アルバムに収録された新曲9曲を夏川さんが紹介
ハレノバテイクオーバー
――ここからは今回のアルバムに収録されている新曲9曲について、それぞれがどんな楽曲かを簡単に伺えればと思います。まずは先ほども軽くお話しいただきましたが、『ハレノバテイクオーバー』から。
夏川『ハレノバテイクオーバー』は田淵さんに「アルバムを作るんで曲を書いて欲しいんです」とお願いしたときに、すでに『クラクトリトルプライド』を書いていただいていたので、『クラクトリトルプライド』とはぜんぜん違う方向性の田淵さんの楽曲が歌いたい、とお願いして作ってもらった曲です。
そもそも今回のアルバムがライブを意識して作っているというのもあったので、開幕感が欲しかったんです。そういう意味で『クラクトリトルプライド』のときとは真逆のオーダーをしているんですよ。『クラクトリトルプライド』のときは“大団円”をお願いしますと言っていて。だから『ハレノバテイクオーバー』は、“大開幕”をお願いしますと(笑)。だから、ぜんぜん違う楽曲ができたなと思います。
じつは田淵さんが“Pre-2nd”のライブを配信で見てくださったそうで。“Pre-2nd”ではライブの最後の最後で『クラクトリトルプライド』を歌っているんですけれど、その様子を観て「歌えてたじゃん」と思ったそうなんです。「『クラクトリトルプライド』の早口の部分を歌ってましたよね」、「生でやってましたよね、あなた」って(笑)。
――ああ、見つかっちゃいましたか(笑)。
夏川そうなんです。それで「これぐらいならいけるかな」と田淵さんも思ってしまったようで、『クラクトリトルプライド』よりも、さらに難しい曲になりました。
――どんどんハードルが上がっていく。
夏川ただ、不思議なもので、デモをもらったときに、「『クラクトリトルプライド』よりは簡単かな」と思っちゃったんですよ、私が。なぜか。絶対に難しい楽曲だし、完成したいまとなっては聴くだけでも震えてしまうんですけど(笑)。でも、デモを聞いたときには、「なんかちょっとやさしくない?」と思っちゃって。それで軽い気持ちでオーケーを出してしまったんですよねえ。
――結果。
夏川運の尽き。とんでもない楽曲になってしまいましたね。
――(笑)。ただ、実際お話にあったとおり開幕感が非常に強いな、と感じました。あと、つぎの楽曲の『烏合讃歌』もそうなんですけど、夏川さんが引っ張っていく感がすごく強いな、と感じて。
夏川その引っ張っていく感は、私がフェーズ2と勝手に呼んでいる2ndアルバムまでの流れにおける、テーマのひとつになっているところはありますね。1stアルバムのいちばん最後に書いた曲が『チアミーチアユー』という曲だったんですけど、『チアミーチアユー』はアルバムの最後の最後で追加した1曲だったんです。
その曲で最後の最後に「付いてきて!」という言葉を私が書いていて。それが私の中ではフェーズ2の始まりになっているんですよ。だからじつは「付いてきて」という言葉は、その後書いている自分の曲では多用しているんです。「私が引っ張っていくぜ」みたいなイメージもけっこうありますね、全体的に。フェーズ2のテーマみたいな。
――なるほど。それがここに行き着いているわけですね。ちなみに『ハレノバテイクオーバー』は先行配信もされていて、ファンの皆さんの感想を見ると「元気がもらえる」という意見がすごく多かった印象でした。
