司法試験を受験するためのルートの1つに「予備試験ルート」があります。
この「予備試験ルート」は,司法試験受験のもう1つのルートである「法科大学院ルート」と比べ,司法試験の合格率,費用面など,様々なメリットがあります。
特に,勉強時間が取りづらく,法科大学院に通うことが難しい社会人で法曹を目指そうとされる方にとって「予備試験ルート」というのは,多くのメリットがあります。
本ページでは,「予備試験ルート」のメリットとして以下の5点をご紹介します。
- 司法試験合格率
- 就職活動におけるアドバンテージ
- 費用・時間
- 司法試験と予備試験の類似性
- 法科大学院ルートとの併用
また,「予備試験ルート」にはメリットだけでなく,デメリットもありますので,その点についても解説します。
①司法試験の合格率が高い
予備試験ルートで司法試験を受験した方の司法試験合格率は,全国にあるどの法科大学院をも上回る非常に高いものとなっています(例年は70%~90%程度)。
2021年(令和3年)の合格率を見てみると,法科大学院ルート合格率1位の愛知大学法科大学院は66.7%,2位の京都大学法科大学院は61.6%,3位の一橋大学法科大学院は58.2%となっています。
上位ローと呼ばれる司法試験合格者数の多い法科大学院ですら,司法試験には2人に1人が合格する程度となっているのです。
合格率8位以下の法科大学院ともなると,2人に1人も合格するわけではありません。
さらに,司法試験の合格率が低い,いわゆる下位ローと呼ばれる法科大学院では,合格者数が0というところも存在します。
これに対し,2021年(令和3年)司法試験における,予備試験合格者の司法試験合格率は93.5%です。
つまり,法科大学院ルートに比べ,10人中9人程度という驚異的な数字をもって司法試験に合格しているのです。
法曹を目指すのであれば,最終的には司法試験を突破する必要があるわけですから,この予備試験ルートの司法試験合格率は非常に大きなメリットということができます。
令和3年度司法試験 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
予備試験合格者 | 400 | 374 | 93.5% |
愛知大学法科大学院 | 3 | 2 | 66.7% |
一橋大学法科大学院 | 110 | 64 | 58.2% |
慶應義塾大学法科大学院 | 227 | 125 | 55.1% |
東北大学法科大学院 | 39 | 20 | 51.3% |
※参考:司法試験の結果について
②就職活動におけるアドバンテージ
法曹志望者に大変人気がある大手法律事務所は予備試験合格者を優先的に採用しています。
大手法律事務所の求人情報を掲載している「アットリーガル」では,法科大学院修了生向けの事務所説明会や面接・採用のほかに,予備試験合格者のみを対象とした事務所説明会や面接・採用,さらには予備試験合格者限定の採用枠を用意している法律事務所もあります。
事務所側が予備試験合格者を求めているため,予備試験合格者にとって売り手市場となっています。
そのため,予備試験合格者であれば,一般的な法科大学院生よりも自らをアピールする機会が圧倒的に多くなります。
また,そもそもの就職活動のスタート時期が異なります。
予備試験合格者の就職活動は,予備試験合格後から始まるのに対し,一般的な就職活動は,司法試験受験後や司法試験合格発表後に開始されることになります。
すなわち,予備試験に合格すれば,一般的な法科大学院生よりも最低でも約半年早く就職活動をすることが可能となります。
法科大学院在学生も積極的に予備試験を受験していますが,その理由の1つが就職活動においてアドバンテージを得ることにあります。
一部報道では,司法試験合格者の就職難が叫ばれていますが,予備試験に合格できれば,そのような不安は全くないといってよいでしょう。
さらに,裁判官・検察官についても,司法試験の成績を考慮していると言われています。
予備試験合格者であれば,司法試験においても優秀な成績で合格する可能性が一般的な法科大学院生と比べ高く,裁判官・検察官の採用の可能性が高まるものといえます。
事務所名・採用人数 | 予備試験合格者 | 東京大学法科大学院 | 早稲田大学法学院 | 慶應義塾大法科大学院 | 京都大学法学院 |
---|---|---|---|---|---|
西村あさひ(46人) | 67.4% | 28.3% | 0% | 0% | 0% |
アンダーソン・毛利・友常(36人) | 36.1% | 44.4% | 2.8% | 5.6% | 8.3% |
森・濱田松本(34人) | 67.6% | 11.8% | 5.9% | 2.9% | 2.9% |
長島・大野・常松(46人) | 41.3% | 30.4% | 4.3% | 15.6% | 6.5% |
