怪物と迷宮   作:迷宮の怪物1

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よろしくお願いします。


Dクラス謀略編
4話


 5月の末に中間テストを控えた生徒たちは夜な夜な寮で勉強に勤しんでいた。眠気と格闘しながらの勉強漬けの夜も明け、朝日が東のほうから顔を出してしばらく経った頃、学生たちが住む寮では登校の準備のためか、どやどやとした足音や挨拶を交わす声が聞こえ出し、にわかに騒がしさに包まれる。

 1階のエントランスホールでは階段やエレベーターから降りて学校へと向かう者で賑わう中、そのホールの一角に休憩場所として設置されている大きなソファにどっかりと座る男がいた。箕輪勢一である。

 

「何なの、あいつ?」

 

「何あれ、やばくない?」

 

「マジでありえないんだけど」

 

 ソファの背もたれに腕を回しながら体を預け、行儀悪く足を放り出し、クチャクチャと耳障りな音を立ててチョコ菓子を頬張る箕輪。そして、登校する生徒たちは怪訝な表情を浮かべ、その下品な男をチラチラと横目で見ながら、話題にしている本人のもとに届くか届かないかの声量で非難していた。

 しかし、当の男は周りの声を意に介さず、泰然自若といった様子で(くつろ)いでいる。

 しばらくして始業時間も近づき、そんな男を気に留める余裕がなくなったのか、反応することなく生徒たちは忙しく学校に向かう。そんな中で1階のエントランスを通る生徒たちの数も少なくなった時にエレベーターから一人の男子生徒が出てきた。中肉中背の体格にブラウンの髪色で地味に顔立ちが整ったその男、綾小路清隆は焦ってもいい時間にもかかわらず、そんな色合いを感じさせない動きで寮の出口へと向かっていた。

 その途中、ソファで寛いでいる男が視界の隅に入る。5月の初めに学校の新たな仕組みが判明して以来、綾小路が見た範囲ではあるが、どのクラスの生徒も例外なく私語や遅刻は気をつけるようになっていた。その現状を踏まえて、一時限目開始時刻が迫るとは思えないその男の行動に少しの疑問と興味を持った彼はわずかな時間迷った末に声をかける。

 

「あんた、このままだと遅刻するぞ」

 

 声をかけられた男は何の反応も示さず、手に持った菓子を黙々と食べていた。無視されたことに若干傷つき、声をかけたことを後悔した綾小路は立ち去ろうと動く。

 

「……お前さん、名前は?」

 

 急に言葉を投げかけられた彼は立ち去ろうとした動きを止めて、ゆっくりと相手の男に向き直る。

 

「綾小路清隆だ」

 

「クラスは?」

 

「Dクラスだ」

 

 その返答に対して男はあからさまに品性の欠ける(いや)し気な笑みを浮かべる。

 

「ほぉー、そいつぁ災難だなぁ」

 

 その相手の表情と言葉から、綾小路は歴代史上最低クラスポイントである0ポイントを叩きだした自分のクラスを(あわ)れんでいると瞬時に理解した。

 

「確かに当分は苦しい生活を強いられるだろうが、まぁ何とかなるはずだ」

 

 当たり障りのない他人事のような綾小路の返事に、箕輪は含み笑いを浮かべて首を横に振りながら菓子のゴミをくしゃりと手で丸めポケットに突っ込む。

 

「そういう意味じゃ……ないんだけどねぇ」

 

 自分の返事に対して、気のない励ましか、明らかな侮蔑かのどちらかの返答になると予想をしていた綾小路は予想外の第三の言葉に困惑し、情報が少なすぎると判断したのか、わずかな間を置いて問いかける。

 

「じゃあ、どういう意味なんだ?」

 

「……」

 

 これ以上会話をする気がないのか、綾小路の言葉に反応せずにニヤついた表情で男は虚空を黙って見つめていた。その様子をしばらく見て、これ以上話が進展することは無さそうだと悟った綾小路は軽く溜息をつくと身をひるがえし改めて寮の出口へと向かう。寮から出て、穏やかな風を感じながら舗装された並木道を幾分か進むと綾小路は先ほどのやり取りについて考える。Dクラスに所属していることを聞いた相手はそれを災難だと口にした。綾小路が汲み取った意味とは別の意味で。

 しばらく思案していた彼だが、やはり情報が少なすぎると判断し、思考の迷路へ踏み出すことを止める。そのときに綾小路はふとあることを思い浮かべた。そういえば相手の名前とクラスについて聞くのを忘れていたと。彼は軽く頭を掻き、自分の他者に対する無関心さと社交性の不足に自己嫌悪しながら、覇気のない足取りで校舎へと向かう。この時、すでに先ほどの小さな疑問は綾小路の頭の片隅に追いやられてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほとんどの生徒が登校し終えて、授業開始前に友人同士で挨拶や軽く話をしている中、Cクラスの教室を大きな笑い声が響き渡る。

