実際に空で操縦する試験
いよいよ三次試験まで来ました。航空学生採用試験は三次試験が最終試験になります。三次試験は海上自衛隊航空学生と航空自衛隊航空学生で試験内容が異なる・・・というより、航空自衛隊航空学生の方が試験科目が多いです。受験者に聞くところ、海上自衛隊航空学生と航空自衛隊航空学生の身体検査内容は同じもののようです。
受験地は海上自衛隊航空学生は全国的に受験地が散らばっているものの、航空自衛隊航空学生の受験地は静岡県焼津市の「航空自衛隊静浜基地」か山口県防府市の「航空自衛隊防府北基地」の2箇所のみになります。関東北陸方面在住の方は静岡県(静浜基地)で、関西九州方面の方は山口県(防府北基地)で受けられるよう配慮してくれているようです。
試験日程は最短でも3日間は要するようで、最短の日程だと1日目に操縦法等の授業、2,3日目に2フライトずつの4フライトを終えて解散の様です。しかしながら天候不良や受験生の人数に対しての飛行機の数などもあるので、4~5日掛かることもあるようです。
基地の最寄り駅まで行けば自衛官の方がバスで迎えに来てくれるようなので、最寄駅から基地までの交通費は掛かりませんが、最寄り駅までの交通費は自費になっているようなので遠方のからの受験生は試験日程が分かり次第、飛行機や新幹線の予約をとっておいた方が良いですね。(飛行機の場合、特に北海道の受験生は天候不良による欠航に注意しましょう。)
また、海上自衛隊航空学生は脳波などの検査だけですが、航空自衛隊航空学生は脳波などの検査に加えて、実際にT-7と言いうプロペラ練習機に乗って旋回などの操縦試験と面接が含まれます。傍から見ると非常に珍しく面白い試験ですので、順を追って見ていきましょう。
試験科目
海上自衛隊航空学生
- 身体検査(脳波等)
航空自衛隊航空学生
- 操縦適性試験(4フライト)
- 身体検査(脳波等)
- 面接
三次試験対策
個人的に航空学生採用試験の中で非常に面白いと思うのが、航空自衛隊航空学生の操縦適性試験です。若ければ17歳の操縦桿でさえ持ったことの無い高校生が自衛隊の基地へ行き、操縦教育を受けて操縦試験を受けるのは、世界的に見ても日本の航空学生採用試験だけでは無いでしょうか・・・。
インターネットで色々な三次試験対策を見てみると、「エースコンバット(ゲーム)をやっておいたほうが良い。」と書かれていたりしていますが、プロからすればコントローラーで操作するエースコンバットはゲームなのでやったところで何の対策にもなりません。あくまで娯楽です。ただし、JOY STICKと呼ばれる操縦桿を模倣したコントローラーで操作していれば、「操舵圧」の感覚は掴めないものの、操縦桿の操作方法くらいは理解できるかな・・・。と言った所です。(面白いゲームではありますけどね。)
所持品の制限
実際に操縦試験にあたり、持ってきている医薬品やカメラ等は自衛官の方に預けることになります。医薬品に関しては航空法上で定められている関係で、航空身体検査医が認める医薬品以外は飲んではいけない事になっているので制限を受けます。
受験シーズンでは花粉症の薬や「飛行機酔いが心配だから・・・。」と酔い止め薬も持ち込む受験生もいるかもしれませんが、基本的に回収です。もし、どうしても必要な医薬品がある場合は、自衛官の方に相談してみると確認してくれます。軽い鼻炎などがある方も、使用が認められているナザールスプレーの様な点鼻薬を希望すれば飛行前に処置してくれるそうです。
カメラに関しては、自衛隊の秘密保持などの制限に関わるからではないかと考えられます。ただし、4回のフライトの内、最後のフライト後に飛行機の前で記念写真を撮ってもらえたりするようで、決められた中で思い出に残る良い写真を撮ってもらいましょう。
操縦に関する授業
三次試験を受験するために必要な授業を受けます。授業の内容としては操縦試験内容と操縦法の他、空の上で起きやすい病気(空酔いや航空性中耳炎)などの航空衛生、万が一の脱出方法と救急用具の説明などが含まれます。聞くところ、寝ていて先生の自衛官の方に怒られていた受験生もいるようで、気を張って学びましょう。一日目はこの授業と飛行服の貸与などで終わるようです。
