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この作品「完・逆行したけど佐為がいない物語。」は「ヒカルの碁」「佐為ヒカ」等のタグがつけられた作品です。
完・逆行したけど佐為がいない物語。/からなぎの小説

完・逆行したけど佐為がいない物語。

15,792 文字(読了目安: 32分)

お久しぶりです。お待ちではなかったかもしれませんがようやく時間軸やらご都合主義をこねくり回して北斗杯編です。リーグ戦ややこしいねん。もう捏造も大概にしろといわんばかりです。諦めてください。

原作に沿おうと思うとあれもこれもエピソードいれにゃ、となってどんどこ長くなる。予選とかすっとばしたかったのに。かわりにヨンハ短い。

そしていい加減シリーズとしてまとめろよと言われたのでとりあえず完結だぜっということで纏めました。あと今回の表紙も愛だけは込めてます。

神の一手についてや扇子についての解釈など、ヒカルに夢を見すぎてるこんな私の妄想にお付き合いありがとうございました。

6/17コメント、ブクマありがとうございます。書いてよかった。あとデイリー男子女子人気ランキングお邪魔させていただきました。感謝。女子8位とかどんだけヒカル愛されてんの嬉しい。

2016年3月15日 14:07
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日本棋院にも繁忙期というのはある。世間の卒業シーズンと同じく、だいたい2月3月は引退だったり大会だったりが重なりとても慌ただしくなる。そして今年はなんと北斗杯があり、こちらも2月に一次予選が予定されている・・・しかしここで物議が醸されているのが進藤ヒカルについてであった。

「そもそも若手の大会なのにタイトルホルダーがって大丈夫なんですか」

「抗議なんてこないさ、皆saiと打ちたくて大会に参加するようなレベルだ。出さないほうが怒られるぞ」

「じゃぁどうするんですか、進藤プロも塔矢プロも都合がまともにつきませんよ」

「それなんだよなぁ、予選だっていうのに三枠の内二つが埋まってるなんて・・・やる気削いじゃうよな」

「熾烈すぎる争いですね。やる気は逆に出るんじゃないですか」

「そうかなぁ」

「問題は進藤プロが予選に参加したいって言い出してることですよ」

北斗杯選手選抜はだいたい3月から4月となる予定なのだが、現在進藤ヒカルは順調に名人戦、棋聖戦で白星をあげていて、そのまま勝ち上がっていけば挑戦権獲得へと3月頃まで手合いは続くだろう。塔矢アキラもそれは同じなのだが進藤ヒカルはその上、本因坊佐為として挑戦を受けなくてはいけない。それの予定は4月あたりだ。かなりタイトなスケジュールとなるため、手合いは北斗杯選手選抜の日程をいまだに決めかねていた。

その上当然シード枠として参加するだろうと考えていた進藤プロのまさかの北斗杯予選に参加したいという意見に、事務方の人間たちは頭を痛めていた。

もしも予選に参加するとなると一次予選からとなるだろう。つまり二月から、もうあまり猶予は残っていない。仕方なく今のところ予定としては進藤ヒカルも予選に組み込んでいる状態だが、リーグ戦の次第によっては色々と手を回さなければならないので確定といえないのがひたすら不安である。何も手合いだけではない。ここのところの囲碁ブームのおかげで雑誌のインタビューやテレビの出演などの依頼が後を絶たず、そしてその中心にあるのは最年少本因坊として君臨した進藤、最年少名人と期待される塔矢アキラの両名だ。

とどのつまり、二人の天才のおかげで日本棋院は時期はずれの異例な忙しさで悲鳴をあげているのだ。

「しかしまぁ、saiっちゅうんはそんなにすごいんですかねぇ」

「お前、そういえばまるで打てなかったな」

「へへ、申し訳ねぇ」

机を挟んで二人の事務員の向かいにいた男が、会話に口を挟んできた。少々小汚いその男は会計方の人間で、棋院に勤めながらもまともに石を持ったことのない人間だ。ここにいれば当然耳に入るため、saiというネット上がりの新人がすごい偉業を成し遂げるぐらいに強い人間だということは知っているものの、あまりにも漠然としていて騒ぐ周りに共感できないらしい。

