[映像・放送業界に詳しいジャーナリスト小寺信良 氏によるNABショー現地リポートをお届けします]
米ラスベガスで開催中の2014 NAB Showに来ています。NABショーはアメリカの映像と音声、映画、放送のプロ機材が一同に集まる展示会で、ここから新しい映像技術が次々に映像業界に投入されていきます。写真はNAB2014会場となっている、ラスベガスコンベンションセンター。
さて映像業界で最近ホットなのは、ラジコンヘリを使った空撮。小型軽量のアクションカム系を載せるだけでは飽き足らず、デジタル一眼クラスを載せる大型ヘリもバンバン実戦投入されています。そんな中、日本が世界に誇る変カメラ製造メーカーの我らがJVCが、ヘリ向けカメラシステムに参入します。
JVCの「GW-SPLS1」は、4K解像度のスーパー35mmイメージセンサーを搭載した、カメラヘッドとレコーダ部が分離したカメラシステム。で、これだけで終わらないのが我らがJVCです。なんと自力でジンバルも開発しました。
カメラヘッド分離型の「GW-SPLS1」
ジンバルとは、3軸の制御モーターを使ってXYZ軸の傾きを自動的に補正する雲台のこと。ヘリに搭載するジンバルは専門メーカーが別にあり、一般にユーザーはヘリ、ジンバル、カメラを別々に組み合わせて、空撮用の機体をビルドアップします。
カメラメーカーがジンバルを作ると、ジンバルのジャイロセンサーとカメラ内の手ぶれ補正センサーを同期させることができます。ジンバルはローテーションしか補正できませんが、カメラ側の補正も組み合わせると、位置方向のズレも補正しますので、ヘリのブレを完全に止めることができます。
しかもジンバルを開発した技術者は、かつてDVカメラ時代にテープ走行メカを設計してきたJVCの横田茂さん。VTRのテープ走行は、テープリールを制御するリールサーボ、回転ヘッドを制御するヘッドサーボ、テープを一定速度で送り出すキャプスタンサーボの3つを神精度で制御しないと、正常に絵が出ません。その精度に比べたら、目で見える程度の動きのブレを制御するなんざ造作もないこと。レベルが違います。ビバアナログ技術であります。さらにもっと小型のモーターを開発中で、最終的なジンバルはさらに小型・軽量化していきます。
自ら開発したジンバルを持つ開発者の横田茂氏
ヘリ映像のモニタリングは、これも自社開発のヘッドマウントディスプレイで対応します。つまりヘリを目で追いながら、視線の端にカメラ映像を見ることができるという優れもの。元々は産業用として開発してきたものですが、ここで大化けの可能性が出てきました。
産業用ヘッドマウントディスプレイでモニタリング
地上からワイヤレスでのカメラコントロール技術は、同社が長年取り組んで来た遠隔リモートカメラ技術を応用します。ジンバルをマニュアル制御して、XYZ軸でカメラを自在に振ることができます。
ジンバル制御コントローラの試作機
JVCの持つ技術全員集合の空撮システムは、価格は未定ながら、年内にも市場に投入する見込みです。
著者:小寺信良(こでら・のぶよし)コラムニスト/映像技術者/インターネットユーザー協会代表理事。1963年宮崎県出身。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、ライターとして独立。AV機器から放送機器、メディア論、子供とITの関係まで幅広く執筆活動を行なう。主な著書に『Ustreamがメディアを変える』(ちくま新書)、『子供がケータイを持ってはいけないか?』(ポット出版)など。WebではAV Watch、ITmedia、価格.comにてコラムを好評連載中。