 

「ぎゃははは! 伊吹、お前大口叩いてたくせにボコボコじゃねぇーかっ!」

 

 それ見たことかと大声で笑う石崎の目の先には、左腕を添え木で固定し首からぶら下げ、眉に(しわ)を寄せて不満を前面に出している伊吹が佇んでいた。3日ぶりの出席である。ただでさえ痛みでズキズキとする腕に苛立っている伊吹は石崎の不快な笑い声にカチンときたのか、迷いなく流れるよう彼の側頭部に軽く蹴りを放つ。

 

「いってぇー! 何しやがるっ」

 

「あんた笑った、わたし蹴った、おっけー?」

 

「オッケーなわけねぇだろ! つーかその言い方なんなんだよ」

 

「あんた頭悪いから、これくらい噛み砕いて言わないと理解できないでしょ?」

 

 綺麗に直撃してしまった顳顬(こめかみ)に手を当てながら向かっ腹を立てる石崎と、苛立ちが多少は発散されたのか少しだけ意地の悪さが見える伊吹。

 からかうつもりであった石崎は彼女に煽り返され、先ほどまでとは立場が逆転してしまう。

 そんな彼を見て同情したのか、背中をポンポンと叩きながらなだめるアルベルト。

 

Chill out(落ち着け)

 

「俺はいつだって冷静だぜアルベルト」

 

 目を血走らせて鼻息を荒くする石崎にその言葉の説得力はなかった。

 その様子を見守っていた龍園はニヤリとした表情で横やりを入れる。

 

「ほぉ、アルベルトの言葉が理解できたのか? 英語の勉強の甲斐があったな石崎」

 

「……龍園さ~ん、茶々入れないでくださいよ~」

 

 彼には逆らえないのか、それまでの怒りの形相がたちまち霧散した石崎はおねだりする犬のように龍園へと泣きついた。

 その石崎の姿に情けなさを感じたのか、伊吹は鼻を鳴らして(あざけ)るようにつぶやく。

 

「ほんと、犬の(しつけ)けはバッチリみたいね」

 

 その伊吹の独り言を聞き逃さなかった石崎は頬をぴくぴくと引き()らせながら、ゆっくりと振り向く。

 

「伊吹~、吐いたら息は吸えんぞぉ」

 

「それ、ただの呼吸困難。正しく言うなら吐いた唾は飲めない、でしょ。

 ……はぁー、国語の勉強も必要みたいね」

 

 大袈裟に肩をすくめて呆れたことをアピールする伊吹に対し、怒りで手が出る寸前の石崎。その二人に対して龍園は制止する声をかける。

 

「もうすぐ授業が始まる。痴話喧嘩もそこまでにしとけ」

 

「誰がっ!」

 

 龍園の痴話喧嘩という言葉に反応した伊吹と石崎の言葉はハーモニーのように重なった。しかし、次の瞬間はっと正気に戻った石崎は思わず偉そうな突っ込みを龍園に挟んでしまったことを後悔する。石崎はチラッと龍園の様子を窺うが、彼はそれを気にする素振りもなく、薄い笑みを浮かべていた。

 

「クク、なんだ、否定する割には仲良いじゃねぇか」

 

 からかうことをやめそうにない雰囲気の龍園に、溜息を吐いて否定することをあきらめる二人。

 突如、ガラッと教室の戸が開かれる。教師が来たと思った石崎と伊吹は急いで席に戻ろうとするも、入ってきたのは品のないヘラヘラとした笑みでポケットに手を突っ込みながら歩いてくる箕輪であった。

 その姿を目にした瞬間に腕の痛みが走った伊吹は怪我の原因である蹂躙劇を思い出して体が硬くなる。伊吹はあの特別棟での戦いで箕輪に言い訳の余地もなく捻じ伏せられたことを認めていた。しかし、彼女は心まで敗北したことは認めない。ここで認めてしまえば、心を折らず立ち向かうために費やした勇気と覚悟の意味が失われてしまうからだ。恐怖で動けなくなったら負け、そう自分に言い聞かせながら彼女は深呼吸をする。そして、こちらへと近づいてくる箕輪の正面に向いて立ち、臆することなくその目を見据える。

 

「随分とギリギリの登校ね。遅刻はクラスのポイントに響くんだから気を付ければ?」

 

 伊吹の忠告を聞いているのか、いないのか、どちらとも言えないような態度で歩いてきた箕輪は目の前で立ち止まると彼女の顔から下の方へ視線を落とす。それに気づいた伊吹は我が意を得たとばかりに言葉を(つむ)ぐ。

 

「ほら、あんたのせいでこんな怪我になったんだけど?」

 

 伊吹は努めて平静を装いながら、添え木で固定された腕を体の前に差し出して、その痛々しさを主張する。

 その突き出された伊吹の腕から視線をはずした箕輪は不精(ぶしょう)ったらしい様子でその主張を退ける。

 

