経済再生相の西村康稔氏が会見で強調していたという。産経記事が注目を集めているようだ*1。
ワクチン非接種の看護師12人が感染 沖縄の県立病院 - 産経ニュース
西村氏は「医療機関や高齢者施設のクラスターは減少傾向にある。ワクチン接種を進めているので、こうしたことは珍しい」と指摘。そのうえで「ある棟の看護師らがワクチン接種を希望していなかった。十何名だ。看護師では珍しいが、十何名のうち、12名が感染したと聞いている」と語った。
同病院はコロナ治療を担う重点医療機関。5月下旬から職員や患者の計51人のクラスターが発生し、うち入院患者17人が死亡した。
同じ会見を報じた琉球新報でも同じくだりがあるが、同時にPCR検査をしていなかった問題にも言及している*2。
西村大臣「ワクチン接種進めることが大事」 沖縄の状況「非常に危機感」 - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト
感染患者のPCR検査の遅れがクラスター発生につながった可能性があることにも触れたほか、感染者に看護師15人が含まれる点にも言及。「医療機関の看護師では珍しいが、十何名打っていなかった方のうち、12名が感染したという風に聞いている」と述べ、15人のうち12人がワクチン接種を希望していなかったと強調した。
この西村氏の説明から看護師の反ワクチン思想を疑い、その責任を問おうとする反応がある。
b.hatena.ne.jp
感染症専門医としてYAHOO!個人記事で情報発信している忽那賢志氏も、「ワクチン接種を希望していなかった看護師」の事例として参照している。
news.yahoo.co.jp
ただし忽那氏は、「接種しない権利」は個人では守られるべきと明言しているし、医療従事者についても義務化している外国の事例をひきつつ即断はさけている。
特権を持つからには「可能な限り患者さんの安全を守る努力をする」ことが求められるのではないか、というのが私個人の意見です(もちろんアレルギーなど医学的な理由でワクチンを接種できない医療従事者は責められるべきではありません)。
上記のように、医学的な理由で接種がむずかしい事例も想定している。それが「希望していなかった」という表現にふくまれる可能性もあるだろう。
そこで中部病院の記者会見を聞くと、「希望していなかった」とまとめられた12人に、1回目の接種をした人もいると説明されているようなのだ*3。
音声が小さく不明瞭なこともあって説明がわかりにくいが、たしかに記者に問われて1回接種した例を認めているように聞こえる。体調不良だった例もあるように聞こえる*4。
17人死亡クラスター発表遅れ 会見取りやめ「県側から要請」 中部病院説明 - 琉球新報デジタル
そもそも段階的に接種を進めている最中だったような説明もされている。
よくよく考えると、産経記事で書かれているように12人が感染したのは5月末のこと。情報が公開されなかったため最近の出来事のような印象があるが。
一方で全国の医療従事者が2回目接種まで完了したのは6月末で、つい1週間ほど前のこと。そこから免疫ができるまではさらに時間がかかるはずだ。
医療従事者 2回目ほぼ完了 全国ワクチン接種の現状は?
当初、政府が見込んでいなかった関係者が接種したことで、100%を上回った数字となっていて、政府では、2回目の接種もほぼ終了したとみている。
つまり12人が感染した時点では、希望しても必ずワクチン接種をすませることはできなかった。5月中旬の東京でも、まだワクチン接種券がこないとツイートでうったえる医療従事者がいた。
hokke-ookami.hatenablog.com
そのようにワクチンの供給が不安定な状況で、同僚に接種の権利をまわすような選択もあったかもしれない。それも「希望していなかった」という表現にふくまれる可能性がある。
いずれくわしい報道が出るだろうが、12人すべてがワクチン接種を望まなかったわけではないことはうかがえる。ひとりでも強く接種をこばんだ証拠すら今のところ存在しない。
産経の「医療機関や高齢者施設のクラスターは減少傾向にある。ワクチン接種を進めているので、こうしたことは珍しい」という西村発言は、時系列の表現として不正確だろう。
それどころか西村発言は、ワクチン接種をいきわたらせる責任をはたせなかった政府が、あたかもワクチン接種を受けるべき側へ責任を転嫁しているようにも読めてしまう。