授業で習った内容については夜の間にしっかりと復習しておきましょう。また、授業を受けた部屋には「トレーナー」と呼ばれるコックピットの模型があり、そこで実際に操縦法の練習が出来るようなので、夕ご飯を摂ったら時間がある限り模型で練習しましょう。
操縦適性試験
いよいよ空に飛びます。T-7という練習機は操縦席が横に2席(サイド・バイ・サイド)ではなく、縦に2席(タンデム)の構造になっており、後席に受験生が乗り込みます。操縦する科目内容は受験生に聞いたところ以下のとおりになるようです。
- 上昇旋回(左右)
- 上昇飛行から水平飛行に移行
- 普通旋回
- 急旋回(2回目以降から)
- 降下飛行姿勢へ移行
- 降下旋回(左右)
- 降下飛行から水平飛行に移行
1回目のフライトでは実際に試験官が例示を見せてくれて、次に自分の練習(いよいよ自分で操縦です)、本番と3回同じ動きをしますが、2回目のフライトで試験官の例示がなくなり、3回目で自分の練習がなくなり、4回目のフライトでは試験官の「You have control(あなたが操縦桿を持っていますよ)」の合図から全て自分で操縦していきます。
上の科目に危険な操作に繋がるものはありませんが、あまりにも変な操縦をしたら試験官に「I have control(私が操縦桿を持っています)」と言われ、操作を取り上げられてしまいます。
それでは一つひとつの科目を見ていきましょう。(ここからはセスナ等の一般的な飛行機の操縦法の解説になります。操縦訓練を開始したばかりの操縦訓練生も参考になることもあるかと思うので、是非確認してみてくださいね。)
上昇旋回(左右)
上昇旋回は基本的にIAS(指示大気速度)を一定にして行います。ここの試験では上昇姿勢を試験官が作ったところで「You have control」と言われるそうなので、言われたら左右を確認して、目標物が分かりやすい方向に旋回を開始します。
目標物は地上の山や、ポコっとした雲を取りますが、余りにも近距離の目標を取ると大きく目標物を回り込んでしまうので、出来るだけ遠くの目標物を取ります。
旋回時には外をよく見て基準線(地平線)が上下しないように操縦桿を左右どちらかに倒し、機体を傾けます。(20°くらい(?))操縦桿を左右どちらかに倒して機体を傾けると揚力が減るので、機首が下がる(基準線が上に上がってくる)事で、上昇姿勢が崩れてしまいます。そのため、適度にバックプレッシャー(操縦桿を手間へ引く)をして、基準線がずれないように保持します。
乗っている機体はプロペラ練習機で、非常に軽く操作性に富んだ飛行機なので、操縦に係る力は本当に少しで良い筈です。IAS(指示大気速度)が増えたり減ったりしないように力を調整しましょう。(操縦桿を持つ力は「卵を割れないように持つ力」や「華奢な女の子の手を握る力」と言われています。)
IAS(指示大気速度)に気を取られて外を見ないでいると、基準線のズレ(上がった下がった)に気づきにくい上に、目標物を見失ってしまいます。あくまでも外を見て操縦しましょう。計器や機体の傾き(バンク角)を見るのは6秒に1回ほどで十分な筈です。
操縦席が前後席の飛行機の後席に乗っているので目標物のところまで旋回してくると、試験官の頭で目標物が見えなくなるかと思います。焦らず「これくらいの動きで目標物が移動してきているから、そろそろ試験官の正面だ!」というタイミングの少し手前(試験官の肩の位置くらい?)で、さっきとは逆の方向に操縦桿を倒して飛行機の傾きを元に戻します。この際に、先ほどまで操縦桿を手前に引いていた力をそのまま入れ続けてしまうと、基準線が下にさがって飛行機の機首が上に上がっていってしまうので、必ず力を抜きましょう。
反対への旋回も同様です。
上昇飛行から水平飛行に移行
上昇飛行から水平飛行へ移行する際には、「トリム・オフ」という初心者には少し難しい操作が入ってくるほか、スロットル(車でいうところのアクセル)を弱めると言いう操作が入り、操舵圧の変化があります。