「よかったんじゃないの? いい経験ができて」

 

「この怪我がいい経験だって言うなら、あんたにも味わわせてあげたいところだけどね」

 

 強い言葉とは裏腹に伊吹の足がかすかに震えているのを目にした箕輪は砕けた調子でお手上げというように両手を上げた。

 

「はぁー、懲りないねぇ。その涙ぐましい反骨心だけは認めてあげよう」

 

 やれやれと上げた手を降ろすと箕輪は歩みを再開する。

 殊勝な言葉が返ってくることを一ミリも期待していなかったとはいえ、伊吹は自分の強がりを見透かされたのも相まってか、不満気な表情を浮かべた。そして、横を通り過ぎた箕輪を目で追いながら彼女は問いかける。

 

「あんたの強さは異常。今まで見たことないくらいに。どうやったらそんな強くなるわけ?」

 

 伊吹の疑問に後ろを振り返ることなく箕輪は立ち止まった。

 

「……言ったろ。俺の身体は特別製、要するに天性の才能ってやつよ。……まぁ、不自由でもあるがな」

 

 最後の言葉は小さくて聞き取れなかったが、箕輪のどこか哀愁を感じられるような雰囲気に伊吹は今度こそ自分の問いに対して真剣に答えてくれた気がしていた。

 

「本当ならあんたみたいな奴とは金輪際関わりたくないところだけど、同じクラスだからそういうわけにもいかないし、その強さだけは認める。嫌いだけどね」

 

 そう言うと伊吹は確かな足取りで、そのまま一度も振り向くことなく自分の席へと戻っていった。

 

「ヒヒ……別に認めてもらう必要はないんだけどねぇ」

 

 表情を変えずにそれを見届けた箕輪は来た時と同じような歩みで龍園の席を横切る。すると何かあるのか彼が箕輪に声をかけてきた。箕輪は立ち止まり、それを黙って聞く。

 

「6月から動き始めるぞ」

 

「……クク、ようやくってわけか」

 

 箕輪は笑みを深くしながら、そうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Dクラスでは我儘(わがまま)な担任教師と怠惰なクラスメイトのせいで何やら波乱のあった5月末の中間テストをCクラスは無事に終え、雨に紫陽花(アジサイ)の花の映える季節がやってきていた。教室の窓から覗かれる陽の光を遮る曇り空と、しとしと降りの雨は体に張り付く湿気も相まって多くの人間を鬱屈(うっくつ)とした気分にさせる。そのせいか、放課後になったというのに晴れのときとは違って生徒たちからは幾分か活気が失われているようだ。そんな中でいつもと何ら変わりない、内面の読み取りにくい薄い表情で椎名は図書館での新たな本との出会いに意識を向ける。それだけで豊かな色彩感のある感情が内に生み出されるが、それを表に出すことなく、彼女は教科書を鞄に仕舞い帰り支度をする。そんな彼女に近づく人間が一人。

 

「よぉ、ひより。俺に付き合え。放課後デートといこうじゃねえか」

 

 相手の事情などお構いなし。陰りを見せることのない傍若無人な振る舞いの龍園が傍に寄って来ていた。

 

「……龍園君、誤解されるような言い方はやめてください」

 

「わざとだ。お前の反応を見て楽しんでるんだよ」

 

 先ほどまでの椎名の楽しみは儚くも無残に散っていく。晴天の霹靂のような感情の移り変わりに思わず帰るための準備の手が止まっていたが、彼女は少しの時間で何となく事態を察して帰り支度を再開する。

 

「私の力が必要ということですか?」

 

 椎名の察しの良さに、話が早いと機嫌を良くする龍園。

 

「そういうことだ。残念だが、これから1週間は図書館には行けないな」

 

「元々そういう約束ですから、仕方ありません」

 

 不満をおくびにも出さない澄ました顔で椎名は答え、帰る準備が整うとすぐに龍園と連れ立って教室を出ていった。

 同じ教室で遠くからその様子を眺めていた石崎は箕輪の席へと近づきながら意外そうにつぶやく。

 

「龍園さんのタイプって椎名みたいな女子だったんだ。まぁ、確かに可愛いけど」

 

 間の抜けたような顔で思慮の欠けた発言をする石崎に少しの苛立ちを感じた伊吹は片手で雑に教科書を鞄に仕舞いながら、そちらに顔を向ける。

 

「そんなわけないでしょ。龍園がそんな平凡な恋愛脳してると思ってんの? まず間違いなく何かやらかす気だよ、あいつは」

 

「伊吹……お前妬いてんのか?」

 

「はぁっ!?」

 

 石崎の見当違いな言葉にいつものクールな表情が崩れる伊吹。次第に心の中で広がる苛立ちが怒りに変化していく。

 

