「山本一郎 総会屋2.0事件」平成30年9月6日/東京高等裁判所/第4民事部/判決/平成30年(ネ)2166号

【判例ID】 28264404
【判示事項】 【事案概要】
氏名不詳者により、被告会社を経由プロバイダとしてインターネット上に投稿された記事により名誉権を侵害されたとする原告が、上記氏名不詳者に対する損害賠償請求権の行使のために、被告会社に対し、特定電気通信役務提供者の損賠賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、上記氏名不詳者の氏名等の情報の開示を求めた件の控訴審において、原告の請求が棄却された事例。

【裁判年月日等】 平成30年9月6日/東京高等裁判所/第4民事部/判決/平成30年(ネ)2166号
【事件名】    発信者情報開示請求控訴事件
【裁判結果】   控訴棄却
【裁判官】    菅野雅之 今岡健 大澤知子
【審級関連】   <第一審>平成30年3月23日/東京地方裁判所/民事第23部 /判決/平成29年(ワ)12886号 判例ID:28264403
【出典】 D1-Law.com判例体系
【重要度】 -

■28264404
東京高等裁判所
平成30年(ネ)第2166号
平成30年09月06日
東京都(以下略)
控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 神田知宏
東京都(以下略)
被控訴人 株式会社Y
同代表者代表取締役 A
同訴訟代人弁護士 山内貴博
同 斉藤遼太

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。

第2 事件の概要
 (以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に同じ。)
 1 本件事案の概要は、原判決「事実及び理由」第2の柱書に記載のとおりであるから、これを引用する。
 ただし、原判決1頁24行目の「「本件各投稿記事」という。)の後に「を含む「B」とのタイトルで投稿された一連のブログ記事(以下「本件ブログ」という。)」を加え、2頁3行目末尾に行を改めて以下の通り加える。
 「 原審が控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。」
 2 「前提事実」及び「争点」は、以下のとおり補正し、後記3を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第2の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 2頁4行目の「前提事実」の後に「(証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)」を、同5行目から6行目の「株式会社である」の後に「(本件記録中の現在事項全部証明書)」をそれぞれ加え、同8行目の「本件各投稿記事を本件サイトに投稿した」を「「B」と題する本件各投稿記事を投稿するなど、本件サイトに本件ブログを投稿した」と改め、同13行目の「求めている」の後に「(弁論の全趣旨)」を加え、同15行目から16行目の「〈1〉同定可能性、〈2〉名誉権侵害、〈3〉違法性阻却事由の不存在」を「〈1〉名誉毀損(社会的評価の低下)の有無、〈2〉違法性阻却事由の不存在」と改める。
(2)14頁2行目冒頭から6行目末尾までを削り、同8行目の「2.名誉権侵害」を「1 名誉毀損(社会的評価の低下)の有無」と、15頁8行目の「低下させ名誉権を侵害する」を「低下させる」と、同10行目の「3.」を「3 」とそれぞれ改める。
(3)2頁19行目から20行目の「(本件各投稿記事を含む本件発信者による「B」と題する一連のブログ記事)」を削る。
 3 控訴人の当審における主張
(1)原判決は、控訴人が違法性判断を求めた対象を誤解している。
 すなわち、控訴人が違法性判断を求めた対象は、個別の投稿記事ではなく、本件ブログの文意において、「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」との事実の摘示が推論の形式でされている点である。
 そして、「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」は、証拠をもって認定可能な事実を摘示するものである。
(2)仮に、本件ブログにおける「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」との指摘が意見論評であるとしても、その重要な前提事実は「批判しないことを約しての金銭授受」であるところ、当該事実が反真実である以上、上記指摘は、重要な前提事実を欠いており、論理に飛躍のある不合理な意見論評であるから、違法性は阻却されない。
(3)本件ブログにおける「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」との指摘は、「批判しないことを約しての金銭授受」との重要な事実を摘示できないままに、控訴人が違法な人物であると執拗に書くもので、その書きぶりも投稿者の自己満足に終始しており、社会的に許容される限度を超えて控訴人の名誉感情を侵害するものである。

