ロシアの「外堀」を埋める行動
中国としては、4日からの「平和の祭典」を開いている中で、ロシアがドンパチやることだけは避けてほしい。そんなことになれば、北京五輪は失敗だったということになり、今年後半の「習近平総書記3選」に暗雲が垂れ込めてくるからだ。
ロシアには、「前科」がある。2008年8月8日、北京夏季オリンピックの開会式当日に、ジョージアに攻め込んだのだ。いわゆる南オセチア紛争だ。
私は当時、北京で取材していたが、中国外交部の人たちはカンカンになって怒っていた。ブッシュ大統領もプーチン首相(当時)も北京にいたのだが、たちまち非難合戦や調停交渉の場に変わってしまった。「平和の祭典」の主役だった胡錦濤(こ・きんとう)主席の対面は、丸潰れだ。
そうした様子を、脇で目撃していたのが、習近平副主席である。「オリンピック期間中のロシアに要注意」と、気を引き締めたはずだ。だから今回も、「大会期間中だけは戦争をやめてくれ」と要請している。
もしもプーチン大統領がそうした要請に耳を傾けず、「春になると氷雪が溶けて軍の身動きが取れなくなる」とか言って戦争に突入していったら、どうなるか。そうなったら、習近平主席の権威を、一気に落とすことになる。
国際的にもそうだが、重ねて言うが、「本番」と捉えている共産党大会に影響してくる。総書記3期目を盤石にするには、大会期間中、ロシアに忍従させる必要がある。
そのため、中国はすでに、ロシアの「外堀」を埋める行動にも出ている。もう一度、前述の「来賓者リスト」を見てほしいが、旧ソ連圏に属する中央アジアの5ヵ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)の首脳が、ズラリと顔を揃えている。
年初の1月5日から大混乱になったカザフスタンのカシム・トカエフ大統領など、国を空けて大丈夫かとも思ってしまうが、そこはプーチン大統領と習近平主席に、それぞれ軍事的援助と経済的援助の礼を言い、善後策を協議するという意味があるのだろう。
トカエフ大統領は、1883年から翌年にかけて北京語言大学に留学していて、ソ連外務省時代には中国専門の外交官だった。流暢な中国語を話す親中派大統領で、大統領就任直後の初訪中(2019年9月11日~12日)の際には、CCTV(中国中央広播電視総台)のインタビューに中国語で答え、「一帯一路」を絶賛した。