「冗談言わないで! 龍園は嫌いって言ってるでしょっ」

 

「でも、嫌よ嫌よも好きのうちって言うしなぁ」

 

「……ああ、わかった。あんた喧嘩売ってるんでしょ? 来なさいよ。いつでも叩き潰してあげるから」

 

「おぉ、なんだやる気か? いいぜ、CクラスNO.4決定戦だ」

 

「……ちょっと待って。NO.4って何?」

 

 耳に入れたくないような単語が聞こえ、訝しげに伊吹は眉をひそめた。

 

「NO.1が龍園さんで、NO.2がアニキで、NO.3はアルベルト。で、空白のNO.4を決めようって話だ」

 

「そんな話聞いてないから! ていうか、そんなのいらないっ」

 

「今決めた話だぜ、伊吹」

 

 もはや定番のじゃれ合いのようにしか見えない、いつもの二人のやり取りを困ったように見守るアルベルトは溜息をついた。すると、静かに椅子を引き、鞄を片手で背負った箕輪が立ち上がるとアルベルトへ近づき軽く肩を叩く。

 

「大変だなぁ、アルベルトくんは」

 

 肩を叩かれたアルベルトは一瞬電気が走ったように身体をビクッとさせると怖々と振り向く。

 それを見た箕輪は片側の口端を引き上げて笑う。

 

「ヒヒ……傷つくねぇ。そんなに怖がらなくてもいいじゃないの。俺は仲間には手を出さない(たち)でね……いらん事さえしなければな」

 

 脅しともとれるような発言を置き土産に、石崎と伊吹が教室で事を起こさないようにアルベルトへと忠告すると、何食わぬ顔で箕輪は教室を去っていった。

 その一連の流れを見ていた石崎と伊吹は気が削がれたのか、先ほどまでの空気は霧散していた。

 

「アニキって何考えてるかわからないから、時々怖いんだよな。なんか後ろから刺されるような気配がするっていうか、味方のはずなんだけど」

 

I think so too(私もそう思う)

 

 普段は表に出すことのない箕輪に対する石崎の感情の吐露に、アルベルトも同じ気持ちなのか同意する。

 それを横で耳にしていた伊吹も内心では同意するが、負けん気の強さゆえに弱音のようなものを吐く気はなかった。

 

「まったく、あんたってビビりね」

 

「……正直、お前はすげぇよ。3日も休むくらいにアニキから酷い目にあったのに強気な態度とれるんだからよ。俺が同じ目にあったら無理だろうな」

 

 石崎の突然の殊勝な物言いに対して、伊吹は調子が狂ったのか次の言葉が思い浮かばず、しばらくしてから鞄を持って教室の出口へと向かう。

 

「……戦場とかだと臆病者の方が生き残れる確率高いらしいし、別にいいんじゃないそれで」

 

 そう言い残すと伊吹は帰っていった。

 彼女の不器用な言葉に石崎とアルベルトが不思議そうに顔を見合わす。

 次の瞬間には二人とも笑いあった。

 

「なんだよあれ、励ましてるつもりかよ。どんだけ会話下手なんだっつーの」

 

 石崎は満更でもない笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あそこで何かやってるみたいだぞ」

 

 ある日のお昼休み。校舎の1階に存在する食堂やカフェ、購買部につながる大広間のような広々とした廊下で大勢の人垣ができていた。

 そこでは、人だかりの中心に置かれた円柱の台に乗って向かい合う二人の人間が相手を台から落とそうと押し合っている。いわゆる手押し相撲である。

 

「後ろの人が見えなくなるので、前の方で観覧する人は座って見てくださーい」

 

「参加料は1回1000ポイントで何度でも挑戦可能です。賞金はなんと100万ポイント! 勝てば1回の参加料が1000倍になって返ってきますよー」

 

「イベント期間は本日より1週間だけです! 是非この機会を逃すことなく、奮ってご参加くださーい」

 

「参加登録の受け付けはあちらでお願いしまーす」

 

 イベントを開催しているスタッフの威勢の良い声が響き渡り、それを聞きつけた人たちが興味本位で続々と集まる。中間テストも終わって緊張の糸が緩まり、弛緩した空気が学校を漂っている中、こういう娯楽的なイベントは格好の話題提供となっているらしく男女問わず見世物として盛況さを見せていた。

 その盛り上がりの隅の方で正反対の雰囲気を醸し出しているのは受付に座っている伊吹である。

 

「何で私がこんなことを……」

 

 一人愚痴る伊吹に対して、それを聞きつけた椎名が申し訳なさそうに近づいてくる。

 

「すみません、伊吹さん。龍園くんから参加の受付は可愛いらしい女の子に限定するようにと言われていたので」

 

「私がそれに該当することに疑問があるんだけど」

 

「その通りよ、伊吹さん。あなたにしてはわかってるじゃない」

 

