セクシュアルハラスメントに関する報道が目立った今年。実は「セクハラ」が日本で初めて注目されたのは30年も前のことでした。平成元年、福岡で初めてセクハラを争点にした裁判が起こされ、「セクシャル・ハラスメント」はこの年の流行語大賞新語部門の金賞を受賞。これを機に、セクハラという言葉は広く社会に浸透しました。しかし、それから30年。いまも被害を訴える声が相次いでいます。日本初のセクハラ裁判からこれまでに何が変わり、何が変わっていないのか。そして次の時代の“あるべき姿”についてシリーズで考えます。
■セクハラ特集
(1)平成がのこした宿題 日本初の“セクハラ”裁判を振り返る
(2)日本ではセクハラが法律で禁止されていない?! 世界の中の日本
(3)ある企業の研修 「無意識の偏見」と向き合う ←今回の記事
法律や制度の面で諸外国に後れを取る日本。
一方で、ハラスメントをなくすため、改革に取り組む企業もあります。
都内のあるコンサルタント会社。職場でのハラスメントを容認しないと、社内規定に明記しています。
何がハラスメントに当たるかを細かく定義し、罰則の適用も徹底。さらに、社員の男女比の均等化など、ハラスメントが起きにくい環境作りを進めています。
管理職には、もう1歩進んだ研修も行っています。キーワードは、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」。誰にもある、思い込みの存在に気づくことを目指します。
ある日の研修では、部下に緊急の残業を依頼する際、誰に声をかけるかを議論していました。
選択肢は
●仕事のあとスポーツクラブに通う、独身男性、田中さん
●共働きで、保育園に通う子供がいる男性、鈴木さん
●育児休暇明けで、時短勤務の女性、山田さん
受講者の多くは、幼い子供がいる女性には残業が難しく、独身男性に依頼しようと考えました。
男性社員「お願いしたいとなると、スポーツクラブに行く元気を、資料作りの修正に使えよって、言うでしょうね。」
男性社員「田中さんは、スポーツクラブに行くために定時退社というくらいなので、子供もいなければ、フレキシビリティが一番高いと判断をして。」
講師「スポーツクラブはコントロールしやすいだろうと」
男性社員「はい」
最後に、情報が加わります。独身男性の田中さんは、この日は、大事な大会に向けた最後の練習の日。共働きの鈴木さんは、妻が海外出張中。一方、時短勤務の山田さんは、育児に協力的な親と同居しているため、残業が可能でした。
受講者は、先入観が判断に大きく関わることに気づきます。
講師「アンコンシャス・バイアスは誰にもあって、良い悪いではない。必要なことは勝手に決めないで、本人に聞いてみる。」
「誰もがどう見てもおかしいというものだとか、悪意があってやっているものっていうのは、いろいろルールを定めていくとか、上司が指導することで改善できるレベルだと思うんですけど、ハラスメントがゼロになるのかというのは難しい。第2段階として、意識レベルを、もう少し根底から、『人の嫌なことをしないようにする』ということではなくて、『働きやすい環境を作る』という意識まで高めて、自分もそこに行けるようにするのが、今回のトレーニングになります。」(アクセンチュア株式会社マネジング・ディレクター 海老原城一さん)
無意識のうちに自分が判断していることに気づかせる取り組み。労働政策研究・研修機構 副主任研究員の内藤さんは、こうした研修がもっと求められると言います。
「ハラスメント、セクハラもパワハラも、表面的な付け焼き刃的な対応で変わるわけではないと思うのですね。会社内の風土とか構造とかを変えない限り、なかなか変わらない、セクハラを無くすことはできないと思う。そのために気づかないところで自分が判断しているところがあるんじゃないかって気づかせる研修というのは、とてもいい取り組みだというふうに思います。」(内藤さん)
また、ハラスメントは構造的な問題であることに気づくことも大切だと言います。
「例えばセクハラについては、会社内の男女比や、女性管理職がどれくらいいるか、こういったことも調査では実際にセクハラの有無に影響しているということがわかっていますので、そういう構造的な問題も含めて会社には取り組んでもらえればなというふうに思います。」(内藤さん)
※この記事はハートネットTV 2018年10月2日放送「平成がのこした“宿題” 第1回『セクシュアルハラスメント』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。