夏川確かに。ミュージックビデオ(以下、MV)もそうなんですけど、夏川って最近の表題曲で元気なことを言っていなくて。どちらかというと、前のめりで自分の内に向かっていく、みたいな曲が多いんですよ。MVも雨が降りがちだったり(笑)。降って欲しいと思っていたわけじゃなくて、降っちゃっただけなんですけどね。『ハレノバテイクオーバー』ではMVも晴天に恵まれ(笑)。明るい歌詞ということもあり、すごく前向きなメッセージだし、すごく笑顔で歌える楽曲なんですよね。そういう意味で、また新しい面を見せつつも、意外とヒヨコ群の皆さんが求めていたところに着地できたのかなとは思いますね。
――高揚感もあるし、開幕感や疾走感もあって。
夏川そうですね。ただ、とても勢いのある難しい曲なので、たとえばライブなどで本当に最初に歌って大丈夫なのか、という葛藤はありますよね。いやー……、でもやっぱり最初に「始まるんだ」って、歌いたいですよねえ。本当に頭を悩ませるんですよ。今回は頭を悩ませる楽曲ばかりで。
――曲順という意味では、最初に『クラクトリトルプライド』を聴いたときは明るい曲だったので、夏川さんの言う大団円がどういうものになるのか、想像がついていなかったんですけど、ライブで披露されたものを見たり、2ndアルバムの曲順で『クラクトリトルプライド』を最後に聴くと、めちゃくちゃ大団円感を感じるんですよね。
夏川“Pre-2nd”で歌った『クラクトリトルプライド』は、もう私が田淵さんにお願いしていた大団円そのものだったんですよ。「そうそう、こういう大団円がやりたかったんです」という、私がイメージしていた、まさにそのものだったんです。あれは本当にすごいなって思いましたね。ライブでの仕上がりまで見据えてというか、こうなるだろうなというイメージが田淵さんにはきちんと見えているから、ああいう曲を書かれたんだと思いますし。だからたぶん『ハレノバテイクオーバー』も、ライブの最初にやってほしいと田淵さんは思っているんじゃないかと。
――大開幕ですね。そのあたりも楽しみにしたいと思います。続いて『烏合讃歌』ですが、これはどんな曲になっているのでしょう。
烏合讃歌
夏川これは私がヒヨコ群、ヒヨコ群と言っていたことの集大成じゃないですけど、ひとつの完成系というか。ヒヨコ群の群歌です。
――群歌。
夏川“烏合”というのは、つまりヒヨコです。ヒヨコの群れを指しています。いちばんオーソドックスに、「夏川のソロ曲ってこうだよね」をやっている楽曲ですね。作詞は夏川が書いて、その言葉にちょっとダークなところがあったり、トゲトゲだったり。作曲と編曲はHAMA-kgnさんにやっていただいて。
歌いかたも『ステテクレバー』や、あのあたりの歌いかたにしています。だから、正解がずっと見えていた楽曲でしたし、明確にこうやろう、こう歌おう、こう作ろうみたいなものが私はもちろん、たぶんスタッフのあいだでもちゃんとあった曲だと思いますね。
歌詞も本当にスッと書けました。テーマを決めてから本当に早かったですね。タイトルに関しては少し揉んだというか、私の中では少しタイトルで引っかかったところはあったのですが、“烏合”という言葉が浮かんでからはすんなりでした。そこから“烏合”を軸に歌詞をちょっとだけ書き直したりして。
Dメロの最後で言う言葉をタイトルにしたいと思いながら作詞を進めていたんですが、“烏合”というとてもいい言葉が見つかってしまったんですよ。使ってみたら全体的にちょっとダークでかわいいじゃん、と。私の中では“烏合”が本当に最高の言葉で。なんていうのかな、毒の加減と言っていることのメッセージ性と、頭の中で映像化したときの“シュールかわいさ”が絶妙な配合で、ほどよくカッコ悪くて、ほどよくカッコいい感じが、すごく夏川っぽいなって思っています。そこから一気に曲のイメージが固まりましたね。
――その映像というのは、自分の中でなんとなく浮かんでいるものなのでしょうか?
