米倉涼子主演でネットフリックスが配信したドラマ。公文書改ざんを命じられた官僚が自殺した事件を描く。森友事件の遺族・赤木雅子さんにドラマ化を持ちかけたのは東京新聞の望月衣塑子記者。写真も借りていった。しかし、制作陣は「全部フィクション」と言い始め、望月氏も連絡を絶ち——。
1月13日、ネットフリックスで、ドラマ「新聞記者」(全6話)の世界同時配信が始まった。ネットフリックス(本社・米カリフォルニア州)の視聴者数は全世界で2億人超。日本国内でも有料会員数は500万人を超える。2020年の売上高は2兆5000億円を超え、今や映像制作・動画配信業界の“1強”となっている。
ドラマ版の基となった映画「新聞記者」(2019年公開)は、東京新聞・望月衣塑子記者の同名著書が原作。今回のドラマ版も、タイトルも、監督も同一だ。官房長官を会見で質問攻めにするなど、明らかに望月記者を髣髴(ほうふつ)とさせる女性記者役を米倉涼子が、公文書改ざんを強いられた末に自死する財務局職員役を吉岡秀隆が、悲嘆に暮れる妻役を寺島しのぶが熱演している。配信直後から大きな反響を呼び、ネットフリックスの国内視聴ランキング1位となる人気ぶりだ。
だが、このドラマが制作過程で迷走を重ね、当事者を傷つけていたことはまったく知られていない――。
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公文書改ざん事件の取材を続けてきたフリー記者の相澤冬樹氏は、ドラマ制作の準備段階でプロデューサーと何度か面会してきた。同氏の証言を軸に、他のドラマ制作関係者にも取材を重ねた結果、浮かび上がったのは以下のような経緯だった。
2020年3月18日、この日発売された「週刊文春」で、赤木雅子さんから夫・赤木俊夫さんの遺書を託された相澤氏による記事が出た。「『すべて佐川局長の指示です』 森友自殺財務省職員遺書全文公開」と題した全15ページの特集。初めて真相の一端が当事者の遺書によって明かされ、反響を呼んだ。
その数日後のことだった。神戸に住む赤木さんの自宅に一通の白い封筒が届いた。「東京新聞」と印刷された社用封筒で、便箋にも上部に「東京新聞」と印字されており、6枚にわたって、太めのペンでこう綴られていた。
〈突然の御手紙をお許し下さい。東京新聞の社会部記者で望月衣塑子と申します。(略)相澤記者の文春の記事を読み、だんな様の真っ直ぐで正義感が強く、包容力のあるお人柄、そして何よりも奥様を死の直前まで思い愛されていたことを知り、涙が止まりませんでした〉
ここから、「自分もぜひインタビューをしたい」と申し込むか、自分なりの問題意識から「この点についてさらに詳しく伺いたい」と話を進めるのかと思いきや、予想外の方向に筆は進んでいく。
〈映画「新聞記者」は赤木さんの死に衝撃を受けた河村プロデューサーが何としても上映させるぞと様々な嫌がらせを受けながらも撮影し、上映にこぎつけた作品です。(略)河村さんの手紙を預かりましたので、同封させて頂きます〉
事実、同じ封筒にはワードで打たれた、映画プロデューサー・河村光庸(みつのぶ)氏からのA4判2枚にわたる手紙が同封されていた。
〈映画「新聞記者」プロデューサーの河村と申します。赤木俊夫さんの手記拝読し、涙と怒りがこみ上げて、、。悔しいです。(略)この映画、先般圧倒的な映画人達の支持を得て、本年度日本アカデミー賞最優秀作品賞に選ばれ日本の映画界を騒然とさせました。なぜなら安倍政権を真っ向から批判した日本ではかつてあり得ない映画だったからです〉
「精神科医がダメだった」
映画「新聞記者」は半月前の3月6日に日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。望月氏をモデルにした記者役の女優、シム・ウンギョンが最優秀主演女優賞、葛藤する官僚役を演じた松坂桃李が最優秀主演男優賞を受賞するなど、確かに映画界を席巻していた。二人の手紙からはその高揚感が伝わってくる。
