハル!

どこをどうみても厩務員には見えないけど、馬への愛情は本物だ。

俺を産んだあと、役割を終えたとばかりに育児放棄をかました母馬・ピュアレディに代わって、俺にミルクをくれるのがこのタカハルだ。

頭より少し上の位置に向けられた哺乳瓶に、必死になってしゃぶりついた。

人間の俺がやめろと言っているが、馬の俺は止められないのだ!

 

「美味いか?」

 

美味い、美味すぎるぞお!

 

「わはは!すげえ勢いで飲んでるわ」

「いやもう元気っつうか、狂気っつうか……この馬ちゃんと走んのかなあ」

 

黒髪の男── タクミがあきれたように言う。

いやほんとそれな。

俺でもわからん、俺走るんかな?

まあ馬だし走るか。

走るわ!

 

……なんか俺知能さがってない?気のせいか。

 

「だいじょうぶだって!父馬も幼駒時代から相当やんちゃだったみたいだし、そういうのは血なんだろ、な?マイサン!」

 

しかも俺の名前マイサンなのかよ。文字通り『俺の息子』じゃん。

 

「マイサンて、幼名そのまんまでいくんか?」

「ピュアレディのオーナーさんにとっては『私の息子』で間違いないしな」

「ああ……にしてもキャラ濃い人だったな」

 

次に会うのは半年くらいがいいな、と老け顔のタクミが言う。

お前タカハルと同い年とは思えんくらい老けてんなほんと。

だがタクミの言うこともわかるのだ。

実はわが母馬・ピュアレディは内国産牝馬ではなく、アメリカからの輸入牝馬なのである。

その全姉はクルーピアレディーと言って、サンデーサイレンスの初年度産駒で皐月賞馬・ジェニュインの母だ。

ピュアレディは彼女の全妹として、ジェニュインのような馬の産出を期待されていた。ただ競争成績がないことから、わが牧場も所属している社来本社ではなく、グループ内でも割と貧弱なここでの繁殖が決まった、らしい。

タカハルが「ここにも運が回ってきた」とニコニコしながら教えてくれた。

らしいって他人事なのは、俺があまり競馬に明るくないことと、母馬と一緒に生活するどころか、話したことがないからだ。

話しかけようとしたらガン無視されたし。

本当にこの人、いやこの馬から生まれたんか俺は。

 

さてそのピュアレディのオーナー、アメリカのさるファームの代表者なんだが、その人が昨日この牧場まで来ていたのだ。

理由はもちろん、ピュアレディの産んだ仔馬、つまり俺を見るためだ。

 

「オーゥ!なんてキュートなんでショウ!マイサン!マイサン!ワタシのニワでかいたいデース!……イッショにUSAきますカ?」

 

じょうだんデース、などと付け加えていたが、目はギラギラしていたし声がガチだったと思う。

見た目がマのつく厳ついオッサンに加え、声も低くて迫力があるので、見た目のパリピ具合に反して意外と場に流されやすいタカハルは完全に圧に押されていた。

ギリギリ頷きそうになっていたが、先にタクミが正気に戻ったことで俺はこの牧場に残っている。

ありがとうタクミ、老け顔なんて言って悪かった。今度からはシニア顔っていうよ。

 

「……よし、飲み切ったな!」

「乳離れまでまだまだかかる、な」

「こういうのなかなかできない体験だし、それに俺たちがやんないとマイサンが育たないしな」

 

育ててくれてサンクス。

ところで俺、なんで馬になってんの?

 

「まさかピュアレディが育児放棄するとは思わなかったよ」

「初産でまだ気持ちが追い付いてないんじゃないかって牧場長は言ってたけど、ピュアレディは完全にマイサンのこと眼中になくってさあ」

 

腹を痛めて産んだ仔馬が眼中にない母馬がいるってマ?

その仔馬はマジでかわいそう……俺のことじゃん。泣いた。

ところで俺、なんで馬になってんの?

