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名護市長選の投票をする有権者=2022年1月23日午前10時16分、沖縄県名護市の名護小学校、金子淳撮影 © 朝日新聞社 名護市長選の投票をする有権者=2022年1月23日午前10時16分、沖縄県名護市の名護小学校、金子淳撮影

 23日に投票された沖縄県名護市長選。新顔の岸本洋平氏(49)が反対し、現職の渡具知(とぐち)武豊氏(60)が「黙認」する米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題のほか、雇用や子育て環境といった地域の様々な課題を抱えるなか、有権者は何を重視したのか。

 市中心部の小学校で投票した派遣従業員の荻堂美智代さん(63)は、新顔の岸本氏に一票を託した。「いくら『辺野古に基地はいらない』と言っても工事は進み、もう止められないとも思う。だけど反対の気持ちは示さないと、政府や本土の人が沖縄のことを考えるのをやめてしまうから」と語った。

 保育士の仕事を辞めた後、本土で農産物を収穫する派遣の仕事をしてきた。仕事半分、旅行半分の気持ちで楽しんでいる。生まれ育った名護市は恵まれていると思う。広い国道が縦断し、学校施設も整備され、公立大学もある。昨年7月には道の駅も改修された。沖縄が本土に復帰した50年前、中学生の時はこれほどきれいな街になるとは想像していなかった。

 だから、辺野古に基地を受け入れる代わりに国からお金をもらい、地域振興や子育て支援を充実させようと現市長が考えるのは理解できる。歓迎する市民を非難しようとは思わない。だが思う。「それならなぜ、本土の人は基地を引き受けようとしないのだろうか」と。過疎化が進む地方でさえ、米軍基地を積極的に受け入れようとする自治体を知らない。

 荻堂さんは「結局、騒音や事故の危険といった生活、命に関わる問題は考えたくない、沖縄に押しつけておけば楽だということでしょう。日本国民全員で考え、負担してほしいのに」と語る。

 この日は誕生日。普天間飛行場がある宜野湾市に息子夫婦が暮らしており、お祝いに来てくれる予定だ。だが基地の話は出ないと思う。「目の前に基地の問題があるのに、家族で話せない。県内で押しつけあう現実って、こういうこと。想像したことありますか?」

 名護市中心部がある西海岸側の反対、辺野古がある東海岸側の投票所に来た会社員の男性(27)も岸本氏を選んだ。

 専門学校進学を機に市外へ。4年前に戻ると、辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前に、移設反対を訴える人々のテントが並んでいるのに驚いた。抗議活動で交通渋滞が起きると、反対の気持ちに理解はしつつも複雑な感情を抱いた。

 ただ家族ができて状況が変わった。今、3歳と3カ月の娘がいる。米兵の飲酒運転といったニュースが流れると、巻き込まれないか心配になる。「米軍からの染み出しが大きな要因」と指摘されるオミクロン株への感染拡大について妻と話し、「周りのことを考えた行動をしていれば、こういう事態にはならない」と嫌気がさす。

 現職の渡具知氏による子育て施策で家計が助かったのは確か。一方で、その子どもたちの安全を考えると、基地拡大につながりかねない移設はやめてほしいと願う。

 辺野古地区で暮らす無職の男性(65)も岸本氏に投票した。「現市長は米軍基地内でコロナの感染が拡大しても、米軍にものを言えない。これでは市民の命を守れない」

 男性は「名護市の活性化を願っているが、生活がよくなったとは思わない。現市長が考えているのは(西海岸側の)市街地の発展だけではないか。(東海岸側の)この地域には恩恵がない」と感じている。移設問題に賛否を明言しない渡具知氏の姿勢について「完成を見守っているだけ」と批判し、「基地や交付金と引き換えに、辺野古周辺の2千人の住民を人身御供にするなと言いたい」と語気を強めた。

 一方、同じ辺野古地区に暮らし、米海兵隊のキャンプ・シュワブで働く50代の女性は現職の渡具知氏を選んだ。「基地で働き、恩恵を受けている。生活のために支持する」と明かした。

