「瓦博士」の前場さん、40年かけて収集した古代瓦を明大に寄贈/厚木
社会 | 神奈川新聞 | 2010年1月16日(土) 11:00

在野の“瓦博士”として知られる前場幸治さん(77)=厚木市船子=が、40年以上かけて収集した約1万5千点の古代瓦を明治大学博物館(東京都千代田区)に寄贈する。これまで自宅に造った前場資料館で所蔵していたが「後に続く研究者に役立ててもらえれば」と一括寄贈することになった。前場さんは「嫁に出す心境」と一抹の寂しさを見せるものの、今後は古代瓦とともに取り組んでいる大工道具の研究に力を注ぐという。
前場さんは工務店経営の傍ら、古代瓦の魅力にとりつかれ、全国の国分寺跡などを巡って収集してきた。きっかけは1962年に京都を旅して、美術店のショーウインドーで見た鐙(あぶみ)瓦に深い美しさを感じたからだという。
単なる収集家ではなく、「国分寺古瓦拓本集」(84年)、「古瓦考(相模国分寺千代台廃寺)」(93年)などの著書もあり、古代瓦の研究家として学界でも知られる存在だ。86年には前場資料館を開設、収集した瓦を公開してきた。資料の中には、小田原市の千代廃寺から出土した軒先丸瓦もある。そこに書かれた文字が「大伴五十戸」で、律令(りつりょう)制以前の地方の動員単位が五十戸(さと)と推定する上で貴重なものとして知られている。
こうした貴重な古代瓦をすべて寄贈する。「古代瓦の研究は、刑事が犯人を追うようなもの。残片から、いろいろなことが浮き彫りになる。だから民間のわれわれでも学者と肩を並べて取り組める」と前場さん。併せて集めた古代瓦に関する40箱分の書籍も寄贈する。膨大な資料のため搬送は今月下旬までかかる。
前場資料館には、のみ2千点、かんな1500点、墨つぼ千点など多くの大工道具も収集されている。「砥石(といし)の研究も始めた。やることがいっぱいあって困ってしまう」と前場さん。古代瓦は大学の研究者にバトンタッチするが、大工関係の著作もあり、今後は一層、大工道具研究に励むという。
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