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妹のために魔法少女になりました 作者:槻白倫

第6章 幼馴染はファントム

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第十二話 獅子座のレーヴェ

今年最後の更新になります。

来年中には完結したいです。

「分かったすぐに行く!!」


 戦さんから連絡を受け、俺は即座にバイクに(またが)って、教えられた場所へと走らせる。


 どうやら、蛛形さんのネットワークに碧が引っかかったらしく、現在進行形で碧を捕捉しながら後を追っているらしい。


 場所は県を一つ挟んだ海沿いの町。って、遠いな。いや、県一つならまだ近い方か。ともあれ、距離はどうだって良い。今は、あいつらにすぐに追いつかないと。


 道路交通法違反にならない程度に速度を出す。


 インカムで通話は繋いでいるので、碧が移動したとしてもすぐに教えて貰う事が出来る。


 ここから蛛形さんが碧を発見した場所までは遠い。そのため、俺はすぐに高速道路に乗って移動する。高速道路はすぐに降りられないけれど、距離があるなら碧がどこへ移動しようと誤差の範囲だ――


「――っ!?」


 目前に見えたそれを認識した瞬間、俺は急いで急ブレーキをかけた。


 しかし、車体は止まらず慣性の法則に従ってその者(・・・)まで進んでしまう。


 が、その者は余裕の笑みを浮かべ、一歩も動く事無く拳を振りかぶった。


「――マジかよ!!」


 背筋を冷たい物が通り抜ける。その感覚に従って、俺は慌ててバイクから飛び降りる。


「――ふっ!!」


 予感は的中した。


 その者は振りかぶった拳を、まだ速度のあるバイクに振りかざし、バイクを俺の方に向けて殴り飛ばしてきた。


「イグニッション!!」


 バイクから飛び降りた俺はごろごろと転がりながらもそれを認識し、慌てて装着しておいたベルトで変身をする。


 転がっていた状態から立ち上がり、俺に向かって飛んできたバイクを受け止める。


 受け止めたバイクを道路の端に置き、俺は目の前に立ち塞がった者を見る。


「あんたは……」


「久しぶり、と言うべきかな。交わした言葉は挨拶程度だったがね」


 女子うけの良さそうな笑みを浮かべる金髪碧眼の美丈夫。確か、ニャンニャンパラダイスの時に黒奈と蛛形さんと一緒に居た――


「獅子王アレン、だったよな?」


「憶えていてくれて嬉しいよ、和泉深紅。いや、今はクリムゾンフレアと呼ぶべきかな?」


「どっちだって良いさ。そんな事より、どうしてくれんだよ。俺のバイクお釈迦になっちまったじゃねえか」


「それは済まない事をした。後で新しいのを用意しよう」


「残念ながら俺の愛車はこいつだけなんだよ。それに、あいつらのとこに向かう脚を奪いやがって……その上、あんたの様子を見るにこの程度で引き下がるつもりも無いんだろう?」


「ああ。悪いが、ここでお前を足止めさせてもらう」


 そう言った直後、獅子王の身体を魔力が包み込む。


 そして、現れたのは白を基調とした鎧に身を包んだ、一体の獅子。


「……つまりは、暗黒十二星座(そっち)もあの二人を狙ってるって訳か?」


「俺としてはどうでも良いが、ボスが彼にご執心でな。本来であれば目的にそぐわない行動の場合は静観するつもりだったが……ヴァーゲにお前の足止めを頼まれてな。良い機会だと思い、立ち塞がったのだ」


「俺にとっては間が悪い事この上ないよ」


 しかし、この男を倒さなければ黒奈の元へは行けそうにない。


 俺は獅子王に向けて構えを取る。


「まったく……高速道路流行ってんのか?」


「流行りかどうかは知らないが、俺がお前に追いついたのがこの地点というだけだ」


「そうかよ。まぁ、どうでも良いけどな」


「そうだろう。今は、戦いに集中してもらわなくてはな」


 師子王が構える。


 その闘気は本物であり、足止めと言っているけれど、俺を叩きのめすために本気を出してくるのは確実と言えた。


 こりゃぁ、一筋縄じゃいかないなぁ……。


 相対してみれば相手の力量は分かる。


 おそらく、こいつは暗黒十二星座(ダークネストゥエルブ)の中で一番強い。いや、他のメンバーを知らないから本当に一番強いのかどうかは分からないけれど、俺が出会った敵の中では一番の強さを誇っているのは間違いない。


 暗黒十二星座(ダークネストゥエルブ)であっても、そうでなくても。今までの人生で一番強いと言っても過言ではない強敵。


 ……いや、違うか。俺にとっての一番の強敵は、ずっと変わらないか。


暗黒十二星座(ダークネストゥエルブ)が一人、獅子座のレーヴェ。()して(まい)る」


「クリムゾンフレア。ただのヒーローだ」


 名乗りを上げ、両者睨み合う。


 そして――


「――ふっ!!」


「――はぁっ!!」


 ――裂帛(れっぱく)した声を上げ、互いに拳を振りかざした。



 〇 〇 〇 



「和泉くん!? なに、どうし……っ、通話が切れてる!」


 インカム越しに和泉くんの焦ったような様子がうかがえ、慌てて声をかけたけど、数瞬後には通話が切れてしまった。


 何かがあった事は間違いない。でも、なにが……。


「乙女先輩、考えるのは後ですわ。今は一刻も早くお姉様の元へ向かわねばいけませんわ!」


「――っ。そうね……」


 和泉くんなら大丈夫。和泉くんは強いから、どんな敵が来たって負けはしない……。だけど、レーヴェの強さは本物だし、ヴァーゲの能力は未知数だし……。


 って、ダメダメ! 不安になるな私! す、好きな人を信じて待つのも、女の甲斐性ってもんでしょ! 今はそれよりも、黒奈と浅見よ!


