外山滋比古 TOYAMA Shigehiko 英文学、言語学、大学教授
1923年 愛知県生まれ
1947年 東京文理科大学(現筑波大学)文学部英文学科卒業
1956年 東京教育大学助教授
1968年 お茶の水女子大学教授
- ジャンル : 本・雑誌
- テーマ : 考えさせられる本
英語には「一晩寝て考える」(sleep over)という成句もある。朝になって浮ぶ考えがすぐれていることを、多くの人々が知っていたのだと思われる。
P 36
その昔、中国に欧陽修という人が、文章を作るときに、すぐれた考えがよく浮ぶ三つの場所として、馬上、枕上、厠上をあげた。これが三上である。
P 37
W・W・ロストウはアメリカの経済学者で、ケンディ大統領の経済顧問として世界的に知られた人で、その『経済伸長論』は画期的な学説として高く評価された。その序論を読むとこの問題にはじめて関心をいだいたのは、ハーバードの学生としてであったと、書いてある。それから何十年もの歳月が流れている。
P 39
字句の意味の解釈を旨とする学問である。
P 46
- ジャンル : 本・雑誌
- テーマ : ノンフィクション
一般に、ものを考えるにも、この触媒説はたいへん参考になる。新しいことを考えるのに、すべて自分の頭から絞り出せると思ってはならない。
P 56
自然科学の世界はともかく、わが国の知識人の間でさえ、セレンディピティということばをきくことがすくないのは、一般に創造的思考への関心が十分でないことを物語っているのかもしれない。
P 66
十八世紀のイギリスニ、「セイロンの三王子」という童話が流布していた。この三王子は、よくものをなくして、さがしものをするのだが、ねらうものはいっこうにさがし出せないのに、まったく予期していないものを掘り出す名人だった、というのである。
そのころ、セイロン(いまのスリランカ)はセレンディップと言われていた。
抜粋 P 67
ちょっとした着想、具体的な知識にはこと欠かないのに、それを、整理、統合、抽象化し、体系にまで高めるのはまれである。
思考の整理には、平面的で量的なまとめではなく、立体的、質的な統合を考えなくてはならない。
P 78
一定の土地で農作物を作るとき、それに投じられる資本と労力の増加につれて生産高は上がって行くが、ある限界に達すると、こんどは生産が伸びなくなって行く現象を支配する法則のことである。
P 129
月光会(ルーナー・ソサエティー)1770年代、エディンバラで月一回、満月の晩に集まった会合の名称。酸素の発見者プリーストリー、蒸気機関の発明者ワット、そのエンジンの製作者ボールトン、ガス灯の発明者マードック、印刷業者バスカヴィル、天文学者ハーシェル卿などが常連で、その中心的存在はエラズマス・ダーウィン。この人は、進化論のチャールス・ダーウィンの祖父である。
P 164
中枢部志向の専門家は、どの学問でも周辺領域には近づかない。どの学問でも境界領域はノー・マンズ・ランド(無人地帯、未開発の領域)ときまっている。
そこを開発するには、これまでの学問と学問をへだてていた垣根をとりはらわなくてはならい。
そして、生まれたのが、インターディシプナリーである。
P 170
レム(Rapid Eye Movement)睡眠と、ノン・レム(Non Rapid Movement)睡眠である。
レム睡眠のときは、体は休息しているけれども、頭ははたらいている。
ノン・レム睡眠では逆に、頭が休み、筋肉などはかすかに活動しているといわれる。
つまり、睡眠中もレムの間は一種の志向作用が行われている。眠っていても考えごとができるわけである。
無意識の志向が、これがたいへんすぐれている。
P 173
心理学者のスリオ(Souriau)は、「発明するためには、ほかのことを考えなければ、ならない」と行っている。
三上は、好むと好まざるとにかかわらず、その他のことをしている状態で、したがって、ほかのことを考えるのに便利な状況である。
P 175
看多(多くの本を読むこと)、做多(多く文を作ること)、商量多(多く工夫し、推敲すること)で、文章上達の秘訣三ヵ条である。
P 175
汗のにおいのする思考がどんどん生まれてこなくてはいけない。それをたんなる着想で、思いつきに終わらせないために、システム化を考える。
P 196
西欧諸国においてわが漢学に当たるものを求むれば、ギリシャ・ローマの古典がある。中世以来、長く学校教育の中で、中枢の位置におかれていたことも漢学に通じるところがあり、偶然ではあるまい。
それが言語教育にとどまらず、人間教育、知的訓練とはほとんど等価なものでありえたことを、現代の人間は改めて考えてみるべきであろう。
P 203