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荻上チキ✕若林直子「調査とPRで社会課題を解決につなげる」チキラボ創設の舞台裏

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社会には解決すべき「課題」が山ほどある。「誹謗中傷はいけないよね」「パワハラは許せない!」と思っても、ではそれを具体的にどう解決すればいいのか、私たちはよくわかっていない。

「病気を治すには医者がいる。法廷で戦うには弁護士がいる、では社会課題を解決するのは誰か」と話すのは、評論家であり様々な社会調査を行う荻上チキ氏。「社会課題解決の専門家が必要である」として、調査・PRの専門組織「一般社団法人 社会調査支援機構チキラボ(以下チキラボ)」を立ち上げた。

共同発起人は、ソーシャルピーアール・パートナーズ 代表取締役で、社会課題解決事業のPRのプロフェッショナル、若林直子氏だ。なぜ今、「調査とPR」のプロフェッショナルが手を組み、団体を立ち上げるに至ったのか。立ち上げの背景や思いなどを聞いた。

「おかしいよね」と言うだけでは、問題は解決しない

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このたび調査・PRの専門組織「一般社団法人 社会調査支援機構チキラボ(以下チキラボ)」を立ち上げた評論家の荻上チキ氏。

チキラボの主な事業は、社会課題に関する調査、啓発、発信、広報活動、またそれらを支援する個人・団体・企業などへの支援が主な活動だ。社会課題とは、差別・ハラスメント・人権侵害・障がい・ストーカー被害など、テーマを限定しないあらゆる社会課題が含まれる。

「社会課題を解決するには、まず問題として認知され、必要な対策が議論され、法整備が行われる必要があります。そのために不可欠なのが『調査』です。実態調査などのデータは問題点を可視化しやすく、議会やメディア、会見でも引用されやすい。そうすると、議論も活性化します。このことを自分のなかでは『調査形アクティビズム』と呼んでいます。現場を変えるためのアクティビズムは、議論を促すことによって、社会活性化、社会運動を達成していくこと。調査、データの確認や定期もまた、重要なアクティビズムなのです」(荻上氏)

チキラボでは数人のリサーチャーとともに、インターネットを用いての量的調査やビッグデータ調査、インタビューなどで掘り下げる質的調査、あるいは論文や行政文書、海外の事例、白書、法律などを調べたり、集めるなど日々調査を行っている。

『この問題はおかしいよね』というだけでは、なかなか問題解決に至りません。何%の人がおかしいと感じているかを可視化したり、何を代わりに求めているのかを可視化する。調査データは、世論を動かす力になり、訴訟の中で意見書として使われるケースもあります。また、調査を進める中で、実態以上の論点が見つかる場合もあるんです」(荻上氏)

PR活動こそが課題解決の持続可能を実現する

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ソーシャルピーアール・パートナーズ 代表取締役で、社会課題解決事業のPRのプロフェッショナル若林直子氏は、MASHING UPのボードメンバーの一人だ。

PRの重要性について、若林氏は以下のように話す。

「私はこれまで、さまざまなNPOの活動を見てきました。そこでわかったことは、NPOにおける圧倒的な財源不足です。東日本大震災のときにユニセフ緊急支援プロジェクトの広報官として2年間宮城で働いていましたが、多くのNPOが現地入りしたものの、資金が続かず撤退せざるを得ないNPOがたくさんありました。それは、被災者にとってはがっかりすることになります。被災者をきちんとサポートするためには、やはり活動資金が必要で、そのためには活動内容を広く知らせるプロの広報(PR)が必要だと痛感しました」(若林氏)

また、ソーシャルビジネスの優れた取り組みを表彰し、活動の支援も行う「日経ソーシャルイニシアチブ大賞」で企画・運営に関わっていた若林氏は、全国のNPO団体の活動を知るにつけ、広報不足を実感したという。

「社会課題解決に取り組むNPOはたくさんあります。また、それぞれが取り組む内容も素晴らしい。しかし、広報ができていないため寄付を募ることができず、思ったように活動できていないのも事実です。支援は『持続可能』である必要があります。社会課題解決のための寄付を募るために、専門の広報の会社を作る必要があると思いました。世の中に何が問題なのかリアルに知ってもらうために、アウトプットをする人が必要なのです」(若林氏)

多くの声を集め、社会課題解決のシナリオを描く

ブラック校則をなくそう!プロジェクト

「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」

では、社会課題解決とは何か。チキラボ設立前に荻上と若林が調査・広報/PRでかかわってきた活動事例を一部ご紹介しよう。

「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」は、地毛が茶色の生徒の髪を強制的に黒に染めさせたり、パーマ禁止だからと「くせ毛届け」を提出させる、下着の色を指定する、水分補給禁止、生理がつらい日のプールの授業に「タンポン入れて出ろ!」など、明らかにおかしい校則について調査し、正すことを目的としたものだ。

