渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

映画『グリース』に出てくる革ジャン

2021年02月21日 | open



映画『グリース』(1978年)に出てくる革
ジャンについて。
メーカーの型番検証は後日に書くとして、
まずその種類のタイプと特徴等について。

この映画は、公開時の1978年の約19年前
の1959年を劇中の舞台としている学園青春
ミュージカル映画だ。
フィフティーズのアメリカの束の間の平和
な時代を背景とした若者たちのロマンスを
描いている。
オーストラリア在住のお嬢様のコニー(オリ
ビア・ニュートン・ジョン)は別なハイス
クールの同学年のダニー(ジョン・トラ
ボルタ)とアメリカの夏のバカンスの海岸
で出会って恋に落ちる。
物語の流れからして、どちらも異性経験
無しのピュアティーンだ。異性と付き合っ
た事さえない。
そして、9月に学年が変わり新学期が始ま
って、ダニーは仲間たちに夏の淡い思い出
を語る。
一方、コニーも女の子仲間の女子高生たち
に夏のダニーの思い出をとっても優しくて
素敵な人だったの、と語る。
二人の場面は歌いながら踊るミュージカル
独特のオープニングとして描かれる。
ところが。
突然、歌い踊る最中にバンとぶつかるよう
に二人は高校の校庭で出会う。
コニーは父親の仕事の関係でアメリカに
転住して転校したが、それは偶然ダニー
の高校だったのだ。
青春ラブコメ展開の王道である。絵に描い
たような黄金パターンである。食パンダッ
シュではないが、このぶつかるように出会
うが、それは運命の人、という展開。
大抵は転校生だったりする。
このパターンは、日本の劇画『バリバリ
伝説』や『あいつとララバイ』でもしっ
かりと使われたし、映画『時をかける少
女』では悲しいラストシーンで一方が記憶
を無くされたまま運命の人と廊下でぶつか
るというシーンで描かれた。

いろいろ行き違いがあったコニーとダニー
だが、やがて二人はますます思いを募ら
せて行く。だがうまくいかない。
アメリカでは、プロム=プロムナードと
いう学年最後のダンスパーティーがある。
日本の高校の文化祭のようなものだが、
アメリカの場合は、そこで初めて異性と
手を取ってダンスができる大人への一歩、
というような位置づけだった。高校はプロ
ムを終わらないと卒業できない、という
ような感覚だ。

学校の競技場で、仲間に夏の思い出を聴か
せるダニー。


「それから?それから?」とちょいワルを
気取った同級生チームの友人たちははやし
たててダニーに尋ねる。
ダニーはかなり話を盛って「ばっちり、
決めてやったぜ!」とかホラを吹く。
空威張りの話盛り盛りの痩せ我慢見栄っ
張り。典型的なアメリカン不良たちの
スタイルだ。70年代の日本でいうなら、
「あたぼうよ!」とか言いながら内心てん
でシャボンでショボンだったりする。


ダニーたちは学園の仲間と "T" BIRDS と
いうチームを作っている。
ライディングチームでもモーターチームで
もない。群れた不良の集まりだ。
本人たちはイカしてると思い、同じような
カッコをして、他校生たちの別チームと
喧嘩したりする。


不良少年なのだが、非行少年ではなく、
日本の半グレやヤクザ予備軍の特攻服連中
とも違う。また、30年程前にいた渋谷の
チーマーとも1970年代の暴走族とも違う。
アメリカ独自の「高校生の不良」であり、
酒もタバコもやるが、野放図ではなく、
存外異性にウブで、異性と肉体関係を持っ
たら「えー?!」となるようなアメリカの
1950年代特有の若者たちだ。
なんせ、プレスリーが歌いながら腰を振っ
たら卑猥として逮捕の時代である。
いくら異性交友先進国のアメリカでもそん
な時代だったのだ。日本などは、当時は
結婚までは女性はほぼ全て処女だった。
アメリカの戦後1950年代の高校生の不良
などもかわいいもんだ。チェリー&バージ
ンが一般的高校生だった。
俯瞰するに、日本では『グリース』が公開
された1978年前後が、ちょうどアメリカ
のその20年前の高校生の風俗と感覚が重
なるように思える。時代として。

