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妹のために魔法少女になりました 作者:槻白倫

最終章 妹のために魔法少女になりました

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第三話 メポル・ポルポル

最近言えてなかった事が。

感想、評価、ブクマありがとうございます。

とても、励みになっております。

 フィシェの答えを聞けば、メポルは落胆したように肩の力を抜く。


「やっぱり、そう上手い話じゃ無いメポ……」


「ええ。ヴァーゲは周到な男です。ここぞという時ではなく、最初から使い込むはずです。決定打のある作戦を更に強固にする。そうすれば、ヴァーゲの作戦はより完璧になりますからね」


 奥の手で取っておくよりも、最初から使って敵に付け入る隙を与えない。


 確かに、そちらの方が確実に計画を遂行できる。


 だからこそ、可能性の特異点の力は最初から使う。その力を使えば、成就する可能性が上がるのだから。


 それに、どうしようもない状況を作る事で相手の抵抗力を削ぐ事も出来るだろう。そう言った意味でも、可能性の特異点を後出しにするつもりは無いだろう。


「彼の口ぶりからして、彼は可能性の特異点の事を知っていました。元より、計画の内の一つだったのでしょう」


「ねぇ、そもそもヴァーゲの目的って何? 私達と同じじゃないの?」


「同じでしょうね。けれど、最終的な到達点が違うはずです」


「最終的な到達点? あいつも太陽が欲しかったんじゃないの?」


「彼が欲しかったのは、太陽ではありません。太陽は必要なだけであって、そもそもの目的でも無いで――」


『――マイクテスト、マイクテスト。アメンボ赤いなあいうえお。よし、ちゃんと映ってますね』


 フィシェの言葉を遮って、いや、恐らくは全ての人の会話を遮って声が響いた。


 カフェのテレビから、ラジオから、電波放送に流れてあいつの声は聞こえてきた。いや、電波放送だけじゃない。外に魔力を感じ視線を向ければ、上空に奴を映し出すホログラフのディスプレイが浮かび上がっていた。


 即座に分かった。これは、この放送は、全世界に流れている。


「ヴァーゲ……!!」


 そこにはいない。それが分かっているのに、思わずテレビを睨みつける。


 私の睨みなんて届いていないだろう。いや、仮に届いていたとしてもヴァーゲは涼しい顔で言葉を返したに違いない。


『皆様お初にお目にかかります。ファントムのヴァーゲでございます。以後、お見知りおきを』


 慇懃(いんぎん)な態度で一つ礼をするヴァーゲ。


 態度だけを見れば丁寧だけれど、ヴァーゲがやろうとしている事は決して褒められた事では無い。それは、私達が一番分かっている。と言っても、ヴァーゲがどういう方法を取ろうとしているのかまでは分からないけれど。


「あいつ、どういうつもりよ……」


「その魂胆も含めて、話すつもりでしょう。今は、彼の話を聞きましょう」


「分かってるわよ」


 苛立たし気に言って、私は注意をテレビに映るヴァーゲへと向ける。


『突然の放送、皆様は困惑している事でしょう。ですが、ご安心ください。今回の私からの報告は、皆様にとっても良いものだと確信しております』


 にこりと、人好きのする笑みを浮かべるヴァーゲ。黒奈から力を奪っておいて、そんなのが良いものな訳無いでしょ。


 憤りを覚えながらも、それを向ける相手が目の前に居ないため、私はその怒りをぐっと抑える。


 私の心中など知った事では無いであろう画面の中のヴァーゲは、胡散臭い笑みを浮かべたまま続ける。


『ファントムである私達は貴方(がた)人間から、感情エネルギーを奪ってきました。その事については、申し訳なく思います。ファントムを代表し、この場をもって謝罪させていただきます』


「あんたがそんな殊勝(しゅしょう)な心掛け持ってる訳無いでしょうが」


「戦さん、お静かに」


 フィシェに窘められ、ふんっと苛立たし気に一つ鼻を鳴らす。


『ですが、皆様には知っていただきたいのです。我々が何故感情エネルギーを奪ったのか。そして、その感情エネルギーを何に使うのかを』


 それは、恐らくは全人類が聞きたい事だろう。それに、私だって聞きたい事だ。何せ、私も感情エネルギーをどう活用するのかを知らないのだから。


 全世界がヴァーゲの次の言葉を待っている。何人も、何億人も、テレビに(かじ)りつくようにして見ているだろう。


『皆様から頂いた感情エネルギーを使って、私は……いえ、私達は、世界を一つにします』


 世界を一つにする。その言葉で、私はヴァーゲが何をしようとしているのかを理解した。


「嘘、あんた、まさか……」


「そうですか……貴方は、そんな方法で……」


 フィシェも分かったのだろう。その表情は見た事が無いくらいに険しい。


『貴方達には信じられない話かもしれませんが、我々ファントムも貴方達が良く知る精霊と同じ存在です。ただ、その性質と住む世界が異なるだけで、同一の存在なのです。貴方達と同じように、言語が違い、住む大陸が違い、けれど、同じ人間である事となんら変わらないのです』


 切り札、とまではいかないけれど、知っている者の少ない情報を何の惜しげもなく流出するヴァーゲ。


 けれど、ヴァーゲが全世界にこの情報を発信しているのであれば、効果は絶大だろう。


 精霊とファントムが同一の存在と知れば、大衆は少なからず精霊に不信感を持つ者が現れるはずだ。


 精霊とファントムが同じなら、精霊だって自分達を襲うんじゃないか? その精霊と契約しているヒーローや魔法少女は、実は危険な存在なんじゃないか? そんな疑心が生まれるはずだ。