夏川最近はとくにそうなんですが、今回新しく書いた4曲に関しては、頭の中でアニメーションMVを流しながら歌詞を書いていました。『烏合讃歌』は、けっこうカットがパチパチ変わる歌詞なんですけど、サビではドラクロワの“民衆を導く自由の女神”をイメージして歌詞を書いています。
――いや、まさにこの曲を聴いたときに頭に浮かんだイメージがそれでしたね。ちなみに今回も毒がしっかり盛り込まれていて、夏川さんらしい歌詞だな、と。
夏川もしかしたら傷ついちゃう人がいるかもしれない(笑)。「アナログ好きの賢者サマ」あたりが刺さっちゃう人もいるかもしれない。
――そこめっちゃ言うな、と思って(笑)。
夏川貶しすぎてはいないですよ!(笑)。賢者って言ってますから。賢者であることは認めてますからね。
――「難点は 僕ら全員が 弱いパンチしか 持たないこと」というフレーズもめちゃくちゃいいな、と。
夏川私もそこ好きです。パンチ弱いんだよなって(笑)。
――(笑)。『ハレノバテイクオーバー』や『烏合讃歌』あたりはやっぱりライブで、みんなで盛り上がるだろうなというのが、すごくよくわかる曲になりましたね。
夏川士気を上げる曲というか。「ライブやるぞ!」、「僕らは仲間だ!!」という、ヒヨコ群どうしの仲間意識をさらに強くさせる楽曲になったなと思いますね。私的には自分が書く曲の中で、アルバムのテーマに触れたいと思っていたので、『烏合讃歌』で“喜怒哀楽”という言葉を使っていたりします。
自分の中でも、自分の言葉で、このアルバムの全体的な構造を提示しておきたいぞ、という曲でもありますね。
――個人的には『イエローフラッグ』が好きなので、『烏合讃歌』にはそのテイストを感じて、とても好きな楽曲になりました。
夏川うれしい! 『烏合讃歌』は、まさに『イエローフラッグ』を自分で書こうと思って書いた曲なんです。『イエローフラッグ』はワタナベハジメさんに書いていただいた詞なんですけど、これまでもライブのオープニングで使ったり、特別な演出をしたりしてカッコよくやっていたつもりなんですよ。ヒヨコ群にとってのテーゼじゃないけど、そういう曲にしようと思っていたので。
その続編というか。それをさらに自分の言葉で言うならば、という感じです。だから本当はフェーズ2の『イエローフラッグ』的な立ち位置の曲というか。歌詞のいちばん最後の「我ら天下一ヤワな羽毛の群」が私、本当に好きな言葉で。自分で書いといていちばん好きなフレーズなんですけど(笑)。これが言いたかった。もう、ほどよくダサいし、ほどよく弱いじゃないですか。かわいいですよね。天下一ヤワな羽毛の群。かわいい。
――ふわふわしてそうですね。
夏川そう! ふわふわしてるけど、なんかちょっとイキって法被とかを着てそう。ヤンキー座りとかしてそうな感じ。早くこの1行をみんなに聴かせたくて仕方ないんです。
――(笑)。ぜひ発売後にフルで最後まで聴いていただければということで。続いて『トオボエ』ですね。
トオボエ
夏川この曲はけっこう意外だった曲ですね。作っていく中で自分の認識、私がこの曲に感じていた認識がどんどん変わった曲で。さっきもアレンジでいちばん変わった曲と言ったんですけど、最初は「夏川の曲じゃないかもな」と。デモの段階では早々に「これじゃないかもなあ」と言っていた楽曲だったんですよ。
ただ、その後いろいろ選曲会議で揉んでいく中で、アルバム全体として“怒”にあたる曲がもう1曲くらい欲しかったのと、1stアルバムでいうところの『ステテクレバー』みたいな、ライブでやったときに、お客さんがノリやすくて、イントロを聴いて「うわー」ってなれる楽曲がもう1曲欲しいよね、という話が出てきて。じゃあメロ(メロディー)的には『トオボエ』がいいのかな、ということで選ばせていただいた曲でした。だから、もともとの爽やかなイメージから“夏川の曲”になるようにアレンジでどうにかしてほしいという話はしました。
――“夏川の曲”というのは?
