3話 ハヤトからの呼び出し
僕は放課後、体育館裏に呼び出された。
ハヤトから、来なければ殺す、と昼休みの後に脅されていたのだ。ひぃ。
もちろん逃げようとしたさ。
でも終礼後にダッシュで逃げようとした僕を、ハヤトは目でけん制してきたのだ。
報復が怖くて、結局、行くことにした。
ハヤトは僕が到着するなり、僕の胸ぐらをつかんで、壁に乱暴に押し付けてきた。
マジ怖い。なんなん? え? 僕何かしましたか?
頭の中ではグルグルと疑問の言葉が渦を巻いている。
しかし悲しいかな、陰キャラの僕には、あ、だのう、だのとしか言えなかった。
「てめえ、さっきのはどういうことだ? ああ?」
「さ、さっきの……って?」
「部室におまえ凛と一緒に居ただろ?」
見られてますやん、普通に。
つまりキスされたところまで、ハヤトはばっちり見ていたわけだ。
「てめえ、おれの凛となにいちゃついてるんだよ。なぁ?」
おれのってなんだよ。
凛は僕の……僕の、なんだろう。
戸籍上結婚はしている。
けれど、それだけだ。
奥さんと答える自信が、僕にはない。
でも……。
「つ、付き合ってるの……?」
「っ! あ、ああそうだよ! 付き合ってるよ! 凛とおれはよぉ!」
……そっか。
そうだよね。
つまり、凛は僕に黙って、実はハヤトと付き合ってるんだ。
こんなくそださいオタク男よりも、バスケ部のキャプテンで、イケメンの上諏訪ハヤトのほうがいいに決まっている。
「だからてめえなんてお呼びじゃねえんだよ! 二度と凛に近づくなボケ!」
ああ、わかったよ。
勝手にすればいいじゃないか。
どうせ僕らの婚姻関係なんて、祖父同士が決めたかりそめのものなんだから……。
でも……なんでかな。
凛とこいつが付き合っていると知って、僕は、思った以上にショックを受けていた……。
「言えよ! もう近づかないって!」
「……やだ」
「ああ!? 口答えするんじゃあねえ!」
ハヤトが僕につかみかかって、殴ろうとしたその時だった。
「何やってるの!?」
僕は声のした方を見やると、小諸凛が、柳眉を逆立てて立っていた。
「り、凛……これは、その」
「その人を放して!」
びっくりするくらい大きな声に、ハヤトは完全に委縮していた。
僕の方も驚いていた。
彼女が、あんな大きな声を出すなんて……。
ハヤトが胸ぐらを放すと、凛は走って僕に近づく。
彼の前だというのに、彼女は僕を強く抱擁する。
「たろー! だいじょうぶ、ケガない!? ひどいことされてない!?」
凛は僕の体をペタペタと触る。
顔色が真っ青だった。
「お、おい凛。そんな奴ほっとけよ」
「あんたは黙ってて!」
その瞳に怒りの炎をもやしながら、まるで親の仇のように、ハヤトをにらみつける。
ど、どういうこと……?
だって、凛はハヤトと付き合ってるんじゃないの?
「たろー、平気!?」
「う、うん……大丈夫。なにもされてないから」
「ほんと? 嘘ついてない? そこの最低男からひどいことされてない?」
「大丈夫だってば……というか、彼氏に最低男とかいうなよ」
はあ? と凛が困惑しながら首をかしげる。
「たろー、なにいってるの?」
「だって凛とハヤトは付き合ってるんでしょ?」
「……なにそれ。誰から聞いたの?」
「ハヤトからだけど……」
凛の顔から、表情が消えた。
けれどその無表情からは、隠しきれない怒りのオーラを感じる。
「り、凛……違うんだ、これはその……」
慌てふためくハヤトに対して、凛は思い切り手を振りかぶると、ビンタをお見舞いした。
「ぶげらぁっ!」
ハヤトは無様に地べたに倒れ込む。
す、すごい……なんて威力のビンタだ。
「よくもアタシとたろーの仲を引き裂くような真似してくれたわね」
そのとき、僕は腰を抜かしそうになった。
凛が、倒れているハヤトをにらんでいる。
けれどそれは、いつも僕に向ける目とは全然異なっていた。
そこにははっきりとした、怒りの感情がこもっていた。
じゃあ、いつも僕をにらんでいたのって、なんだったんだ……?
「り、凛……違うんだよ。おれはただ……おまえに近づくくそ最低の虫やろうを追い払ってやろうって、お、おまえのために!」
虫って僕?
ひどすぎない……?
「余計なお世話よ。だって」
凛は僕の腕をぐいっとひっぱると、ハヤトがいる目の前で、口づけを交わしてきた。
「「なっ!?」」
僕とハヤトは共に、凛の突然の行動に驚く。
甘い口づけを終えると、彼女ははっきり言った。
「アタシ、たろーのこと好きだから」
「なっ!?」とハヤト。
「それとアタシたろーと結婚までしてるから」
「なっ!?」と僕。
な、なんで……?
いやいや結婚しているんじゃ……ないの?
「ふざ、ふざけんな! そんなの信じねえぞ!」
ハヤトは立ち上がって声を荒らげる。
「別に信じなくてもいいし。事実だから。いこ、たろー」
「う、うん……」
彼女が僕の手を引いて、ハヤトの元を去ろうとする。
「ま、待てよ! そんなやつが本当に好きなのか!? おれのほうが、何万倍もいい男なのに!?」
すると凛は小ばかにしたように鼻を鳴らして言う。
「顔が良いだけの男より、たろーの方が何億倍もいい」
「そ、んな……」
「それともう、二度とアタシたちに近づかないで。声をかけないで。マネージャーもやめるから。それじゃ」
がくん、とハヤトはうなだれると、その場に膝をつく。
僕は凛に手を引かれながら彼の元を後にしたのだった。
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