上昇飛行から水平飛行に移行する際には、試験官から「〇〇〇〇ft(フィート)で水平飛行にしてください」のようなキリの良い高度で指定される筈なので、例示の時に試験官が何ft手前から何秒掛けて水平飛行へと姿勢を変化させているか見ておきましょう。自分で操縦する際も、何ft手前から何秒かけて姿勢を変える。という事が参考になります。
上昇飛行をしている時には、上へ上へと上がるために沢山パワーを使っています。それを水平飛行の姿勢に変えると、上へ行くために使っていたパワーが余ってしまい、余った分だけ飛行機が加速してIAS(指示大気速度)が増えていきます。
一般的に上昇飛行より水平飛行の方が飛行速度が増えるので、ある程度増える分には問題は無いのですが、水平飛行姿勢にした後もスロットルが上昇飛行のパワーのままになっていると、どんどんIAS(指示大気速度)が増えていきます。なので、試験官に指示されている速度に近づいたらスロットルを手間へ引き、パワーを減らします。目安としては指示されているIAS(指示大気速度)の3~5kt手前まで針が増えてきたら、パワーを引きます。
この際に、一気に引きすぎると推力不足でIAS(指示大気速度)が減ったり、降下姿勢に入ってしまったり、引くのが遠慮がちになってしまうとIAS(指示大気速度)が増えたして、上昇姿勢のままになってしまうので、試験官の方の例示の時にどれ位引いているか見てみましょう。また、練習があるらしいので、練習の段階でどれ位引くと良いのか一発で体得するように神経を尖らせておきましょう。
水平飛行にするために操縦桿を奥に倒すと、基準線が上に上がってきて機首が下がっていきます。このため、水平飛行姿勢にして指示されているIAS(指示大気速度)まで加速を待っている間の数秒間は「操縦桿を前に押しているのに水平飛行・・・。」という、初めての方には不思議なひと時があります。
指示されているIAS(指示大気速度)でスロットルのパワーを調整したら「トリム・オフ」をします。プロペラが1個の単発プロペラ機では、操縦桿の前後の動きの操舵圧を抜く「エレベーター操舵輪」と足で操作する機首の横方向のヨーと呼ばれる「ラダー操舵輪」の調整が必要です。文章で説明するのはチョッと難しい内容なので、実際に操作してみて、感覚をつかんでください。
トリムオフが出来て、所定の高度の水平飛行に移行出来たら、この科目は完了です。
普通旋回
普通旋回はその名のとおり、飛行機を高度を保持したまま方向を変えていく飛行で、飛行機の基本的な動きの一つになります。上昇旋回に比べて、バンク(飛行機)の傾きが大きくなりますが、水平飛行をしているので上昇中より地平線(基準線)の位置が上に上がり、視野が広がるため難易度は下がります。
高度を保持して旋回できるかを問われる科目であることは間違いないので、地平線(基準線)の微妙な上下を認識し、上昇してしまっていないか、降下してしまっていないかに敏感に気づき、高度の変化に応じて飛行機をコントロールしていかなければなりません。(一番は高度を変化させないことに尽きますが・・・。)
普通旋回は試験官に「Roll Out(普通旋回をやめてください)」という指示があるまで続けるとの事ですので、地平線(基準線)の上下が無いように操縦桿を左右どちらかに倒してバンク(傾き)を作ります。上昇旋回と同様にバンク(傾き)を飛行機につけると揚力が減ることから機首が若干下がります。(地平線が上へ動きます。)機首が落ちてこないようにバックプレッシャー(操縦桿を手間へに引く)をし、そのまま保持します。
バンク(傾き)を作り、バックプレッシャー(操縦桿を手間へ引く)をすると、飛行機が左右どちらか傾けた方向へ旋回を開始します。旋回を開始したら高度計の針を一瞬見て、上昇を開始していないか(バックプレッシャーが強すぎないか)、降下を開始していないか(バックプレッシャーが弱すぎないか)を判断します。この時に高度が下がっていたから一気に操縦桿を手間へ引く(バックプレッシャーを加える)のではなく、高度が下がっているのを確認したら外の地平線(基準線)を見て、その地平線(基準線)が下へ下がるようにバックプレッシャーを加えます。高度計を見ながら飛行機を操縦すると間違いなく飛行機の姿勢が不安定になって、乱高下旋回になってしまうので、地平線(基準線)を見ながら操縦することが肝要です。