「……お~~い……美針ちゃ~~ん」


「むむっ! その声はクレブスちゃん!」


「……やっと、追いついたぁ」


 後ろから大きなカニに乗って現れた、蟹座のクレブス。って、カニって前走り出来るの? すっごい前向いて走ってるけど、本当にそれカニなの? ていうか、使い魔持ってるのずるいと思うわ、本当に。私なんて今走ってるのよ? 美針は大蠍(シフォン)に乗ってるし……。


 ていうか、公道を蠍とカニが走ってるって中々に奇妙ね……。


「だぁっ……やぁっと追いついたぁ!」


 なんて思っていると、空中から見知った顔が落ちてきて私の隣を走る。


「あら、あんたも来たの?」


「あぁ!? オレが来ちゃ悪ぃか!?」


「いや、別に。ただ意外だなと思って」


 ふんっと怒ったようにそっぽを向くシュティア。けれど、私は知っている。シュティアはこう見えて気が小さく、その上心配性なのだ。今も、本当に来て良かったのか、自分は必要なかったんじゃないかと色々要らない事を考えてるに違いない。派手な見た目に反して中身は陰キャの私と一緒って……そのギャップ必要? いや、絶対要らないでしょ。


 ともあれ、これだけの人数が揃ったのなら浅見から黒奈を取り返すのも簡単に済むでしょうね。何せ、暗黒十二星座(ダークネストゥエルブ)の三分の一が集まってるんだから。


「美針、黒奈の位置は動いてる?」


「現在進行形で動いてますわ! これは……散歩とかではなさそうですわね」


 美針は片目を閉じる事で自身の下僕(ペット)と視界を共有する事が出来る。今、黒奈を追っている下僕(ペット)と視界共有をして二人の位置を把握している。


「攫った相手とわざわざ散歩に出る訳無いでしょうが。逃げてるって考えるのが妥当なんじゃないの?」


「誰からですの?」


「そんなの一杯居るでしょうが。私達とか、暗黒十二星座(ダークネストゥエルブ)とか」


「……私達も、如月さんを探してるから」


「ああ。んで、誰か見つけたんじゃねぇのか? つっても、フィシェの野郎しか索敵能力高い奴いねぇけどよ」


「確かにね」


 暗黒十二星座(ダークネストゥエルブ)に残っているのは、水瓶座(アクアリウス)牡羊座(ヴィダー)獅子座(レーヴェ)魚座(フィシェ)天秤座(ヴァーゲ)の五人だけ。その中で索敵能力が優れているのはフィシェだけだ。


「なんにせよ、せっかく見せてくれた尻尾よ。絶対に捕まえるわよ!」


「言われなくともですわ!」


「……まぁ、美針ちゃんが困ってるなら。……興味は、無いけど……」


「オレぁ別にどうだって良いけどよ……ま、負けたらしっかり言う事はきくさ。他にやる事もねぇし」


 あんたそっちが本音でしょう、とは流石に言わない。へそ曲げられても困るし、何よりそれで手伝ってくれなくなったら戦力減だ。


 私達は進む足を速める。まぁ、走ってるの私とシュティアだけなんですけどね!



 〇 〇 〇



 授業の最中。


「それではさようならですわぁ~~~~~~~~~!!」


「あ、ちょっ、せめて理由を!!」


「腹痛で祖母が危篤で路上で困ってる子供が居て世界が滅亡の危機なのですわ~~~~!!」


「そんな分かりやすい嘘で誤魔化されると思ってるのかな!?」


 なんて、コントじみた声が聞こえてきた。


 この声は……蛛形さん、だっけ……?


 早退かな? でも、なんか凄い元気そうだったけど……。


「どうしたんだろうね?」


 隣の席に座る桜が不思議そうに尋ねてきた。


「なんだろうね……」


 私も不思議に思ってそう返すしか出来なかった。


 その時は何があったんだろうと不思議に思っているだけだったけど、次の授業の最中、その連絡は突然やってきた。


 スマホがポケットの中で振動する。


 私は無視したけど、桜はこっそりスマホを確認している。


「~~~~っ!!」


 スマホを見た桜は驚いたように、けれど、授業中だからと声を抑えて驚いていた。


「どうしました、甘崎さん?」


「ヴェ! マリモ!!」


「え、本当にどうしたんですか!?」


「んんっ! いえ、何も! ちょっとしゃっくりを我慢していただけです!」


「そ、そうですか……」


 納得したようなしてないような先生の反応だけれど、桜は気にせずに何も無かった(てい)ですました顔をしている。


 何があったんだろう? 授業が終わったら聞いてみよう。


 なんて思ってたけど、桜がこっちを見てきた。


 そして、スマホの画面を私に見せてきた。


「――っ」


 そこには、兄さんが見つかったと簡潔に書かれてた。


 思わず、声を上げてしまいそうになるのを我慢する。


 そんな私に、桜は小さな声で言う。


「行こ」


 行く? ではなく、行こうと桜は言った。つまり、私が断る訳が無いと思ってるのだ。


 うん、まぁ、断るつもりも無いけど。


「先生!」


「今度は何かな!?」


「私、ちょっと具合が悪いので早退します!」


「わたしも、ちょっと頭とお腹の具合が悪いので早退します!」


「君ら元気そうに見えるけど!? いったん、保健室とか――」


「腹痛で祖母が危篤で路上で困ってる子供が居て!!」


「世界が滅亡の危機なので帰ります!!」


 鞄を引っ掴んで、足早に教室を後にする。


「君達までそれ言うの!?」


 なんて声が聞こえてきたけれど、聞こえないふりをした。


 待ってて、兄さん。今行くから!


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