軍艦島と教授

写真拡大

岸田首相の決断の理由

 1月28日、岸田文雄首相は佐渡金山をユネスコ(国連教育科学文化機関)世界文化遺産に推薦する方針を明らかにした。韓国の反発に配慮して「2021年度の推薦は見送る方針だ」と報道されたのが同月20日、わずか1週間ほどで方針を一転させた格好だが、これに対し、反日教授こと誠信(ソンシン)女子大学教授の徐坰徳(ソ・ギョンドク)氏が早速反応した。現地在住・羽田真代のレポート。

【写真】反日教授が言及しなかった“旭日旗デザイン”

 この件に関しては安倍晋三元首相が保守派の意見を代表し、岸田首相に対し、今後の政局運営も絡めて陰に陽にプレッシャーをかけ続けたようだ。最終的には岸田首相が安倍元首相に電話をかけ、“説得された”ことを朝日新聞が報じている。

軍艦島と教授

 今回の表明に対して韓国メディアは、「韓日関係の悪化への導火線」的な論調で報じており、活発な“登録阻止キャンペーン”が繰り広げられている。その代表が他ならぬ、反日教授こと誠信女子大学教授の徐坰徳氏だ。

 1月21日、徐坰徳氏は自身のSNSを通して「朝鮮人強制労働の現場である佐渡金山のユネスコ世界文化遺産の推薦に対し、都倉俊一文化庁長官に抗議書簡を送った」ことを明らかにした。

再び“国際的な恥”をかくだけだ

 その書簡には「対象時代を“江戸時代”に限定したことは、太平洋戦争期間に少なくとも1141人の朝鮮人が佐渡金山での強制労働をした歴史的事実を隠蔽しようとする小細工だ」と記述したという。日本側が「文化遺産としての価値は江戸時代が対象で、戦時中の案件とは直結していない」と説明していることをあげつらいたかったようだ。

 徐坰徳氏はさらに文化庁長官への書簡で、「日本は2015年の軍艦島登録時と同じような手口を使っていては、再び“国際的な恥”をかくだけだ。直ぐに推薦を止めろ」とも記述したという。日本が“国際的な恥”をかくだけなのであれば、徐氏にとっては好都合のようにも見えるのだが、彼は何を怖れているのだろう。

 この抗議書簡の内容とは別に、SNSには「最近の右翼議員が作成した決議文には韓国との“歴史戦争”という表現まで使われており、現在の日本政府を圧迫している。私が予測していたことが起こっている」と、日本政府の“右翼化”についての憂慮が示されていた。

 加えて、「2月1日に、日本政府が世界文化遺産に推薦することになれば、佐渡金山の強制労働の事実を全世界に知らせるキャンペーンを開始する予定だ」とも記されていた。

 こうした言説を念頭に置いてだろう、翌22日には、木原誠二官房副長官が「韓国国内で事実に反する報道が多数なされている。極めて遺憾で、引き続き日本の立場を国際社会に説明していきたい」と発言。徐坰徳氏はむろんこれに異議申し立てし、こう訴えた。

歴史を歪める馬鹿げた主張

「歴史を歪める馬鹿げた主張だ。日本新潟労働基準局が作成した『帰国朝鮮人に対する未払賃金債務等に関する調査について』などの公文書に『1949年2月25日に1141名に対し未支給賃金として23万1059円59銭が供託された』という内容が記録されている。このような公文書が日本に存在しているにもかかわらず、韓国で史実を歪曲した報道が多数なされていると主張することは実に恥ずかしいことだ」

 ところで、この投稿は、日本側の主張が正しいことをなぞるものであることを教授自ら気付いていないのだろうか。

“未払賃金”があったということは、朝鮮労働者らが帰国するまで“支払賃金”があったということになる。彼らが賃金の一部を受け取らないまま韓国に帰国したのかもしれないが、その後1965年には「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(日韓請求権協定)」が締結されている。この日韓請求権協定の成立をもって論争事案は解決したのだから、韓国は日本に対し1銭たりとも請求できない。調整すべきことがあるなら、それは韓国政府と労働者との間での問題だ。

反日団体がこぞって批判の声を

 こうしたファクトに基づいての議論をするつもりは、徐氏にはないのだろう。

 岸田首相の方針発表を受けた29日、徐氏は「日本がとうとう朝鮮人強制労働現場である“佐渡金山”をユネスコ世界文化遺産に推薦することを決定した。十分に予測していたことであるから驚かない。むしろ日本は“自滅”を選んだのです!」「数日前まで“推薦保留”という話が出ていたが、これは反発する韓国世論を少しでも鎮めるための“戦略的小細工”であったことがはっきりと分かった」などと持論を展開したのだった。

 徐氏の主張はこう続く。

「世界遺産委員会の委員国やユネスコ側に、朝鮮人強制労働の歴史を含めた佐渡金山の“真実の歴史”を着実に知らせていかなければならない」「世界的な有力メディアにこの事実を伝え、持続的な記事化を通じて国際社会に日本の歴史歪曲を広めなければならない」「世界的“先例”を作り、再びこのようなことが繰り返されないようにしなければならない。我々が行動で示す番です~^^」

 こうした主張をするのは徐氏だけではない。韓国政府も似たり寄ったりだ。日本が推薦を正式に発表した以上、今後は韓国側から執拗な攻撃が予測される。

 韓国は2月1日が旧正月で、前後の1月31日と2月2日が休みであるから、この旧正月の連休明けから反日団体がこぞって批判の声を上げることだろう。

自身が“国際的な恥”をかいた過去

 徐氏は日本に対する過激な発言で人気を博している。史実の真摯な検証をする姿勢はほとんどなく、韓国内で流布する歴史認識をSNS上で代弁してきたわけだが、実は過去に“国際的な恥”をかいたのは1度や2度ではない。

 2017年7月3日から1週間、米国・ニューヨークにあるタイムズスクエアの屋外電光掲示板に「軍艦島の真実」という広報映像を放映したことがあったが、この時使用した写真が1955年代に福岡県の筑豊炭田を撮影したもので、写っている人物も日本人であったことが判明。自身の誤りを認めて「徹底した検証ができず、不本意なミスを犯した。写真の人物が日本人であることを私も今回初めて知った」と釈明したことがあった。

 もう少し遡ると、広告代未払いのため米・広告代理店から訴訟を起こされ(2012年ニューヨーク・タイムズスクエア広場に慰安婦謝罪要求広告を掲示した代金)、2016年には修士論文の64%が他人の論文や文献などを盗作、捏造したものであったと報じられたこともあった。

 佐渡金山に関する主張もこれまでと同様、ファクトとは無縁のものばかりなのはここまでに見た通り。“国際的な恥”をかくという言葉がブーメランとなって彼の元に戻ってくる日は、そう遠くないのかもしれない。

羽田真代(はだまよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に、単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、ビジネスライターとしても執筆活動を行っている。

デイリー新潮編集部