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闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ! 作者:クラント

放浪編

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255話 約束


 悩むのはユティアさんの扱い。


 未来視でユティアさんの故郷が判明したが、それはかなり遠方で、送っていくにもかなりの労力とリスクを負わなくてはならない程。


 その労力とリスクを許容してユティアさんを送るべきか……

 それとも無駄と切り捨てて、自分の目標に邁進すべきか……




「ますた~、どうしたの?」


 気がつくと、いつの間にか寄ってきた天琉が俺のパーカーを引っ張っている。

 その仕草は親に構ってほしいと強請る子供のようだ。


「んん? 天琉か……、大丈夫だよ。ちょっと考え事」


「あ~い~? 考えるの?考えたらどうなるの?」


「……考えたら……どうなるんだろうね?」



 いくら考えても、結局、答えなど出せないのだ。


 無駄と切りすてて、自分の情の薄さを自覚するのも嫌だし……

 かといって、労力とリスクを負うのも嫌だ。

 ならばどちらも選ばずに保留すれば、万事解決。

 そのうち時間が解決してくれるだろう……ことを期待する。


 はあ…、やっぱり俺って何も変わっていないんだな。




「あ~い~! 変なますた~!」


 俺の返答が面白かったのか、キャッキャッと笑い出す天琉。


 そんな天琉の頭に手を乗せ、乱暴に髪の毛をかき混ぜてやる。


「誰が変だ! 全くお前と言うヤツは……」


「あ~い~!! 髪がグリグリ~!」


 ひとしきり従属する機械種との戯れ。

 白兎までとはいかないまでも、子供っぽい天琉とのやり取りは、少しばかり心が癒される。


「ははは……、あ、そうだ。天琉! お前のエネルギー残量はどうなってる? 先の戦闘ではバンバン粒子加速砲をぶっ放していたが」


「あ~い~? えねるぎ~? お腹、ちょっとすいたくらい?」


 首を傾げて不思議そうな表情をする天琉。

 なぜに疑問形? 自分のことだろ!


「やれやれ……」


 マテリアルカードを取り出して、天琉の差込口を探す。

 何となく子供っぽいから、走り回っている最中、唐突にエネルギー切れで倒れそうな気がする。

 早めに補給しておいた方が良いだろう。


「え~っと、これか?」


 天琉の首の後ろの髪をかき上げた所にそれはあった。


 良かった。もし、腹とか胸とかにあったら、服に見せかけた装甲を捲らないといけないところだ。

 10歳程度の年少者の服を捲るって、下手をしたら通報されてしまうぞ。


「とりあえず、2,000M程入れてみよう」


 ヨシツネは10,000M入れても全然足りないって言っていたが、天琉の燃費はいかほどのモノか。


 マテリアルカードを天琉の首の後ろに差し込み、マテリアルを2,000M流し込む。



 ピピッ



「むふ~! おなかいっぱい~!」



 天琉は両手を上げてご満悦の様子。


 お、これで満タンになるのか。ヨシツネに比べたら全然大したことない……


 まあ、連戦に次ぐ連戦をこなし、自身を上回る強敵とぎりぎりの攻防を交わしたヨシツネと違い、天琉は遥か格下のウルフ相手に粒子加速砲をぶっ放していた程度。

 元々それほどエネルギーが減っていなかったのだろう。


 しかし、ヨシツネの比べれば負担は少ないモノの、2,000Mと言えば、日本円にして20万円。

 車のガソリン代としても、燃費の悪い外車でも1回の給油でそこまでかからないぞ。


 これで『ちょっとお腹がすいた』というなら、燃料が使い切ってしまったら、満タンにするには10,000M程度は覚悟しなければならないかもしれない。


 やはり機械種を運用する為には、マテリアルを安定的に稼ぐ手段を見つける必要があるな。






「あ、ヒロさん! テンルちゃんに補給してあげているんですか?」


 手に幾つもブロックを抱えたユティアさんが、こちらを見て声を上げる。


「いいなあ。私もテンルちゃんに補給してあげたいなあ」


 何やら俺を羨ましそうな目で見つめてくる。


 いや、ユティアさん。

 犬に餌をあげる役みたいに……まあ、それに近いことなのかもしれないけど。


「機械種エンジェルの素種ってスッゴク珍しいんですから。その反応や普段の行動なんかもチェックしたいんです」


「あー、では、次の補給の時はユティアさんに任せますよ」


「ホントですか?ありがとうございます。絶対に次、私にさせてくださいね」


 ブロックを抱えたまま、満面の笑顔を浮かべるユティアさん。

 これくらいで大喜びするなんて、随分と天琉に入れ込んでいる様子。



「んん? それが今日の夕食ですか?」


 ユティアさんの抱えるブロックはどこかで見たことがあるような……


 「はい、向こうの箱に果実ブロックの詰め合わせが見つかりまして。見てください!『オレンジブロック』『バナナブロック』『グレープブロック』『メロンブロック』『アップルブロック』……」



