2007年に誕生した賃貸不動産経営管理士資格。2021年には、賃貸住宅管理業法の施行規則の公布をもって国家資格となりました。
賃貸不動産経営管理士資格は今不動産業界で働いている方にとって非常に注目度の高い資格となっており、特に賃貸業務を行っている宅建業者で働いている人にとっては宅建に次いで取得すべき資格になったとも言えるでしょう。
本コラムでは、宅建士と賃貸不動産経営管理士の違いを難易度や業務内容を比較しながら解説、さらに資格を両方持つことのメリットなどについて解説します。
目次
賃貸不動産経営管理士と宅建士 業務の違い
宅建士は独占業務のある国家資格で宅建士にしか行えない業務、独占業務があります。
一方賃貸不動産経営管理士は2021現在、独占業務と言えるものがなく、賃貸不動産経営管理士の行う業務は宅建士の資格や業務経験等で代替する事が可能です。
しかし、賃貸不動産経営管理士が国家資格化したという事は、近い将来、賃貸不動産経営管理士と宅建士の扱う業務は差別化がされる可能性が高いです。
それでは、賃貸不動産経営管理士と宅建士の業務は現状どのように分かれるのでしょうか。詳しく解説していきたいと思います。
賃貸不動産経営管理士に期待されている業務
賃貸不動産経営管理士は賃貸経営のプロとしてオーナーが円滑な賃貸経営を行う為のサポート業務を期待されています。
しかし上述した通り2021年現在、有資格者の独占業務という物はありません。
ただ、これから独占業務化されるであろうと考えられている業務に下記の3点があります。
- 受託管理契約締結時の重要事項説明
- 特定賃貸借契約締結・更新時の重要事項説明
- 業務管理者となる事
それぞれの業務について解説します。
受託管理契約締結時の重要事項説明
受託管理契約とは賃貸物件を持っているオーナーから、その賃貸物件を管理させてもらう契約です。
賃貸物件の管理に関する契約内容は素人からしてみれば複雑で理解が難しい為、事前に契約の内容の重要事項を説明してから契約を締結しなければなりません。
この重要事項の説明は賃貸経営に精通している人物にて行う事が推奨されており、将来的には賃貸不動産経営管理士が担っていく事が期待されています。
特定賃貸借契約締結・更新時の重要事項説明
特定賃貸借契約とは一般的にサブリースと言われている契約です。
簡易的に説明すると、賃貸物件を持っているオーナーから管理業者が建物を借り、管理業者が入居したい人に対して又貸しするといった契約です。
サブリースは受託管理契約に輪をかけて複雑な契約で、今まで数多くのトラブルを生み出してきた契約方式になります。
そこで、この特定賃貸借契約を新規契約、更新する場合にも必ず重要事項説明を行う事が管理業者の義務とされました。
上記、受託管理契約の場合と同様に賃貸不動産経営管理士が重要事項説明を担う事を期待されています。
業務管理者となる事
管理業者は各営業所毎に業務管理者という賃貸管理業務に精通した人物を1名以上必ず配置しなければなりません。
つまり、業務管理者になれる人間がいない場合、管理業者は営業活動を行う事が出来なくなります。
業務管理者となれる人物の要件は2021年現在、宅地資格や実務経験で代替できますが、将来的には賃貸不動産経営管理士である事に限定される可能性があります。
宅建士が行う業務
宅建士は宅地建物の売買、賃貸借等の取引を仲介するプロとして独占業務のある資格になります。
宅建士が行う事のできる独占業務には下記の3点があります。
- 宅地建物を売買、賃貸借する際の重要事項の説明
- 宅地建物を売買、賃貸借する際の重要事項説明書への記名、押印
- 宅地建物を売買、賃貸借する際の契約書への記名、押印
ひとつずつ解説していきます。
宅地建物を売買、賃貸借する際の重要事項の説明
宅地建物の取引を行う際に、宅建業者は取引の相手方(買主や借主)に対して必ず契約と契約の対象になっている宅地建物の重要事項を予め説明しなければいけません。
この重要事項を行えるのは宅建士証をもつ宅建士に限られます。
宅地建物を売買、賃貸借する際の重要事項説明書への記名、押印
重要事項は書面にして取引の相手方に交付しなければなりません。
その際の書面には説明をする宅建士の記名と押印が必要になります。
つまり、書面への記名、押印、相手方への説明をもって、ようやく契約を締結する事が出来ます。
宅地建物を売買、賃貸借する際の契約書(37条書面)への記名、押印
重要事項説明を終えた後、取引の契約書(37条書面と言われます)を買主と売主の間で取り交わすことで、取引を終えることができます。
