渋沢千代/橋本 愛
惇忠、長七郎の妹。栄一よりひとつ年下で、喜作も交えた三人は幼なじみとして育つ。控えめで口数は少ないが、心の芯はめっぽう強い。栄一と結婚してからは、多忙な栄一に代わって渋沢家を守り、内助の功を発揮する。
渋沢家・中の家(なかんち)の長男。幼いころから人一倍おしゃべりで剛情っぱり。従兄(いとこ)である惇忠たちの影響を受け、草莽(そうもう)の志士として倒幕を目指すが、計画は失敗。平岡円四郎との出会いから一橋家の家臣となり、命拾いする。
慶喜の家臣となった栄一は、父・市郎右衛門ゆずりの商才を生かし、一橋家の財政改革に邁進(まいしん)。ところが、慶喜が徳川宗家を継ぐことになり、まさかの幕臣となってしまう。さらに、パリ万国博覧会の使節団の一員として渡欧した栄一は、西洋の進んだ文明と経済の仕組みを学ぶ。しかし、日本では徳川幕府が崩壊。帰国した栄一は、静岡で隠棲(いんせい)する慶喜と再会し、そばで支えることを決意。パリで学んだ、民間の資本を集める「合本(がっぽん)」の仕組みを試すため、「商法会所」を設立する。
ところが突然、明治新政府から出仕を命じられて東京へ。なかなか方針の定まらない政府の中で「改正掛(かいせいがかり)」を立ち上げて改革を推し進め、銀行の設立にも奮闘する。
惇忠、長七郎の妹。栄一よりひとつ年下で、喜作も交えた三人は幼なじみとして育つ。控えめで口数は少ないが、心の芯はめっぽう強い。栄一と結婚してからは、多忙な栄一に代わって渋沢家を守り、内助の功を発揮する。
攘夷派の公家。長州藩の尊攘派と手を結び、攘夷祈願のための孝明天皇の行幸計画を主導するが失敗。中川宮らが主導した八月十八日の政変で京都から追放され、長州へと逃れることになる。明治維新後、官位が戻され、明治新政府の議定に岩倉具視(ともみ)と共に就任する。
朝廷改革を志す公家。桜田門外の変で井伊直弼が殺害された後、公武合体を計画する幕府と交渉する立場にあった岩倉は、和宮降嫁を後押しする。しかし尊王攘夷派から佐幕派とみなされ、朝廷からも蟄居(ちっきょ)を命じられるがやがて赦免され復権。維新後は、明治政府の首脳部の一人となる。
薩摩藩の実権を握る国父・久光の側近として、公武合体を実現するために上京。裏工作に奔走しつつ、腹の内が読めない慶喜を強く警戒する。やがて、明治新政府では大蔵卿に就任するが、部下となった栄一とは近代化をめぐる路線の違いで対立する。
久光が目指す公武合体実現のため、流罪を赦免されて藩政に復帰。大坂にある薩摩藩士・折田要蔵の塾に、一橋家の命で偵察に来ていた栄一と出会う。やがて倒幕を決意した西郷は、王政復古のクーデターで暗躍。明治政府の誕生に大きな功績を立てた。新政府直轄の御親兵を統率し、廃藩置県の実現にも尽力する。
佐賀藩士族。佐賀藩校では騒ぎを起こして退学させられるが、英語を学ぶために長崎へ遊学。維新後、外交交渉ができる能力を必要とされ、新政府に入る。明治2(1869)年には大蔵省で実質上のトップに就任。新政府からの出仕の命をこばむ栄一を、得意の弁舌で口説き落とす。
旗本の娘。従兄(いとこ)に小栗忠順(おぐり・ただまさ)がいる。重信とは再婚同士で、短気でせっかちな夫の手綱をしっかり握り、仲むつまじい夫婦として知られる。大隈家には栄一をはじめ、政府関係の来客が絶えなかったが、手厚くもてなした。千代とも交流を深め、グラント前アメリカ大統領の応接では共に活躍する。
長州藩士族。イギリス公使館焼き打ち事件を起こした攘夷派の志士であったが、井上聞多と共にロンドンに留学してから一転、開国論者になる。維新後は新政府に出仕し、大蔵少輔として栄一の上司に。主に貨幣制度の改革に注力した。やがて初代内閣総理大臣に出世する。
長州藩の尊王攘夷派のひとり。伊藤俊輔らとロンドンに渡り、開国派に転じた。下関戦争で長州が敗戦すると、伊藤と共に英国公使との調停にあたる。維新後は大蔵省に入り、その右腕となったのが栄一。気性の荒い井上と馬が合った栄一とのコンビは「雷親父と避雷針」と呼ばれるほどだった。
佐賀藩出身。「維新の十傑」のひとりであり、明治5年には初代司法卿に就任。司法権の独立を目指し、各地に裁判所を創設するなど司法の近代化を進める。予算を握る大蔵省とはたびたび衝突した。征韓(せいかん)論争に敗れて西郷隆盛らと辞職した後、佐賀の乱を起こし、大久保の命で処刑される。
徳川昭武の随員としてパリ万国博覧会へ派遣される。そこで栄一と親交を深め、やがて家族ぐるみのつきあいをするほどの仲に。維新後は静岡へと移り、やがて明治新政府に出仕して、栄一が立ち上げた民部省改正掛(みんぶしょうかいせいがかり)の一員となり、前島 密らと郵便の仕組みを築く。
旧幕臣。明治新政府で栄一がつくった「改正掛」に抜擢(ばってき)される。通信の不便を解消するため、郵便の必要性を説いて具体案を構想。採用直後にイギリス行きが決まったため、郵便事業を杉浦 譲に託す。帰国後は駅逓頭(えきていのかみ)となって全国の郵便網を確立した。「日本近代郵便の父」と呼ばれる。