夏川なんて言うんですかね。“夏川が歌うことでよさが出る曲”にしたい、自分の色をもう少し出したいという感じです。この曲は『チアミーチアユー』などの曲を編曲してくださった川崎智哉さんにアレンジをお願いしています。本当にいつもお世話になっている方で、今回もイントロのパターンを2パターン用意してもらったり。
――イントロを2パターン用意するなんてこともあるんですね。すごい。
夏川そうなんです。『トオボエ』は、かなりアレンジを揉んでもらったすえに出来上がった曲ですね。結果としてライブ向きな曲になったと思いますし、ライブで披露することを想定したときに、セットリストのどこに置いても、イントロですぐに何の曲が来たかがわかって「うわー」ってなる感じというか、「うわーキター!」となる様子が想像しやすい楽曲になりました。
不思議なもので、メロはデモのときからほとんど変わってないんですけど、アレンジが変わるだけで、だいぶ曲の印象も変わるし、私っぽくなるんですよね。キーもメロも何も変わっていないんですけど、すごく変わったな、と。だから、これからデモを聴く耳が変わったような気がしますね。私はけっこうすぐ判断しちゃうんですよ。「これは違うな」って。それで、たまにうちのディレクターから「いや、もうちょっと考えてほしい。俺はめちゃくちゃいいと思うから、もうちょっと粘っていい?」と言われたりするんです。それってこういうことだったんだなって。こういうことがあるから、「もうちょっと粘っていい?」と言ってくれているんだなと思えました。
――なるほど。ちなみに作詞は、編曲があがってくる前に書き始めているのですか?
夏川この曲はデモの段階で1コーラスまで完成していて、その音源はもらっていました。「メロなどは大きく変えないです」というお話をうかがっていたので、並行してアレンジをお願いしていたと思います。歌詞はアレンジが来てから書いてもよかったんですけど、とりあえず1コーラスさえできちゃえば、それ以降を書くのは派生させるだけだから楽なところもあるので、その時点で存在していないDメロが来ることを考えると、1コーラスだけでも早めにやっておいたほうがいいだろうな、と思ってアレンジの前から書き始めていました。
もしかしたらアレンジを若干歌詞に寄せてもらったところもあるかもしれないですね。イントロが来たのはたぶん歌詞が上がってからだったので。『トオボエ』のオオカミ感とかを歌詞からくみ取って出していただいているかもしれないです。その辺は詳しくお聞きしていないのでわからないですが。
――最初に、夏川さん感があまりないからこれは違う、となったところから作詞をしていくのは、なかなかたいへんなんじゃないかなと思ったのですが。
夏川たいへんでした。もともとのデモが爽やかで、デモについていた仮の歌詞もすごく爽やかな歌詞だったんですよ。「夢に向かって世界を駆けろ」みたいな、とてもいい歌詞だったんですけど。
――それはそれでいいじゃないですか(笑)。
夏川いやいやいやいや。「弱いパンチしか打てなくて、烏合になってみました。天下一ヤワな羽毛の群」とか言っている夏川が、いきなり世界だの、駆け出すだの、夢がどうの希望がどうのっていうのはおかしいじゃないですか(苦笑)。絶対に「誰、お前?」ってなるじゃないですか! だから、これはさすがに私は歌っちゃいけない歌詞だと思って、めっためったにしましたね。仮の歌詞の原型がまったくなくなるくらい。なるべく仮の歌詞を自分の中で排除して書きました。
――それは聴く側の人間にはわからない苦労という感じがしますね。
夏川それこそ、新曲の中でどの曲を作詞するかという話になるんですが、私としては提供の詞と自分が書く詞はつねに半々くらいがちょうどいいと思っているんです。今回は新曲が9曲ですから、私が書く曲を4曲にすれば“喜怒哀楽”で1曲ずつ書けるじゃん、と。
ちなみに『トオボエ』は“怒”のつもりで書き始めているんですけど、あえて“怒”で『トオボエ』を選んだのは、デモが自分とはかけ離れた曲だったからこそ、少しでも自分でコントロールするために、自分で書くのがたぶん最適なんだろうなあと考えたからです。それって自分にしかわからない感覚だと思うんですよ。世界がどうの、夢がどうのという内容が自分に合わないと思っている感覚は、私以外の方には伝わりづらいだろうな、と。ディレクターからも「自分と遠いからこそ自分で書いたほうが単純に愛着も湧くだろうし、それがいいと思う」と言ってもらえて。でも、難しかったですね。夏川らしさを出そうと思って、ネガティブでちょっとダークな言葉を使おうとしてみたら、メロの雰囲気に合わなくなってしまったり。
――ああ、なるほど。
夏川Aメロ、Bメロ、サビにかけての疾走感というか、その流れに沿えなくなっちゃうんですよね。かといって、感情を出しすぎるとちょっと臭くなりすぎるというか。一人称になり過ぎると臭くなりすぎるなと思って、本当にいろいろ試作した結果、動物をモチーフにしつつも、その動物をちょっと隠すというか。直接的に言わない状態で書くとちょうどいいな、ということがわかったんです。
――紆余曲折あって、そこにたどり着いたと。動物をモチーフにするというのは……?
