ウイルス研究と生物学

 

ウイルスの発見とその歴史  

 ウイルスに関する最も古い記述は1892年のロシアのIvanovskiによるもので、植物ウイルスであるタバコモザイクウイルス(TMV; tobacco mosaic virus)が濾過性病原体として報告されています。1898年にはオランダのBeijerinckによっても見いだされ、植物の病原体としてより詳しく研究されました。  同じく1989年、ドイツのレフラーとフロッシュ(Loeffler & Frosch)はウシなどの家畜の口蹄疫が濾過性であることを発見しました。これが動物ウイルスの最初の発見です。ヒトの病気で濾過性と分かった最初の病原体は黄熱ウイルス(yellow fever virus)です。ちなみに、野口英世はまだ濾過性病原体の存在が知られていなかった頃、この病気を研究して感染して亡くなりました。以降、次々と動物ウイルスが発見されていきました。  バクテリアに感染するウイルス(バクテリオファージまたはファージ)は1915年にTwortがブドウ球菌で、1917年にd'Herelleによって赤痢菌で独立に発見されました。d'Herelle は今日のプラークアッセイ法などファージの実験の基礎を確立しました。ファージに感染したバクテリアの培養液が溶菌して透明になる現象はd'Herelle現象とも呼ばれます。

1898 M.Beijerinck : contagium vivim fluidum

1892 D.iwanofsky : a filterable agent causes the tobbaco mosaic disease

1898 F.Loeffler & P.Frosch : foot-and-mouse disease virus (口蹄病)

1901 W.Reed et al : yellow fever virus (黄熱病)

1908 V.Ellerman & O.Bang : Avian leukosis virus

1911 P.Rous : Rous sarcoma virus

1915 F.W.Twort

1916 F.d'Herelle

電子顕微鏡によるウイルスの観察  

 ウイルスがある大きさを持った粒子であることはいろいろな大きさの孔を持つ濾過膜を使った実験から明らかになっていましたが、ウイルスが種類によって決まった大きさを持つことが分かったのは1920年代にSvedbergによって発見された超遠心分析機を用いた実験です。超遠心分析機によって特定のウイルスは特定の大きさを持った均一な粒子であることが分かり、タバコモザイクウイルスTMVの分子量 や大きさも明らかになりました。  

 透過型電子顕微鏡(透過型電顕:TEM)は1932年にドイツのクノル (M.Knoll) とルスカ (Ruska) によって発明され、これまでの光学顕微鏡では見ることのできなかったウイルスがその姿を現しました。長い棒状のTMVやおたまじゃくしのような形をしたバクテリオファージT2などが観察されましたが、当時の染色法(シャドウイング)では細かいところまでは見ることができませんでした。より詳細な構造が電子顕微鏡で観察されるようになったのは1959年にBrennerらによって酢酸ウランやリンタングステン酸によるネガティブ染色法が開発されてからです。1967年にはイギリスのKlugらによって電子顕微鏡画像から3次元像を再構成する方法が提案され、ウイルスの構造がより詳細に分かるようになってきました。さらに、1980年代には試料を染色せずに急速に凍結することによって水溶液中での構造をほぼ完全に保存した試料を解析する方法(クライオ電子顕微鏡法)が開発され、現在では3次元像再構成にはクライオ電顕画像が用いられています。ウイルスの詳細な構造は、ウイルスがどのようにして構造を形成するか、感染の際にはどのような宿主の構造との相互作用が起こるのかなど、感染増殖の機構を理解するためになくてはならない情報です。

ウイルスの結晶化  

 1935年、Stanleyはタバコモザイク病にかかったタバコの葉の抽出液を硫安(硫酸アンモニウム)沈殿することにより初めてウイルスの結晶化に成功しました。当時は、結晶化はX線結晶構造解析のためではなくて、物質を精製するために使われたのです。その結果 、純粋なウイルスの化学分析が可能になり、ウイルスは蛋白質と核酸からなることが明らかになりました。その後、次第に、バクテリオファージや動物ウイルスも単離精製されるようになりました。

ウイルスの分類  

 動物ウイルス、植物ウイルス、細菌ウイルス(バクテリオファージ)、バクテリオファージ:溶菌性ファージ、溶原性ファージ、分泌性ファージ     

  Caudovirales: Myoviridae, Siphoviridae, Podoviridae, Inoviridae, Microviridae ノ.

 

Phage  [1本鎖、2本鎖]

DNA Virus   [1本鎖、2本鎖]

 

RNA Virus   [1本鎖、2本鎖]

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