応用編④視点を移動する~後編~
2019年10月24日 10:49
前回、コーチングセッションで直面する「壁」を打破するのに効果的な、
「視点を移動する」という方法について、
基本的な考え方を解説しました。
今回は、視点を移動するための具体的方法について解説します。
目次
「視点を移動する」の具体的方法
( 0 ) 視点の位置を知る
( 1 ) 視点の主体を変える
( 2 ) 視点を事実に向ける
( 3 ) 視点の時間軸を変える
( 4 ) 視点を仮定に向ける
( 5 ) 視点を広げる
まとめ
「視点を移動する」の具体的方法
( 0 ) 視点の位置を知る
クライアントの視点の移動を促すには、
そのセッションではどの視点に立って物事を見ているか
を知る必要があります。
通常の場合、クライアントは自分が現在置かれている位置から物事を見ています。
視点の移動はクライアントをそこから別の場所へと誘うことです。
優れたコーチは、 クライアントの位置を自在に移動させることができます。
( 1 ) 視点の主体を変える
クライアントが自分の位置からしか物事を見ていないとすれば、
別の主体の位置へと移動することで、大きな「気づき」がもたらされることがあります。
( 2 ) 視点を事実に向ける
人は誰でも、多かれ少なかれ「思い込み」を持っているものです。
思い込みは、クライアントの視点を固定し、可能性や選択肢を制約します。
コーチはクライアントの思い込みを解きほぐし、
「気づき」へと導く重要な役割を担います。
クライアントの思い込みとは別に、
コーチ自身も自分の思い込みによってセッションを運営していることはないか、
よく吟味する必要があります。
コーチの思い込みでセッションが運営されると、
クライアントの可能性が広がるチャンスが失われてしまいます。
コーチは、常に心をニュートラルにして
「クライアントの言葉を受け止める」 というコーチングの基本を
しっかりと胸に刻んでおく必要があります。
コーチは、先入観を持たずにクライアントの言葉に耳を傾けます。
① 事実を整理・確認する
クライアントが理解しているつもりの事柄も、単なる推測や誤解であることがあります。
コーチ は客観的な立場でクライアントの言葉を受け止め、
推測と事実とを区別し明確にするために、確認を繰り返しながら進めていきます。
推測なのか事実なのかを明確にするために、
コーチは、クライアントが自分自身の考えを述べているのか、
それとも客観的な事実を伝えているのかを見極める必要があります。
[例]「 そう思ったのは、具体的にどのようなことがあったからですか?」
② 視点を肯定に向ける
人は、「やっていないこと」や「できていないこと」に意識を向けがちになり、
「既にやっていること」や「できていること」は忘れています。
コーチは、クライアントが「既にやっていること」 ・「できていること」を認め、
クライアントも自分自身を認めることができるように意識を向けさせます。
それまでのコーチングセッションでの進歩を振り返ることも良いでしょう。
コーチは常に、クライアントの成功と将来の成長へ向けての可能性を信じます。
[例]「 セッションを始めてから、できていることは何ですか?」
このような質問に答えることにより、
クライアントは自分自身の持つリソースを確認することができると共に、
それを広げていくことや未知の事柄に取り組むことに対して自信が持てるようになります。
セッションが「壁」にぶつかった時など、
態勢を立て直し、前向きに取り組むことができるようになります。
やってきたことや成功体験を振り返ることで、
クライアントが自分に対して正確な認識を持ち、
受け入れることができるようになることを「自己承認」と呼びます。
自己承認は自己基盤の確立にもつながり、
クライアントのウキウキ、ワクワク感を喚起します。
③ 数値化の視点に立つ
数値化することで、漠然と認識していたものを
よりはっきりと認識することができるようになります。
何となくだめだと思っていたことも、
できている部分・まだこれからの部分が明確になり、
「できている部分」を認めることが容易になります。
[例]「 理想の状態を100としたら、今はいくつですか?」
④ 視点を細分化する
「視点を事実に向ける」ことに関連して、チャンクダウンのスキルを用いて、
細分化された視点 で物事を眺めてみることも有効です。
大くくりで漠然なままではわからなかったことが、
細分化されることで明瞭になるからです。
例えば、とてもできないと思われるような大きな目標でも、
それを達成するための行動を細分化していくことで実現可能だと感じるようになります。
また、アイデアがなかなか出てこないと思われる際も、
適切な質問により細部まで 検討していくことで
行き詰った状態から抜け出す可能性が高まります。
[例]「 まず、何から始めることができると思いますか?」
( 3 ) 視点の時間軸を変える
① 将来からの視点に立つ
現在の状況にばかり気を捉われていることも、
視点を固定しセッションの行き詰まりをもたらす原因となります。
視点を将来、あるいは過去へ移動させることで、
クライアントは現在の自分の状況を別の見方、別の角度で捉えることができるようになります。
[例]「5年後の自分は、今の自分に何と言いますか?」
② 過去からの視点に立つ
過去の成功体験や似たような体験を掘り起こし、
現状へ応用したり、過去の状況から現在を眺めたりする視点を提供します。
[例]「 (仕事など)うまくいった時は、何をしましたか?」
( 4 ) 視点を仮定に向ける
コーチングセッションは、コーチのリードの下、
クライアントが自由に発想を展開することが許される場です。
その特権をフルに生かし、
クライアントの中にあるものをふんだんに引き出し ていきましょう。
① 制約条件を無視した視点に立つ
制約条件を外してみることで、視点や考え方が自由に解放されます。
制約条件の陰に隠れていたものが姿を現わしたり、
制約条件と思っていたことが制約条件ではなくて
選択可能な事柄である ことに気づいたりする場合もあります。
[例]「 もし、何の制約もなかったら、どうしますか?(何をしたいですか?)