 

「心配しなくても、俺たちがちゃんと面倒みるからな、マイサン!」

「立派な競走馬になってくれよ」

 

そう言って俺の鬣を撫でる二人。

 

タカハル、タクミ……俺、頑張るよ!

絶対に世界に名前を刻んでくるよ!

俺たちの戦いはまだまだこれからだ!

 

~完~

 

いや何も終わってないわ。

まだまだこれからなのはそれはそうだけど、何も完結してないわな。

のったりと背を押されながら馬房に戻って、タクミが用意してくれたふかふかの寝藁に寝転ぶ。

寝藁の塩梅はタクミのほうが絶妙。タカハルはどさっと入れとけばいいって思ってるところあるからなあ。馬はそういうとこシビアよ。

……いやだからなんで俺は馬になってんだよ。そこだよ。

シビアも何も、俺の環境が一番シビアだろ!

馬って、馬ってなに!?ウマ目ウマ科がどうとかが聞きたいんじゃない。

なんで俺が、人間だった俺が馬になっているのかってことだ。

 

馬自体は好きだ。

親父がギャンブラーだった影響で小さい頃は競馬場にも行ったことがあった。

ヒトを背に乗せてグングン前へと突き進む競走馬たちを格好いいなと思ったこともある。

ただギャンブラーでも比較的ライトだった親父が、ある1頭の馬と出会ってからは豹変したように金遣いが荒くなっていって、しまいには俺と母を棄ててからはなんとなく、馬を避けるようになっていた。

この数年は家計が火の車だったこともあるけど、何より心情的なもので競馬のケの字もない生活を送っていた。

が、そんな俺はここ1ヶ月ほどあるソシャゲにハマっていた。

 

『ウマ娘プリティダービー』

 

そう、避けていた競走馬の、よりにもよって擬人化作品だ。

まさか自分が競走馬を主題にした作品にハマるとは思っていなかったけど、偶然みたアニメ版からずるずると沼に落ちていった。

今ではただでさえ少ない財布の中身を叩いて少額課金を繰り返す毎日。

ハルウララちゃんもあと少しで星3になるところだったのに!

 

ごほん。

 

クソギャンブラー親父が入れ込んでいた馬が現役を引退すると、親父もそのあとを追うように行方知れずとなった。

母は専業主婦だったが、金を渡さなくなった父の代わりに働きづめとなり、俺が高校を卒業する前に過労死してしまった。

両親は駆け落ちだったため、頼れる祖父母も親戚もなかった。

天涯孤独の四文字がこれほど似合う男もいない、とか、その顔がすべてを物語る男だなと言われてきた。

……前の四文字はともかく、顔がすべてを物語るってもうそれ、悪口じゃない?顔は普通だと思って生きてきたんですけど。

だが天涯孤独になったとえはいえ、俺は不幸な人間だったとは思っていない。

親父はくそ野郎だし、俺も母も不運ではあったが、それなりに幸せだったからだ。

母の死によって学費も生活費も自分で稼ぐことになり、日夜バイトに勤しんでいたわけだが、もしや俺も母と同じく過労死してしまったのだろうか。

最後の記憶がコンビニバイトの帰りに新聞配達のバイトをして、ものすごく眠くて駅のベンチに横になったところだから、死んだのならほぼほぼ過労死だと思う。

だとしたら親子そろってとんでもない死に方だ。

過労死するってわかってたならクソ親父見つけ出して殴り合いするんだったな。あとコンビニに来てたクレーマーはっ倒して、同僚にセクハラする店長も蹴って、金のない俺に金せびりにきた自称親友もブチのめしておけばよかったな!

……俺の未練物騒すぎィ!?

あ、あとはそう、ウマ娘に実装される前にあの馬と、最後に親父の惚れたあの牡馬(ウマ)と一発……── ウマ娘?