「何がどう凄いって、そうだな。お前何がわかる」

「なーんも、ですわ。数字ばっか追っててまともにスポーツやゲームを観戦したこともないんです」

「お前つまんねぇし説明しにくいな、いいか。世の中にはバカみたいに飛び抜けて才能を持った一人のために既にあるルールを変更するような時がある。バスケならマイケル、ゴルフならタイガー、そいつがいるから、そいつに勝たせないために、ルールが変わるんだ。そんな革命を起こす時代の寵児みたいなやつってのはたしかに存在する、俺はそれが進藤ヒカルプロなんじゃねぇかと思ってる」

「そりゃぁ真面目にいってますかい、まだ子供ですよ」

「真面目、真面目、子供だから余計に怖い。これから熟練して研鑽されて、老婢さを纏い、もっと強くなるのかと思うとぞっとしねぇよ」

「そしてそういう変革の時代をときに黄金時代というのさ」

二人のしたり顔をみて、少しあっけにとられながらも会計方は以前すれ違った時にみた明るい前髪をもつ件の進藤ヒカルを頭に思い浮かべたが、もちろんそんな風には見えなかった。だが、囲碁のわからない自分だ、きっとすごいのだろうと一応頷いておく。そして思っていた以上に凄い人物なのかもしれない、とも上書きしておいた。

「塔矢アキラに越智、和谷、伊角、若手がここ数年粒ぞろい!一人の天才によって築かれる黄金時代ってやつが今目の前にあるんですよ。ワクワクしてしょうがないでしょう!」

「稀有な才能に引っ張られて軒並みレベルがあがっていく、伝説ともなりうる時代に関われて嬉しいですよ」

「ははぁ、なるほど。でしたらこの忙しさも嬉しい悲鳴ってやつでしょう」

喋りながら興奮してきた二人に向かってそう言い放てば、目の前の書類に少し冷静になったのか、二人は日程表やら連絡票などに視線を落として苦笑いを零した。

「怖いのは塔矢アキラが、進藤が参加するなら!とシードを撤回するかもしれないってことですよねー」

「はっはっはっそりゃ怖いな。関西棋院との兼ね合いもあるしなぁ」

中々電話の鳴り止まない事務室で、そんな冗談をいいながら笑っていた。






「なんだって?!進藤きみは予選に参加するのか?!」

塔矢アキラの形相に仰け反りながらヒカルは、こいつは何故いつも俺に対してだけ気性が激しいのか、と両耳に指を突っ込んだ。すでに慣れた仕草だ。ヒカルとしては逆行して一度大人になった経験があるせいか、どうにも「以前」よりも塔矢アキラが子供っぽく感じられ、言い返すよりも聞き流す、もしくはわがままに付き合うことが多くなったと思っている。

「なんだよ、いいだろ関西の奴らとも打ってみたいんだよ」

「あんなに手合いがあるのにどこにそんな時間があるんだ!」

「日程調整してもらったんだよ、参加できるように」

「だが!先に言ってくれれば!いや、今から僕も!」

「無理に決まってんだろ!わがままいうなよ!」

「僕と打ちたくないのか?!」

まるで彼女に追いすがるようなセリフだというのに殊勝さはまるで感じられない、むしろ聞き方を変えれば傲慢にも思えるほどで、ヒカルは頭を抱えて唸り出したい気持ちでいっぱいだ。はたしてこの光景はどのように思われているのだろうか、と考えるが実のところあまりにも頻繁に見られる塔矢進藤コンビの言い合いに周りは最近の棋院名物として話題であることは本人たちだけが知らない。若き天才同士の掛け合いは内容の子供っぽさが実は人気だ。