赤木さんは、映画プロデューサーの手紙が同封されていることに疑問を感じたが、望月記者には前から関心を持っていたという。菅義偉官房長官(当時)らを相手に「きちんとした回答をいただけていると思わないので、繰り返し聞いています!」と奮闘する女性記者の姿に好感を抱いていた。とりあえず手紙に記されていた携帯電話の番号を登録しておこうと打ちこみ始め、間違って発信ボタンに触れてしまう。慌てて取り消したものの、着信履歴に気付いた望月記者から、すぐに折り返しがあった。
「今度ぜひZoomでお会いしましょう」
話に花が咲き、赤木さん、望月記者、そして河村氏の三人で話をすることになった。20年5月下旬、三人はZoom越しではあるが初対面を果たした。そこで河村氏はこう切り出した。
「今ドラマ版の『新聞記者』を制作していますが、赤木さん夫妻がモチーフです。雅子さん役は小泉君(小泉今日子)にやってもらいます。新聞記者役は米倉君(米倉涼子)かなあ」
これに赤木さんは違和感を抱いたという。画面の向こうでソファに背を預け、女優を“君付け”するプロデューサーの態度もさることながら、特に気になったのは、こんな発言だった。
「ご主人が亡くなったのは精神科医がダメだったと思いますよ」
とてもよく対応してくれた精神科医の先生のことを、一方的な思い込みで批判する姿に危惧を覚えた。望月記者は「この問題に世間の関心を集めるための追い風になります」などと盛んに後押しするが、こうした思い込みの強い人にお任せすると、何をどう歪められるか分からない。これまで財務省に散々真実を歪められ、捻じ曲げられてきたのに、同じ轍(てつ)は踏めない――そう考えてドラマ版「新聞記者」への協力を断った。
この一件で赤木さんは、河村氏と望月記者とは距離を置こうと考えた。だが、望月記者から電話口で涙ながらに「私を切らないで下さい」と懇願されたため、望月記者との関係だけは続けることになった。
「雅子さん、ガンバレ!」動画
信頼関係を紡ぎなおすかのように、熱心に連絡を取る望月記者。財務省の公文書改ざんを巡り「連載記事を書きます」と原稿の下書きを送ってくることもあった。お菓子や、コロナ対策のための手作りマスクなど、様々なものを送りあうこともあった。赤木さんは望月記者に自宅での取材や写真撮影も許可し、俊夫さんや家族との大切な思い出の写真や、遺書などの資料も取材に役立ててもらえれば、と貸し出したという。
そんな中、ある日突然送られてきたのが、子どもたちの動画だった。
「雅子さん、ガンバレ!」
「雅子さん、ガンバレ!」
小さな拳を振り上げながら、まだ幼さの残る声でエールを送る正座した姉弟。見たところ、弟は小学校低学年、姉は少し上ぐらいだろうか。マンションの高層階で撮影されたようで、バックには東京湾が映る。
赤木さんは、心に冷え冷えとしたものが広がるのを感じたという。それも無理はない。これでは、“あの幼稚園”の動画と一緒ではないか。
夫の死の原因である公文書改ざん。その発端となった森友学園が運営する塚本幼稚園では、年端も行かぬ子どもたちに運動会で「安倍首相、ガンバレ!」と連呼させていた。
望月記者の子どもたちからは他にも、鉛筆で、「わたしはまさ子さんとなくなってしまったとしおさんのことが好きです」「裁判をおうえんしています」と書いた手紙も送られてきた。
その一方で、赤木さんが「協力はできません」と断ったはずのドラマは、水面下で着々と制作準備が進められていた。
20年8月6日、ネットに1本の記事が流れた。
〈米倉涼子と小泉今日子 独立した2人がNetflixで共演か〉(NEWSポストセブン)
“ドラマ版「新聞記者」の話は生きていたんだ!”
