乙女と体育とSNS
ご要望が多かったため、アフターストーリー的なやつをちょくちょく更新していこうかなと思います。
SSをちょっとずつ出していく感じですね。予定では、黒奈と輝夜とのライブやキャラ一人一人と黒奈を絡ませようかなと思います。
まだしばらく、お付き合いください。
俺がブラックローズだって知られてから、日常は少しだけ、けれど、確実に変わった。
まず、休日。たまに一人でコンビニに行ったりするんだけど、俺を見て驚いたような顔をする人が多い。
店員さんは何度も俺の顔を見て慣れていると思うけど、他の人は俺に会った事なんて無い人ばかりだ。だから、俺の顔を見てよく驚かれる。
女子だったり、明るい人とかは俺と一緒に写真を撮ろうとするけど、一応全部お断りしている。承諾しだしたらキリが無いし、普段の俺はブラックローズじゃ無いし。
オフの日くらい、ファンサからは離れたいと思ってしまう。まぁ、ろくにファンもいない訳ですが……。
ともあれ、出先では結構俺の顔を見て驚く人が多い。深紅がいるからそう言うのには慣れてるって思ってたけど、自分の事となるとちょっと違うみたいだ。まぁ、深紅の時は完全に他人事だった訳だけども。
自分の事となると、そう言う事を意識しなくちゃいけなくなるし、そういう対応をするのはやっぱりちょっと疲れてしまう。
「この間コンビニ行ったらさ、写真お願いしますってまた言われたんだぁ。俺と撮ったって面白くも無いだろうにさ」
「はあ? あんた何言ってんの?」
そんな疲れを少しだけ吐き出したくて、体育の授業中に乙女に言ってみたら、信じられないといった顔をされてしまった。
背中合わせだから、乙女の顔は見えないけど。
背中合わせで腕を組み、どちらかが身体を前に倒す定番の準備運動。普通は男子は男子と、女子は女子とやるけれど、風邪で俺達のクラスメイトが一人欠席し、もう一方のクラスの生徒も折悪く風邪でお休みしてしまったので、気兼ねしない仲である俺と乙女が一緒に準備運動をしている。因みに、体育は二クラス合同であり、場所は体育館である。
「あのね。あんたあの事件で一気に人気上がったんだから、オフだろうが何だろうが写真撮りたいって奴は山ほど居るのよ?」
「えぇ……深紅の人気が上がるのは分かるけど、俺ぇ?」
「和泉くんも爆上がりよ。SNSのフォロワー数えげつない事になってるんだからね?」
「へー」
「へーって、あんた見てないわけ?」
「別に興味無いし」
「……まぁ、あんたは和泉くんと殆ど一緒にいるものね……」
友人として学校生活の殆どの時間を一緒に過ごしているので、深紅の新しい情報を知りたいとかそういうのは無い。SNS事態もそんなにやってな……。
「あっ、まずい……」
「なに、どうしたの?」
「東雲さんにSNS更新するように言われてたの忘れてた……」
「東雲って、モデルの
「うん」
「そういや、あんた一緒に仕事してたわね。って、その後は大丈夫だったわけ? 向こうはあんたが男だって知らなかった訳でしょ?」
「電話ですっごい怒られたけど、友達なのは変わらないって言ってくれたよ」
「そ……良かったわね」
そう言ってくれる乙女だけれど、言葉に安堵の色が込められている事を俺は聞き逃さない。へへへ、最近ちょっと乙女の傾向が分かって来たもんねー。
「えへへ」
「な、なに笑ってんのよ」
「別にー?」
「気持ち悪い……」
「気持ち悪いって何さ! このー!」
「わっ、ちょっ、背中に乗せたまま振り回すなー!!」
乙女を背中に乗せたままぐるぐると回転する。
ははは! ダブルタイフーンって奴だよ! 回ると強いんだよ!
「こらっ! そこふざけない!」
「はーい」
「わ、私は被害者なんですけど!?」
ふざけ過ぎたのか、乙女共々先生に怒られてしまった。
乙女は不満げな顔をしているけれど、道連れである。
「ていうか、あんたSNSやってたのね」
「うん、東雲さんとの仕事の後にね。やりなさいって言われたから」
「まぁ、モデルとかでやってないってのは致命的だろうしね。どんな写真載せてんの?」
「ご飯の写真とー、深紅とか碧の写真と―、花蓮の写真かな?」
「あんた自分の写真載っけなさいよ」
「えー? 俺の写真なんて載せても面白く無いよきっと」
「さっきも言ったけど、あんた人気でてんの! あんたのアカウント見てる人はあんたの写真を望んでんの!」
「またまたー」
「お世辞で言ってる訳じゃ無いっての!!」
俺に人気が出る訳ないじゃないか。ブラックローズの人気だって、正体が分かってしまったせいで落ちてるはずだし。
「まぁ、
「……はぁ。欲が無いわねぇ。あんた活躍したんだから、上手くやれば人気者街道まっしぐらよ?」
「今が恵まれてますからー。それに、そういうのは深紅の仕事だしね」
俺は花蓮と一緒に過ごせて、皆と一緒に過ごせるだけで満足だ。
「よし。じゃあ男女に別れてバスケ開始。くれぐれも、怪我をしないようになー」
お喋りをしている間に準備運動が終わり、男女に別れてバスケが行われる。
体育館の中央にネットを引いて、いざ試合開始。
まぁ、俺には関係無い訳ですが。
体育館の壁に寄りかかって試合をぼーっと眺める。
同じように隣に座る乙女が思いついたように言う。
「そうだ。あんた試合出てみなさいよ」
「なんで?」
「私が写真撮ってあげるから」
言って、乙女はどこからともなくスマホを取り出す。
どこから、なんて無駄な事は聞かない。乙女は俺達契約者と違って魔法が使える。その魔法を使ってスマホを取り出したのだろう。
「えー? 別にいいよ」
「花蓮ちゃんが言ってたわよ。あんたの体育の時の姿が見たいって」
「よし、やろう。深紅ー! 俺とメンバーチェンジー!」
「乗せやす……」
花蓮が見たいって言ってたなら仕方ない。お兄ちゃんとして、お兄ちゃんとして! 頑張らないとね!
