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妹のために魔法少女になりました 作者:槻白倫

あふたーすとーりー

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黒奈とモデルのお仕事 3

 外での撮影が終了し、マイクロバスでスタジオへと移動をした俺達は、休憩のために控室に通されていた。


「おいひ~! 幸へ~!」


 お昼に用意されたカレーを東堂さんはこれでもかという程頬張る。


「まったく、子供じゃないだから。衣装汚さないでよ?」


「分かってるって~」


 東雲さんの苦言もなんのその。東堂さんはもぐもぐと美味しそうにスプーンを運ぶ。


 でも、俺も東堂さんの気持ちが分かってしまう。だって、このカレーとても美味しい! そりゃあ頬張りたくもなる!


「でもこのカレー、本当に美味しいですね! 流石有名店って感じです!」


「そりゃあね。グルメ雑誌載るくらいだし、ネットの口コミも評判良いみたいだし」


 言いながら、パシャリと一枚東堂さんの写真を撮る東雲さん。東堂さんに許可はとってないけれど、慣れているのか東堂さんは何も言わずに満足そうな顔をカメラに向ける。


「はい黒奈。ぴーす」


「ぴ、ぴーす」


 言われた通り、ピースをすれば躊躇う事無く東雲さんは写真を撮る。


「これ、SNS載せて良い?」


「良いですよ」


「あ、じゃあわたしも~。黒奈くん、だぶるぴーす!」


「だぶるぴーす」


 リクエスト通り両手でピースをしてあげる。


「じゃあ今度は三人で撮りましょうか」


「いえーい!」


 東雲さんの提案に、東堂さんはノリノリで俺の隣に座る。東雲さんと東堂さんの二人に挟まれながら、東堂さんが構えるスマホに視線を向ける。


「……いや、冷静に考えたらダメじゃないですか?」


「え、何が?」


「お友達とはいえ、お二人のSNSに男である俺の写真を載せる事ですよ。二人ともフォロワーも多いですし、そのせいで炎上とかしちゃったら……」


「ああ、なんだそんな事? 大丈夫大丈夫。そもそも、そんな事言い出したら星空輝夜なんてどうなるの? めっちゃあんたの写真載っけてるじゃない」


「いや、輝夜さんは前からブラックローズのファンだって公言してましたし、ファンの人もその事を知ってたから特に反感も無かったですし……」


「私だって、ブラックローズである如月黒奈と一緒にお仕事したわよ? それはもう皆知ってるし、あんたの写真だって幾つか上げてるわよ。だから大丈夫。それとも何? 星空輝夜は良くて、私はダメだって、そう言いたいの?」


 ジトっと湿度の高い視線を向けてくる東雲さん。真似して、東堂さんが反対側からジトっと猫のような目を向けてくる。


「べ、別にそういうつもりじゃ……」


「じゃあ良いのね。はい、じゃあ撮るわよー。いえーい!」


「いえーい!」


「い、いえーい」


 思い思いにカメラに向かってポーズをとる。


「よし、良い感じ」


「じゃあ今度はこっちー! はい、ちーず!」


 東雲さんの次は、東堂さんがスマホを構えて撮影をする。


「ふっふっふっ、これでまたバズるのは間違いない」


 あくどい笑みを浮かべながら、東堂さんは写真を投稿する。


「あんたは撮らなくて良いの? SNSにこういうオフショット上げると結構フォロワーつくわよ?」


「俺は良いです。積極的にモデル活動するつもりも無いですから」


「もうあんたの正体がブラックローズだってばれてんだから、ブラックローズのファンに向けたオフショットって事で載せれば? あんたが男だって分かっても変わらず応援してくれてる人達なんでしょ? だったら、ちょっとくらいその人達に向けた写真を撮っても良いんじゃない?」


「それは……確かに……」


 ブラックローズの正体が俺だと分かっても変わらずに応援してくれている人達は、俺が思っていた以上に多かった。時折写真を載せれば反応してくれたり、温かい言葉をかけてくれる。


 俺はそれだけで嬉しかったけど、そっか……俺だけっていうのは、俺の自己満足になっちゃうのか。


 確かに、深紅も桜ちゃんもオフショットとかよく載せてるしな。それに、乙女にも同じような事を言われたばかりだ。ちょっと積極的になってみるのも良いかもしれない。


「じゃ、じゃあ、撮ってみます」


「そう来なくっちゃ! ほら、詩織もっと寄って!」


「へい!」


 東雲さんと東堂さんは両方から俺の肩に腕を回して足を組む。思うだけど、多分それ逆じゃないかな? 男が両サイドから挟むんじゃないのそれ? 深紅とか獅子王さんとかがやるやつじゃないの?


 そんな疑問をいだいている間に、東雲さんにスマホを奪われそのまま撮影開始。


 撮れた写真は、二人とも悪い顔をしている間で俺が苦笑いをしているといったなんとも締まらないものだった。


「ふふっ、良いじゃないこれ」


「誘拐しましたとか投稿しちゃおうー!」


「良いわね。えっと……貴方達の大切な姫は私達が誘拐しました。羨ましいだろー? By.東雲&東堂……っと」


「それ、大丈夫ですか?」


「大丈夫だと思うよー。明らかに冗談の類だしねー」


「そーそ。私達が友達同士だってけっこう知れ渡ってるし。それにほら、もうコメント返って来たけど、皆ノリノリで…………」


 言葉が段々尻すぼみになっていく東雲さん。


「え、何かあったんですか?」


「……一人ガチ勢が居た」


「ガチ勢?」


「これ」


 スマホを返してもらって東雲さんの指差す箇所を見てみる。


「あー……」


 それを見て、納得してしまう。


『星空輝夜@全国ツアー決定!


