ハッピーバレンタイン 2022
滑り込みセーフという事で
バレンタインデー。それは、恋する乙女たちの日。
好きな女子が、好きな男子にチョコを上げる日。逆でも可。
ともあれ、好き合った者同士がイチャイチャするためのイベントだと、俺は思っている。
そして、大抵イケメンが得をする日だとも思ってる。
「今年も山のようですな」
「そうですな」
深紅の机の上に山のように置かれた包装されたチョコレート達。
「わぁ、凄いね、深紅さん」
「いつもの事よ、カレン」
休み時間になり、俺達のクラスに遊びに来たかれんとカレンが山の上に更にチョコを置いて行く。
「言うまでも無く!」
「義理だからね」
「まぁ、聞くまでも無く。でもありがと」
「いえいえ!」
「ついでだから」
深紅の山の標高を上げた後、二人は俺にチョコを渡してくる。
「はい、おにーちゃん! 本命だよー!」
「はい、兄さん。家族チョコ」
「あ、かれん日寄った~! 本命の癖に~」
「うるさい」
からかうカレンに、かれんが頬を赤らめて反論する。
「ありがとう二人とも。じゃあ、俺からも、はい、どーぞ!」
実は俺も二人にチョコを用意していたのだ。といっても、二人だけにではないけれど。
「おお! 兄チョコだ~!!」
「兄チョコって……」
「お兄ちゃんからのチョコ! 略して兄チョコ!」
「いや意味は分かるけど……まぁ、良いや。兄さん、ありがとう」
「ありがとう、おにいちゃん!」
「いえいえ。二人もありがとねぇ」
バレンタインにチョコを貰えない事に特に焦りは無いけれど、チョコを貰えると少し安心するのは、貰った相手が特別だからだろうか? まぁ、深紅に上げて俺には無かったら一年中落ち込む自信はある。そして、深紅を一年中呪う自信もある。
「命拾いしたな、深紅」
「どうした急に?!」
おっと、心の声が漏れてしまった。
「深紅さん、また何かやったの?」
「また、って何かな? 俺何もしてないけど……」
もの言いたげに俺を見る深紅。
「受付対応時間外ですので」
何も言う事は無いと首を振りながら言う。
「やかましいわ」
「いてっ」
軽くチョップを繰り出す深紅。
白刃取りを試してみたけれど見事に空ぶってしまった。
「く~ろ~な~さ~ん!!」
四人で戯れていると、廊下の方から声が聞こえてくる。
廊下の方を見て見れば、そこには桜ちゃんが――
「……何それ?」
超巨大な箱を持って現れた。
俺の質問に、桜ちゃんは満面の笑みで答える。
「チョコです!」
「んな馬鹿な……」
桜ちゃんはチョコだという箱を抱えている。けれど、それは人一人分くらい大きい箱だ――って、今気づいたけど桜ちゃん変身してない!? 変身しないと持てないって事!?
「よっこいしょ……ふぅ……重かったです」
「いや、そりゃそうでしょうよ……」
「この重さイコール愛の重さだと思ってください!!」
「文字通り愛が重い……」
これ、どうやって持って帰れば良いんだろう?
「……深紅、変身して――」
「嫌だ」
「持って……返事早くなーい?」
「自分で持って帰れよ。お前のチョコなんだから」
「俺の変身が不完全なの知ってるだろ? 変身時間も短ければ、力だって前より弱いんだぞー?」
「でも十分だろ」
「ではわたしが持って行きます! と、言いたいとこですが、チョコの形が悪くなる前に少しでも食べていただければと!」
「えぇ……この量を……?」
開けないでも分かる、でっかいやつだ。
きらきらと期待した目で俺を見る桜ちゃん。
聞かないでも分かる、開けなきゃいけないやつだ。
「じゃあ、開けるね……」
俺は綺麗にラッピングされた人サイズの箱に手をかける。
ていうか、どうやって用意したんだろう、この箱……。
リボンを解いて、箱の包装を外す。
クラスの皆がその様子を興味深げに見ている。とても恥ずかしい……。
「あ、箱は一緒に持ち上げましょう!! ささ、黒奈さんはそっちを持ってください!!」
「もう嫌な予感しかしない……」
桜ちゃんと箱を挟むように持つ。
「せーの!」
の掛け声で、二人でゆっくり箱を持ち上げる。
「うわぁ……」
近くで様子を見ていた乙女がドン引きしたような声を出す。乙女だけではない。このクラスに居た全員が同じようにドン引きしたような顔をしている。
俺も、予想以上の物が視界に飛び込んできて思わず言葉を無くす。
「じゃじゃーん!! わたし特製!! ブラックローズ1/1スケールチョコ象です!!」
桜ちゃんの言葉通り、箱の中から出て来たのは、等身大サイズのブラックローズのチョコレートで出来た象だった。
「わぁ、桜ちゃんすっごぉい!!」
カレンだけは唯一はしゃいだようにぱちぱちと拍手をしている。
確かに凄いけど……俺に、俺を食べろって事?