この際の契約書にも必ず宅建士の記名、押印が必要になります。
ただし、これは重要事項を説明したのと同じ人物である必要はありません。
宅建士の業務内容について、詳しくは下記のコラムをご覧ください。
賃貸不動産経営管理士と宅建士 難易度・合格率を比較
結論からいうと、合格率を比較すると宅建士の方が低いですが、賃貸不動産経営管理士も国家資格に伴い徐々に合格率が下がってきました。
平成28年から令和2年までの賃貸不動産管理士と宅建士の合格率推移は下記のようになっています。
| 年度 | 賃貸 | 宅建 |
| 令和3年 | 31.5% | 17.9% |
| 令和2年 | 29.8% | 16.8% |
| 令和元年 | 36.8% | 17.0% |
| 平成30年 | 50.7% | 15.6% |
| 平成29年 | 48.3% | 15.6% |
| 平成28年 | 55.9% | 15.4% |
賃貸不動産経営管理士試験の難易度・合格率
平成28年から令和3年までの賃貸不動産経営管理士の受験者数、合格者数、合格率は下記の通りです。
| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
| 令和3年 | 32,459名 | 10,240名 | 31.5% |
| 令和2年 | 27,338名 | 8,146名 | 29.8% |
| 令和元年 | 23,605名 | 8,698名 | 36.8% |
| 平成30年 | 18,488名 | 9,379名 | 50.7% |
| 平成29年 | 16,624名 | 8,033名 | 48.3% |
| 平成28年 | 13,149名 | 7,350名 | 55.9% |
賃貸不動産経営管理士は試験が実施されてから、それほど年数が経っておらず、国家資格化が決定してから、問題の出題傾向や難易度も急変しました。
つまり、試験対策が確立されていない試験であると言えます。
国家資格化に伴い、2022年以降試験の合格率は更に下がっていく可能性があります。
関連コラム:賃貸不動産経営管理士が国家資格に!気になる試験の動向は?
宅建士試験の難易度・合格率
宅建試験の合格率は、例年15~17%となっています。
毎年20万人以上が宅建試験を受験し、そのうち合格できるのは約3万人です。
平成28年から令和2年までの受験者数、合格者数、合格率は下記の通りとなっています。
| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
| 令和3年(10月実施分) | 209,749人 | 37,579人 | 17.9% |
| 令和2年 | 204,250名 | 34,338名 | 16.8% |
| 令和元年 | 220,797名 | 37,481名 | 17.0% |
| 平成30年 | 213,993名 | 33,360名 | 15.6% |
| 平成29年 | 209,354名 | 32,644名 | 15.6% |
| 平成28年 | 198,463名 | 30,589名 | 15.4% |
宅建試験自体は名称が変わりつつも60年程前からある試験ではありますので、豊富な過去問と試験対策がある程度確立されている試験になります。
難易度が高くても時間をかけて勉強すれば必ず合格する事ができる試験であると言えるでしょう。
賃貸不動産経営管理士と宅建士の試験内容は?
賃貸不動産経営管理士試験の試験内容
賃貸不動産経営管理士の試験内容は以下の通りとなっています。
| 1 | 賃貸管理の意義・役割をめぐる社会状況に関する事項 |
| 2 | 賃貸不動産経営管理士のあり方に関する事項 |
| 3 | 賃貸住宅管理業者登録制度に関する事項 |
| 4 | 管理業務の受託に関する事項 |
| 5 | 借主の募集に関する事項 |
| 6 | 賃貸借契約に関する事項 |
| 7 | 管理実務に関する事項 |
| 8 | 建物・設備の知識に関する事項 |
| 9 | 賃貸業への支援業務に関する事項(企画提案、不動産証券化、税金、保険等) |
宅建士の試験内容
宅建試験の試験内容は以下の通りとなっています。
試験科目は4科目となり少なめと感じるかもしれませんが、法定地上権や宅建業法に関する深い知識が必要です。
| 1 | 権利関係 |
| 2 | 宅建業法 |
| 3 | 法令上の制限 |
| 4 | 税・その他 |
宅建の試験問題について詳しくは 、詳しくは下記のコラムをご覧ください。
賃貸不動産経営管理士と宅建士 必要な勉強時間は?