普通水平旋回をしていて、高度が下がってしまって、地平線(基準線)を見ながらバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く)を加えて、数秒たったら、もう一度高度計の針を確認します。元の高度に戻ってきていたら、そのままのバックプレッシャー(操縦桿を手間へ引く力)だと今度は上昇へ転じてしまうので、地平線(基準線)を見ながらバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)を緩めて地平線(基準線)の高さを上へ上げます。この時も高度計を見ながら力を調整するのではなく、外の地平線(基準線)を見ながらコントロールします。(高度計を見ながら操縦すると同じく乱高下機動になってしまいます。)
ちょうど良い所でバランスが取れたら操縦桿に掛けているバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)を保持するだけです。この時、操縦桿を左右に倒してしまっていたりするとバンク(飛行機の傾き)が深まったり浅くなったりしてしまうので、「真っすぐ手前へ引くこと」に留意しましょう。
もし、バンク(飛行機の傾き)が深くなったら、その分揚力が減るのでバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)を強めなければ高度は下がっていってしまいますし、バンク(飛行機の傾き)が浅くなったらバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)を弱めなければ高度は上がっていってしまいます。
試験官に「Roll Out(普通旋回をやめてください)」という指示があったら、先ほどとは反対の方向に操縦桿を倒してバンク(飛行機の傾き)を水平に戻します。この時も上昇旋回と同様に旋回中に加えていたバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)を抜かないでいると、どんどん機首が上がって上昇姿勢へと転じていってしまうので、地平線(基準線)を見ながら地平線(基準線)が上下しないように力を抜いていきます。
地平線(基準線)を水平にして、バンク(飛行機)の傾きが地表面と水平になったら旋回は止まるので科目完了です。反対方向への旋回も同様です。高度を保持しながら滑らかに操縦していきましょう。
急旋回
基本的な操縦方法は普通旋回と変わりません。しかしながら、バンク(飛行機)の傾きを45°以上つけて旋回していく科目になるので、G(重力加速度)が掛かりバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)を普通旋回に比して強くしなければいかない他、旋回率(旋回していくスピード)が早くなるのでチョッとしたバックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)の強弱で高度が変化しやすく、高度保持の難易度が少し高くなります。2回目のフライトから試験官の例示が入ってくるようで、飛行機の操縦に少し慣れた所から入ってくる科目のようです。
ちなみにG(重力加速度)に関しては45°バンク(飛行機の傾き)を取って水平旋回を行った場合は約1.4G(√2G)が掛かり、60°バンク(飛行機の傾き)を取って水平旋回を行った場合は2Gが掛かります。これは、三平方の定理から導き出せます。ちなみに計算式はG=1/cos(θ)で求められます。
45°もバンク(飛行機の傾き)をとっていくとバンクを取っている間に、飛行機の傾きに応じて揚力が下がってくるので「操縦桿を左右どちらかに倒しながら手間へ引く」という、操縦桿をこねる様な動きになってきます。セスナや民航機のような一般的な飛行機の操縦桿はU字型をしているので、操縦桿を回しながら引く操作になるのですが、軍用機の中でも特に戦闘機や戦闘機を意識して製造された飛行機は棒状の操縦桿なので、エアラインパイロット等にしてみると、飛行機の動かし方に変わりは無いものの操作は変わった動きになります。(エアバスはスティックを採用していますね。)