「『アップルブロック』……」



 その響きは……

 そのブロックは……


 それは俺の忘れられない記憶。

 そして、忘れてはならないモノ。




『もし、私が覚めない眠りに着いたら、アップルブロックで起こしてほしい』




 童話の白雪姫の話を俺から聞いた雪姫が、なぜか唐突に言ってきた俺への『お願い』。

 どのような意図でそんなことを言ってきたのかは不明のままだったが……


 俺にとっては雪姫と交わした約束だ。

 しかし、もう守ることはできなくなってしまった……



 いや、正確には今の俺が交わした約束ではない。

 未来視の雪姫ルートでの話だ。


 今の俺とは関係ない……はずなんだ。





「えっ! 『アップルブロック』ですか? はい、どうぞ」


 思わず呟いてしまい、それを勘違いしたユティアさんが俺にアップルブロックを渡してくる。


 

 それは薄紙に包まれた赤いブロック。


 齧りつけば、甘酸っぱいリンゴの味が口の中に広がるのだろう。



「ヒロさんはアップルブロックがお好きなのですか? 美味しいですよね。シャリシャリした食感と酸っぱさが特に!」


 ユティアさんはアップルブロックの美味しさを力説してくれるが、俺の耳にはほとんど入ってこない。


 ただ、目の前のアップルブロックから目を離せないままだ。







「ユティア! こっちにも知らないブロックがあるよ!」


 箱の山の向こうからエンジュの声。

 どうやらまた新しいブロックを見つけたようだ。


「はい、すぐ行きます! では、ヒロさん、ゆっくり味わってくださいね」


 そう言うとユティアさんはエンジュに呼ばれた方へと去っていく。


 残されたのは、俺と天琉。



「あ~い~? ますた~?」


「んん? 何でもないよ」


 こちらを見上げる天琉の頭を軽くポンポンと叩き、何でもない風を装う。

 内心は酷く動揺してしまっているけど。






 手の中のアップルブロックをしばらく見つめる。


 これは何の変哲もないただのアップルブロックだ。

 素材系・果実ブロックの中位。

 あれだけチームトルネラの皆が騒いでいたフルーツブロックのワンランク上の品。

 庶民にとっては決して安いものではないが、手の届かない物ではない。

 誕生日やお祝いでプレゼントする程度のモノ。


 だからこれはシナリオのキーアイテムでも、奇跡を起こすマジックアイテムでもない。


 もちろんこれを使ったからといって雪姫が生き返ることも無い。

 ただの食料で人間が生き返るはずが無い。

 いくらご都合主義が蔓延するネット小説にだって、そんないい加減な展開にはならないだろう。



 それに、もし、奇跡が起きて、雪姫が生き返ったとしても、俺に向けてくるのは親愛の情ではなく、殺意の籠った目だ。



 機械種キキーモラのモラ。

 雪姫の第一の従者を自称し、メイドとして世話を焼きながら、たまに小言を言うお目付け役。


 機械種ウルフのルフ。

 雪姫の表の護衛役にして、索敵・追跡・斥候を務める遊撃手。最大限にチューンナップされており、その戦闘力はオークをも上回るとか。


 機械種ワーパンサーのパサー。

 雪姫の影の護衛役。常に光学迷彩により姿を消しており、雪姫がよほど信頼する相手にしかその姿を見せることは無い黒子のような存在。


 この3体は彼女が長年家族として接してきた機械種達だ。


 それを俺は彼女の目の前で破壊していった。


 もちろん俺にとっては正当防衛であるものの、雪姫は彼等を破壊した俺を決して許すことは無いだろう。

 それは未来視で1年間彼女を見てきた俺が断言できる。




 でも……


 それでも……


 生きている彼女に、もう一度会ってみたいと思う俺は、どこかおかしいのであろうか?


 たとえ憎悪の目で見られたとしても、

 どれだけ罵られて、怨嗟の声を叩きつけられたとしても、

 その場で銃を向けられ、銃弾を撃ち込まれたとしても、



 俺が一目惚れした……あの雪姫に会えるなら……



 先ほどまで、エンジュやユティアさんのことを考えていたというのに。

 たった一つの言葉を聞いただけで、こんなにも動揺するなんて。


 やはり雪姫は俺にとって特別な人であったのだろう。


 今の俺の現実においては、俺を襲ってきた襲撃者でしかない。

 でも、未来視の雪姫ルートでは間違いなく俺のヒロインだった。


 その印象が強烈に心に刻まれていて、現実の雪姫像を塗りつぶしてしまっているのだ。


 そして、俺がいかに雪姫を過去のこととして、振り切ろうとしても思い出させてくる。 


 まるで、俺の中にもう一人の俺が居て、声たか高に雪姫への執着を訴えてくるかのように……



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