遠野遥が語る『教育』のインスピレーション源 Perfume、横浜ドリームランド、ボカロ曲

遠野遥(Photo by Takanori Kuroda)

前作『破局』で芥川賞を受賞した遠野遥の新作『教育』が発売される。超能力を開発するため「1日3回以上のオーガズム」を推奨する、外界から閉ざされた学校での出来事を描く学園モノ(?)となる本作は、これまで以上にセックスや暴力、狂気を赤裸々に描いた彼の新境地ともいえるもの。

【写真】『教育』書影

スタンリー・キューブリック『時計じかけのオレンジ』やマルキ・ド・サド『ソドム百二十日』、ジョージ・オーウェル『一九八四』などを彷彿とさせる、覚めない悪夢のようなディストピアが全編にわたって展開されながら、どこか笑えるユーモアがそこかしこに散りばめられているのも逆に恐ろしい。脈絡のない挿話を次々とぶち込みながら、破綻することなく一定のトーンを保ち続けるこの怪作は、いったいどのようにして生み出されたのか。「楽だから小説を書いている」と言い切る遠野に、その真意を尋ねた。

─まずは『教育』のプロットがどのようにして思いついたのか、聞かせてもらえますか?

遠野:そもそもは、Perfumeの「Spending all my time」(2012年)という曲のミュージックビデオを観たときでした。部屋に閉じ込められた3人が超能力の練習をしている内容だったんですね。「これで何か書けそうだな」と思ったのが、そもそものきっかけでした。



─まさか、PerfumeのMVが最初のモチーフとは想像もつきませんでした。

遠野:実際に書き終わったあと、もう一度ミュージックビデオを見直してみたら、かなりそのままでした。Perfumeの3人が揃いの服を着ているのも、舞台が学校で登場人物たちが制服を着ている『教育』とリンクしますし、閉じ込められた場所にいるという意味でも同じ。ループする構成もそうだし、『教育』で繰り返されるカードの絵柄を当てるシーンも入っています。予想以上にこの曲からの影響を受けているみたいですね。

─執筆中は、常に音楽を聴いているそうですね。

遠野:はい。しかも同じ曲を延々とリピートして聴いてしまいます。『教育』を書いているときは、やはり「Spending All My Time」ですよね。着想の源であり、テーマソングでもある。実際、作品のテーマソングというか主題歌みたいなものを自分で決めておくのは、小説を書く上でもメリットがあると思います。同じ曲を、ずっと聴き続けながら執筆することで作品のトーンが揃うんですよ。多少好き勝手してもばらばらにならない。音楽を聴くのは単純に気分が良いのもあるし、小説そのものにもいい効果があると思っていますね。

タグ:

RECOMMENDEDおすすめの記事


ライゾマティクスの実験 オンラインから次のフェーズへ

毎週金曜日に行われているライゾマティクス主催のPLAYING TOKYO。Staying TOKYOで行った数々の実験は、完全オンラインから次のフェーズに移行中。

連載企画「コロナ時代のオンラインでつながるライブ・ミュージック」第三回。オンライン・エンターテインメントのあり方を追究するライゾマティクスの2人に話を聞いた。

コロナ時代に突入して、緊急事態宣言が出る前の4月3日、オンライン・イベント「Staying TOKYO」を立ち上げて、トークイベントと音楽イベントをミックスした配信をスタートさせた。さらにはオンラインでリアル空間のようなソーシャルなコミュケーションを目指すプラットフォーム「Social Distancing Communication Platform」を開発するなど、コロナ時代の新たなオンライン・エンターテインメントのあり方をいち早く模索し、形にしてきたライゾマティクス。

・4月3日に立ち上げた、トークイベントと音楽をミックスした配信イベント、Staying TOKYO
https://staying.super-flying.tokyo/


ライゾマティクスのファウンダーであり、アーティスト、DJ、プログラマーの真鍋大度さんは、コロナ以前から、リモート・ライブのプロジェクトに携わるなど、今の時代にこそ求められるエンターテインメントをすでに表現してきた人なのである。「Staying TOKYO」で行った数々の実験は、6月27日から「PLAYING TOKYO」と名前を変え、徐々に完全オンラインから次のフェーズへ移行させつつある。さらに、その先を展望するプロジェクトとして、ライゾマティクスのプログラマーの花井裕也さんは、Messaging Mask(メッセージング マスク)というデバイスを開発したという。真鍋大度さんと花井裕也さんの二人に話を聞いた。

・PLAYING TOKYO
https://playing.super-flying.tokyo/

―「Staying TOKYO」と「Social Distancing Communication Platform」をやられていますが、コロナ時代になったことを受けたことで、何が大きなモチベーションとなりましたか?