岩国藩出身。「改正掛」の一員となるが、旧幕臣で年下の栄一がそのトップであることが気にくわず、反発する。やがて無理難題をまとめていく栄一の能力と努力を認めて和解。富岡製糸場の主任となり、栄一や尾高惇忠と共に働く。栄一が下野する際には、誰よりも先に止めた。
尾高家の長男。従弟(いとこ)である栄一や喜作に学問や剣術を教える。早くから水戸学に傾倒し、栄一らに大きな影響を与えた。明治維新後は富岡製糸場の初代場長となり、栄一を支える。
小栗忠順(おぐり・ただまさ)の家の奉公人から始まり、両替商として頭角を現して、三井組の番頭へと出世。三井組は単独銀行の設立を目指していたが、大蔵省で合本銀行の設立を目指す栄一の強い要望に折れ、第一国立銀行の共同株主となる。栄一と対立してもふらっと渋沢家にやってくる、神出鬼没で食えない商人。
京都の豪商・小野善助(おの・ぜんすけ)の奉公人を経て、小野組の代々の番頭名である小野善右衛門を襲名した。維新後は政府の資金調達に協力し、栄一が設立した第一国立銀行の株主として、三井組と共に名を連ねる。しかし、手広く展開しすぎた経営がたたり、破綻の危機に見舞われる。
薩英戦争で捕虜となるも釈放される。長年の長崎遊学から世界情勢に通じており、貿易による富国強兵を唱えて渡英。留学中にパリ万国博覧会の情報をいち早く得て、薩摩藩としての参加を実現し、幕府の威信を落とす。このとき、幕府側の一員として参加していたのが栄一だった。後に「西の五代、東の渋沢」と称される実業家となる。
渋沢一族の一家、「新屋敷」の長男。栄一より2歳上で、幼なじみとして育ち、生涯の相棒となる。直情的だが情に厚く、弁が立つ知性派の栄一とは正反対の性格。幕末の混乱の中で彰義隊を結成するも敗戦。箱館へと渡り、土方歳三らと共に最後まで新政府軍と戦うが、終戦後に投獄される。
京都生まれ。夫が戊辰(ぼしん)戦争に出たまま行方知れずとなったため、女中として生計を立てる。大蔵省で働く栄一が大阪造幣局へ出張していたころ、三野村利左衛門が設けた宴席でたまたま女中として働いていた。あることをきっかけに、客であった栄一との交流が生まれる。
徳川斉昭の七男に生まれ、一橋家を継ぎ、江戸幕府最後の将軍へ。側近・平岡円四郎の目利きで渋沢栄一と出会い、財政改革に手腕を発揮した栄一を重用する。幕府終焉(しゅうえん)の時を迎えてからも、慶喜と栄一の厚い信頼関係は終生に及んだ。
病にかかった慶喜の婚約者の代わりとして正室になる。一橋家の未亡人である徳信院と慶喜の恋仲を疑い、自殺未遂の騒動を起こした。つかず離れずの夫婦であるが、やがて慶喜のよき理解者となる。
一橋家の側用人。若かりし小姓時代、慶喜に怪我(けが)をさせるという失態をおかすが、戒めることなく寛容に受け入れた慶喜にほれ込む。いかにも人のよい性質で、一橋家に仕官したばかりの栄一や喜作の世話をあれこれと焼く。
「中の家(なかんち)」を立て直すため婿養子として入る。骨身を惜しまず働く勤勉家で、家業の研究に余念がなく、藍玉づくりの名手と呼ばれた。四角四面で厳格な父だが、破天荒な栄一の生き方を誰よりも支援した。
冬には羽織を手にして栄一を追いかける姿が「羽織のおゑい」と呼び親しまれるほど、栄一を愛情深く育てた慈愛の母。お人よしで情け深く、「みんながうれしいのが一番」の精神を幼き栄一に教える。
栄一の姉。優しい母とは打って変わり、歯に衣着せぬ物言いで、栄一にとってはおっかない存在でもある。年ごろに育ったなかの縁談を巡って騒動が起きるが、栄一に救われて解決。吉岡家に嫁ぐ。
栄一の妹。年の離れた栄一にかわいがられ、天真らんまんなお兄ちゃん子となる。栄一にとっては、何でも話せ、生涯にわたって信頼のおける肉親だった。やがて栄一の妻となる千代の心の友に。
情熱的な喜作にひと目ぼれし、みずからアプローチ。結婚後は、喜作がすっかり尻に敷かれるようになる。栄一と喜作が京へ旅立ってからは、千代のよき相談相手となって、共に夫の留守を支える。
惇忠、長七郎、千代、平九郎の兄妹を育てあげた尾高家の母。やがて惇忠たちは尊王攘夷の思想に突き進んでいく。いやおうなく幕末の動乱に巻き込まれていく子どもたちを心配しつつも温かく見守る。
惇忠の妻。各地から草莽(そうもう)の志士が訪れるほど、文武に精通した人格者の夫を寡黙に支える。長男の務めがあるため、家を出ることができない惇忠の歯がゆさを、言葉にはしないがひそかに感じている。
惇忠の長女。惇忠は養蚕のスペシャリストとして官営・富岡製糸場の場長となったが、「外国人に生き血を吸われる」というデマが流れて、工女(こうじょ)が集まらずに苦悩。まだ14歳のゆうに白羽の矢が立てられる。父の思いに心を動かされたゆうは伝習工女第一号となり、働く女性のパイオニアとなる。