 突然、伊吹と椎名の会話に割り込むようにして一人の女子が話に加わってきた。

 伊吹に良い感情を持っていないことは傍目に見ても明らかな同じCクラスの少女、真鍋志保は腕を組みながら彼女に対して見下すように視線を投げる。

 

「伊吹さんはこの場に似合わないし、椎名さんももう少し見る目を養わないと自分の評価が下がっちゃうわよ」

 

 それだけを言い捨てると真鍋は自分の持ち場へと戻っていった。

 普段であれば感情の乏しい顔の椎名に困惑と悲しみの混ざり合った表情が浮かぶ。

 

「重ね重ね申し訳ありません、伊吹さん。私が巻き込んでしまったばかりに……」

 

「別にあんたのせいじゃない。元からあいつは私のことが嫌いなだけ。私を罵倒できるなら何でも食いつくダボハゼみたいなもの。気にしても仕方ないし、あんたが謝る必要はない。むしろ私が巻き込んだようなものでしょ」

 

 真鍋の罵りの言葉に何ら痛痒(つうよう)を感じていない伊吹はやる気の無さそうに頬杖をついていた。

 それを横目で窺っていた椎名は伊吹の返答に菩薩のような慈愛に満ちた穏やかな表情へと変わっていく。

 

「伊吹さんは優しい人ですね」

 

「……何でそうなるのよ。私は事実を言っただけ」

 

「それでも優しいです」

 

 変わらない笑みのまま(かたく)なに意見を変えない椎名を見て、伊吹は自分の苦手なタイプだと確信する。

 渋々と何人かの受付を済ませると、ふと疑問が湧いてきた伊吹が椎名の方へと顔を向ける。

 

「そういえば、あんたさ──」

 

「ひより……と呼んでください」

 

 伊吹の話を中断して、椎名は自分の名前を呼ぶようにお願いする。しかし、お願いというには(いささ)か名状しがたい力が込められていた。

 

「いや、私は誰ともつるむ気ないんだけど」

 

「それにしては龍園くん達と仲が良さそうに見えますよ?」

 

「それは不可抗力っていうか──」

 

 そう言いながら伊吹は椎名と視線を合わせる。すると悲哀に満ちた彼女の瞳から道端に捨てられた哀れな子犬を幻視させられた。

 何とも言えなくなった伊吹は話を止めてからしばらくの間を置いて、頬をポリポリと掻き、息を吐く。

 

「……ひより。これでいいでしょ?」

 

「はい」

 

 先ほどよりもわかりやすく嬉しそうな雰囲気の椎名に、この子の頑固さには勝てないだろうなとぼんやり感じていた伊吹は気を取り直して自分の疑問を続ける。

 

「で、さっきの続きなんだけど、龍園と放課後何してたの?」

 

「賭け試合にお付き合いして頂けそうな部活を見繕っていました」

 

「賭け試合?」

 

「はい。100万ポイントを賭けての試合を行ってくれるような部長さんが所属する強くて大所帯の武道系といくつかの運動系の部活を探していました。人数が多いと支給される部費が多いみたいですから賭けに乗ってくれる可能性も上がります」

 

「そんな賭けに部長の一存で部費出せるの?」

 

「部費の使い道は部長が決めていますから。ただ、部長個人が悪用できないように部活動専用のポイント端末があるみたいです。部費については生徒会の会計上の監査も入りますし、抜き打ちで部室や備品のチェックもありますから厳しいですね。今回の賭け試合はその部活動の競技で勝負しますし、投資活動の延長のような感じでポイント使用が認められました。実際に個人間での賭けごとはそこそこあるらしいです。今回のような大きなポイントを賭けて部に挑むような個人は初めてらしいですけど」

 

「へぇー。で、どんだけの部活が応じてくれたわけ?」

 

「2つだけです」

 

「てことは200万ポイントも稼いだってわけね」

 

「Cクラスの方々から毎月徴収しているものを合わせると現在のポイントは400万を超えています」

 

 その額の大きさに呆れたような顔をした伊吹を不思議そうに見やる椎名。

 

「こちらが負けてしまった可能性は考えなかったのですか?」

 

「やったの箕輪でしょ? 負けるイメージが全然浮かばないんだけど」

 

「はい、箕輪さんです。武道系の部活ではアルベルトさんだと皆さん難色を示していましたが、箕輪さんには快く応じてくれました」

 

「まっ、見た感じだとアルベルトのほうが強そうだからねー。それで痛い目見たってわけか」

 

 箕輪の体格を見て高を(くく)った運動部の連中。そもそも、高額ポイントを賭けて勝負を挑んでくるあたりで何かしらの不自然さを感じて然るべきところを強豪ゆえの自負か、はたまた自分たちの土俵で戦うがゆえの油断かは不明だが、その思い上がりの代償は大きかったようだ。

 

「で、その噂のスーパー箕輪マンはあっちでも頑張ってるみたいだけど」

 