② 制約条件を加えた視点に立つ
制約条件を無視するのとは逆に、少し突飛な制約条件を与えると
視点がガラリと変わることが あります。
今まで考えていたのとは全く別の行動を見つけようとするのです。
[例]「 もし、明日で世界が終わるとしたら、どうしますか?」
③ 目標とする人物の視点に立つ
目標を体現している、もしくは目標に最も近いモデルとなる人物を明確にし、
その人ならどうす るかを質問します。
[例]「 もし、あなたの尊敬する人物だったら、どうすると思いますか?」
④ 視点を外部のリソースに向ける
外部からの助けを得ることが「壁」を突破するきっかけになるケースはよく見られます。
現実と して可能かどうかは別として、
①のように制約条件を外し、何があったらできるのかを質問します。
[例]「 あなたを助けられる人がいるとしたら、まずは誰を思い浮かべますか?」
( 5 ) 視点を広げる
時には、セッションで直接的に語られている事柄以外に
目を向けた方が良い場合もあります。
そのことで、視野が狭まった状態から解放され、「気づき」が促されます。
① 視点を感情に向ける
コーチは、問題や状況そのものに焦点を当てるのではなく、
その問題や状況に対してクライアントがどのように感じているのか、
感情・感性に焦点を当てます。
クライアントは自分の感情を明確に認識することで物事に対する捉え方に変化が起き、
「問題が問題ではなかった」ということがはっきりしたり、
別の本質的な問題に気づいたりすることがあります。
また、心の奥底で 気にかけている事柄が何であるかが明確になることもあります。
[例]「 それをやっていて、どのような気持ちがしましたか?」
② 飛躍の視点を持つ
コーチはコーチングマインドを最大限に発揮し、
「クライアントは必ず目標を達成できる」という思いに基づき、
クライアント自身が考えているよりも高い目標をリクエストします。
クライア ントは、最初は驚き、怖じ気づくことがあるかもしれませんが、
コーチからの厚い信頼を感じとり、また自身もコーチを信頼することで、
その目標へ向かう原動力を得ることができます。
これはまさに、コーチがいるからこそできることであり、
コーチングならではの非常に大きな価値だと言えます。
[例]「 あなたならもっとできると思います。目標を2倍にしてみませんか?」
③ 全体の視点を持つ
クライアントは一人の生身の人間であり、
そのパフォーマンスは生活のさまざまな要素からの影響を受けています。
例えば、セッションのテーマが仕事に関するものであっても、
家庭や友人関係、健康といったものの影響を抜きにしては考えることができません。
クライアントの生活全体 のバランスに配慮することで、
新たな「気づき」を得られることがあります。
コーチは、クライ アントとその行動に影響を与えるような
互いに関連したさまざまな要素(例:思考、感情、肉 体、背景)に
クライアントが目を向けることをサポートします。
[例]「 仕事以外では、どんなことが気がかりになっていますか?」
④ 視点を原点に戻す
コーチングセッションはクライアントの目標達成へ向けての一連のコミュニケーションです。
セッションのテーマに関連したさまざまな事柄について
多岐にわたって会話が広がることもありますが、
本質ではないことに捉われて目標を見失うと、
コーチングの本来の価値が損なわれてしまいます。
それもセッションで直面する「壁」の原因です。
山道に迷ったら、無理に進まず位置がわかる場所まで戻るのが鉄則です。
セッションが「迷走」したら「原点」に戻ることを意識しましょう。
[例]「 セッションを通じて達成したい目標を、もう一度確認してみませんか?」
また、クライアントが自ら抱える問題で「壁」にぶつかった場合、
「本来手に入れたいものは何なのか」をもう一度原点に戻って確認することは有効です。
場合によっては、目標そのものが適切であったかどうかについても再度吟味し、
仕切り直しすることが必要です。
まとめ
いかがでしたか?
コーチングセッションで直面する「壁」を打破するのに効果的な、
「視点を移動する」という方法について
基本的な考え方と、具体的方法について2回に分けてお話しました。
クライアントがコーチに期待しているのは、
自分にはない新たな視点を提供してもらうことです。
コーチングの醍醐味ともいえる
目標達成に向けてクライアントと「壁」を乗り越えるためにも
クライアントの視点を移動するための質問をたくさんストックしておきましょう!
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作成者 : 渡邉 大介