「桜ちゃん……」
「はい!!」
「すっごい食べづらい……」
「え!? そうですか? わたしならぺろりといけちゃいますけど……」
それは量的な意味なのか、それともビジュアル的に問題無いという意味なのか。
「まあまあ遠慮せずに食べちゃってください!!」
「えぇ……自分を食べるって抵抗があるんだけど……」
そもそもどこを食べれば良いんだ? どこをとっても食べづらい。
「まぁ、自分を齧るのって抵抗あるよな」
言って、クリムゾンフレアの形のチョコレートを食べる深紅。この間の戦いで人気に更に火が付いたらしく、チョコレート会社から子供向けのチョコとしてオファーが来たそうだ。市販で売られているらしく、俺も今朝コンビニで見かけた。
ちなみに、ブラックローズのデフォルメチョコもある。すっごい恥ずかしいけど、深紅が一緒ならと思ってオファーを受けた。売れ行きは良いらしい。
「深紅、先陣斬って」
「なんで俺だよ」
「深紅なら容赦無く行ってくれそうだから」
「流石にお前のために作ったチョコレートにがっつけねぇよ。自分で行け」
「むぅ……じゃあ乙女!!」
「は!? なんで私!?」
「乙女なら容赦無く行ってくれそうだから」
「あんた私をなんだと思ってんの!?」
喧嘩した仲良しの友達。
とは、ちょっと恥ずかしくて言えない。
しかし困った。桜ちゃんはずっとわくわくした表情で俺を見ている。
「……あー、黒奈。ちょっと」
「ん、何?」
ちょいちょいと乙女に手招きをされ、いったん乙女の方へと行く。
「誰も傷付かない回避方法を思いついたわ」
「え、本当!?」
「ええ。耳を貸しなさい」
「うん!!」
乙女がごにょごにょと耳打ちしてくる。
「えー……それ、すっごい恥ずかしいんだけど……」
「良いから。そうすれば丸く収まるわ」
「そうかなぁ……?」
「そうよ」
自信満々に頷く乙女。
確かに、桜ちゃんならそれで解決しそうだけど……。
「……まぁ、乙女が言うなら、信じるよ」
言って、俺は自身のチョコ象の後ろに隠れる。
「桜ちゃん、前に立って」
「え? はい、分かりました」
疑う事も無く、桜ちゃんはチョコ象の前に立つ。
えぇ……改めてやると恥ずかしいなぁ……。
「マジカルフラワー・ブルーミング」
小声で変身をし、おほんっと咳払いを一つしてから乙女に言われた台詞を一言一句間違えることなく言う。
「桜ちゃん。私を、食・べ・て?」
「はいよころんで!!!!!!」
俺の言葉を聞いた直後、鼻息荒くチョコ象に齧りつく桜ちゃん。
がじがじがじがじ。ヒマワリの種に夢中になるハムスターのように齧る。
「あぁ……」
俺の目の前でみるみるうちに体積を減らしていくチョコレート・ローズ。
「私が……桜ちゃんに食べられていく……」
細い身体のどこに人一人分のチョコレートが入ると言うのか。貪り尽くす桜ちゃん。
深紅、かれん、カレン、乙女、俺、クラスメイトがドン引きしてしまっているのに、桜ちゃんは気付いていない。
ものの数分で全てを食べ尽くした桜ちゃん。
「ふぅ!! 食べきりましたよ、ブラックローズ!!」
「え、ええ……そうね……」
一瞬の躊躇いも無かったな……。
「あ、桜ちゃん」
「はい?」
俺は桜ちゃんのほっぺについたチョコの欠片を摘まみ取る。
「チョコ、付いてるわよ」
そして、ぱくりと食べる。うん、美味しい。
「あ、あぁ……ぁぁ……」
その様子を見ていた桜ちゃんは、大きく口を開け、わなわなと震える。
「黒奈……」
「ん、なに?」
呆れたような表情をする乙女。
乙女だけでなく、深紅も、かれんとカレンも同じような表情をしている。
「オーバーキルよ」
「え?」
乙女の言葉の意味が分からず、小首を傾げたその瞬間。
「ぶはぁっ!!」
「え、桜ちゃん!?」
桜ちゃんは顔を真っ赤にしながら、勢いよく鼻血を噴出して倒れ込んだ。
それを、かれんとカレンが支える。
「
「ええ、用法用量は守らなくちゃね」
訳の分からない事を言うかれんとカレン。
とりあえず変身を解いて、桜ちゃんの鼻血をハンカチで拭く。
「くーちゃーん!!」
と、廊下から碧の声が聞こえてくる。
がらがらと小さな車輪が回る音が聞こえ、少しだけ嫌な予感を覚えながら、俺は廊下のほうを見やる。
「見て見て!! アタシ特製!! くーちゃん1/1スケールチョコレート象だよ~!!」
予感は的中し、碧は
すかさず、俺は自身のチョコ象の背後に隠れる。
「碧」
「なぁに、くーちゃん?」
「俺を、食・べ・て?」
「はがぁっ!? も、ももももも勿論望むところだよ!!!!!!!!! 据え膳食わぬは女の恥ぃぃぃぃ!!!!!!!!」
碧は半狂乱になりながら自身が作ったチョコレート象に齧りつく。
桜ちゃんの時も思ったけど、ちょっと怖い。
がじがじとチョコを齧る碧を見て、俺は冷や汗を拭う。
「ふぅ、危機は去った……」
「お姉様~!! 私の作った1/1スケールお姉様と私チョコを――」
「皆どうして等身大にするのかなぁ!?」
美針ちゃんの声が聞こえてきて、俺は思わずそう声を上げてしまう。
そんな俺を見て、四人は苦笑する。
「ま、それが愛情表現って事だろ」
「ひゅーひゅー! モテるお兄ちゃんはつらいねぇ!!」
「よっ、今日の主役ー」
「人たらしよね、本当に」
「んもう!! 来年は絶対自重してよね!!」
俺の言葉に、四人は楽しそうに笑う。
結局、美針ちゃんの持って来てくれたチョコレートはクラスの皆で食べた。
これ、絶対俺の知ってるバレンタインじゃないよ……。
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