豪海軍のハンター級フリゲートは海に浮かんだとたん時代遅れになる可能性が出てきたが、これはオーストラリアの造船能力に直結した問題なので今のところ解決策がない。
参考:Is Australia’s shipbuilding endeavour faltering?
日本がまや型護衛艦を海自に引き渡すまでに平均3年かかるが、ハンター級は起工から引き渡しまでに9年かかると予想されている
豪海軍のハンター級フリゲートは対潜戦向けのプラットホームとして計画され、英26型フリゲート(6,900トン)をベースに国産AESAレーダーやイージス・システムの採用を含む5つの設計変更を施しても8,000トンで収まると見込まれていたため26型の主機構成(MT30×1基/MTU4000×4基)をそのまま流用したのだが、完成した予備設計案のハンター級は満載排水量が10,000トンに達してしまい最高速度や水上航行の性能が予定より低下、さらに低速・巡航時に使用する電気推進と国産AESAレーダーに回す電力が両立できないという問題点も指摘されている。

出典:Royal navy / OGL v1.0 26型フリゲート
つまりハンター級の指揮官は常に電力を電気推進システムとレーダーのどちらに優先供給するべきか選択しなければならないという意味で、ダットン国防相も「主要な防衛プログラムは常に何らかのリスクに晒されており物事は予定通りには進まないものだ」と述べてハンター級フリゲートが問題に直面していることを遠回しに認めた。
豪シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)はハンター級フリゲートの問題について「全てにおいて完璧な設計というものは存在しないが、未成熟な設計よりも成熟された設計を選ぶ方が変更に伴う技術的・スケージュール的リスクを小さくすることができる。それなのに豪海軍は1番艦の建造が始まったばかりで就役もしていない“成熟された設計”から最も掛け離れた26型フリゲートをベース設計に選んでしまった」と指摘し、造船分野における国防省や海軍の「保証」には全く信頼性がないと批判している。

出典:Royal Australian Navy ハンター級フリゲート
最も問題なのはハンター級フリゲート1番艦の建造が当初予定よりも4年遅れの2024年に後退したことで、初期運用能力の獲得(実戦で基本的な戦闘能力を発揮できると確認されたことを宣言する行為)が2034年になるため予備設計案で指摘された問題を解決するため更に建造開始が遅れればアタック級潜水艦と同じ懸念に直面するだろう。
何年間も国防省や海軍は議会に対して「アタック級潜水艦は設計上の寿命が尽きるまで優れた能力をオーストラリアに提供し続けることを保証する」と主張し続けてきたが、1番艦の引き渡しは2035年頃で12隻全てが完全運用能力(FOC)を宣言するのは2054年を予定していたため計画中止後にモリソン首相は「海に入った瞬間アタック級潜水艦は時代遅れになっていた」と述べたことがある。