賃貸不動産経営管理士試験合格に必要な勉強時間
賃貸不動産経営管理士試験の合格までに必要な勉強時間は、最低100時間ほどといわれています。
毎日2時間程度の勉強時間を確保できれば、2~3ヶ月ほどで合格に必要な勉強時間に到達します。
しかし、賃貸不動産経営管理士は国家資格化によって注目を浴びてはいますが、それ以前は不動産業界全般というよりは賃貸管理業者の従業員の一部が受験する資格といったイメージでした。
つまり、ある程度前提知識をもった人が多く受験していた試験なので、それであれば上記の勉強時間で充分だったといった考え方もできます。
特に国家資格化決定以降問題の難易度上昇は顕著ですので、全く知識のない方が一から勉強を始める場合は、これ以上の時間が必要になるかもしれません。
宅建士試験合格に必要な勉強時間
宅建試験に合格するために必要な勉強時間は、およそ300~400時間といわれています。
毎日3時間勉強した場合、勉強期間は約3~4か月は必要です。
ただし、実務経験のある宅建業者の従業員であれば更に短い時間で合格する事も可能でしょう。
逆に知識0の方が一から受験する場合は上記の1.5~2倍程、勉強しなければならないと考えた方が良いです。
賃貸不動産経営管理士と宅建士 ダブルライセンスのメリット
賃貸不動産経営管理士と宅建士、両方の資格を持っていると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
業務・転職に有利
一般的に賃貸管理業務と宅地建物取引業務は兼務されている会社が殆どです。
つまり、どちらの資格も持っていれば、管理業務も取引業務も行う事が出来るため、社内での活躍の場が増えます。
元々賃貸管理は宅建業者が担っている事がほとんどで、管理業法の施行以前に「管理業者」という名称は、一般名称として存在しても法的には存在しなかったので(疑似的な制度はありましたが)それを規制する法律も特にありませんでした。
つまり、現在、管理業者として国に対して登録を行っているのは大半が賃貸管理業務も行っていた宅建業者になります。
賃貸の管理と宅地建物取引の両方の業務を行えるダブルライセンス保持者は社内や転職時に重宝されるかと思います。
内容が近い+試験日が近いので受験しやすい
宅建の試験は10月、賃貸不動産経営管理士の試験は11月と試験期間が近いです。
試験内容も共通する部分が多い為、宅建の勉強を続けてきた人ならそちらの知識も充分残っており、合格の可能性も高まります。
そもそも上述した通り、宅建業と管理業は密接な関係にあります。
それぞれの業法に関しても似通った部分がありますし、民法の問題は両者の試験勉強での知識を相互で生かすことができる為、同時取得を目指す事は合理的であると言えます。
どち
賃貸不動産経営管理士と宅建士 どちらを先に取得するべき?
結論としては宅建士の資格を先に取得すべきです。何故なら2021年現在、宅建士は明確な独占業務が存在するからです。
上述した通り、宅建業者と管理業者は同じ会社が兼務していることが多いです。
管理業をメインとしている業者に勤務、または転職を考えている場合でも間違いなく宅建士の資格の方がプラスに働くきます。
管理業務は特に資格がない人でも行う事が出来ます。
しかし、取引業務は資格を持っている人間がいないと1人で完結させることができず、会社からしてみれば、無資格者は半人前という扱いをせざるを得ないでしょう。
ただ、現状宅建士の資格の方が難しいことも事実です。
国家資格化し、今後さらに難易度が上昇している事も踏まえると、今のうちに簡単な賃貸不動産経営管理士を先に取得しておこうと考える人もいるかもしれません。
その場合は必ず宅建士の勉強も並行して行うようにしましょう。
上述の通り両者は試験内容に似通った点が多く、勉強内容を相互にフィードバックできるからです。
仮に賃貸不動産経営管理士試験に合格して、翌年宅建試験を受ける際にも必ず役に立ちます。
現状、賃貸不動産経営管理士資格は宅建士と比較して取得しても直ちに実務に結びつく資格ではありません。
しかし、今後、宅建士との差別が行われた場合、大きな価値がある資格へと変わる可能性も秘めています。
自身の目的や現状を踏まえたうえで、どちらの資格を取得すべきか、または両方取得するのかを決めると良いと思います。