専門用語。これを専門職以外の人が使うと恥ずかしい場合が多々ある。



 マスコミ業界でもないのに業界用語を使うと気持ち悪い。「テッペン」とか「ケツカッチン」とか「バラシ」とか。



 極道でもないのに極道言葉を使うとなんだかいきがってる様に思える。「チャカ」とか「サンシタ」とか「若い衆」とか。



 刑事でもないのにデカ言葉を使うのはドラマの観すぎ。「ホシ」といか「アゲる」とか「ゲロった」とか。



 芸人でもないのに芸人用語を駆使してるのはそれこそサムイ。「テンドン」とか「F1層」とか「ヒラバ」とか。



 ミュージシャンでもないのにミュージシャン用語を駆使してなんとなく訳知り顔っぽくしてるのはこっぱずかしい。「グルーヴ」とか「ユニゾン」とか「ジャムる」とか。



 でもこういった言葉、もはや公用語といってもいいくらい浸透してるものはついつい使ってしまう。



 普通に「ケツがある」とか「ノリツッコミ」とか「パクられる」とか「シャブ」とか使うし、違うジャンルにも転用できるような汎用性が高いような「スベる」とか「バミる」とか「テンパる」とか、これは麻雀用語か、まあとにかくそういった言葉は普通に生活していて使うもんだ。



 時々だが、自分の半径5メートル位に通用すればいいというつもりでテクニカルタームを作ることがある。



 「Enogh」(イナフ)という語感的に日本語っぽい英単語が好きでよく使っていた。「イナフィング」という文法的にあり得ない活用形まで駆使して使っていた。意味は「もう十分」とか。~ingがつく場合は満杯になりつつあるとか、うんざりしつつあるとか。



 「カウパる」というのも使っていたな。まさしく「先走る」という意味で、「カウパリング」という活用形の場合「ハシッてる」とかそういう意味。
 俺の場合歌も演奏も無意識にやったら3ティック(ティックとは、音の長さや、曲中での音符を示す最小単位のこと)ほど早くなるので「カウパリングミュージシャン」と言えよう。



 「ぶっすん」という言葉を使っ……止めよう。



 専門性が高ければ高い言葉ほど、それを使うとそのジャンルに精通している風に聞こえるのでつい見栄を張って使ってしまうことがあるのだけれど、その分大して意味を知らずに使ってしまっているのがバレた時は実に恥ずかしいもんだ。



 音楽雑誌なんかで楽器に触ったこともなければバンドもやったことがないような一介のライターなんかが「真のグルーヴを体験したことがある者のみが共有できる快感」とかみたいなことを書いてると、何百回ライブをやっても何千時間演奏をしてもいまだにグルーヴの正体が今ひとつ掴めないで悩んでいるようなワタシにとっては、思わず鼻白んでしまう。まあ人それぞれに正解があるわけだから深くは追求しないが。
 それにしても「グルーヴ」という言葉くらい使う人の才能や人徳によってそれこそグルーヴレスな言葉になったり死ぬほど説得力があったする言葉も中々無いよなぁ。



 テクニカルタームというのはその人がどれだけそれを違和感無く自然に使えるかによって、その分野に精通しているか否かを分からせてくれるリトマス紙みたいなものだと思う。
 身の丈にあってないような使い方をしていると、なんとなくフンと匂ってくる。諸刃の刃だな。



 その辺の危うさを笑いに変えたようなダウンタウンのコントがある。



 日本の匠を訪ねて





 このコントが死ぬほど好きで、こういうありもしない専門用語をさも当たり前のように駆使して異様な空気を生み出してそれを笑うみたいなテイストは松っちゃんの得意分野で、同質のコントも多くあるし、「ガキ」のトークでもよくやっていた。ゲイシャガールズのCDにはいっていた「ステップナー」というやつは聴いてると思わずニヤニヤしてしまう。


 ステップナー







 この「ステップナー」とか「日本の匠を訪ねて」の場合浜ちゃんがツッコミとして機能しているが、ツッコミなしでズンズン突き進むテクニカルタームコントがあってそれがまた異様に笑える。



 実業団選手権大会








 この何の実業団か分からない選手権の、ありもしない競技の、意味不明な採点方法や技の数々が存在している架空の世界の面白み。脳の変な部分が刺激される。




 これって例えば、初めて言った仕事先で、全然理解できないテクニカルタームが飛び交う中に入った時に味わう疎外感、みたいなものから発想されたもんではないかと思う。で、「お前らそうやって得意げに専門用語を駆使しているけどちゃんと意味分かって使ってるんか?」みたいな黒い心が生み出したコントだと勝手に想像してるんだが。



 まあなんにせよテクニカルタームというのは良くも悪くも人間の面白みを映し出す、使いようによっては武器にも恥にもなる香ばしいブツだ。