驚いた赤木さんは夫の遺書を託した相澤氏に相談。相澤氏は望月記者に連絡を取り、河村氏と赤木さんを交えた四者会談が都内で行われた。その席で赤木さんはこう訴えたという。
「財務省には散々真実を捻じ曲げられてきたんです。映画の登場人物が明らかに私だと分かるのであれば、多少の演出はあるにしても、事実をできる限り正しく伝えて欲しい。間違ったように描かれるのはすごく嫌なんです」
この場では、制作側との考え方の違いがいくつも浮き彫りになった。例えば当初、ドラマでは赤木夫妻に子どもがいる設定が考えられていた。望月記者はこんなことを言った。
「雅子さんに子どもがいたという設定なら、事実と違ってフィクションになるからいいじゃないですか」
相澤氏はこう振り返る。
「あまりに無神経な言い方だと思いました。もしお二人にお子さんがいれば、あのような(自死を選ぶという)決断には至っていなかったかもしれませんし、その後の財務省とのやり取りも、雅子さんがたった一人で対峙するのとは、まったく違ったはずです」
赤木さんがなぜ相澤氏に遺書を託したのかも重要なポイントだった。相澤氏はNHK記者時代、森友事件の報道で上層部に疎(うと)まれ、一人で事件を追いかける覚悟で巨大組織を辞めた。財務省という巨大組織に対峙した夫との共通点を感じたからこそ、赤木さんは相澤氏に自ら連絡を取り、後に夫の遺書を託したのだ。
ドラマだから、盛り上げるために主役を女性記者にするのはわかる。ある程度の演出も理解できる。でも遺書公開の過程や裁判にかかわる重要な根幹部分は変えないでほしい――それが赤木さんの望みだった。
河村氏の傍らで、望月記者はこの日も河村氏の倍以上の言葉を費やして説得にかかった。
「とにかく多くの人にこの問題を知ってもらうには、ドラマは追い風になりますよ」
それでも折り合えないと見るや、河村氏は妥協案を申し出た。
「どうしても気になる設定があれば、変えられます」
「脚本をある段階でお見せして、そちらが納得できるようにします」
こうしたいくつかの提案を口にし、持ち帰ってネットフリックス側と相談すると言い残してその場を去った二人。ところが以後、河村氏と望月記者からの連絡は途絶える。
翌月、9月15日の制作発表直前になって河村氏から赤木さんにメールが届いた。それは、「あくまでもフィクション」なので、要望はほとんど受け入れずに制作に着手するという通告だった。
結局のところ、河村氏と望月記者が狙ったのは、あくまでもアカデミー賞を取って大ヒットした映画「新聞記者」の二匹目のどじょうだった。同じタイトルで、同じ東都新聞(東京新聞がモデル)の女性記者が次々とスクープをものにして政権を追い詰めるという「物語」にリアリティーを持たせる「小道具」として、赤木さん夫妻の持つ迫真のディテールが必要だっただけではないか――こう疑われても仕方あるまい。
「二つに一つ」と小泉は迫った
この疑いにはもうひとつ、傍証がある。こうしたトラブルの一端を、小誌は20年9月24日発売号で「キョンキョン 米倉涼子『新聞記者』で望月記者の酷い裏切り」と題して報じた。すると以後、望月記者は、赤木さんからの電話やLINE、シグナル(通信アプリ)といったあらゆる連絡手段での呼びかけに応じなくなったのだ。電話をいくら鳴らしても、互いに番号が登録してあるはずなのに応答せず、コールバックもない。LINEは既読にならず、普段やり取りに多用していたシグナルはアカウント自体が削除されてしまった。
20年9月といえば、赤木さんが国と佐川宣寿元財務省理財局長に1億円余の賠償を求める裁判の二回目の弁論を翌月に控えた時期だ。本気でこの事件を取材する「新聞記者」ならば、重要な取材対象者である赤木さんとの連絡を自ら断つはずはない。
望月記者は、9月22日付けの「視点 菅新首相へ 声なき声に耳傾けて」と題した記事で森友事件に少し触れている。その二日後に「望月記者の酷い裏切り」記事が出た。以後、森友事件や財務省の公文書改ざんに触れた署名記事を、今に至るまで、ただの一本も出稿していない。
外形的な事実から分かるのは、最初の手紙に「私なりに取材を重ねて、社会に訴え続けたいと思います」と書いていた「新聞記者」が、映画プロデューサーと一緒にドラマ化成功のために奔走し、赤木さんの説得を試みた、ところが不調に終わると一切の関係を遮断し、記事も書かなくなったということである。
◇
この望月記者の騒動の陰でもう一つの動きが並行して進んでいた。赤木雅子さん役として当初、河村氏が名前をあげていた「キョンキョン」こと小泉今日子だ。