話は逸れましたが、基本的には普通旋回と変わりはありません。旋回を開始する際に、バンク(飛行機の傾き)を取っている間に高度が下がりやすいという特徴があることは意識しておきましょう。
降下飛行姿勢へ移行
個人的にこの科目が一番難しいのではないかなと思います。そう思うのも、どの飛行機もそうなのですが操縦に関してはあまり飛行機が変わっても変化が無いのに対して、スロットル(車でいうところのアクセル)の操作感は機種によっても変わってきますし、飛行機個々によっても微妙に違います。科目としては、定率降下飛行でなく、定速降下飛行のようです。(定率降下は計器飛行の際によく使われる飛行です。)
降下飛行姿勢に転じるという事は、その名のとおり高度を下げていくのでスロットルのパワーをかなり引いていきます。このスロットルのパワーを所定の値に調整をしている間に、操縦経験が少ない人はIAS(指示大気速度)を大きく増やしてしまったり、減らしてしまったりしてしまうことが多々ある他、トリム・オフという初心者にはもっとややこしい「操舵圧を抜く」操作もしなければなりません。降下飛行姿勢を作ることに手間取ってしまい、どんどん高度を下げ続けてしまい、降下旋回をする分の高度が残っていない・・・と言うこともあり得ます。慣れれば簡単に出来るものですが、ポイントを絞って順に見ていきましょう。
降下飛行姿勢を作る最初のステップとして、機首を下げる動作が入ってきます。小型機の場合、降下飛行は水平飛行よりもIAS(指示大気速度)が大きい値で降下していく事が多いので、降下飛行姿勢の位置まで地平線(基準線)を下げるために操縦桿を奥へ倒したら、試験官に指示されている速度が来るまでその位置を保持します。
試験官に指示されている速度が近づいてきて、3~5kt手前までIAS(指示大気速度)の針が近づいてきたら「スロットル(パワー)を引く」動作が入ります。パワーを引くと操縦桿の操舵圧に変化が生じますが、あくまで地平線(基準線)の高さがぶれないように操縦桿を持っておきます。操縦経験の少ない人はIAS(指示大気速度)が増えるのを待っている間に計器の針をジーっと見続けてしまいがちになりますが、あくまで地平線(基準線)をブラさないように意識し、速度計はチョイっチョイっとチラチラ見るようにします(クロスチェックと言います)。
この時、スロットル(パワー)をどれ位引いているか、降下飛行姿勢を作った時の地平線(基準線)の操縦席からの見え方がどんな感じであるのか事前に知っていることが非常に大切なので、試験官の例示を受けているときに、「〇cmくらいスロットルを手前へ引いた」「地平線(基準線)の見え方は試験官の頭のこれ位の位置・・・」と目に焼き付けて体得しておきましょう。試験官の真似をすれば、飛行機はその通り動いてくれます。
機首を下げて降下飛行姿勢を作って試験官に指示されているIAS(指示大気速度)の3~5kt手前まで針が来たら、スロットルのパワーを試験官に事前に指定されている値に調整します。この時も計器に目を取られすぎて操縦席の中を見るのではなく、あくまでも外の地平線(基準線)を見ながらチョイチョイ計器を見ながら調整していきます。微調整を終えて、IAS(指示大気速度)が試験官に指定されている値よりも大きかったら「飛行機の機首が下がりすぎている」事を示していて、小さかったら「飛行機の機首が上がりすぎている」事を示しているので、外の地平線(基準線)の高さを見ながら操縦桿を前後に微調整します。
パワーの値とIAS(指示大気速度)が試験官に指示されている諸元に固まったら、外に見えている地平線(基準線)の位置を変えないようにトリム・オフをして、操縦桿に入れている力を抜いていきます。エレベータートリムは操縦桿を保持している力を抜いていくので、感覚的に分かりやすいですが、ラダートリムは基本的に体感しにくい操作になるので、試験官の方の操作を例示の時に見ておいて、同じ値にセットすれば問題ないと思われます。(ヨー方向(ラダートリムの設定値)のズレはある程度飛行経験のある人でも計器を見なければ気づきにくいです。)