真鍋:ライブ配信はこれまでも割とやってきてるんです。それこそPerfumeとdocomoの5Gのプロジェクトの時は、ほぼ無観客で、Perfumeの3人が東京とロンドンとNYの3カ所に分かれて、AR技術を駆使したリモート・ライブをやったわけです。そういったことをいろいろ試してきたところで、こういった状況になって。今までにやってきたことももちろん使えるんですけど、Social Distancing Communication Platformの場合は、オフっぽい感じで、いろんな人と話す機会がなくなったなと思って作った感じですね。オフっぽいというのは、不特定多数の人と不特定の話題について話す場所。例えば、Zoom飲み会みたいなものは、割とグリッドがカチッとしてる中で、誰か回し役がいないと会話が回っていかないので、けっこう不自由な状態だと思ったんですね。バーで音楽を聴きながら、20人くらいで飲んでる時だと、自然と3~4のグループに分かれて、いろいろなところで会話が始まって、同時多発的にコミュニケーションが行われる。そういう状態はZoomだとけっこう難しいなと思って、あのツールを作りましたね。リアルスペースと同じように、近くにいる人と話せばその人の声が聞こえるし、遠くにいる人の声は聞こえない。今は昔と違って、音声やウェブカメラを送受信する仕組みがけっこう簡単に実装できるようになったので、すぐに作れるんじゃないかなと思って、エンジニア・チームと相談して作りました。

【画像】Perfumeライブレポ、ストイックさの中に見せた「愛」と「温もり」(写真8点)

・オンラインでリアル空間のようなソーシャルなコミュケーションを目指すプラットフォーム、Social Distancing Communication Platformのプロトタイプ
https://rhizomatiks.com/sdc_platform/

―Staying TOKYOの方は、どういう発想でスタートしたのですか?

真鍋:コロナの影響で実際のイベントがけっこうキャンセルになりました。Perfumeの東京ドーム最終公演も中止になり、自分で行く予定だったトークイベントや展示もなくなって、2月末に予定されていたパリとケープタウンの海外出張も、軒並みリモート参加やキャンセルになったんです。3月に入った時に、このままずっと何もやらないのもなと思って、リモートでできることを何かとりあえずやってみようってことで、イベントを始めたという感じですね。最初はトークイベントを、それこそZoomでつなぎ、みんな自宅からトークをやってもらって。DJでバック・トゥ・バックでつないでいくのも、今だとリモートでやることもできるので、リモートのDJセッション、リモートのVJセッションを入れて、映像と音のセッションみたいなのもやってみようと思って。1週間くらいでリモートセッション用のツールを開発しつつ、配信プラットフォームについて調べてイベントをスタートしたという感じです。

―それが4月3日に始まったStaying TOKYOになるわけですね。Staying TOKYOは、Flying Tokyoのスピンアウトとして始まったのですか?

真鍋:そうです。Flying Tokyoは海外から日本に遊びに来ている海外アーティストと国内のクリエイターの交流の場を作るソーシャルイベントでした。レクチャーイベントというよりは交流のためにやっていた感じです。中高生向けにワークショップをやったりもしていますが、それも中高生が横のつながりができて将来的にコラボレーションをしたりするきっかけになればという意図がありますね。

―6月19日のVol.09は、これまでの回を振り返る企画でしたが、Staying TOKYOは一旦終わった形ですか?

真鍋:一旦終わりましたね。配信でできることはまだたくさんあると思うし、何ができるのか探り探りで配信をやってきましたが、これからは自宅に籠もって配信をやるだけでなく、リアルスペースにどうやって戻っていくのかを考えようということで、Staying TOKYOから「PLAYING TOKYO」に名前を変えました。6月27日にPLAYING TOKYOのvol.0を行ったんですが、Intelさんにスポンサーになっていただき、eスポーツのイベントとDJイベントを組み合わせてやりました。まだリアルスペースではできていなくて、ライゾマティクスのスタジオにDJ、VJの人に来ていただいて。今後はクラブで開催して、ちゃんとソーシャル・ディスタンシングも保ちながら少しずつリアルに戻していけたらいいなと思ってます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


S