「はい。龍園くんも自信満々に箕輪さんが遅れをとることはないと豪語していましたから」

 

 会話を終えると、期せずして同時に2人は活気のある戦いの場の方へと視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子4人組が連れ立って食堂へと向かっている途中に何やら賑わっている場所が見える。

 

「なになに? 楽しそうだな。何かやってんの」

 

「ちょっと行ってみようぜ」

 

 最初に声をあげたのは楽天的で調子の良さそうなDクラスの池寛治。女の子が好きでイケメンが嫌いな男。

 もう一人興味津々の男はDクラスの山内春樹。こちらも女の子好きで自分を大きく見せたがる虚言癖の男。

 4人が近づくと、人だかりの中心には3つに分けられたグループがあり、1グループ二人の人間がそれぞれの台に乗って向かい合って押し合っている様子が窺えた。池は詳細が記載されている宣伝用の立て看板を見る。

 

「えーと、参加には1000ポイントで賞金は100万ポイントっ!?」

 

「へへっ、面白そうじゃねぇか」

 

 その賞金の額の大きさに驚きを隠せない池。それを余所に不敵に笑う赤い髪色で短髪の男は須藤健。バスケ部に所属する183㎝の大柄な体格の持ち主。自身の高い身体能力に余程自身があるのか勝負に挑戦する気のようだ。

 

「手押し相撲か~。ここだけの話、おれ相撲やらないかってスカウトされたことあるんだぜ」

 

「それスカウトじゃなくて、ただの部活勧誘だろーが」

 

 意味のわからない山内の自慢話に楽しそうに突っ込みを入れる池。3人が周りの雰囲気に当てられ、はしゃいでいる様子を黙って見守っていた残りの一人である綾小路は彼らの浮かれ具合に水を差すように忠告する。

 

「意気込むのはいいけど、お前らポイントは持ってるのか?」

 

 現在のDクラスはクラスポイント0。したがって、毎月の一日に振り込まれるプライベートポイントも0ポイント。

 無慈悲な現実を突きつけられた3人は仏に縋るような目で綾小路を見やる。

 

「頼む、綾小路。ポイント貸してくれ。すぐに倍にして返してやるからよ」

 

「頼むよー。友達だろ?」

 

「今度一緒に女の子連れて遊びに誘ってやるからさ」

 

 何の保証もない3人の都合のいい言葉に呆れながらも綾小路は須藤を退学から救うためにプライベートポイントを使い果たしたので3人と同じように0ポイント。ない袖は振れないので正直に答える。

 

「悪いな。俺も0ポイントなんだ」

 

 それを聞いた3人はすぐさま態度を翻し、何一つとして悪い点のない綾小路を蔑んだような目で見て悪態をつく。

 

「ちっ、使えねぇな」

 

「そんなんだからモテないんだぞ、綾小路」

 

「まったく、貸してるポイントさっさと返せよな」

 

 自分のことは見事に棚に上げて何食わぬ顔の3人。しかも最後の一人は嘘をついてるというおまけつき。綾小路は眩暈(めまい)がする思いだったが、ふと案内板が視界に入る。そこには貸付を行っていることが書かれていた。一人につき1000ポイントを1回だけ貸し付けてくれるらしい。

 

「なぁ、ポイント貸してくれるみたいだぞ」

 

 その業務を行っている受付へ綾小路は指をさす。その指につられるように視線を移した3人は急いで受付へと駆け込んだ。挑戦する気もなく、自分には関係ないとばかりに離れたところで佇んでいた綾小路は3人の様子をしばらく傍観していた。すると、受付をしている池がこちらを向いて手招きをしていたので嫌な予感を抱きつつも綾小路はそちらへと歩を進める。

 

「何やってんだよ綾小路。お前も借りて参加するんだよ。そんで4人のうち誰か1人でも勝てば100万山分けなっ」

 

「いいじゃん、リスク分散ってやつだろ」

 

「俺は1人でやるから、お前ら3人でやっとけよ」

 

 池の提案に山内は同意するも、拒否した須藤は3人を置いて参加者の列のほうへと消えていった。

 

「独り占めかよ」

 

「ちぇっ、須藤の奴ケチだよな」

 

 須藤のことを当てにしていたのか池と山内の2人はブツブツと愚痴っている。人のことをとやかく言う資格もなく、まったく己を省みない姿勢に清々しさすら感じ始めて感覚が麻痺してきた綾小路は強制的に契約させられた借用書の写しを見ていた。

 そこには、貸与が無利子で返済期限は契約した日から次の月の一日まで。期限までに返済できなかった場合は返済する義務が消滅し、代わりに貸主の質問に1回だけ真摯に誠実に答える義務が発生する。そして、回答した情報に瑕疵があると判断された場合は情報共有者に確認することができる、と書かれていた。