 大学進学で上京し、就職を経て、20年ほど前に生まれ故郷の辺野古に戻った。だが、働き口がなく苦労した。状況は変わっていないと感じる。数年前に県内の大学を卒業した長男は、希望した米軍基地内の仕事に就けず、企業15社に応募したが採用されなかった。「周りの若い人も就職難で内地(本土)に行ってしまう。とにかく経済振興をしてほしい」と話す。

 毎日、犬の散歩で海に出る。「子どもの頃から知っているきれいな海が埋め立てられるのを見るのは悲しい」と感じている。一方で、「選択の余地はない」というあきらめも感じる。「基地反対は理解できるけど、生きるためには仕方ない。そういう人がここでは多い」と漏らす。

 2018年の知事選や19年の県民投票で「移設反対」の民意が示されても、辺野古での埋め立て工事は進んできた。「国が決めたことだから、しょうがない。私たちに選択肢はない。ここまでやるなら、その分見返りを下さい、ということです」と語った。

 名護市中心部で投票した販売業の豊里友美さん(35)も渡具知氏に一票を投じた。4年前も、学校給食費や保育料の無償化を掲げた渡具知氏を選んだ。

 「着実に子どもを産み育てられる街になってきていると思う」と豊里さん。友人に聞いても、無償化は家計の助けになっているという。結婚や出産を考えると、子育て政策にはさらに力を入れてほしいと思う。

 渡具知氏は国からの米軍再編交付金を原資に公約を実現させてきた。市長就任後に再開された交付金だ。

 「基地はない方がいいし、辺野古に持ってきてほしくない」との思いは、小さい頃から変わらない。米軍機が市内の上空を飛びまわることにも納得がいかない。

 それでも国が普天間飛行場の危険性除去のためには、辺野古への移設を「唯一の解決策」と強調し、移設工事が進む現状に、「反対しても仕方がない」との思いが膨らむ。「それなら国からのお金を使って、暮らしやすい街にした方がみんな幸せなのではないか」と。

 子育て費用の無償化は、新顔の岸本氏も交付金に頼らず実現すると掲げる。ただ、豊里さんは「そんな財源があるのだろうか」と首をかしげる。「『基地と引き換え』と言ったら言葉は悪いですけど、そうしないとどんな立派な公約も絵空事で終わってしまう。それが名護の現実です」と語った。

 市内の大学に通う豊里恭之介さん(21)も現職の渡具知氏に一票を託した。「今後の結婚や子育てを考えた」という。

 卒業後も実家がある市内で生活したい。現市政が交付金を元手に進めた子育て関係の費用の無償化を考えると、「市の発展を考えたら、国からお金をもらった方がいいんじゃないか」と考えている。

 辺野古移設は容認の立場だ。中国の海洋進出のニュースなどを見て不安を感じる。「沖縄はアメリカに守ってもらうほかないのだから、日米関係を重視して移設を早く進めた方がいい」。基地による雇用の増加にも期待する。

 埋め立てを進める政府の姿勢は「強硬だ」と感じるし、事故が起きる不安もある。だが「国全体の安全を考えると、基地反対を押し通しても仕方がないところがある。長期的に見れば、受け入れた方が交付金などのメリットも大きい」と話す。

■名護市民が投票先を選んだ理由は――

〈岸本氏に投票〉

自営業女性(32) 工事が進み辺野古の海は変わった。目の前の利益ではなく未来に本当に必要なことは何かを考えている

整体師男性(30) 米軍再編交付金は期限付き。基地に頼った財政になると国から何を言われても反論出来なくなってしまう

女子大学生(22) 県民投票で意思は明らかにした。移設について立場を明らかにしない姿勢には疑問を感じている

自営業女性(77) 5年前に近くの海岸でオスプレイが大破。50年前に本土復帰した時、こんな未来は想像もしていなかった

〈渡具知氏に投票〉

会社員男性(65) 県民投票では「埋め立て反対」に投票した。しかし工事は進む。基地ができるならどう生活をよくするかだ

農業男性(72) 移設賛成ではないが、2人の孫がおり子育て支援に力を入れた実績を評価した

農業男性(80) 人当たりの良さで選んだ。移設は負担の押しつけだが、国のやることはどうしようもない

無職男性(86) 移設は反対だがもう止められない。モノレールを名護まで通してほしい

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