 大きな疑心ではない。けれど、寄り集まれば大きくなる。火種は作られた。後は、轟々と燃えれば良いだけなのだ。


『そう。私達は同じ存在。けれど、住む世界が違う。貴方達が精霊と呼ぶ存在が済む世界には、美しい花が咲き、温かく、燦々(さんさん)と輝く太陽が皆を照らしてくれている。けれど、私達ファントムの世界に太陽は無く、あるのは夜の冷たさばかり。私達は、太陽の光が恋しかった……』


 まるで同情を誘うように、悲痛な表情を浮かべるヴァーゲ。


 ヴァーゲの顔は整っているから、そんな悲痛な表情だって様になる。これで、何割かの人間は彼に同情しただろう。彼を擁護したいと思ったかもしれない。


「はんっ!! そんな顔したって無駄だから!! 和泉くんの方が百億倍恰好良いんだから!!」


「戦さん、お静かに」


「だって! こいつあんな顔しないでしょ!? いつもいつでも自信満々のナルシストじゃない!!」


「分かってますよ。だからこそお静かに。彼の魂胆を聞き逃したくないので」


「むぅ……分かったわよ……」


 渋々引き下がる。でも、知ってる側からしたらこいつの猫かぶり本当にムカつくのよね。お前もっとしゃきっとしてるだろって背中を叩きたくなる感じね。まぁ、あいつには喰らわないんだろうけど。


『私は考えました。どうすれば、私達の故郷に太陽をもたらす事が出来るのかを。散々頭を悩ませて、私は気付きました。この世界は太陽と月がある。私達の世界を足したような場所である事に』


 にこり。飛び切りの笑顔を浮かべるヴァーゲ。


『ですので、決めました。この世界を下地に、精霊の世界とファントムの世界を融合させる事にしたのです。そのための準備は、もう整っています』


 しかし、その笑顔から放たれるのはこの世界の人々からしたらたまったものではない言葉だ。


『私は太陽が欲しい。(あまね)くを照らす温かみが欲しい』


 違う。ヴァーゲは相当になっていない世界が嫌なだけ。偏ったままの世界を受け入れたくないだけ。


(はかり)の支柱を地球に、両腕の皿を精霊とファントムの世界に置きました。もう準備は整っています。誰も、私を止める事は出来ません。三世界は、一つになります』


 三つの世界の統合。壮大な絵空事にも思えるヴァーゲの言葉だけれど、用意周到なヴァーゲが出来るというのであれば、それは可能なのだろう。


『ですが、私にも心は有ります。猶予を三日与えましょう。その間に、新世界に向けた準備を整えてください。何、死ぬわけではありません。三つの世界が一つになり、多少(・・)の法則が変わるくらいです。気楽に考えてください』


 多少の法則の変化、では済まないだろう。三つの世界が一つになる事がどれほどの大事なのか、分からないヴァーゲでは無いはずだ。分かっていて、多少と(のたま)う。恐らく、ヴァーゲにとっては本当に多少の事なのだろう。


『それでは三日後。皆様、新世界を楽しみにしていてくださいね』


 一つ微笑むと、ヴァーゲは通信を切った。


 テレビにはいつも通りの映像が流れており、空に浮かんでいたホログラフは消えていた。


「まさか、こんな方法だったなんてね……」


「二人も知らなかったメポ?」


「ええ。私は人造太陽、くらいに考えていました。まさか、世界の統合だなんて……」


「あんたも知らなかったの? ヴァーゲと実行を任されてたんじゃないの?」


「すべき事のみを提示されていました。それによる結果は何も……ただ、もう少しヴァーゲを疑うべきでした」


「それは私も同じよ。あいつの甘言に釣られたのは、私達暗黒十二星座(ダークネストゥエルブ)全員の失態よ。あんただけが悪い訳じゃないわ」


 この世界を知って、太陽がどれほど温かなものなのかを知った。夜しかない私達の世界に太陽があればどれほど素敵だろうと思った。だからこそ、私はヴァーゲの計画に乗ったのだ。


 夜しかない凍える世界に、温かみが欲しかった。


「暗い話は後にするメポ。今は、どうやって三世界の統合を阻止するかメポ」


 暗くなる私達に、メポルが厳めしい口調で言う。


「フィシェ、実行に携わっていたお前なら、止める方法を知っているメポ?」


「……簡単な話、支柱と皿を壊してしまえばいい。ですが、彼の作った天秤は彼と同じ能力を有している。つまり――」


「相当の取れた攻撃でないと破壊が出来ないメポ……」


「そういう事になります」


「……ヒーローとファントムの同時攻撃での破壊は可能メポ?」


「理論上は。ですが、完全な相当でなければ通らないです」


「それが分かれば、今は十分メポ。今すぐに戦える契約者とファントムを招集するメポ。彼等には同時攻撃の訓練をしてもらうメポ」


「私も参加するわ。元を辿れば私達が原因だもの」


「もちろん手伝ってもらうメポ。フィシェ、お前にも手伝ってもらうメポ」


「ええ。それは勿論。ただ、実行は彼の天秤が起動する前の方が良いでしょう。起動してからだと、何がおこるか分かりませんから」


「なら、二日を訓練に当てるメポ。最後の猶予の三日目に攻撃を仕掛けるメポ」


 今後の方針を即座に決め、メポルは席を立つ。


「って、あんたが決めちゃって良いわけ? もっと上を通した方が良いんじゃ……」


「良いメポ。上はここにいるメポ」


 言って、えっへんと胸を張るメポル。


「精霊界第一王女、メポル・ポルポル。今回の騒動は、全部メポルに一任されてるメポ」


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