夏川私の中では子犬とか、狼の子どもか、柴犬みたいなものを思い浮かべていて。これも映像を自分の中で作りながら書いてるんですけど、暗い森の中を子犬が走っているんです。たぶん何か嫌なことがあって走っているんですけど、サビの最後の「縋ったもん 手放したのは 嘘じゃないから」の後に、「あおーん!」って鳴いている感じで(笑)。山の頂上に立って、月をバックに「あおーん!」って。それが若干情けなく見えるというのをイメージして書きました。
後はやっぱり疾走感のあるメロだったので、子犬が走っている足元に目がいく感じが出せるといいなと思って、“靴痕”という単語を入れてみたりしています。
――そういうところにもこだわりというか、イメージのヒントみたいなものがあるんですね。続いては『サメルマデ』について伺えれば。
サメルマデ
夏川これは作詞・作曲をやぎぬまかなさんにお願いしています。私が大好きな“カラスは真っ白”というバンドのボーカルを担当していて、ずっと曲を書いていらっしゃる方です。私は本当に大好きなんですよ、カラスは真っ白が。
じつは『フワリ、コロリ、カラン、コロン』のシングルあたりから、ずっと「カラスは真っ白みたいな曲がやりたいんです」と言っていて。でも、アバンギャルドというか、なんて言ったらいいんですかね……。『サメルマデ』もそうなんですけど、けっこう耳がバグる感じの楽曲を書かれる方なので、『フワリ、コロリ、カラン、コロン』の時点でそれをやると、そのイメージが付きすぎちゃうんではないか、という懸念がありました。
それでもずっと口酸っぱく「カラスは真っ白がいい」、「カラスは真っ白がいい」と言い続けていたんです。そんな折、『クラクトリトルプライド』のカップリング曲コンペで集まったデモをいろいろと聴いている中で、唐突にカラスは真っ白の新曲が流れてきたんですよ。「え?」って。
――この曲の雰囲気知ってるぞ、と。
夏川じつはやぎぬまさんも、そのコンペに参加してくださっていたようで。やぎぬまさんが書いた曲だとは知らずにデモを聴いていたんですけど、ご本人が仮歌を歌っていらしたので、それはもうそのまま、カラスは真っ白だったんですよ! コンペの曲を聴いていたと思ったら、カラスは真っ白の新曲が流れてきたんです。急に。耳の中に。
――どこにも出ていない新曲が(笑)。
夏川(笑)。「え、これまさかとは思いますけど、やぎぬまかなさんですか?」と確認したら、やっぱりやぎぬまさんで。実際、曲もよかったし、やりたかった曲調でもあったのですが、『クラクトリトルプライド』は“楽”でまとめることが決まっていたので、そのときは『That’s All Right !』をカップリングに選んだんです。でも、やぎぬまさんの曲に関しては「キープです!」と伝えて。それで「いつやろうね? いつやろうね?」って、ずっと機会を窺っていた曲なんですよね。
――では、ある程度、夏川さんの曲のイメージの地固めができたからこそ、いま発表できるようになったというか。
夏川そうですね。こういう楽曲をやれるような人になりたいな、ということはずっと思っていたんです。なるべく早めにやりたいけど、シングルのような曲数が少ないものでやるにはだいぶ尖っているので、お客さんがビックリしちゃうと思うんですよね。なので、均すためにはここしかないと(笑)。アルバムだから新曲も9曲入っているし。その中でこういう曲が1曲くらいあったほうが……、いや、むしろ逆に欲しいでしょ、と。
――なるほど(笑)。こちらの曲は作詞も作曲もやぎぬまかなさんなんですね。
夏川せっかくやぎぬまさんに曲を書いていただくなら、詞もぜひやぎぬまさんにお願いしたい、と思ったんです。ここに関しては強く強く「やぎぬまかなさんにお願いします!」とお願いした楽曲ですね。