〈#赤木さんの再調査を求めます〉
彼女は、森友学園問題で赤木さんを応援するハッシュタグをつけたツイートをするなど、当初からこの問題に深い関心を寄せてきた。赤木さんと相澤氏の共著『私は真実が知りたい』の写真をツイッターにアップし、〈読みました。深い孤独と悲しみに胸が苦しくなりました。そしてとても腹が立ちました。私も真実が知りたい。〉と呟いたこともある。
これまで小泉は対外的には「オファーはあったが最終的にはお断りした。理由はスケジュール的な問題」と説明してきた。
だが複数の制作関係者を取材した末に分かった真実は次のようなものだった。
「小泉さんが出演を辞退したのはスケジュールの問題ではありません。仕上がった台本をすべて読み込み、衣装合わせも終え、撮影現場でのコロナ対策のための講習も受けておられて、やる気満々でした。撮影が始まる寸前だったのです」(制作関係者の一人)
関係者の話を総合すると、この問題に強い関心を持つ小泉は、プロデューサーの河村氏との打ち合わせでも、再三再四、こう釘を刺していたという。
「確かにドラマであり、エンターテイメントだけど、赤木さんには彼女の実人生がある。この役を演じるにあたっては、赤木さんのご理解と了承がなければ成り立たない。それをしっかり得られていないのであれば、このお仕事はお受けできません。そこだけはきちんとしてください」
当初は河村氏も「Zoomで話しています」「話し合いを重ねています」と説明していたが、やがて説明を一変させた。
「(赤木さんの了承を得なくても)完全なフィクションなんだから、いいじゃないですか」
20年秋、撮影開始を目前に控えた小泉は、最終的に河村氏にこう迫った。
「私を降板させるか、一旦撮影に入るのを中断してきちんと赤木さんの了承を得るのか、二つに一つです。どうしますか?」
別の制作関係者が明かす。
「キョンキョンは、今まさに法廷で必死に闘っている赤木さんへの影響をずっと心配していました。もう風化してしまった過去の事件を題材にするのとはわけが違う、と。『彼女の了解のもと、追い風になるような作品にできるなら良いけれど、逆には絶対にしてはいけない』と語っていました」
だが、ドラマの筋書きは最初から出来あがっており、赤木さんの気持ちに寄り添うつもりなどなかったのだろう。他の主要キャストのスケジュールも既にすべて押さえている。河村氏は小泉に、「残念ですが、辞退してください」と告げるしかなかった。
代役を引き受けた寺島しのぶをはじめ出演者や、現場で制作に励んだスタッフには何の罪もない。だから小泉は、今も出演辞退の理由については明かそうとしないという。
すべてのきっかけは望月記者
小泉の出演辞退から1年余り――。
「ドラマが完成したのでお会いできませんか」
河村氏側から赤木さんらに、仲介者を通じて久しぶりに接触があったのは昨年秋のことだった。そして、年の瀬の12月27日、都内のホテルで河村氏、赤木さん、相澤氏と仲介者が再び向かい合った。そこで河村氏は、開口一番、謝罪を口にした。
「言い訳にしか聞こえないと思いますが、お詫びしなければいけないと思っていまして、どうお詫びするかずっと考えていました」
だが、何に対して謝っているのかわからない。ドラマは完成して間もなく世に出てしまうのに。一方的に話し合いを打ち切り、1年後、配信直前になって急に連絡してきた河村氏に、赤木さんは不信感を強めたという。
「夫と私は大きな組織に人生を滅茶苦茶にされたけれど、今、あの時と同じ気持ちです。ドラマ版のあらすじを見たら私たちの現実そのままじゃないですか。だいたい最初は望月さんの紹介でお会いしたのだから、すべてのきっかけは彼女です。なぜ彼女はこの場に来ないのですか」
河村氏はこう返すのが精一杯だった。
「望月さんには何度も同席するよう頼んだんですが、『会社の上層部に、もう一切かかわるなと止められている』と」
東京新聞はドラマ版も映画版も撮影場所として社屋の使用許可を出している。エンドロールにも「特別協力」として名前が出てくる。東京新聞映画賞には映画版「新聞記者」を選出し、表彰。今も東京新聞を訪ねると、ドラマをPRする特設コーナーが社屋に設けられ、会社として全面的にバックアップしている。
この席で河村氏は、これまで1年余りも連絡や相談を怠ったことを謝罪しつつも、自身も監督も脚本家もスタッフも、赤木さんと相澤氏の共著『私は真実が知りたい』は一切読んでおらず、何ら参考にもしていないと説明した。「公知の事実」のみで構成した「完全なフィクション」だというのだ。
この説明は「真実」だろうか?
