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褒めたつもりが…見えない差別「マイクロアグレッション」の実態

見過ごされやすく、誰もが加害者になりうる差別的言動「マイクロアグレッション」を解説。

普段の生活のなかで見過ごされやすい差別的な言動「マイクロアグレッション」。誰もが加害者側になりうる一方で、相手に深刻な心的ダメージを与える危険性も。そこで、クィア・スタディーズがご専門の社会学者・森山至貴先生に、そもそもの定義などの基礎知識からコミュニケーションで気をつけるべきポイントまで伺いました。
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普段の生活のなかで見過ごされやすい差別的な言動を指す「マイクロアグレッション」。言った本人には加害の意識がないことも多いと言われます。誰もが加害者側になりうる身近な問題である一方で、相手には深刻な心的ダメージを与える危険性も。

今回お話を聞いたのは、『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』の著者で、クィア・スタディーズを専門にする社会学者・森山至貴先生。マイクロアグレッションについて、そもそもの定義などの基礎知識からコミュニケーションで気をつけるべきポイントまで伺いました。


【INDEX】


    マイクロアグレッションとは

    そもそも、「マイクロアグレッション」とはどういったことを指すのでしょうか。森山先生は次のように定義します。

    「マイクロアグレッションは差別の一種で、障がい者、高齢者、女性、セクシュアルマイノリティや人種・民族的少数者など、社会のマイノリティに対して向けられる偏見や先入観が些細に見える言動として現れたものを主に指します。言った本人に差別や排除の自覚がないことも多いです」

    「『マイクロ(小さい)』という言葉がついていることの意味を正しく理解することが重要」と先生。これは、言われた側・された側の「ダメージの小ささ」ではなく、「見えなさ/気づきづらさ」を強調する意味があるそう。

    「日常のコミュニケーションのなかで起こりやすいがゆえに見過ごされがちですが、受け手には重大な悪影響を及ぼします」

    マイクロアグレッションという言葉は「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」の現れと語られることが多いけれど、厳密には言動だけでなく、マイノリティを傷つける環境のあり方もマイクロアグレッションの定義に含まれるのだとか。

    ただし「マイクロアグレッションが議論される際に無意識の発言・行動がクローズアップされやすい側面がある」と先生は指摘します。

    「差別は『特定の人たちに対する明確な差別意識をもっている人がすること』というイメージに対して、『自分は差別なんかしない』と思っている人も行動としてやってしまいかねないものなんだと説明するときによく取り上げられるのが『マイクロアグレッション』。そして、このマイクロアグレッションの背後にある、本人が気づいていない偏見について問題化するのが『アンコンシャス・バイアス』という言葉です」

    Klaus VedfeltGetty Images
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    日常で起こりやすいマイクロアグレッション

    一見するだけでは差別だとわかりづらく、言った・行った本人に加害の自覚がないことが多いマイクロアグレッション。具体的にはどのような言動がそれに当たるのでしょうか。

    「たとえば外国人に見えると勝手に判断し、相手に『どちらのご出身ですか?』『日本語が上手ですね』などと言うこと。その人がイメージする“日本人”の見た目ではないから日本人のはずはないと決めつける、無意識の偏見がベースにあります」

    日本のメディアでよく耳にする「国民的」というワード。これもまた、この国に多様な国籍の人が暮らしている事実に認識が及んでおらず「マイクロアグレッション」となりうる、と森山先生。

    「『うちの職場では男女関係なく能力で評価している』といった発言は、ダイバーシティへの配慮をアピールしているつもりでされることが多いです。しかし、実態としてその職場に女性が少なかったりほとんどいなかったりする場合、『“女性は能力が低い”から採用されない』という偏見は、克服されるのではなくむしろ事実として黙認されてしまいます」

    「障がいをもつ方や高齢の方に対し、幼い子どもに話しかけるようなトーンや言葉を用いて接する態度にも、『相手は自分より能力が劣っている』という先入観が働いているので避けるべき」と先生は指摘します。

    他にも、「マイクロアグレッション」に該当する発言の例として次のようなものが挙げられます。自分自身がしていないかはもちろん、身のまわりにこういった言動が行われていないか振り返ってみて。

    マイクロアグレッションの例

    • 「ハーフだから可愛くていいね」
    • 「女性なのに成功していてすごいね」
    • 「男性なのに家事や育児を手伝っていてえらいね」
    • 「ゲイだからおしゃれだね」
    • 相手がセクシャルマイノリティだというだけで 「どんな人がタイプ?」など恋愛に関する質問をする

