毎晩、銀座や六本木で飲み明かして、週末は葉山でヨットとシャンパン……。特に30代、40代の立身出世型の大富豪は派手な生活をされる方が多く、「仕事もバリバリやりながら、よく遊ぶ体力があるなあ」と感心してしまうこともあります。
しかし、非常に興味深いことに、若い時に豪遊三昧だった人でもどこかのタイミングで必ずと言っていいほど我に返ります。
50代を過ぎて遊びまくっている人は大抵、遅咲きだった人で、若い時に成功を収めた人はその年齢にもなれば遊び尽くした感覚を持ち、派手な生活にむなしさすら覚えるようになる人もいます。そして家庭に回帰したり、自分が得た利潤を社会や地域に還元したりしようという意識が湧くのです。
企業経営でも似た現象があります。会社の規模が成熟すると、CSR(企業の社会的責任)活動を強めていきます。社会貢献の形として最も分かりやすい例が財団でしょう。大企業、またはそのオーナーで財団を持つことはよくある話で、日本ではサントリーやベネッセなどが有名です。
世界で最も有名な慈善基金団体はビル・ゲイツが立ち上げたビル&メリンダ・ゲイツ財団。その基金の半分は、同じく世界を代表する大富豪のウォーレン・バフェットからの寄付で成り立っています。ウォーレン・バフェットは自分の資産の85%は寄付すると宣言しており、ビル・ゲイツ自身も自分の死後、資産の95%は寄付すると明言しています。
世間の風当たりを和らげる
近年ではフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグが立ち上げた慈善団体がLLC(有限責任会社)という形を取っているため「ただの節税対策じゃないか」と非難を浴びています。
しかし、彼としては自分が本当に支援したい分野にただお金を出すのではなく、積極的に関与していきたい、本気で状況を変えたい、と思って新形態の手段を採用したと考えるのが正しいでしょう。これをインパクト投資と言います。自ら起こした事業によって世の中を変えてきた彼ならではの発想だと思います。
ただ、きれい事だけではありません。大富豪が社会貢献に関心を持つ背景の一つには、世間からの風当たりを少しでも和らげたい気持ちもあると思います。地元の名主たちが、神社に寄付をするのも同じです。
「あいつは強欲だ」「あいつは好きになれない」と周囲から言われ続ける人(や会社)は、一時的にうまくいったとしても、最終的には淘汰される運命なのだ、と彼らは分かっているのです。
大富豪が原点に立ち返ることは自然なことだと思います。
ZUU社長兼CEO。一橋大学在学中にIT分野で起業。卒業後、野村証券プライベートバンク部門で活躍。退職後にZUUを設立し、国内最大規模の金融ポータルメディアZUU onlineなどフィンテック分野で事業を展開中。
[日経マネー2016年12月号の記事を再構成]