カラスは真っ白のときからそうなんですが、言葉選びが独特なんですよ。すごく集中して考えると、なんとなくこういうことかな、という解釈が浮かぶんですけど、でもそれはたぶんご本人にしかわからなくて。私の解釈は、Aメロの「だって 飽きるくらい同じ果実ばっか」でAppleのあのリンゴのマークが思い浮かんで、「宙に浮かぶのは三角形」の部分で、三角形の再生ボタンをイメージして……なんとなく現代社会みたいなものを示唆しているんじゃないかなって思っちゃうんです。
――あー、なるほど。言われるとたしかにそう解釈できますね。
夏川ずっとくり返しの生活の中で、いろいろな機会が溢れているんだけど、鬱屈とした感情を言葉にできなくて、「ああ……!」ってなっているみたいなイメージが私の中ではあるんです、この曲に。あくまで私の勝手な解釈なので、本当にそういう解釈なのかはわからないんですけど。どうとでも解釈できるけど、でも一本筋が通った詞を書けるのは、やぎぬまさんの感性だなって思います。
逆に言うと、私はこういう歌詞を書こうと思っても絶対書けないんですよ。だから、詞を提供してもらうというのはこういうことだよな、と今回すごく感じました。『サメルマデ』の詞を見て。絶対書けんもん。
――(笑)。
夏川「すごい!」、「こんなカッコいい歌詞を歌えるのか、ありがてえ」と思いましたね。
――ちなみに、やぎぬまかなさんとはお会いになられたんですか?
夏川はい、お会いできました。レコーディングとTD(トラックダウン)で2回お会いしているんですけど、やぎぬまさんも私がラジオとかで「カラスは真っ白が好きだ」という話をしていたのを知ってくださっていたみたいで。それでコンペの話がきたときに、カラスは真っ白でよくやっていたことを意識して作ってくださったそうなんです。実際、本当に“カラスは真っ白節”がすごく感じられる曲になっていました。
――ファン冥利に尽きるというか。
夏川本当に。あと、すりぃさんのときもすごく思ったんですけど、曲を書かれる方が軽率にデモで仮歌を歌っちゃうんですよ。「そんな! いいの!?」みたいな(笑)。ちなみに田淵さんも自分で歌われています。しかも、あんなにキーが高い曲なのに、裏声のままでずっと歌っていて。
――それであの早口を歌う。
夏川そうなんですよ。
――すごいなあ。
夏川私が『ハレノバテイクオーバー』をちょっと簡単かもと思ってしまったのは、田淵さんが易々と歌っていたからかもしれないです(笑)。
――そんなところに原因が(笑)。でも、そのデモ音源を集めたら夏川椎菜カバーアルバムみたいなものが出来上がるわけですよね。夏川さんの中で。
夏川そうですね。すごく豪華なものになる。でも、私だけの宝物です。社外秘(笑)。
――(笑)。『サメルマデ』は曲もかなり変わった曲でしたね。
夏川掴みどころがないというか。急にバグるし。ジュ、ジュ、ジュ、ジュ、みたいな。
――そことか、本当にどうなっているんだろうと思いますよね。
夏川私もレコーディングのときに苦戦したところです。「リズムが取れない」って。それこそレコーディングに来ていたやぎぬまさんに解説をしてもらったんですよ。すると「リズムは死んでない」と。リズムが変わっているわけではなく、ずっと裏で四つ打ちはあるんだけど、四つ打ちの音がないから取りづらいだけで。「タイミング的には四つ打ちで取ると“どん”のところにちゃんといます」と教えていただきました。ただ、そのあいだに入っているあのジャアジャアという音が掻き乱すから、バグって聞こえるという。それがカッコいいと思っていると仰られていて、なるほどと。
――めちゃくちゃインパクトがあってカッコいいと思います。でも、ライブはどうするんですかね。
夏川どうするんでしょうね(笑)。これはもうバンドさんがたいへんな曲だと思います。