このドラマには、全編、赤木さん夫妻の実人生のディテールが使われている。
例えば、第3話の冒頭では、財務局職員が自室で命を絶つ。妻が泣きながら遺体を抱え、次に机の上の遺書を見つけるシーンがある。「本当にありがとう」の「り」が、涙が落ちたのか、そこだけ滲んでいる。実はこれは、赤木俊夫さんの遺書そのままだ。
第5話では、妻が夫のUSBから文書改ざんの経緯を詳細に記録した「手記」というファイルを見つける。その中で、〈財務省が国会等で真実に反する虚偽の答弁を貫いていることが〉の箇所だけが赤文字で描かれ下線が引かれている。これも体裁まですべて瓜二つ。
部屋の様子も、白い壁や書籍が並ぶ木の棚などの雰囲気が似ており、国家公務員倫理カードを肌身離さず持ち歩くなどの細部も「赤木俊夫」そのものだ。
「夫と自分の人生を乗っ取られた……」
今年1月、ドラマ版を視聴した赤木さんはショックを受け、こう漏らしたという。そして、ある疑いを抱いた。
望月記者が「報道のため」というから貸し出した写真や画像データ、遺書、音声データなどは一部しか返却されていない。返してほしくて何度も電話したが応答せず、コールバックもない。あれらの資料がドラマ「新聞記者」の参考にされたのではないか――。
果たして当事者たちは何と答えるのか。
河村氏に聞いた。
「安倍政権や財務省と同じ」
――ドラマ版「新聞記者」は、赤木さんの了承を得られないままに制作した?
「私は今答える立場じゃないので。ネットフリックスのほうに聞いてください」
だがネットフリックスはメールで一言、こう答えるのみだ。
「弊社よりお答えできることはございません」
望月記者にも話を聞こうと自宅のインターホンを押すと「はい」と、いつも会見で耳にするやや高い声で応答があった。ところが「週刊文春」と名乗ったとたんに切られ、あとは一切応答なし。電話をしても手紙を置いても、なしのつぶてだった。
東京新聞に望月記者の取材で得た資料の目的外流用の可能性や、重要な取材対象を突然遮断し信頼関係を損ねたこと、「新聞記者」の立場を利用してドラマ化実現へと動いていたことなどについて聞くと、書面でこう回答した。
「取材源にかかわることや取材内容など業務にかかわることはお答えしておりません。取材で得た情報等を報道目的以外で使用することはありません。ネットフリックスへの協力は、社屋を撮影場所として提供した範囲の協力であり、ドラマの内容には関与しておりません」
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この騒動に巻き込まれた複数の人物は、取材班の前で異口同音にこんな言葉を漏らした。
「あの人たちがやったことは、安倍政権や財務省と同じです」
全世界で2億人が見るネットフリックスは、いまやどのテレビ局よりも潤沢な予算を持ち、業界に君臨する“権力”といっていい。その視聴者数と資金力をバックにした制作陣が、企画に違和感を覚え、困惑を漏らす一個人の声を押し潰す。仕掛人の「新聞記者」は、トラブルを察知した途端に逃げだした。
赤木さんは最近友人から「ドラマ見たよ」と連絡をもらうたびに、複雑な気持ちになるそうだ。あまりに悲しく、すべてを見ることなどできない。部屋の雰囲気、家族の写真、夫の手書きの遺書……大切なものが都合良く切り取られ、利用され、乗っ取られてしまった――そんなやりきれなさを感じているという。
これがドラマ「新聞記者」の悪質な“改ざん”の全内幕である。
source : 週刊文春 2022年2月3日号