やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。   作:角刈りツインテール

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もうそろそろ完結が近づいてきた感じの24話です、よろしくお願いします!


第二十四話 未だ、答えには手が届かず、本物はまちがい続ける。

「…ん」

再び目を開けたその時、もう既に夜の帳は降りていた。なら領域展開とかできるんじゃねぇかと思い、寝たままお馴染みのポーズを取ってみたが失敗に終わる。単純に不可能なのか、はたまた俺の想像力の問題なのか、どちらなのだろうか。後者なのであれば本気で練習するんだけどな…まぁ何にせよ俺はまだ最強ではないということだ。

俺は『最強』の眷属であり、決して最強ではない。

「おぉ、起きたか」

横からこの数日で随分と聞き慣れてしまった声が聞こえたので寝そべったままそちらに顔を向けた。

 

キスショットは俺と添い寝していた。

「———ひゃ!?」

反射で立ち上がった。キスショットが「どうしたどうした」といった風の顔でまじまじと見つめてくるがこれは俺が間違っているのだろうか…?いや、並の男子高校生としてこの反応はなんらおかしくないと思うのだが…?

「……まぁこれも長寿故かな…うっす」

「あぁ、お早う」

挨拶なんて出来たんだなぁと感慨深さを覚えつつ俺は心臓を落ち着かせるために深呼吸を行い、素数を数えた。

「えっと…1、3、5、7、9、11、13、15…あれ、15って素数じゃないよな…あれ素数だっけ…?」

まぁいいや、と立ち上がる。

さて、と気持ちを改める。

「これで俺は———人間に戻れるのか」

「そうじゃな」キスショットは頷いた。「だがそう急ぐでない。こちらにも準備がある。だからまぁ少し話をせんか?」

「?それも人間に戻るために必要なことなのか?」

「いや、儂が話したいだけ」

「んだそりゃ」

だけどまぁ、別に断る理由もない。それになんと言っても今日は吸血鬼としては最後の日だ。いくらこの期間が地獄だったとしても、感慨深くはなるというものだ。

「そうじゃな。とりあえず屋上にでも上がるかのぅ…」よっこらせ、と言ってキスショットは何をしたか。

俺が正しくそれを理解するよりも先に地響きが聞こえ、地震かと思い頭を抱える。人間だった頃から変わらない、俺の命を守るヘタレ魂だった。

「ほれ、何をしておる」上から声がした、何かと思い頭上を見上げるとそこには巨大な穴が出来上がっており、一つ上の階に彼女はいた。「はやく来い」キスショットは俺に手を差し伸べる。状況が状況でなければ恋に落ちてしまいそうなシチュエーションである。

…ったくもう、めんどくせぇ。

無駄な動力使わせずに普通に階段使えばいいのになぁ。

「わーったよ」

俺は渋々彼女の手を掴んだのだった。

その手は驚くほど冷たかった。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「さっきのはどうやったんだ?」

俺は屋上に着いて開口一番にそれを尋ねた。五秒ほど目を閉じた隙に天井に穴が開いていたのは一体何をした結果なのか———少し気になったからだ。

「あぁ、これじゃよ」

そう言いながら彼女は、自分の口に手を伸ばした。そして。

「は!?」

 

ズルズル———と。

 

何かを引き摺り出す。よく見るとそれは、刀。

「お…おぉう…」俺は引き気味に声を漏らす。

ぼたぼたと血が流れては再生を繰り返し、ようやく刀身の全体像が見えた。1m以上はあるのではないだろうか、それほどに立派な刀だった。

「心渡」

突然発した言葉だったので一瞬意図が掴めなかったが、どうやらこの刀の名前を言うらしい。

「儂の眷属じゃった男のものだ」

「眷属———そりゃあれか。俺以外にキスショット呼びしてた唯一の人間…」

「あれには驚いたわい。まさかいきなりキスショット呼ばわりとはなぁ」

そう言って体を俺に引き寄せるキスショット。

 

ちょっと待って、近寄りすぎじゃありませんか。

 

なんでじゃ、別にいいであろう。

 