TMI総合(32人) | 25.0% | 15.6% | 6.3% | 15.6% | 6.3% |
※参考:主要法律事務所研究(71期)
③費用も時間も効率的
法科大学院ルートでは,最短でも2年という時間がかかってしまいますし,学費も高額です。
私大法科大学院の場合,年間200万円ほどかかる法科大学院もあり,これを2年間ないし3年間通い続けるとなると,相当な費用がかかることになります。
これに加え,教科書代や生活費等の費用がかかるほか,法科大学院入学後も多かれ少なかれ予備校を利用する方がほとんどなので,予備校の授業料等も必要です。
また,そもそも既修者コースであれば,そこに入学するための勉強が必要になるので,現実にはより時間もお金も必要となってしまいます。
それにも関わらず,法科大学院ルートでは,2人に1人以下でしか合格していない状況のため,司法試験に合格しないまま失権(受験資格の喪失)するおそれもあります。
これに対して,予備試験には,受験資格や受験回数の制限はなく,いつでも,何回でも受験することができます。
しかも,予備試験であれば,受験料以外の費用はかかりません。
予備試験合格のために予備校に通い,そこで講座などを受けたとしても,トータルで100~130万円と,法科大学院に通うよりもかなり費用を抑えることができます。
そのため,最短では,学習を始めてから1年後に受験し,合格することも可能となっており,お金と時間をかけずに司法試験を受験することができるルートであると言えます。
④司法試験と予備試験の類似性
予備試験と司法試験は,試験制度が非常に似ています。
まず,司法試験・予備試験,いずれにおいても短答式試験及び論文式試験が課されます。
特に,短答式試験は司法試験・予備試験で共通する問題が多いため,予備試験の勉強がそのまま司法試験にも活かすことが可能です。
また,問題を作成する,いわゆる試験委員も,基本的には司法試験・予備試験で共通します。
そのため,予備試験で出題された過去問が,形を変えて司法試験においても出題されることもあります。
そして,論文式試験の採点においては,司法試験・予備試験いずれも相対評価で決められることになります。
そのため,予備試験に合格した場合には,擬似的に司法試験の試験委員が求める水準を体感したということになり,予備試験を受けていない法科大学院生に比べて優位に立つことも可能となります。
⑤法科大学院ルートを「保険」にできる
現在の最もポピュラーな司法試験の受験ルートは,予備試験合格を第1志望としつつ,難関法科大学院を「保険」として利用するというものです。
予備試験は,要求される科目も,短答式試験は合計8科目,論文式試験は合計9科目と多く,大変な難関試験ですから,その合格を目指して本気で学習すれば,仮に予備試験に合格できなかったとしても,難関法科大学院に合格することは容易です。
学費の全額免除,半額免除等の奨学生を狙うことも可能でしょう。
難関法科大学院を「保険」として利用することによって,リスクヘッジをしつつ,司法試験合格を目指すことができます。
また,4点目のメリットでも述べましたが,予備試験と司法試験は,試験制度が似ています。
すなわち,予備試験の勉強は司法試験の勉強にも活かすことができます。
そして,予備試験を受験することそれ自体,司法試験と同様の雰囲気を味わうことができ,場慣れすることができます。
これにより,司法試験本番では落ち着いて問題に取り掛かることも可能になります。
また,仮に予備試験に合格できなかったとしても,自分のどこが足りないかを把握することが可能なため,司法試験を合格するために自分の現状の実力を測ることもできます。
※関連コラム:予備試験とは?司法試験との違いを図表とともに解説
予備試験ルートのデメリット
予備試験は,合格率が3%~4%という大変な難関試験です。
その難しさが最大のデメリットです。
もっとも,受験回数に制限はありません。
しかも,試験単体で見ると,令和2年度では,短答式試験・論文式試験はそれぞれ合格率が約20%,口述式試験は合格率が約95%となっています。
難関法科大学院進学という「保険」をかけつつ,個々の試験の対策を踏まえた上で学習すれば,この点はさほど大きな問題ではないかもしれません。
また,法科大学院に進学せずに予備試験ルート1本で司法試験の合格を目指す場合,法科大学院に進学した場合に比べ,受験仲間ができにくいという面があります。
受験仲間がいないと,モチベーションを維持しづらい,受験情報が入ってきにくいなどのデメリットが考えられます。
予備校のガイダンスやイベント等を積極的に利用し,受験仲間を作っていってください。
さらに,予備試験合格を目指す以上,当然のことかもしれませんが,しっかりと勉強時間を確保する必要があります。
大学生であれば,サークル活動やアルバイトに割ける時間が減りますし,社会人であれば,平日の夜や土日を勉強に充てなければなりません。
予備試験合格を目指すには,それなりの覚悟が必要です。