日本大百科全書(ニッポニカ)「詐欺」の解説
詐欺
さぎ
人を欺罔(ぎもう)(虚偽の事実を信じさせること)して錯誤に陥れることをいう。
[川井 健]
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詐欺による意思表示は、取り消すことができるとされる(96条1項)。たとえば、Aが所有する土地をBが買うにあたって、近くにごみ処理場が建設される計画があるという虚偽の事実をBがAに伝え、地価が下がるからいまのうちに売ったほうがよいと述べてBが安く土地を買った場合には、Aは売買の意思表示を取り消すことができる。その結果、Bには受け取った代金の返還義務、Aには引き渡した土地の返還請求権のような不当利得(703条以下)の問題が生ずる。このように、詐欺による被害者は保護されるのであるが、強迫による被害者と異なり、その保護には限界がある。強迫の場合に比べ、詐欺の場合には被害者にも若干のおちどがあるからである。以下に詐欺による取消しができない例および制限される例をあげる。
(1)第三者が詐欺をしたときには、取消しができない場合がある。民法は、ある人に対する意思表示につき、第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知ったときに限り、その意思表示を取り消すことができると定める(96条2項)。前例でいうと、AB間の土地の売買において、Bが詐欺をしたのではなくて、第三者CがAに対して詐欺をした場合に、Bがこの事実を知らないで土地を買い受けたときには、Bを保護する必要があるので、Aは売買の意思表示を取り消すことができない。強迫の場合は詐欺の場合と異なり、意思表示を取り消すことができる。
(2)善意の第三者に対しては、詐欺による取消しの主張が制限される。すなわち、詐欺による意思表示の取消しは、これによって善意の第三者に対抗することができないとされる(96条3項)。前例で、BがAに詐欺を働いて安く土地を買い受け、詐欺の事実を知らない第三者CにBがこの土地を転売したときには、Cの信頼を保護するために、Aは取消しによる所有権を主張することができない。この場合に、Cが移転登記を受けていないときにも、Aが取消しを主張しえないかどうかについては学説が分かれ、判例も明確ではない(仮登記をしたCが保護されるという判例がある)。強迫の場合は詐欺の場合と異なり、取消しによる効果をもって善意の第三者に対抗することができる。
前例で、詐欺にかけられたAが売買を取り消した場合に、不動産の所有権はBからAに復帰するが、それにはBからAへの登記が必要である(177条)。前例で、AがBの詐欺を理由に売買を取り消したが、B名義の登記を放置しておいたところ、BがこれをCに売りCに登記を移転すると、Cの善意・悪意にかかわらず、Aは所有権の復帰をCに主張できない。
なお詐欺により、他人に損害を与えた場合には、不法行為として損害賠償義務を負うことになる(709条)。そのほか、民法は、詐欺に関して、代理行為の瑕疵(かし)(101条1項)をはじめ、婚姻の取消し(747条)、養子縁組の取消し(808条1項)、遺言の取消し(1025条但書)につき、特別の扱いを定めている。
[川井 健]
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刑法典は、財産犯の一種として詐欺罪の規定を設けている(246条、なお248条の準詐欺罪参照)。詐欺罪とは、被害者を欺罔し、錯誤に陥れて、瑕疵ある意思により財産的処分行為をさせる罪である。1987年(昭和62)の刑法一部改正によって、コンピュータ犯罪の一つとして、246条の2が追加され、電子計算機使用詐欺罪が新設された。さらに特別刑法において、詐欺やその類似的または予備的行為につき、さまざまな罰則規定を設けている(たとえば宅地建物取引業法81条、特定商取引法70条、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条など)。
[名和鐵郎]