無事トリム・オフが出来て、操縦桿を持っている力を抜いても飛行姿勢が変化しなければ、降下飛行姿勢の完成です。ここでトリム・オフが出来ていないと、次の降下旋回の時に苦労するので、しっかりと操舵圧を抜くようにしましょう。
降下飛行姿勢を作る時の最大のコツは操縦席の中(計器)を見すぎないで、外の地平線(基準線)をしっかり見ることです。また、スロットルのパワーを引いたり、トリムを調整したりする動作は体感による所が大きいので、試験官の動作を神経を尖らせて「これくらい・・・。」とイメージを持っておきましょう。
降下旋回(左右)
この科目は降下しているだけで、大きな部分は上昇旋回と変わりません。上昇旋回に比して操縦席から見える地平線(基準線)は見やすい筈なので、難易度は下がると思います。ただし、降下飛行姿勢を作る際に、しっかりとトリム・オフが出来ていないと操縦が難しくなってしまいます。
ちなみに、トリム・オフができていない飛行機を操縦することは、飛行経験がある人でも難しいです。それだけ、降下飛行姿勢を作る際のトリム・オフが大切ということです。
ポイントは上昇旋回と大きく変わりませんが、降下しているのでバンク(飛行機の傾き)を作った際に機首が下がって、地平線(基準線)を更に上へ上げてしまうとIAS(指示大気速度)が増えやすく、バックプレッシャー(操縦桿を手前へ引く力)が強すぎるとIAS(指示大気速度)が減りやすい特性があるので留意しましょう。
降下飛行から水平飛行に移行
いよいよ最後の科目です。操縦方法に関しては上昇飛行から水平飛行に移行の逆順ですが、改めてポイントを見ていきましょう。
降下飛行姿勢から水平飛行姿勢に移行する際には、やはり外の地平線(基準線)を見ながら操縦することが大切です。スロットルのパワーを増やしたり、微調整したり、トリムを調整したりする必要があり、初心者はついつい操縦席の中の操縦装置や計器に目が行きがちになってしまいますが、あくまでもVFR(有視界飛行方式)で飛行しているため、外を見た操縦が大切です。
水平飛行姿勢に移行するには操縦桿を手前へ引いて水平飛行の姿勢を作ります。試験官から「〇〇〇〇ft(フィート)で水平飛行にしてください」のよう指示されたら、何ft手前から何秒掛けて水平飛行へと姿勢を変化させているかという基準が重要になってくるので、例示をしっかり見ておきましょう。
この際に操縦桿を手前へ引く度合いですが、外の地平線(基準線)を水平飛行の時の位置まで下げていきます。水平飛行の姿勢を作っていくと、降下飛行をしていた際のパワーだと推力不足でIAS(指示大気速度)が下がっていきます。IAS(指示大気速度)が下がってきて、試験官に指示されている速度の3~5kt手前まで減ってきたら、スロットルのパワーを足します。スロットルのパワーを足す度合いについても、上昇飛行から水平飛行に移行する際や水平飛行から降下飛行姿勢へ移行する際と同様に、試験官がどれ位スロットルを動かしていたかを見ておいて真似しましょう。
スロットルを動かしてパワーを増やすと、他の動きの時と同様に操舵圧が変化します。操舵圧が変わるのにパワーを増やす前と同じ力を操縦桿に加え続けていると、飛行機が上昇姿勢に転じてしまうので、外の地平線(基準線)が水平飛行の時の位置になるように保持します。飛行機は操舵圧を一定にして操縦するのではなく、外の地平線(基準線)の位置を一定にするように操縦桿を操作することで機体の動きをコントロールしているのです。
外の地平線(基準線)を操縦桿を使って水平飛行の位置にし、スロットルでパワーを水平飛行に必要な値に調整したらトリム・オフをします。エレベータートリムは降下飛行姿勢へ移行した際と同じように外を見ながら操作し、ラダートリムは試験官が設定していた値と同じ数値にします。
ここで注意したいのは速度計に注視するのでは無く、外の地平線(基準線)のブレに気を付けながら高度計の針の動きを見ることです。ひとたび空に上がれば、推力一定で抗力が無視できると考えた時「力学的エネルギー保存の法則」が飛行機に当てはまります。
「速度が上がった!パワーを引かなきゃ!」「速度が下がった!パワーを足さなきゃ!」と考える前に高度保持が出来ていない可能性が高いです。