気前の良いクラスメイトが変わってくれて、試合再開。
よーしやるぞー!
「頑張れー黒奈ー」
乙女の声援を受けながら、ボールを受け取り、
直後、ピッっとホイッスルの音が。
「赤チーム、ダブルドリブル!」
「……黒奈、お前……」
深紅が何とも言えない顔で俺を見る。
ここで、俺は重要な事実に気付く。
「……俺、バスケのルール知らないや」
見事に、全員がすっころんだ。なんて古典的な反応なんだ。
「お前……」
「だ、だって! やってみたかったんだもん!! だ、大丈夫! 両手でドリブルしなければいいんでしょ? 簡単簡単!」
相手チームのお慈悲で俺がボールを持った状態で試合開始。本当にありがとうございます。
ピッとホイッスルの音が鳴る。
「よ、よし、今度こそ!」
気合を入れて、俺はドリブルをする。
今度は鳴らない。よし、大丈夫!
「え、ちょ、黒奈!?」
深紅の驚いた声が聞こえてくる。ふふふ。俺の華麗なドリブルに驚いているな?
半円の外からシュートを打つ。俺知ってる。これスリーポイントシュートってやつだ!
ビギナーズラックなのか、たまたまか、ボールは綺麗な弧を描いてゴールリングを潜る。
「よしっ!」
思わずガッツポーズをとってしまう。
「いえーい! 見てた深紅?」
「ああ、見てた……」
喜び勇んで深紅のところへ行くけれど、深紅は残念そうな目で俺を見ている。
「え、なに? また反則しちゃった?」
「いや、反則って言うか…………お前、どっちにシュートしたか分かってるか?」
「ん? あっち」
さっき俺がシュートした方のゴールを指差せば、深紅は溜息一つ吐いて反対側のゴールを指差す。
「俺達がシュートを打つ方のゴールはあっち」
「へ?」
「お前、オウンゴールな」
「へ?」
何とも言えない空気が体育館に流れる。
誰も何も言わない。深紅もクラスメイトも、相手チームも何とも言えない顔をしている。唯一、乙女だけがお腹を抱えて爆笑していた。
「…………っ」
多分、今の俺の顔は真っ赤になってるだろう。もちろん羞恥で。
「ご、ご迷惑おかけしました……」
それだけ言って、俺はコートから出た。誰も何も言わなかったのが辛い。
お腹を抱えて爆笑している乙女の隣に座れば、乙女は笑いながら俺の肩を叩いてくる。
「オ・ウ・ン・ゴ・ー・ル!!」
「――っ!! し、仕方ないじゃん! どっちに攻めてるか分からなかったんだから!」
「あはははははははっ!!」
「笑うなー!」
ぽこぽこと乙女の肩を叩けば、乙女はおかしそうに笑い続ける。
「ひーっ、ひっひっひっ……!! あーお腹痛い」
引き攣り笑いをしながら、乙女は目尻に溜まった涙を拭う。
むぅ、人の失敗がそんなに面白いか!
「あはは、ごめんって。でも、良い写真撮れたわよ」
謝りながら、乙女は俺に撮れた写真を見せる。
そこには、華麗にシュートを決める俺の姿が映されていた。まぁ、オウンゴールな訳だけれど。
「これ載せれば良いんじゃない? コメントにオウンゴールしましたって入れて」
「入れな……いや、でも、入れれば輝夜さんとか喜びそう……」
「そこ迷うんかーい。まぁ、コメント云々は好きにしなさいよ。ただ、たまにはこうやってファンサの一つでもしないとね。せっかく応援してくれてる人にも失礼だしさ」
「うん……そうだね」
「はい、送っておいたから。後で載せなさいよ?」
「うん、ありがとう」
「どーいたしまして。あ、見て! 和泉くんダンク決めてるわよ!」
「深紅ー! ダンクなんて生意気だぞー!」
乙女が指差す方を見れば、確かに深紅がリングにぶら下がっていた。
乙女としては俺の事を気にかけてくれていたのだろう。SNSの事も、ファンサの事も含めて。そのために、写真を撮ってくれたのだろう。まぁ、恥ずかしくなって深紅の方に話題を向けるあたり、ツンデレっぽいと思わないでもないけれど。
「ふふふっ」
「な、なに笑ってんのよ……」
「んー? べっつにー」
良い友達を持ったなーって思っただけだよ。とは、ちょっと気恥ずかしくて言えない。
「……変な黒奈」
言って、コートに視線を戻す乙女。その頬が少しだけ朱に染まっている事には、気付かないふりをしてあげる。
だから、ね。乙女。俺、あの写真をグループトークに送った上に、『オウンゴールしたwww』ってコメントしたその本心が知りたいなー。怒らないから、ね? ちょっとこっちに来てお放ししよっか。
休み時間の間、ずっと乙女を追いかけたけれど、結局捕まえる事は出来なかった。無念。