第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も、控訴人の本件請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり補正し、後記2を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第3の2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)4頁25行目の「2 名誉権侵害について」を「1 名誉毀損(社会的評価の低下)の有無について」と改める。
(2)5頁9行目の「かつて」の後に「自身の経営する会社が」を加え、同12行目の「原告と」を「控訴人の経営する会社と」と、同15行目の「就任して以降」を「就任する前後から」と、同20行目の「ツイートを引用した」を「ツイートに言及した」とそれぞれ改める。
(3)6頁1行目の「名誉権侵害」を「名誉毀損(社会的評価の低下)」と、同2行目の「名誉権を侵害する」を「名誉を毀損する(社会的評価の低下させる)」とそれぞれ改める。
(4)7頁23行の「本件各投稿記事が」を「本件各投稿記事を含む本件ブログが」と改める。
(5)8頁11行目から12行目の「意味があいまいであるから」を「一義的にその内容が定まるものではないから」と、同24行目の「本件各投稿記事」を「本件各投稿記事を含む本件ブログ」とそれぞれ改める。
(6)9頁3行目、6行目及び22行目から23行目の各「本件各投稿記事」をいずれも「本件各投稿記事を含む本件ブログ」と改め、同11行目の「名誉権を侵害する」を「名誉を毀損する(社会的評価を低下させる)」と、同12行目の「3」を「2」とそれぞれ改める。
 2 控訴人の当審における主張に対する判断
(1)控訴人は、前記第2の3(1)のとおり、控訴人が本件において違法性判断を求める対象は、個別の本件各投稿記事ではなく、本件ブログの文意において、「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」との事実摘示が推論の形式でされている点であるなどと述べて、原判決が違法性判断の対象を誤っていると主張するとともに、原判決が本件各投稿記事をもって上記事実を摘示するものではないとした判断も不当である旨を主張する。
 しかし、原判決は、前後の文脈に留意しながら、一連の本件各投稿記事をその投稿順序に沿って個別に分析した上で、本件各投稿記事を含む本件ブログについての判断を加えている(原判決「事実及び理由」第3の1(2)(補正後のもの))のであるから、原判決が違法性判断を求める対象を誤っているとの指摘は的外れなものというほかない。実際、本件ブログの文意は、控訴人が主張する(控訴理由書2頁、第3準備署名2頁)とおり、本件各投稿記事を指標としてその文脈から導き出されるものであるから、前後の文脈に留意しつつ、本件各投稿記事をその投稿の流れに沿って個別に分析した上で、本件ブログ全体の総合判断をするのは、本件ブログの文意を捉える適切な方法といえる。
 そして、引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(1)(補正後のもの)に認定するとおり、本件各投稿記事は、C氏が控訴人を「D」と呼んで話題となったことを踏まえた問題提起部分に始まり(本件投稿記事1)、控訴人のEグループに対する態度が、Fのチーム戦略室アドバイザーに就任したことを機に、攻撃から擁護に鮮明に変わったとの事実を摘示した上で、控訴人の手法が「ブラックジャーナリズムによく似ている」との推論を述べるものであり(本件投稿記事2)、さらに、G氏のツイートの存在にも言及した上で、上記アドバイザー就任の理由が同ツイートの予測するとおりH社長からの要請に基づくものであれば、「間接的なブラックジャーナリズム」、「D」ということになるとの推論を述べるものである(本件投稿記事3)ところ、上記各推論が、証拠等をもってその存否を決することが可能な事項でないことは、引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(2)イ(補正後のもの)に説示するとおりであるから、本件ブログは、その文意としても、控訴人について「ブラックジャーナリスト」、「総会屋」であるとの事実を摘示するものとは認められない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)控訴人は、前記第2の3(2)のとおり、「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」との指摘が意見論評であるとしても、その重要な前提事実は「批判しないことを約しての金銭授受」であるところ、当該事実は反真実であるから、上記意見論評の違法性は阻却されない旨主張する。
 しかし、本件ブログは、前記(1)のとおり、控訴人について「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」であるとの意見論評を述べるものではなく、控訴人について「ブラックジャーナリズムによく似ている」、「間接的なブラックジャーナリズム」、「D」であるとの意見論評を述べるものであるから、上記各意見論評における重要な前提事実が「批判しないことを約しての金銭授受」に限定されるとは解されない。意見論評は、その前提となっている重要な事実が真実であって、当該事実との間に推論の合理性が認められ、かつ、その内容が人身攻撃に及ぶなどの不当なものでなければ、言論の自由として許容されるべきものである。
 そして、本件ブログにおける上記各意見論評の前提となる重要な事実は、前記(1)のとおり、〈1〉控訴人のEグループに対する態度が、Fのチーム戦略室アドバイザーに就任したことを機に、攻撃から擁護に鮮明に変わったとの事実及び〈2〉G氏の当該ツイートが存在する事実であるところ、上記〈1〉の事実が認められることは、引用に係る原判決「事実及び理由」第3の2(2)(補正後のもの)に認定するとおりであり、また、上記〈2〉の事実も、証拠(乙1・資料22)によれば、これを認めることができる。
 そうすると、上記各意見論評は、その前提となる重要な事実が真実であるところ、上記意見論評と前提となる重要な事実との間に推論の飛躍があって推論の合理性がないとは認められないし、その内容が人身攻撃に及ぶなど不当なものであるとも認められない(後記(3)参照)から、正当な言論として違法性が阻却されるというべきである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3)控訴人は、前記第2の3(3)のとおり、本件ブログにおける「総会屋」、「ブラックジャーナリスト」との指摘は、社会的に許容される限度を超えており控訴人の名誉感情を侵害するものである旨主張する。
 しかし、本件ブログは、前記(1)のとおり、控訴人が「D」と呼ばれて話題になったことを踏まえた問題提起として投稿されたものであり、その目的において不当なものがあるとはいえないし、前記(1)のとおり、「ブラックジャーナリスト」、「総会屋」との事実を摘示するものではなく、「ブラックジャーナリズムによく似ている」、「間接的なブラックジャーナリズム」、「D」であるとの意見論評を述べるものと解されるところ、その態様に、控訴人の主張するような執拗さや自己満足に終始する状況はうかがえない。本件ブログの読者も、通常の意見論評と受け止めて、冷静なコメントを寄せている(乙1・資料18)。
 また、控訴人は、自らも広く情報を発信するブロガーであって(乙1・資料11)、歯に衣着せぬ言動を自認しているのである(乙1・資料15)から、自らの言動に対して辛辣な批判を受けることはある程度受忍すべき立場にあるといえる。
 そうすると、上記各意見論評は、その違法性が強度で、社会的に許容される限度を超えているとは認められないから、控訴人の名誉権を侵害するものであるとはいえない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
 3 よって、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

第4民事部
(裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 今岡健 裁判官 大澤知子)