いや、良いとかじゃなくてですね…近すぎて当たってますから。

 

?当たってるというと。

 

そ、その…なに?胸がな、ほら…。

 

あぁ…別に触りたければいくらでも触っていいのじゃが。

 

は!?いいのか!?…じゃなくて。冗談でもやめてくれそういうの。訓練されたぼっちである俺でなければ恋に落ちてますからね。不用意にそのような発言をするのはやめてください。

 

なんじゃそれ、とキスショットは笑った。

文字通りだわ、と釣られて俺も笑った。

 

それから一時間くらいだろうか。俺たちはお互いの過去の話、くだらない話、今後の話、色々話し合った。きっともうこれでこいつと会うのは最後だろうからな。加えて、俺はこいつのことが嫌いではなかった。スマートフォン片手に適当な人間関係を送る現代人なんかよりよっぽど人間らしくて、好感が持てる。

 

…まぁ人間にもその例外はいるのだが。

 

由比ヶ浜結衣。

雪ノ下雪乃。

それから———戸塚彩加。

悔しいがこいつも一応仲間に加えておこう———材木座義て…やっぱいいや。

 

「俺はな」

「うん?」

「吸血鬼であること自体は別に嫌いじゃねぇんだよ」

まぁあんな戦いはもう懲り懲りだがな、と笑って見せたのだが。

キスショットは笑わなかったし、返事をしなかった。

どことなく寂しそうな顔をしていた気がする。

 

「だけどな」と繋げる。「俺には待ってる奴らがいるんだよ。だから戻らなけりゃならん」

そう、意志を固めた。

 

 

思い出す。

最初、何もする気になれず自室に閉じこもっていたが雪ノ下、由比ヶ浜に喝を入れられて。

そして吸血鬼ハンター3人に返り討ちに遭って。

ドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッターにそれぞれ何とか勝利を収め。

忍野メメが立ち去って———今に至る。

 

 

「それがよいだろうな」キスショットはそう言って、切なそうに笑った。その意図はこれには分からない。

寂しい、と感じてくれているのだろうか。

だったら。

「…はぁ」

だったら俺は———最後の最後の瞬間まで、こいつと話してやろう。

俺の話で盛り上げて、そんな寂しさなんて感じないように———それが彼女への正しい感謝の伝え方だろう。

こいつのおかげで俺は色々なものの大切さに気がつき、得ることができたのだから。

 

『本物』。

 

俺が最初に望んだものを思い出した。

果たしてこれが本物なのか、それは誰にも分からないし、恐らくまだ答えには手が届いていないのだろう。そしてその答えには程遠く、辿り着くまでに今後も間違いを重ねていくのだろう。

 

だが、確実に一歩近づいたとそう思わざるを得ないのだ——なんて、らしくもない感傷に浸ってんな、俺。雪ノ下に見られたらまた理不尽な罵声を浴びせられそうだ。

 

「なぁキスショット。話してたらちょっと腹減ったからなにか持ってくるわ」

もうこそこそする必要もないのだ。最後ぐらい盛大にいこう。…まぁただのコンビニなんですがね。

「おぉ、助かる。何か、とはあの非常食のことか?」

「非常食、ってお前…」

由比ヶ浜のお土産のおにぎりのことを言いたいのか?なんて古風な言い方を…。

俺は振り向かずに手をヒラヒラさせながら屋上から降りた。勿論先程登った穴ではなく、階段を使って。

 

♦︎♦︎♦︎

 

俺は学習塾跡を太陽のように明るい気分で出た。目が腐った男がニマニマ笑いながらスキップをしている様子は、側から見ればかなり不気味なものに違いないがそれよりも俺はこの感情を抑えられなかった。

なんというか、形容し難いが初めて味わう感情だ。多分、陽キャどもが日常で嫌になる程感じているもんなのだろうが俺には新鮮なもので。

 

「…まぁ、悪くない」

 

人通りが多くなってきたところで流石に恥ずかしくなって通常方向に戻り、俺は近場のコンビニへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の俺は、この後もう一波乱あることなんて予想だにしていなかったのだ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「あれ?…今スキップしてたのって……」




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