 ちょっとどういう事? 私の黒奈よ? 手を出さないでくれる?』


 から始まり……。


『星空輝夜@全国ツアー決定!


 特定したわ』


 と二つ目のコメントが投稿されていた。


「怖い」


 素直にそう言った直後、こんこんっと控室の扉がノックされた。


 びくっと三人とも肩を震わせる。


「こ、ここあんたの部屋なんだから、あんたが返事しなさいよ」


「え、俺?」


「そうだよー。さーさ、返事して」


「えぇ……」


 俺が迷っている間にも、扉はずっとこんこんっとノックされ続けている。


 正直怖い。榊さんとか他のスタッフさんだったら良いなと思いながら、俺は返事をする。


「ど、どうぞー」


 返事をした途端、ばぁんっと扉が開け放たれた。


「来たわよ!!」


 そこに立っていたのは予想違わず、有名アイドル星空輝夜その人だった。


「早くない!?」


「変身して来たわ」


「そんな事に力使わないの!」


「誘拐と聞いたら黙っていられないわよ。あんた、前科あるし」


「うっ……」


 前科とは、以前碧に攫われた時の事だろう。いや、あれは俺は悪く無いというか……。


「ふっ、冗談よ、冗談。私もこのスタジオで撮影してたのよ。全国ツアー用の撮影でね」


 俺が言い淀んている間に輝夜さんは俺に種明かしをした。


「なんだ、そうだったの」


「ええ。……っと、東雲雨音さんと東堂詩織さんね。こんにちは。黒奈がお世話になってます」


 俺から視線を外した輝夜さんは、東雲さんと東堂さんに挨拶をする。


「ええ、お世話してるわ」


「してまーす」


「黒奈、ちょっと色々あれなところがあるので、出来ればフォローしてあげてください」


「あれって何さ」


「ぼけっとしてる上に無防備って事よ」


「別にぼけっとしてないし……」


「いや、たまにしてる時はあるわよ?」


「無防備なのも分かるなー」


「えぇー? なんでですかぁ」


 東雲さんと東堂さんからまさかの追い打ちがあってちょっとだけへこむ。


 俺、そんなにぼけっとしてるかな?


「星空さーん! そろそろ再開しますよー!」


 俺がしょぼくれていると、廊下から輝夜さんを呼ぶ声が聞こえてきた。


「っと、そろそろ戻らないと。あ、黒奈、最後にこっち来て」


「え、うん」


 呼ばれて素直に輝夜さんの方へと寄れば、突然輝夜さんは俺の腰に腕を回して俺に顔を近付けて来た。


「はいカメラ見てー」


 意図を察した俺は輝夜さんの指示のままにカメラに視線を向ける。


 ぱしゃりと一枚。


「うん、上出来。無事に取り戻しましたっと。それじゃあ、私は行くわね。頑張って」


「うん。わざわざありがとう」


「いいえー。あ、そういえば、例の件、考えておいてね?」


「あー……うん。前向きに検討します」


「よろし。それじゃあ、お二人も残りの撮影頑張ってください!」


「ええ、ありがとう」


「ありがとー! そっちも頑張ってー!」


「ありがとうございます!」


 ばいばーいと手を振って、輝夜さんは早々に退出していった。


「まさか、本当に来るとはね……」


「ですね」


 びっくりはしたけれど、嫌な訳じゃない。むしろ、輝夜さんと会う事が出来て嬉しかった。


「ていうか黒奈、例の件って?」


「あぁ……輝夜さんのライブに参加してくれってお願いされてて……」


「へー! 凄いじゃない!」


「でも、ちょっとだけ迷ってまして」


「なんで? 良い機会だと思うのにー」


「俺、歌もダンスもど素人なんで、迷惑かけちゃうかもって……」


「それも見越して誘ってるんでしょ? なら、大丈夫よ。それに、あんた一人下手糞でも星空輝夜のステージの質が下がるとは思えないわ。私もライブ見に行った事あるけど、あの子が立つだけでステージが輝くもの。ゲストなんだから、胸を借りるつもりで参加すれば良いのよ。その上で、あんたの全力を出す。下手糞でも、思いはきっと伝わるわよ」


「そう、ですかね?」


「ええ。何事もチャレンジだと思うわ。特に、その機会が与えられてるならね」


「……そうですね。うん、頑張ってみようと思います」


「その意気よ」


「もし出るなら教えてねー? わたし達も見に行くからー」


「はい。必ず教えます」


 ちょうど話が一段落着いたところで、控室の扉がノックされる。


「どうぞ」


「そろそろお時間ですので準備をお願いしまーす」


「分かりました」


 もう休憩も終わりらしい。


「よっし! それじゃあ、午後の撮影も頑張りましょ!」


「おーう! 食べたら力もりもりだよー!」


「はい、頑張りましょう!」


先の事は不安だけれど、今は俺の出来る事に集中しよう。出来る事から、一歩ずつ。だよね。


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