「中小企業家しんぶん」 2009年 9月 15日号より
時代を創る企業家たち~この人に聞く
(株)川村かつら店・(株)川村ビル 代表取締役会長 川村 勝美氏(大阪)
同友会と共に生きて半世紀―先見力を養う
今回は、大阪同友会最古参会員企業の川村勝美氏。川村氏は大阪同友会の常任理事、総務委員長などさまざまな役職を歴任され、企業では現在も現場第一線で活躍されています。
(聞き手)中同協専務幹事 国吉昌晴
日中貿易の関連で入会
―川村さんは1925年(大正14年)生まれの84歳で現役の経営者です。まず同友会とのかかわりからお話しください。
川村 少しさかのぼって話をさせてください。私の父が1918年、大阪でかもじ(かつら)屋を創業。私は40年、15歳で満蒙開拓義勇軍に志願し、現地で召集、入隊。終戦後はシベリアに抑留され、48年帰国しました。
これからの日本は、自動車、電機の時代だと考え大阪の職業訓練所の機械科に入り勉強もしました。ところが父から「跡を継いでくれ」と懇請されます。私は、兄弟4人の3番目で、かつら屋は好きではなかったのですが、兄達が継がない以上やむなく家業に就いたのです。
かつらの原料となる人毛は、以前は韓国やベトナムからも輸入していたのですが、現在はすべて中国製です。当社も主力のかつら工場を中国に抱え、技術指導を行っています。中国との関係は今は安定していますが、49年中国に社会主義政権が誕生し、中国との国交が断絶、日中貿易は大打撃を受けます。大阪は多くの中小商社が日中貿易に関係していました。60年前後から友好貿易として回復、広州交易会(中国広州で年2回開かれる貿易展示会、57年に開始)も始まります。
大阪同友会は、東京に次いで58年に創立されますが、日中貿易に関わる友人に誘われ60年頃入会しました。
第4次訪中団に参加
―当時の同友会は、「東西貿易の打開」を方針として掲げており、63年9月に中小企業団体として初めて各同友会会員で構成された「第1次日本中小企業家訪中代表団」を送りました。これは第4次まで続きます。
川村 大阪同友会は、第1次以来毎回代表団に参加しています。私は第4次代表団に加わりました。66年10月末から1カ月近く中国各地を訪問、交流し友好を深めました。
一番印象に残ったことは、各地で工場を視察すると必ず「先生方の感想はいかがでしょうか」と聞かれる、その謙虚な姿勢に感心しました。当時の中国はソ連との関係は悪化し文化大革命も始まり、訪中は第4次で打ち切りとなりますが、中小企業の経済団体として国交回復前の訪中団派遣は画期的であったと思います。
69年の中同協設立総会には、指川代表理事と大阪を代表して参加し、全国の使命感溢れる代表者と今後の発展を誓いあうことができました。その後、大阪同友会は、中同協の後押しもあり、数年間の協議を経て、83年関西同友会と統一組織・大阪府中小企業家同友会を会員数1300名で発足させます。これは、同友会の理念が両組織に浸透した結果です。
先見力を培ってくれた同友会
―半世紀に及ぶ会員としての活躍を拝見しますと、経営者としての歩みは同友会と一体であると見受けられます。同友会で学ばれたことは何でしょうか。
川村 同友会では先見性、先を見る目が養われたと思います。会員と交流し、工場見学をしたり、全国の場で経済学者の講演も聞く。すべて科学的な予見力を培ってくれます。かつてバブル崩壊後、私は全社員に「株は5年上がらず、土地は10年上がらない」と予見しました。リーマンショックでは「最低5年不況は続くのでそのつもりでやろう」といっています。
かつら業界も流行の影響は受けますが、当社はサービス業、便利屋に徹しています。業界では「困った時は川村に行け」といわれるようになりました。かつらの用途は大手の男性用かつらや植毛とは違い、我々は歌舞伎、文楽の伝統文化、日本舞踊、婚礼の分野等を担っています。この分野の材料はすべて作れるのが当社の強み。これも同友会で学んだおかげです。
幸いなことに、長男が3代目社長(川村哲氏)で同友会会員を引き継ぎ副支部長も務めました。孫も4代目(川村敦彦氏)として同友会で学ばせていただいております。
公平な社会をつくること
―同友会は52周年、中同協は40周年、今後の同友会運動への期待を一言お願いします。
川村 全国総会では第1分科会に参加しました。報告者の赤石・中同協相談役のおっしゃりたいことは、「地球上の全人類が笑って暮らせる社会をつくること、それが同友会の使命である」ということではないでしょうか。労働者の派遣切り、使い捨てが合法的に行われる。これ1つとってみても、われわれはもっと国政に関心を持たねばいけません。親会社、子会社も対等、平等なはず。そこでの分配も公平でなければなりません。このような社会づくりに同友会が頑張ることが、中小企業への魅力を高め、多様な人材を中小企業に集めることになると思います。
川村 勝美(かわむら かつみ)氏
父川村利一氏が創業(1918年)したかもじ屋に、48年入社し、代表取締役社長に就任。中国工場を主力にかつら生産。全業務中に歌舞伎関係が占める割合は20%、川村氏は96年日本芸術文化振興会国立劇場創立30周年記念功労者表彰を受けた。他に不動産管理会社(株)川村ビル会長。60年大阪同友会入会、常任理事、総務委員長等数々の役職を歴任、会社あげて同友会活動に参加。
(株)川村かつら店/本社大阪市、資本金1012万円、社員数18名、年商2億5000万円、日本髪かつら、洋かつら、男性かつら、人形かつら及び毛髪製品、かつら材料の製造販売