出典:Royal Australian Navy アタック級潜水艦の完成イメージ
つまり2024年に建造が開始されるハンター級フリゲート計9隻が全て海に浮かぶのは恐らく2040年代になるため、予備設計案で指摘された問題を解決するため更に建造開始が遅れればアタック級潜水艦と同じように海に入った瞬間に時代遅れになる恐れがあるのだ。
この問題はオーストラリアに大型水上艦艇を建造できる施設が南オーストラリア州のオズボーンにある造船所のみしかないため「同時並行で建造できない」という点と艦艇の建造・艤装スピードが「非常に遅い」という点が原因で、ホバート級駆逐艦の引き渡しに平均5年かかったがハンター級は引き渡しまでに9年かかると予想(1番艦)されており、日本のまや型護衛艦が引き渡しまでに3年しかかかっていない。
同型艦を一つの造船施設で9隻も建造する上スピードが日本よりも3倍も遅く、設計自体も海外に依存しているため途中で設計の変更を行うのに時間がかかり「建造中に時代遅れになっていく」という悪循環を招いているのだが、国内産業界に資金を回したい・回さないといけないオーストラリア特有の国内事情が絡むので今のところ解決策が見当たらず、そもそもハンター級建造自体がホバート級の建造後に訪れる造船業界の空白対策なので「どうしようもない」というのが国防省や海軍の本音なのかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Royal Australian Navy
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日本から見ると相当低い造船能力しか無いね
しかし、日本も中国から見ると日本から見たオーストラリアみたいな状態
中国が凄すぎるだけで日本もかなり高い造船キャパなんだけどなぁ…
視点を変えると見えてくるものがあるね
この国も造船業のさらなる衰退は必至、島国だから絶滅はしないけど、オーストラリアを笑ってるほどの余裕は感じない、
未成熟の技術を押し進めた末の失敗はアメリカと同じく、スピード感最優先の現代企業の理念が軍を侵食してる証拠、
いざとなれば会社を潰して責任逃れをやれる民間の感覚に頼りすぎると軍は破綻するよ
流石にかつての世界一位、現在世界三位の造船国家と比較するのは無茶があるというか
まぁ豪州の建艦計画に無理があるってのは間違いないと思う
ちなみに日本から見たオーストラリアは100分の1以下、中国から見た日本は2分の1程度なのでその表現はちょっと誇張かなぁ
そもそもの話上位3位で世界シェア97%以上に達する寡占具合だから4位以下は誤差みたいなものだけど
日本も造船の現場で熟練工の減少が問題になっている
人を集めたからって工業力が保てるわけではない
やっぱり「オーストラリアの造船所はカヌーも作れない」発言は、至言だったとしか言いようがないw
向こうの世論は知らないけど、完成品買っちまえ派はそんな弱いの?
日本だとF-Xの度に侃侃諤諤なるけど、少なくともどっちに振れても政治生命に関わる何かには絶対ならないと思うんだけど
せめてそれが、アメリカで言う自動車産業みたく半分は実利で残り半分は国家のアイデンティティに関わる
みたいな理由で手厚く保護するならまだわかるんだけど
日本が海外機は独自の要件を満たしていないとか戦闘機の開発基盤維持を理由に少ししか量産しない次期戦闘機の開発を多くの人が支持するように、オーストラリアでは防衛装備品の調達に流れる金を国内に還流させることを多くの人が支持してる。
この辺は国それぞれの特有の事情が絡むから仕方ない問題だよ。
オージーって海洋国家ちゃうの?
なんでそんなに造船能力低いんだろう
造船の民需は殆どを日中韓の3カ国で食い潰してるからなぁ
軍需が桁違いのアメリカ造船所も青息吐息なんで、オーストラリアも諦めるか多額の税金ブチ込んで延命するかの2択を選ばざるを得ない状況でしょう
まぁオーストラリアも島国である以上、造船メーカーがゼロになるのは認められないだろうから、今後も税金注ぎ込んで軍需で細々と生きていくしか無いんじゃないかな
オーストラリアは大陸国家なんで…
大陸国家的性格を有しながらも海洋国家的性格を有することもありうるからねぇ。
あぁ、冗談だとはわかってますよ。
基本的には島国英国の末裔だからね、しかしオーストラリアの戦略として、大陸というよりも環太平洋国家として自己を位置付けしたいのは判る
地政学的に海洋国家と表現するのがベストかな。
アメリカフランスが駄目ならイギリスに金払って作ってもらおう
つまりここでFFMの現地生産を提案してですね…
まぁ現実的な話、日本の造船所も人手不足だから政治的にOKが出たとしても難しいだろうけど
>同型艦を一つの造船施設で9隻も建造する上スピードが日本よりも3倍も遅く、設計自体も海外に依存しているため途中で設計の変更を行うのに時間がかかり「建造中に時代遅れになっていく」という悪循環を招いている
このまま造船業、防衛産業が衰退していけば、日本も同じような問題に直面するかもなぁ。
今は税金をガンガン使って賄ってるけど、事業が成立してなければ、絶対長続きしないからね。
正直、オーストリアの問題も全くの他人事とは思えない。
日本は国産で性能維持してるからまだいいけど、オーストラリアは製造業自体がうん。自動車も国内製造0になっちゃったし
素人質問で恐縮ですがAESAとイージス・システムって同じもんじゃないの?
AESAっていうのはフェーズドアレイレーダーの走査方式の名前だよ
イージスシステムのSPY-6レーダーなんかはこの方式
潜水艦のときも思ったんですが、海軍向けの造船業に仕事が全くない時期が10年単位で発生しているのが豪州海軍の構造的な問題ですよね。現場の工員から海軍廠の設計ノウハウに至るまで、10年あったら余裕で散逸しますよ。
もちろん造船所の仕事ありきで艦隊定数を決めていったらそれこそ豪州なんかトータルで3、4倍からの軍拡をしていかなきゃいけないんでしょうし、似たような悩みを抱えつつも輸出で製造基盤を維持している欧州のように国際市場で勝負できる強みや囲いの客がいる訳でもない中、それでも国内製造にこだわりたい以上はこの手の弊害はただ受け入れるしかないようにも思いますが。
豪州は自動車産業でかつて同じ問題に直面して、最盛期は数社あった豪州車メーカーが今や0になり完全輸入国に転落してるんですよね。しかも豪州向けの車両はたいてい東南アジアで生産されているという。