 

── ようやく気付いたか。

『だれ!?おばけ!?』

 

突如聞こえた声に跳ね起き、馬房をぐるぐると回る。

誰もいねえ、なんだこの声は。

 

── 神じゃよ

『愛じゃよ、みたいに言うなよ』

 

── それはハリ〇タ、いやゴホン、お前もようやく自分の現状に気づけたようじゃな

『やっぱりハ〇ポタじゃん。神も〇リポタ見るんだ』

 

── 名作だからの……いやそうじゃなくて、おぬしな、まず転生をしておる

『そうですね。最後にウマ娘思い浮かべたからこの仕打ちなんすか?』

 

── この仕打ち!?これはお前の未練を晴らすのに一番最適な転生方法なのじゃ!

 

はて、未練。

確かに山ほどあるけど。

全部物騒なやつだし……つまり馬の強力な後ろ蹴りで相手をぶちのめせ、とかそういうやつか?

よしきた、まずは親父を俺の目の前に連れてきてくれないか?まだ仔馬だけどいけるだろ。

 

── 驚くほど物騒!さすがの神も引くぞ!それと違うから、それじゃないからのおぬしの未練は!

 

ん?これ以外に未練なんて……あるとしたらハルウララちゃんを星3にしてうまぴょいできなかったことくらいだけど。

まさか馬として馬のハルウララちゃんと意味深うまぴょいしろ!ってことか!?

 

── 何もかもが違うんじゃよ!ええいもう話が進まん!とにかく、おぬしの未練を晴らすにはその姿こそが最適!なのだが……

 

面倒になってるじゃん。

ていうか自称神、もしかして俺の考えてることわかってない?

 

── わし、神じゃから!……ごほん、ひとつ詫びなければいけないのは、飛び切り美しい馬にはできたんじゃが、性別をいじくれなくてのう

 

ん?

 

── 今のおぬしは牡馬

 

そうね、マイサン(息子)がぶらついているマイサン(名前)だからね!

 

── それ全然うまくないぞ

 

そんなあ。

 

── 話を戻すぞ!……おぬしが牡馬になったことで、人間だったころの未練、『最後に惚れた牡馬と一発……』を叶えられなんだ、すまんな

 

ちょっと待ってくれ。

 

── なんじゃ

 

『最後に惚れた牡馬と一発』だと?

俺そんなこと言った覚え……あるある、あるな!

正確には「最後に親父の惚れた牡馬(ウマ)と一発殴りあうべきだったな」だよ!

最後まで聞いとけよ!!

 

── ……電波がわるくなったのう

 

電波じゃねえだろコレ!!そんな科学的なやつなの!?

 

── まあ馬生をまっとうできれば次は人間になれるぞ……一発の未練が解消できないとフフッ、次はどうなるかわからんがの!

 

フフッじゃないんだよ!!未練って殴り合いのほうだよね!?そうだよね!?

 

── 競走馬は出会いが少ないと聞くからのう。ただ同性馬はエンカウント率が高いゆえ、難易度が下がるから、解消できないと次の生でも人間になれぬよう設定しておいたわい

 

最悪じゃねえか。ポンコツ神様需要はねえんだよ!

 

── 想像以上に無礼じゃな!?もうよい、詫びに牡馬にしこたま好かれる魅了を追加した!最後まで無事、コレ名馬!じゃあな!

 

ヒヒーン!?

 

「マイサンどうした!?」

「なんの騒ぎだこれは!」

「それが、マイサンが嘶きながら馬房を跳ね回ってまして……」

「なんで!?」

「わかりません!」

 

こうして俺の馬生がはじまった。

 




6/15 追記
いくつか文章を足しました。

完全素人ニキの愛馬名アンケート

  • サニードリームデイ
  • サンシカカタン
  • タイヨウノムスコ
  • タイヨウハノボル
  • ブライトサニーデイ
  • ラブディアホワイト

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