インターネット調査結果を行い、記者会見で発表。その後も調査や署名活動を行い、文部科学省に6万を超える署名を提出。その結果、大臣の答弁を引き出し、各地の校則見直しにつながった。

このほかにも、ハラスメントをなくす「We too Japan」プロジェクト、ジャーナリスト伊藤詩織さんに対するネットでの誹謗中傷訴訟、「表現の現場調査団」によるハラスメント調査、文筆家でイラストレーターの内澤旬子さんによるストーカー規制法改正を求めるプロジェクトなどの調査、発表などを行っている。

弱い立場にいる人に対して、どうにか問題を解決したい。私たちはそれぞれの専門分野で、それに応えていきたいと思っています」(若林氏)

寄付という後方支援も社会を動かす一助になる

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こうした社会課題は、SNSなどによって以前よりも発見速度が上がりスピーディに顕在化されるようになってきた。一方で、緊縮財政や人手不足で解決のマンパワーが追い付いていないのも事実だという。

現在、チキラボに関わるメンバーは研究者、弁護士、編集者など多様なスペシャリストが揃う。 彼らはチキラボの活動趣旨に賛同し、その多くは本業の傍らでサポートしている。

「日本ではNPOが利益を出すことをよしとしない風潮がありますが、海外では、多額の寄付を集めるファンドレイザーに対してはそれに見合う報酬が支払われています。彼らの課題解決能力に期待するからこそです。また、海外にはチャリティフィクサーという職業もあります。セレブリティが多額な寄付やボランティア活動をする場合、イメージアップにもつながるような広報戦略を作成する職業です。日本は謙遜文化なので、寄付も人知れず行うことが美徳と感じる部分がありますが、寄付は大きな社会貢献のひとつ。ぜひ周りの人に自慢していただきたい。日本でもアメリカのように、『どこのブランドが好き?』という会話と同じように『どこの団体に寄付してる?』という会話が日常になればいいですね」(若林氏)

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荻上氏も支援の重要性を指摘する。

「何かを変えていくのにリーダーや発信者は必要ですが、彼らだけで世の中が変えられるわけではありません。関心を持ち、情報を広げていく、寄付をするという後方支援こそが大きな力になります。私は社会人になってから、年収の1割くらいはどこかの団体に寄付をするという心づもりでやってきました。寄付をした人を周りが褒めるようなカルチャーが育ってほしいと思います」(荻上氏)

チキラボではクラウドファウンディングを行っており、マンスリーサポーター制度もスタートした。一人ひとりの声は、法を動かすことができる。そのことを忘れずにいたい。

チキラボには立ち上げ後、多くの相談が寄せられるようになった。団体を立ち上げたメリットはそこにあるという。

困ったことがあって荻上チキに相談したいけれど、個人的に知り合いじゃないから頼めない、だけど、団体であれば相談できる、という人が多かったようです。私も一人ではリソースに限りがありますが、今後は組織として対応できます。持続性のために、ご支援やご注目をいただければ幸いです」(荻上氏)

社会を変えていく活動に関心を持つこと。そして、支援をしていくことで、私たちも課題解決に参加できる。そんなチキラボの呼びかけに大きな希望を感じる。

荻上チキ(おぎうえ・ちき)
1981年兵庫県生まれ。評論家。メディア論を中心に、政治経済、社会問題、文化現象まで幅広く論じる。NPO法人ストップいじめ!ナビ代表理事。ラジオ番組『荻上チキ・Session』(TBSラジオ)メインパーソナリティ。2015年度、2016年度ギャラクシー賞を受賞(DJパーソナリティ賞およびラジオ部門大賞)。著書に『いじめを生む教室』(PHP新書)、『みらいめがね』(暮しの手帖社)など多数。https://www.sra-chiki-lab.com/

若林直子(わかばやし・なおこ)
1975年東京都生まれ。野村證券金融研究所、リクルート、認定NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会、日本ユニセフ協会東日本大震災緊急支援本部宮城フィールドオフィス広報官などを経て、独立、PRコンサルタント、コーディネーター。社会課題解決事業を中心としたPRを行う。遺児家庭支援の「あしなが育英会」、子どもの貧困問題の解決を目指すNPO法人キッズドア、ダイバーシティ&インクルーシブな社会を目指す「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」、社会起業家育成組織NPO法人ETIC.、メンタルヘルスやハラスメント防止のコンサル・研修を請け負うピースマインド株式会社、ジャーナリスト伊藤詩織氏、エッセイスト小島慶子氏らとのコロナで困窮する人たちをサポートする「ひとりじゃないよプロジェクト」他、災害緊急支援、難民支援、マイノリティ支援プロジェクトなど多数。https://www.pr-wakabayashi.com/

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島田ゆかり
ライター。広告代理店を経て、出版業界へ。雑誌、書籍、WEB、企業PR誌などでヘルスケアを中心に、占いから社会問題までインタビュー、ライティングを手掛ける。基本スタンス、取材の視点は「よりよく生きる」こと。

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