      Klaus VedfeltGetty Images

      メンタルヘルスに与える影響

      マイクロアグレッションは、個人にどのような影響を与えるのでしょうか。森山先生は、「マイクロアグレッションは見えにくい、気づきにくいからこそ厄介」だと語ります。

      「された側が『こんなことに怒っている私が悪いのでは?』『私が考えすぎなのかも』と被害を矮小化してしまうことも多いでしょう」

      また、実際に指摘したとしても加害者側に罪の自覚がなく、「細かいことに目くじらをたてている」「繊細すぎる」とかえって非難されるケースさえあります。

      「マイクロアグレッションを受けた人は心のなかでネガティブな感情が行き来することにより、メンタルヘルスに明らかなダメージを被るということが研究でわかっています」

      マイクロアグレッションへの対処法

      もし自分がマイクロアグレッションを受けたと感じたら、どのような反応をしたら良いのでしょうか。

      「不快な思いをした事実を相手に直接伝えられたらベストですよね。でも、たとえその場でリアクションがとれなかったとしても、自分に落ち度があると感じる必要はない。抗議する権利はどんなに時間が経ってもなくなりません」

      とはいえ、そもそも抗議できる関係性ではないなど、声を上げられない場合も。それでも、「“相手からのボールを受け取らない姿勢”が重要と森山先生は続けます。

      「言葉でなくても、表情など他の方法で違和感を示せますよね。まずは『私はあなたのその発言を受け取らない』という意思表示をしてみてください。『もしかして他の人には言わないほうがいいのかも』と相手が気づいてくれれば成功です」

      発言そのものではなく、前提となっている偏見や先入観自体を訂正するのも効果的だそう。

      「たとえば『外国人のような見た目をしていても、日本で生まれ育った人はいますよね』といったように。あくまで自分が気づいたことの表明としてそれとなく伝えてみては」

      他者に向かったマイクロアグレッションに第三者として遭遇することもあるはず。先生も「当事者がいない場で起こる差別は確かに存在する」と指摘しています。もしそういったシチュエーションに居合わせたら、どのように対応したら良いのでしょうか。

      「自分が当事者のときよりは伝えやすいはずなので、発言に問題があったことを直接相手に教えてあげられれば良いと思います。表情や態度で違和感を示し、空気に同調しないのも有効です」
      Francesco Carta fotografoGetty Images
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      マイクロアグレッションとの向き合い方

      見過ごされやすいからこそ、あらゆるシーンで起こりうるマイクロアグレッション。森山先生は私たち自身がしてしまわないように気をつけるべきこと・できることとして次の3つを挙げます。

      • 自分の言動の『前提』になっている物の見方に目を向け、それが誰かの在り方を無視していないか疑う
      • 社会的マイノリティとされる人々について勉強し理解を深める
      • マイクロアグレッションの具体例を知る

        もちろん、誰も傷つけないコミュニケーションができたら理想的。しかし、「マイクロアグレッションは気をつけていても起こり得るものだということを、念頭に置く必要がある」と森山先生。

        「人は誰しも必ず間違ったり誰かを傷つけてしまったりすることがある。間違いを犯してしまったときに自分の偏見をしっかりと見つめ、真摯に反省して次に活かすしかありません」
        「自分の言動に対する相手からの抗議を受け止められる状態で常にいること。さらに言えば、相手から見て抗議しやすいような人間でいることも大切だと思います。『聞く耳を持っていますよ』と態度で示すんです」

        「傷つけることを恐れて自分と異なるタイプの人と関わらないようにするのは差別の一つの形ではないか」という議論も。先生は「関わらないようにしたところで、言動の根本にある差別意識がなくなるわけではない」と強調します。

        「異なるバックグラウンドを持つ人への理解や想像力は、様々な人と実際に関わり合うことなしには十分に育たない。そのことを忘れてはいけません」

         
        Tom WernerGetty Images

        今回お話を伺ったのは…

        社会学者 森山至貴先生

        森山至貴

        1982年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻(相関社会科学コース)博士課程単位取得満期退学。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻助教、早稲田大学文学学術院専任講師を経て、現在、同准教授。専門は社会学、クィア・スタディーズ。著書に『「ゲイコミュニティ」の社会学』(勁草書房)、『LGBTを読みとく―クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)がある。

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