「うっせーな!打とうと思えば打てるじゃねぇか!北斗杯参加が決まったらまた打てばいいだろ!」

「わかったじゃぁぼくの家で!」

「おい?!」

「今なら父さんとも打てる!」

「行く!」

ヒカルの方が逆行して大人のはずではあるが、以前よりお互いの扱い方を心得ているのは塔矢アキラの方かも知れなかった。



期せずして、以前と同じように北斗杯チームは塔矢アキラ宅にて泊まり込みの囲碁三昧の予定が決まり、あとはその北斗杯チームのメンバーであった。シードの塔矢アキラと同じく、予選に参加するとはいえヒカルも決まっているようなものだと、誰もがすでに大将と副将が二人で埋まっていると考えていた。そうなれば気になるのは団長と最後の一名、ここで熱くなっていたのが関西棋院だった。

「おい、おい、社!聞いたか、すでに関東の二人でメンバー埋まっとるやなんておかしな話しやないか?」

「おかしないわっていうか進藤は予選出るんやからまだ埋まってへん」

「そ、そやな!そや、もしかしたら運が味方して進藤押しのけられるかもしれへんぞ」

「せやせや、その気概でいかな最後の枠っちゅーたら塔矢アキラと進藤ヒカルと並ぶってことやねんからな、社お前選ばれたら本因坊佐為のサインもらってきてくれや」

「お前ら強気なんか弱腰なんかはっきりせぇや」

社は、予選に参加する自分よりも参加しない周りのほうが盛り上がっていることにどうしようもなくため息を吐きたくなっていた。
本当は初めての国際大会というものに対して緊張したいと思うのだが、親との約束でなまじ高校なんかに通っていると世間ではまるで話題になっていないことを知り、テンションは上がりきらない。学校では囲碁の言葉など出ない生活、棋院では自分より余程テンション高く軽く声をかけてくる同輩、家では将来の話など思春期には煩わしい話題ばかり、ちぐはぐな日常に苛立ちは隠しきれない。だがその苛立ちを囲碁への集中力や負けん気に変換できていることが社の強みともいえた。

(今回勝ち上がれば、タイトルホルダーと名が並ぶ、若手トップスリーとして実績が作れるんや・・・!)

関東での北斗杯一次予選はすでに終了し、進藤九段と本田初段の対戦はやはり進藤九段の勝利となっていた。そして社は師匠に無理を言って棋譜のデータを送ってもらい、印刷した紙を最近は毎日眺めている。もはや折り目が深く、インクが少し禿げていたが最新の進藤のデータだ、仲間内でも検討がつきない。ネットで上げられているsaiの棋譜も見ているが、この最新の棋譜が貴重なのは、本田初段と対局しているからだ。

師匠邸にて本田初段とは対局したことがあり、その時に社は実験的に初手天元を試した。社はこの布石による天元を自分の武器としてこれから強く使いこなしたいと考えていたし、実際自分に合っているのか上手く使えている自信があったからだ。

そして自分に負けたことで影響を受けたのか、この棋譜の本田は初手天元を試しており、棋風は少し自分に似せている。もちろん途中から天元の地の利をいかせず進藤に崩されているが一番参考になるであろうと思った。同時に、進藤は初手天元での奇襲は効果がなさそうだとも悔しく思う。天元の研究に関する自信はあるし、本田よりも初手天元を使いこなせるが、進藤の前ではそれも紙一重だろう。棋譜を見る限り、天元は完璧に封じられている。

もしも、進藤と対局することになれば、選手としてはどちらかが選ばれないということ、とすれば避けたい相手であるはずなのに社は他の人間を研究する気にはならず、進藤にばかり気を取られていた。最年少本因坊、伝説のネット棋士、ネームバリューばかり大きい存在だが、その名前に見合う強さがあることは棋譜を見ればわかる。おそらく今回最大の壁だ。

(・・・誰であれ、勝つ)

その矜持だけは折ることはできない。



コメント

  • 2021年8月25日
  • 執行済ØZERO
    2019年10月9日
  • ゆつき
    2019年7月27日
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