高度が下がっていればIAS(指示大気速度)の値は増えていきますし、高度が上がっていればIAS(指示大気速度)の値は下がっていきます。そんな時は大体、外の地平線(基準線)の位置を見ていなくて、操縦席の中の計器ばかり見ています。しっかりと外の地平線(基準線)を見て操縦しましょう。
パワーが定められた値で、操縦桿に入れていた力を抜いて高度が一定になっていれば速度計も一定になり、飛行機が安定します。この状態に飛行機を持っていく事が出来ればこの科目は完了です。
操縦試験、お疲れさまでした。飛行場への帰り道は、空からの景色を楽しみつつも折角本物のコックピットに座っているので操縦の復習をして次のフライトに備えましょうね。
身体検査
身体検査では脳波や心電図などを見ているようです。一般的な航空身体検査に含まれる検査とおそらく同様で、「脳波」と聞くと何か異常が無いだろうか・・・。と心配になってしまいますが、「てんかん」等の病気が無いかを見る検査であると思います。「てんかん」って何ですか?と思われる方も多いと思いますので簡単に説明すると、視覚的な刺激等によって脳の伝達信号に異常が生じてしまう病気で、テレビで記者会見などを見ていると「フラッシュにお気を付けてください」といったテロップが出ていることがあると思います。正にこれがてんかんの発作に関わってくる視覚的な刺激で、フラッシュなどの強烈な光の点滅により、てんかんの病気をお持ちの方は脳波が大きく乱れます。
航空身体検査では脳波の検出装置を頭に着けた被検者にフラッシュをたくことで、脳波に異常な乱れが無いかを検査します。
こればかりは身体の事なので対策のしようも何もありませんが、唯一の注意点は寝ないことですね。寝たら脳波で分かってしまう他、検査にならないので、ずっとフラッシュをたかれていると眠たくなってきますが起きておきましょう。
心電図の動きに関しては運動中に不整脈などが無いか見るもので、心電図検査でお決まりの吸盤みたいなものを付けて軽い運動をします。
いずれも特に対策などは無いので、フライトの予習復習をしたいと思いますが、しっかりとご飯を食べて湯船に浸かって早めに寝るようにしましょう。ちなみにテレビで「フラッシュにお気を付けください。」のテロップが出るようになったのは、ポケモンのピカチュウの10万ボルトのピカピカを見ていた「てんかん持ち」の子どもたちが一斉に発作を起こして救急車で運ばれたから・・・という悲しい経緯があったからだそうです。
面接
フライトを1回以上経験した受験生に対して面接が行われているそうです。受験生に聞くと、操縦適性試験の間と間の待ち時間に順番に受けたとのことで、心情的な面に問題が無いか問うような質問をされたそうです。具体的には、
「実際に飛行機に乗ってみてどうでしたか?」
「飛行機に乗って空酔いしませんでしたか?」
と言った質問の他、操縦に関する授業の前にアンケートシートの様なものを書くそうで、その内容に関することを
「なぜ、こう書いたのですか?」
「なぜ、そう思ったのですか?」
「そう思うにいたった経験はありますか?」
「その経験をした時はどうおもいましたか?」
と質問に質問を重ねて聞かれたようです。いずれにしても二次試験の口述試験の時と同じように嘘をついたり、自分を誇大によく見せようとせず、身の丈に合わせて素直で誠実な姿勢と、若者らしいガッツや元気さで自分を表現出来れば問題無いのではないでしょうか。
まとめ
同じ空で働く者として、「航空自衛隊航空学生の三次試験は(選抜方法に関して)非常に面白いなぁ。」と思っています。実際に空を飛ぶ操縦適性試験の対策では、一般的なセスナなどの単発小型プロペラ機を想定して書いてみましたが詳しくは自分が受けたことが無いので分かりません。
一番は授業があるので、しっかりと操縦する操作をイメージしながら真剣に受けて、空に上がったら試験官の例示を血眼になって観察して真似出来るよう、体得することです。
飛行機はあなたが操縦するから言う事を聞いてくれません・・・という事はありません。飛行機は、あなたの操作したとおりに動いてくれるので、試験官と同じように操作出来れば、同じように飛ぶことが出来ます。
大空や飛行機、グランドクルーの方に対する敬意をもって三次試験を頑張ってきてくださいね。