 綾小路は返済の代わりの義務に怪しさを感じていたが、池と山内は質問に答えるだけで返済しなくていいことを喜んでいた。あの2人に付ける薬はないだろうなと綾小路は心の中で独り言ちると、堀北という同じクラスの女子から1000ポイント借りてさっさと返すことを心の中で決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 登録には氏名と生年月日、学年、クラス名、連絡先が必要だった。連絡先をむやみに教えることをためらった綾小路は記載しなくていいか受付に質問すると、賞金は後日に支払われるらしくそのために連絡先は必要だと言われたので仕方なく書くことにした。3人とも無事に登録も終わり、名前を呼ばれるまで周りで待機していた。

 この手押し相撲のルールは人間1人が乗れるくらいの円柱の台に乗り、手のひら同士で押し合って相手を台から落とすと勝ち、自分が落ちると負け、相手の台に乗るのも負けというシンプルなもの。距離は手を伸ばせば相手の肩に届くくらいに近い。10秒につき一度は相手と自分の間に引かれている中央のラインを越えて腕を伸ばし攻撃をしなくてはいけない。30秒以降は手と腕の部分のみ掴み合いが解禁になる。

 戦いの場は3か所あり、100万ポイントと50万ポイントの2か所は無制限に参加可能。残りの1か所は3000ポイントとかなり少ない賞金額になっているが、参加料は100ポイントとワンコイン相当でジュース代よりも安い額に設定されている。しかも、女子限定で不平が無いように対戦相手には女子を割り当てるなど積極的に女性の参加を促している。ただし、一人一回だけしか挑戦できないようだ。

 

「決めたぜ。俺は100万ポイントのやつにする」

 

「つーか、それしかないだろ。見ろよ、あの黒光りした巨体。ハーフらいしけど黒人の血が入ってるってことは身体能力は折り紙付きってことだろ。ポイントも半分になるしな。現に人気ねぇーじゃん」

 

「それより周り見ろ。女の子多いぜ。ここでかっこよく勝利して100万ゲットすれば群がってくるぞ」

 

「俺は年上でもスタイルが良くて可愛ければ構わないぜ」

 

 池と山内は既に相手を決めて脳内では勝利しているのか、観覧している女子についての談義に花を咲かせている。

 それを気にも留めずに綾小路は箕輪という男にどこか見覚えがあり、それを思い出そうとまじまじと見つめていた。そうこうしているうちに箕輪の相手として須藤が台の上に上がる。

 

「あー馬鹿っ、須藤のやつ俺たちの獲物を」

 

「自信あんなら見るからに強そうなアルベルトって奴にしろよ、意気地なし」

 

 本人が目の前にいたら口が裂けても言えないようなことを平気で垂れ流す池と山内。

 綾小路は100万ポイントを背負って勝負する箕輪に何かあると感じているのか、須藤との闘いを少し楽しみに見据える。

 

「へっ、こりゃ楽勝で100万ポイントゲットだな」

 

 目の前の対戦相手である箕輪を間近で見て、勝利を確信する須藤は手のひらで拳を打ち鳴らすと威勢よく挑発した。

 

「片手だ」

 

「あ?」

 

「片手で十分だ。赤毛猿クン」

 

 意地の悪い歪んだ笑みを浮かべ、箕輪はポケットに突っ込んでいた片側の手をゆらりと須藤の目の前にかざす。

 

「……上等だ、後悔すんなよ」

 

 わかりやすく自分をコケにした相手の発言で腹に据えかねた須藤は鋭い眼光で箕輪を睨みつけた。

 

「ハンデついでに、妙な駆け引きはやめて……純粋な勝負をやらねぇか? お互いに30秒以降の純粋な力勝負で決着をつけよう。まぁ、怖けりゃ断ってもいいんだけどなぁ」

 

「いいぜ。こっちもそのほうが手っ取り早い」

 

 箕輪の煽るような提案に対して、自分の勝利を疑わない須藤は即座に承諾の意を示す。

 そのやり取りの後、無言で対峙する中、審判により勝負開始の合図がかかった。当初の約束通り2人に動きはない。

 しかし、10秒に一度は中央のラインを越えて攻撃しなければならないので、須藤は形だけの攻撃のために相手へと手を伸ばす。

 その瞬間、箕輪は並外れた腕力と全身のバネを使って風を切るように振り出した手を須藤の伸ばされた手へと合わせる。

 バチィッと大きな音をさせると予想外の箕輪の行動に呆然としたままの須藤は勢いよく弾かれた自分の手に身体を引っ張られ、バランスを崩し後ろに倒れ込んでしまった。しばらく腕の痛みに動けなかった須藤は痛みが治まるとすぐさま箕輪に詰め寄り、胸倉をつかむ。

 

「てめぇ、どういうことだ!」

 

「んー、何のことかわからないなぁ」

 

「とぼけんじゃねぇ、勝負は30秒過ぎたらだろーがっ!」

 