 "T" BIRDS たちはそれぞれ個人で好きな
タイプの革ジャンを着ている。
ダニーと親友ケニッキー(ジェフ・コナウェ
イ)はダブルライダースだ。
ケニッキーの革ジャンは茶芯が出ていて、
ダニーの革ジャンより渋い。


チームの他のメンバーはシングルだ。
襟付きトラッカータイプやMA-1タイプ。


彼らは革ジャンは揃いではなくそれぞれ
好きな物を着ているが、背中には手描き
の白ペイントでチーム名の看板を全員が
描いている。 "T" BIRDS だ。

対立チームや仲間と喧嘩もするが、


すぐに打ち解けて仲良くなる。
これが青春。ネチネチ野郎はいやしねえ。


「不良は嫌い」とコニーに言われたダニー
は、健全少年になってみようとスポーツ
ジムを訪ねる。好きな娘に好かれたいと
無理して。
この時、多分紙型切り抜きでチームのみん
なで同じようにペイントしたであろう背中
のチームの看板が見える。

面白い現象が現在ある。
現在、映画『グリース』の "T" BIRDS の
レプリカと称する背中文字書きの革ジャン
がアメリカでは多く販売されている。
しかし、正確に映画の彼らの革ジャンの
文字と文様をコピーした商品は皆無なの
だ。皆無。一つもない。

これなどは、文字が大きすぎて"T"が傾い
ていない。ダメ。似て非なるもの。


デカすぎ、傾けすぎている。
それに『グリース』では『ウエストサイド
ストーリー』(1961)のようなナイフ乱闘
などはやらない。ほのぼのミュージカル
だ。完全にアウト。世界観さえ解ってな
い。


ダメ。


論外。


大気圏外。


惜しいところ行ってるが、文字大きさと
フォントが違う。


こちらも残念系。


太陽系外。


これも惜しいがでかい。

てんでダメ。映画よく見ろ!系。


一番原本に近い系。
但し、Tが大きすぎ。実に惜しい。


原本。


 "T" BIRD とはサンダーバードの事だ。
アメリカインディアンに伝わる伝説の霊
鳥である。
体長5メートルほどの怪鳥で、雷の精霊で
あり、自在に雷を落として獲物を獲ると
の伝承がある。多くのインディアンの部族
に共通する伝説として残されて来た。
英国TV実写人形劇の「サンダーバード」
の1号のロケットは、このトーテムポール
からデザインされた。
日本や中国オリエンタルでは鳳凰、西欧
ではフェニックスなど、霊鳥は古くから
人類はある種の強い霊的存在として捉えて
た。

ダニーは何度もコニーに気持ちを打ち明け
るが、コニーは夏と違うダニーにおかんむ
りだ。


プレスリリースの時のオリビアとジョン。


プロムでようやく意気投合するが、これ
もうまくいかない。


不貞腐れたダニーは、それでも諦められ
ずに、ついに革ジャンを脱いで、真面目
君のようなセーターを着て仲間たちが待つ
カーニバルに行く。
仲間たちからは「そのセーター、どこで
かっぱらってきたんだ?」などといじら
れる。

そこに、大変身したコニーが登場して、
ダニーは魂にサンダーバードの雷を落と
される。


そしてダンスによる大円団。


ここのシーンは能天気でかなり好き。


最後はファンタジー。二人を乗せた車は
天に昇って行く。


ケニッキー役のコナウェイは、この作品
の二年後にオリビアの実姉のローナ・
ニュートン・ジョンと結婚する。
今は二人とも病没した。


ローナとオリビア。


オリビアとジョンは今でも時々グリース
メモリアルイベントに二人で登場する。


ばばあとじじいになっても、心の時は
変わらず。






『グリース』は1978年時点で1959年時点
を描いた作品だ。
その頃の両アメリカの共通項。
それは、「戦争をしていなかった時代」で
ある。
彼らの青春グラフティは、戦争のない時代
の象徴でもあったのだ。50'sの魂は不滅。
日本は戦争をやめて76年。ヘボでもいい
じゃん。好きなあのコと踊れるならば。


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