「あれぇ~、10秒じゃなかったけぇ? 悪い、悪い……聞き間違いだぁー」

 

 その言葉を聞き終えるや否や、会話は不要とばかりに素早く拳を振り上げた須藤は後ろからがっしりとその腕を掴まれる。

 

「やめとけ、須藤。こんな観衆の前で暴力振るったら言い訳できないぞ」

 

 いつの間にか傍にいた綾小路は須藤の暴挙を阻止しながらも冷静に諭す。短い時間そのままで微動だにしなかった須藤は感情と理性の間で揺れ動きながらも状況を理解したらしく、掴まれた手を雑に振り払うと身を翻し、額に青筋を張りながら憤怒の形相の顔だけを振り返る。

 

「お前覚えとけよ。そん時があればボッコボコにして顔面潰してやる」

 

「負け犬の何とやらは聞くに堪えんなぁー」

 

 箕輪の挑発を内心で必死に無視した須藤は観衆の中を押しのけるように荒々しく立ち去っていった。束の間、場を静寂が支配する。しかし、次の相手が現れて勝負が始まるとすぐに元の喧騒を取り戻した。

 少しの間佇んでいた綾小路も待機場所へと引き返す。そして、順調に試合が消化されて池と山内の2人も予想通りに瞬殺されるとついに綾小路の順番が回ってきた。先の須藤のトラブルがなかったかのように綾小路は平然たる態度で台の上へと上がっていく

 

「綾小路ー、頼んだぞー!」

 

「お前だけが頼りだっ」

 

 2人の我欲に(まみ)れた応援を無視し、制服をだらしなく着崩して軽薄さを漂わせる箕輪と手を伸ばせば届く距離で綾小路は向かい合う。

 

「久しぶりだねぇ、綾小路クン。なんせ他クラスで唯一俺に話しかけた奇特な奴だったから覚えてるよ」

 

「そうだな。寮のエントランスホールで話をして以来だ。でも、あんたのクラスと名前は聞いてない」

 

 綾小路は箕輪との寮での邂逅を思い出していた。

 

「そりゃ、失礼したねぇ。Cクラスの箕輪勢一だ」

 

 どこかで聞き覚えのある名前に思考がそちらへと向かいそうな綾小路であったが、寮で会話したときに自分の質問に答えてくれなかったことを思い起こし、期待半分で箕輪に問いかける。

 

「あの時、あんたはDクラスにいることが災難と言っていたが、どういう意味だ」

 

「それはお前さんが自由に考えな」

 

 考える暇もなく、2人の会話を中断するように勝負が開始された。すばやく思考を切り替えた綾小路はこの場で本気を出すつもりは毛ほどもなく、どういう風に自然な負けを装うかを考え始めていた。

 綾小路が10秒以内に一度の攻撃をしてみるも、箕輪は須藤の時のように反応することはなく、30秒以降でケリをつけるつもりのようだ。時間が迫るにつれて知らず知らずのうちに緊迫した空気へと変わっていく。そして、30秒の制限時間を過ぎたとき、頬を深く歪めた凶暴な表情の箕輪と綾小路の視線がぶつかった。突如、全身の血が引いていくような不気味な冷たさが綾小路の背筋に走る。自分自身に向かって唸りをあげ襲い来る箕輪の凶悪な(かいな)に対抗するように綾小路は反射的に組み合ってしまった。一瞬拮抗(きっこう)するが、すぐにその均衡が崩れると綾小路は台から落ちる。

 

「勝者、箕輪勢一」

 

 戦いの余韻に浸ることなく、綾小路はすぐさま踵を返してその場を離れる。その様子を箕輪は顎をさすって笑みを浮かべながら、じっと見つめていた。

 

「何やってんだよぉ、綾小路~」

 

「せっかくのチャンスが台無しだ」

 

 叶わぬ欲望に未練があるのか、落胆したような取り巻きの2人は(ねぎら)いの言葉ではなく、怨嗟(えんさ)の籠もった声を綾小路にかける。しかし、その声がまるで届いていない彼はその場を離れながらも先ほどの勝負について考えていた。

 箕輪と視線が合ったときの感覚。まるでお互いの心の臓を握りあったような、いまだかつてないその感覚に一瞬ではあったが、綾小路は反射的に本気を出してしまった。おそらく箕輪はある程度まで彼の力を推し量ることができただろう。それに箕輪勢一という名前、同姓同名の別人ではなく綾小路の記憶に該当する人物であったなら、”ホワイトルーム”をもってしても規格外の怪物と呼べる存在ということになる。

 綾小路はもう一度だけ人だかりの方へと視線を向けると不気味な笑みを浮かべた箕輪がこちら見つめていた。その得体の知れなさと彼が(もたら)した災難というワードに不穏な気配がゆっくりと足音を立てて近づいていることを綾小路は漠然と感じ取っていた。

 




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